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[#6-ホカホカの熾泉花]

[#6-ホカホカの熾泉花]


午前2時──。


オナニーに1時間。今日は使い過ぎちゃった。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯風呂入ろ」

2分間の賢者タイムが終わり、重い腰を上げたまま、わたしはリビングへと向かう事を決意した。パジャマを着て、扉に近づき、恐る恐る、扉を開けた。

廊下は当然ながら真っ暗。少し先には來智花の部屋。

階段までは遠くなければ、近いとも言えない。こういう所に関しては、善知鳥家の家事情に文句をつけてやりたい。

─────

部屋と廊下の距離が長過ぎんだよ!!!

─────

もお、どこにお金使ってんのよ⋯。って、稼ぎまくってる2人にその事は当然言えないので、心の奥底へしまって置く。

バスタオル、着替えの下着を持参し、階段へと向かった。階段には夜用の照明がある。シャンデリアに酷似したラグジュアリーな照明。こんなものを点灯してしまえば、急激に階段が照らされてしまう。いや、階段を使うんだから当然と言えば当然なのだが、わたしにとってはそれは大きな天敵となる。

「携帯けいたい⋯」

携帯から点灯されるライト。この規模だったらまぁいいだろう。足元を照らすだけだし。

階段を下りる。下る⋯毎夜毎夜、この時の心臓というものは、ドキドキが半端ない。いつになってもなれないな⋯。


3人にはどうしても会いたくない。

会っても、何にも話すことが無いから⋯。顔を合わせても、話すことが無い。そっちが話すことあろうとも、こっちは無いんだ。気まずい空間だけが形成されて、無言のまま終わる。もうそれは嫌だ。

だったら会わなきゃいい。不必要なセクションは削ぐ。それがわたしだ。


1階。真っ暗。

良かった⋯。もう大丈夫。深夜は両親もグッスリタイム。ワンチャン、愛を育む時間に当ててるかも⋯と思ってしまうが、今んとこそのような嬌声は聞こえてきた事は無い。⋯⋯⋯さすがにそれは無いか。

思春期の女と男が家には居るんだから。

そりゃあねぇか。そうかそうか。あはははは。あははははは、あはははははは。



風呂入った。ポッカポカ。わたしやっぱ良いカラダしてるわ。自分でもそう思っちゃう。風呂から上がったら、もちろん行うのはドライヤー。お風呂から上がると直ぐ近くに洗面所が設置されている。そこにはドライヤーが置かれており、2種類の色違いがある。黒色はパパと來智花が使うもの。赤色はママとわたしが使う専用。これはわたしが引きこもる前から決まっていた事だ。ママはわたしのヘアスタイルを熟知している。これもきっとアパレルブランドを企業した女だからこそ成せる技なのかもしれない。美的センス?みたいなものだ。でも、ママはわたしの現在をどうやって知っているのだろうか⋯⋯。いや、なんだその疑問。

なんか急にすっごい怖くなってきた。お風呂入ったばっかなのに、汗かいて来ちゃったよ。

もう勘弁して⋯めんどくさい⋯。


まさか⋯!?監視カメラ!??!

いや⋯無い。まぁ⋯正直なところ、設置されていても全然おかしくない。監視カメラを家に設置するほどの金は問題無くあるだろう。でも⋯⋯壁や、天井、天井の隅っこを見ても、そのような精密機器は見当たらない。

両親が、娘であるわたしを心配するのは当然のこと。今日だってパパとママからメッセージが送られていたし。気分が良かったから、今日は久々に返信していた。すると⋯


『熾泉花!?ありがとう!返信してくれて嬉しいよ!』

『ママも嬉しいよ!何か欲しい物があったら言ってね!なんでも買ってあげるから』


⋯⋯と。まぁ、、、ぶっちゃけて言うと、悪い気はしない。しないなぁ。

⋯⋯⋯ドライヤー掛けよ。



髪の毛をサラサラに仕上げ、わたしは階段を上がる。その際にも細心の注意を払いつつ、2階へ向かった。行く時と同様。照明を付けること出来ないので、持参した携帯の照明を使って足元を照らす。

