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[#7-みなとみらい地区チェックポイント]

見ていただける方が少し、ほんの少しだけ現れて来ました。嬉しいです。

[#7-みなとみらい地区チェックポイント]



「どうして!?なんでだよ!」

背後から抱擁していたおれは、発言の勢いのまま、姉さんの身体を回転。姉弟が眼前で向き合うシチュエーションを作り上げる事に成功。これも、姉さんから拒絶される事は無かった。ただ、驚愕し切っている。


こんな⋯⋯目の前に⋯⋯⋯來智花がいる。⋯⋯なにこれ⋯來智花、いつの間にそんな攻めが似合う男になったの⋯。なによ⋯ちょとかっこいいじゃん⋯。


焦点が合わない。ドギマギしている。おれが目線を合わせようとしても、多分姉さんは合わせようとしてくれないのだろう。でも、それでもいい。

だけど⋯しばらくはこの抱擁を維持させてもらう。姉さんが嫌だ⋯と意思表示するまで、これは続けるからな。姉さんの豊満な胸を感じ取り、自然的な流れで股間が熱くなる。おれが、自分で作ったステージなのに、なんか⋯おれ、、押されてる?真ん前で見ると⋯殺人級に可愛いな。

「いい?姉さん」

「⋯な、なに⋯⋯」

踊るように動く姉さんの眼球。下を見たり、横に動かしたり⋯本当はおれを見て欲しいけど、強要はやめておこう。

「なんでも話して。それは姉さんのタイミングで良いから。姉さんが、『話したい』って思えるようになったらそれでいいからさ。約束してほしい⋯お願いします」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あ、、、、、け⋯⋯⋯」

「⋯⋯?姉さん?」

『お願いします』と頭を下げたおれに掛けられた一文字二文字の言葉。それは確実に、姉さんが何かを言いかけている兆候と判断できるものだ。

「け、、、、、け、いご⋯なんて、、わたしにつかわないで」

「鴉素⋯⋯⋯敬語?」

「【頷く】」

「⋯分かったよ。おれ、人にお辞儀する時、敬語になっちゃうクセがあってさ。それが姉さん相手にも出ちゃったんだと思う」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯やさしいね」

「優しい?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん、むかしからかわってない。來智花は、やさしい」

「姉さん譲りなのかもしれないよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯それはないかな。わたしは、やさしくなんかない。ひとがしんぱいしてくれてるのに、それにまともかいとうをしようとしてないんだから」

「姉さんの優しさは、そこにあるんじゃない?」

「⋯⋯⋯⋯え?」

「“人が心配してくれてる事”を、意識できてるだけで十分優しいと思うよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯來智花⋯⋯」

來智花が微笑む。

「今の姉さんに足りないのは、優しさとかよりも先に⋯」

焦点が依然として定まらない熾泉花の顔を両手で固定してみせた來智花。熾泉花の意識は強制的に來智花一直線となる。だが熾泉花の眼球は狂うように動く。

そんな熾泉花に來智花が囁く。

───────────────

「せっかく可愛いんだから、もっと弾けた笑顔が見たいな」

───────────────


予想外の言葉に熾泉花が、更なる視線の乱れに襲われる。その様子を心配した來智花は優しく彼女の肩を掴んだ。

「姉さん」

「⋯⋯⋯?」

「待ってるからね」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん」

最後の『うん』だけ。視線をおれに合わせてくれた。放たれた直後、その視線は地面を這うように錯乱。まるで現在いる2階から1階を透視しているみたいだった。ちょっと心配になったけど⋯“ちょっと”で済んだ。おれの気持ち的には、今ぐらいがちょうどいいのかもしれない。姉さんはそのまま部屋へ入っていった。

一切、おれに視線を向けること無く。振り返る事も無い。


今、確実に、姉さんとの距離がグン!⋯と近づいた気がする。嬉しい。ただただ嬉しい。廊下、一人佇むおれ。しばらく動けないぐらいに歓喜もんだ。

可愛い姉さんを完璧なまでに復活させるまで、なんだかそう遠くなさそう⋯と感じた。



弟と対峙してしまった3分後。わたしはオナニーを始めていた。

なんでかって?

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯今すぐにでも、忘れたいからだよ。

弟と会ってしまった⋯という記憶を快楽で早急に忘れさせたい。

一人でシたくなったから⋯との理由に重なりもするんだけど、やっぱり弟の存在を、わたしは考えたくない。

オナニーに浸れば、一時的にでも、弟のことを忘却する事が出来る。

1回じゃダメ。

2回、3回⋯。

その夜、私は4回、昇天した。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯んん」

でも、忘れる事は出来なかった。何度やっても、何度イッても、弟の顔が、わたしの視点映像に現れる。

下手したらわたしは、弟をオカズにしてるんじゃないかと⋯⋯⋯⋯。

⋯⋯⋯

⋯⋯⋯⋯

⋯⋯⋯⋯⋯⋯バカじゃないのわたし。

変態過ぎるでしょ⋯なによ⋯“弟をオカズに”って⋯。

心の中でも、思ってもいい事とよくない事があるでしょ⋯。ほんと、わたしって終わってる。

弟で⋯⋯そんなこと⋯一瞬でも思っちゃうなんて⋯。

最低だ、わたしって。



夏休み。本格的に始まった学生の長期休暇。

おれはこの休暇を思う存分満喫する。高校生活最初の夏休み。高校って、中学までの友達が一気に居なくなるじゃん?案の定、おれが進学した高校には一切、中学までの友達はおらず⋯。友達作りはゼロからの再スタートとなった。

だが、運の良いことにおれは、大切な友達が何人も出来た。クラス内では飽き足らず、クラス外の同期とも仲良く交流する事が出来た。それもこれも、学校での行事だったり、友達を友達を介して⋯だったり、色々と学生システムの上でやり切って⋯。気付いたら、多くの友達と仲良くやっている。

普通に、嬉しいし、安心した。高校一年の一学期ってホント大事だからな。ここでどう学校内を彷徨くかによって、学年内での立場とかがハッキリしてくる。おれはそんなヒエラルキーとか興味ないけど、友達を作る⋯多くの同期と仲良くなるには、けっこう頑張るしか無かった。政治家ってこんな感じで国民から支持を集めてんのかな。選挙権とか、そういうのまだ良く分かってないからあんま知らないけど⋯。

まぁとにかく、おれには友達が沢山いる。


その中でも、5人の友達とは親友って表現しても何ら問題ないぐらいに、深い交流関係になっていた。


如月優衣芽

結波愛美

片山亜澄歌

千桜楓生

紫苑彩斗


この5人とは、異常に話してるな。なんでもない話を。ダラダラと。夏休み突入前日のあの日の会話なんて、まだまだ。まだまだよあんなの。アンタッチャブルな会話だって、過去にめっちゃあったし。結波と亜澄歌なんて、女の子だぞ?それなのに、下ネタとか、男の会話にすっげぇツボってくれる。

ノリのいい女の子って、可愛いよね。

可愛いし、普通に、楽しいし。2人笑わせるために、おれを含めた男連中が奮闘するんだけど、案外、女子チームがエグいトークぶっ込んでくる事があるから、油断は出来ない。


“綺麗な花には毒がある”。

まさに、これだ。


『5人で集まろー!』


まぁそうなるのは当然なわけで、おれを含めた6人は夏休み、何処で何をしようか⋯という話になっていた。だが夏休みが近づくにつれて問題が発生する。


───────

全員が一斉に集まれる日が無い。

───────


凄いでしょ?高校生よ?

高校生同士が、予定を合わせられないんだよ??

⋯⋯⋯すごくね?大人かよ。

なんだよ、『予定が合わない』って。

ちなみに、おれも⋯⋯⋯けっこう予定入れちゃってて⋯それで、『あ!8月2日どう?』ってなるんだけど⋯

「あ、俺無理だなぁ⋯」と優衣芽が言う。

反射するような形で、優衣芽が他の日を提案するんだけど、それに対して⋯

「ワッチが無理だなぁ」と紫苑が言う。

⋯⋯もう、分かるよね。

紫苑が提案するんだよ。空いてる日を。

すると⋯

「ゴメン!ユイ空いてないかも⋯⋯」と結波が言う。


そっからはもうエンドレスよ。

確かに、6人いっせいにスケジュールを合わせるのは困難だ。アルバイトだってあるし、家庭内の旅行もあるし、違う友達との計画もあるし⋯。みんなそれぞれの人間関係があるんだ。そういうおれだって他の友達とも繋がりがあって、そっちに出向かなきゃいけない。それに、横浜から飛び出して、東京に行き、SNSで交流した人と、好きなアニメ作品のファンイベントにも行かなければならない。他のみんなも、おれと同様、多様な趣味がある。


結果的には、おれら全員が集まれる時間は無い。残念な事に⋯。

ただあ!少数グループだったら、集まれる事がほぼ確したのだ!