「⋯⋯⋯」

よし。2階に来た。これでもうほぼほぼミッションはクリア。今日もお疲れ様⋯わたし。オンラインゲームに一日の3分の1を要したのはちょっと⋯うーん⋯って感じだけど、まぁいいや。こういう時もあるさっ。明日は何をしようかなぁ⋯あ、そうだ。なんか夏アニメでオモロいのがある⋯とかのニュースを見た気がするな。確か⋯百合アニメだった気が⋯。わたし、百合大好きなの。可愛い女の子と可愛い女の子がイチャイチャしてるだけで、もうエッチな気分になれるからほんと濡れてくる。わたしの情欲にも直結させてくれる百合はわたしの聖典とも言える。このアニメが良かったら、原作小説も購入する事にしよう。それがわたしのいつもの流れなのだ。アニメ化が良好だったら、それを元にしたオリジナルストーリーである原作を読みたい。漫画も好きだけど、わたしはライトノベルが結構好きなんだよなぁ。だってラノベってさ───、


「姉さん?」


「⋯⋯!?!」

2階へ着き、少々とぼとぼと歩きながら明日以降の予定を立てていると、聞き馴染みのある声音が後方から聞こえてきた。その正体を特定する必要性は無い。間違いなく、弟。⋯⋯⋯⋯はい最悪。マジで最悪。油断し過ぎた⋯⋯。もっと早く部屋に入室しとけば良かったんだ⋯⋯⋯。マジで⋯何やってんだよ⋯。

わたしは弟の声を聞き、その場に留まってしまう。さっさと、その場から立ち退いて、部屋に戻れば良かったものを。何故か、わたしは、そこで、立ち止まった。

どうしてなのか一切分からない。弟の前から消えたい。そう、思ってる筈なのに。


「姉さん⋯久しぶり」

「⋯⋯⋯⋯」

來智花の声。2週間ぐらい前⋯だったかな。その時は階段で聞いた。彼は1階にてわたしは階段を上ってる最中。今、こうして平行な場所で声を聞いている。表現として適切なものなのか、よく分からないけど、こうして弟の声を平行ベクトルで耳にしたのは久々かもしれない。

「姉さん、いつもこの時間に風呂入ってるの?」


おいおい⋯そんなんでいいのかよ⋯。もっと聞かなきゃいけない事があるだろうが。⋯わかってる。分かってるけど、、ダメだ。姉さんを刺激する言葉かもしれない。そう思ってくると、全部がそれに属する言葉に思えてきてしまい、何にも発せなくなる。それは嫌だ。嫌だ。これは偶然。トイレに向かおうとしていた所、姉さんが階段から上がってくるのに気づいたんだ。姉さんの動きを張っていた訳じゃない!先ずはそれを言うべきだよ。⋯⋯なのに、おれは、風呂入りのタイミングなんて⋯絶対に聞くべきじゃなかった。気になるけど⋯今じゃないだろ⋯。はぁ⋯シカトされて終わりだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「⋯⋯⋯⋯【頷く】」

「⋯!姉さん⋯⋯?体調とか⋯平気?」

少しでも頷いてくれた。コクン⋯と、まだ完全に乾き切っていない髪の毛が、サラサラ靡くのも確認出来て、なんか良いものを見た感がある。⋯⋯それと、めっちゃ可愛い。

「⋯⋯⋯【頷く】」

頷いてばかり⋯。声は聞けそうに無いな⋯⋯。こんなに近くに居るのに。3m。こっちが近づけば、もうちょっと、距離を縮められるかな。⋯いや、多分避けられる。でも、なんで⋯姉さんは部屋に入らないんだろうか。おれから今すぐにでも逃れたいのなら、早急に部屋へ向かうと思うんだが⋯。

「姉さん、髪伸びたね。似合ってると思うよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

やっぱりおかしい。なんで足を止めてるんだ?ひょっとして、おれと話したいのか⋯?⋯でも素直に言えないよな⋯判るよ姉さん。その気持ち。ずっと独りでいるんだもん。そりゃあ、他人を求めちゃうよ、無意識にでもな。