今日はそんな少数で集まる最初の日。

今日一緒に夏休みを遊ぶのは、

優衣芽、結波、亜澄歌。この3人。楓生と紫苑は、他の用事があって集まれない。

ちなみに4日後。紫苑と優衣芽は会うみたいだ。

おれらはスケジュールが合わず⋯。

このように、おれが居ない時でも、5人はそれぞれの予定を合わせて積極的に遊びに勤しんでいる。おれもなるべく参加したい⋯!とは思ってるんだが⋯みんなが集まれる日に限って、『用事がァ⋯⋯』っていうシーンがメッチャある。


てな訳で⋯

おれを含めた計4人で、夏休みをようやく満喫出来る!


7月29日。

夏休みが始まって、9日が経過。この一週間以上、それぞれで遊びに行ってたみたいだ。会うなり、結波と亜澄歌がその時の話を繰り出してくる。

今は、イタリアンレストランでの食事中。


「來智花、優衣芽、聞いてよ。愛美とね、昨日、みなとみらい行ってきたのよ」

「え、昨日も??」

「そお!ねー?愛美ぃ」

「うん⋯⋯」

首を傾ける結波。どうやら、嫌々亜澄歌に付き合っていたみたいだ。

「今日、みなとみらいで遊ぶって約束。夏休みに入る前から計画してたろ?なんで昨日行ったんだよ」

優衣芽が単刀直入に聞く。

「下見よ下見。最近のみなとみらいはどんなんなんかなぁって思ってさ〜、それで、愛美に連絡してみて⋯『空いてるよー』ってなったから誘ったの!」

「え、結波そうなの?」

おれは結波に顔を向けた。

「バイトが急遽ね、休みになったの。予約席が当日キャンセルになったから」

結波は会員制カフェで働いている。結波の美貌を武器にすれば、きっと多くの客を寄せ付けられるだろう。それなのに、結波のシフトを切るなんて⋯店長、終わっとんな。マジで。

「愛美の店員制服、めっちゃ可愛いかったよ〜!今度みんなで一緒に行こうねーん」

「は?」「は?」

男2人が大きなはてなマークを頭上に浮かべた。

「亜澄歌、お前ェ⋯結波の制服姿見たのか?」

優衣芽が迫る。亜澄歌へ、迫る。

「うん、見たよ。直接出向いたから、バイト先に!」

「なんて、フットワークの軽さ!?」

「來智花、私⋯ユイちょっと引いたよ⋯。さっき亜澄歌は『空いてるよー』とか再現してたけど、アレ⋯メッセージでのチャットじゃないのよ。現実なの」

「マジで??ガチ??」

「私のフットワークの軽さやばくね??」

いや、やばい。すげぇ。

「亜澄歌からさ、メッセージじゃなくて、間近で、眼前まで迫られて⋯『今日空いてる?』って言われたら⋯そりゃあ『空いてるよ⋯』と言うしか無くない?」

さっきの亜澄歌が再現した結波の『空いてるよー』と、今の本人が再現した『空いてるよ⋯』とは明らかに帯びているテンションが違う気がするんだけど⋯。亜澄歌は拒否される気なんて一切無かっただろうから、異様なテンションだったんだろうな。結波は優しい。亜澄歌とは“大の親友”として、おれら男チームも認識している。断れなかったんだろうな⋯偉いな。偉いぞ結波。


「感謝しろよ?亜澄歌。不本意だったと思うぞ?」

「何言ってんの來智花。そんなわけないじゃんかぁー、ねぇーー?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ジト目をキメる結波。それを見て、亜澄歌は結波の心境をようやく理解。

「⋯ふ、ほんい⋯やったん??」

お前、バリバリの出自横浜だろうが。

「⋯⋯亜澄歌、私は昨夜、家族との外食があったの。それを蹴って、私は亜澄歌との時間を選んだんだよ」

「あ、、、マジ⋯」

「あーーーあ、亜澄歌ぁ⋯なにやってんのさ」

呆れる優衣芽。

「ゴメン!ほんんと!ゴメン!」

「もお!!⋯⋯ンフフフ」

「⋯え?」

勢いよく頭を下げ謝罪する亜澄歌。結波からのお説教が落雷するかと思いきや、3人の耳に伝わったのは、天使のような微笑みから連なる笑い声だった。それを聞いた亜澄歌は頭を上げながら、困惑の一文字を提示。

「なぁんて、別に怒ってないし!家族との外食なんていつでも行けるもん!亜澄歌との時間の方が大事だよ!」

「愛美⋯⋯!!やっぱ愛美は私の親友だ!!」

横の席にいる2人は抱き合った。やっぱこの2人、ホントに仲良しだな。



「下見したのにはワケがあってだね〜。男子諸君!夏休みのみなとみらいは何が行われるか知ってるかい?」

桜木町駅にやって来た。桜木町はみなとみらいに直結したエリア。よく間違えてしまうのは、“みなとみらいに行くんだったら横浜駅”。これは大きな間違い。みなとみらいを目的にしているなら、桜木町駅に降りるべきだ。そんなみなとみらいで夏休みに開催されるイベントと言ったら、一つしかない。

「そんなの知ってるに決まってんだろ?なぁ、來智花」

「うん。知ってるよ。スタンプラリーだろ?」

「そう!その通り!!⋯⋯これ!」

亜澄歌は持参していた鞄から、携帯を取り出し、スタンプラリーの詳細を確認する。ホームページを見ているようだ。

「“みなとみらい地区の各箇所にスタンプラリーを設置した。全て集めて、ラストのランドマークタワー69階スカイガーデンを目指そう”。だって!」

「これ、探索系なんだよな⋯?」

「優衣芽そう!探索系なの!それでね⋯なんと!私と愛美で、昨日全てのスタンプラリーの場所を下見してきたのよ!」

「下見?」

來智花が首を傾ける。

「しっかり見てきたよ!ほら!」

携帯のメモアプリに記載されたスタンプラリーの詳細。そこには、各箇所の様々な情報が事細かく記入されていた。

「“だいぶ混む”。これ、どういう意味?」

みなとみらい随一の巨大複合施設、横浜ワールドポーターズに設置されているスタンプラリーに、【だいぶ混雑】と書いていた。來智花はこのメモの意図を結波に問い掛ける。

「これこそ、前日に下見した理由なんだよねー?亜澄歌」

「そうなの!探索系だから本来は、下見とかあんまりしたくないでしょ??」

「うん」「うん」

「でもね⋯ほら、見てよ」

『周囲を見渡せ』と言わんばかりに、手を大っぴらに広げる。

「めっっちゃ人いんじゃん。んでぇ、この状況で探索なんてできると思う?まぁ出来るとは思うの。実際、スタンプラリーに参加してる観光客めちゃいると思うし。何なら、外国人も多いしさ。こういうの好きそうじゃん?知らんけど」

「それでね、前もって下見しといて、『ここ先にスタンプ押してた方がいいねー』とかの確認をユイと亜澄歌で昨日やってたんだー」

「そなの」

「なるほどね。そういう事か」

それだったら安心した。探索系なんだから、前日に下見なんて意味不明。ただ、混雑した中で探索する⋯というのは確かに、精神が不安定になりそうだ。まぁ、この4人で話しながら歩けるだけでおれは満足なので、正味なんでもいいけど。多分それは優衣芽も同じだろう。

「それでもオッケー?」

「ああ!ぜんぜんいいぞ」

「ありがと優衣芽。來智花もだいじょぶそ?」

結波が問い掛ける。そういえば、女子チーム2人とも、制服だと顕にならない上半身の肌が見え見えになってて、めっちゃ新鮮だな。下半身は何万回と見てるけど。⋯⋯⋯あ、太ももね。だって、2人とも制服のスカートすげぇめくってて、下着見えそうなぐらいなんだもん。

「もちろんだよ。ありがとう結波」

「えへへ」

「私はァ?來智花」

「亜澄歌もありがと」

「はいはい。じゃっいこ〜」

「オー!」「オー!」「オー!」


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