「姉さんさ、今度、おれと一緒に───」

負け確なのを覚悟して、おれは姉さんとの外出を希望している事を伝えると共に、姉さんを外に出させようと画策した時。姉さんが⋯振り返った。今まで、長い間、姉さんの背中しか見れなかった時代が、突如として終わりを迎えたのだ。

妖艶としたその姿。ピンクのパジャマはフロントボタン式、胸元からは谷間が観測可能で、かなり刺激的な光景。スタイルも異次元。背中を見ていただけでも十分把握出来たヒップライン。それを正面から見るとなると、これまたビックリな事で、クビレが半端無い。姉さん⋯ずっと部屋に籠って何してんだ⋯?ちゃんと筋トレとかしてるって事だよね⋯。それともおれの知らない所で外出して、運動とかしてんのかな⋯。絶対気付くと思うけどなぁ。

ともかく、姉さんの姿を正面から見た。

久々だ⋯。1年?そんぐらいぶりかもしんねえ。


「かわいい⋯」

「⋯!?」

「あ!ゴメン⋯つい⋯⋯」

バカ!⋯いやまぁ、『可愛い』って褒め言葉だし、いい、、よな、、?それに、姉さん⋯めっちゃ赤くなってて、ちょー可愛い。スッピンだよな?やば。ノーメイクでこんなに可愛くなれんの??芸能人なれんじゃん。

「⋯⋯⋯⋯」

モジモジしてる。何か、言って欲しいようだけど、何を待ってんだろう。それとも、何かを言おうとしてるのか?

「⋯姉さん、なんか⋯⋯⋯用?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯來智花」

「⋯⋯!どうしたの?」

名前、ほんんんっっとに、久しぶりだ。姉さんの口から、風呂から上がった直後のホカホカな唇から⋯おれの名前。震えがる嬉しさを覚える。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯こんな⋯⋯⋯⋯⋯⋯姉で⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめんなさい⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯そんな事ないよ」

姉さんが勇気を出して、全身全霊で、言葉を掛けてくれた。内容云々の前に、それがマジで嬉しい。本当に本当に本当に本当に嬉しい。せっかく風呂上がりなのに、姉さんの額からは汗が垂れ落ちる。そんな精神状態なのか、今の姉さんは。

「無理しないで!姉さん。姉さんの落ち着くタイミングで、ゆっくり話そ?ね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯どうなの」

「え」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯わたしからの⋯⋯⋯しつもん⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯こたえてよ」

抱き締めたい。おれの姉さんがそんな、目の前に化け物でもいるかのような戦慄を帯びながら、発言しているのだ。姉さんの視界からは、そう映っているの?おれは、人間として見えてるの?姉さん⋯。

「姉さん⋯『質問』って⋯まだ、姉さんは『ごめんなさい』としか言われてないと思うんだけど⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめん。わたし、、、もう、、頭グチャグチャだ⋯⋯人とこう、間近で、話してると⋯⋯ごめんね」

姉さんの思考回路は明らかに働いていない。何も質問なんて、おれにしていないのに、何故か“回答”を求めてきた。心配にならないはずが無い。だが、そんなおれの思いを投げ捨てるように、姉さんは自室へと入ろうとする。おれは止める事を決意。今の姉さんを自室へ戻す事を、おれは許さなかった。

踵を返し、自室へと方向転換した姉さんの身体を抱擁したおれ。突然の出来事に、姉さんは不動と化す。

「⋯!!ちょ、、、、、!!やめて⋯」

「やめない。絶対やめない」

「お願いだから⋯やめて⋯⋯⋯わたし、あなたとは釣り合える存在じゃないから」

『やめて』と言いながら、彼女からの拒絶意志はそこまで強くない事が伝わった。姉さんの身体に直接触れると、より一層姉さんのプロポーションが肌身で感じる事が出来る。これは完全に⋯身体を鍛えてるな。後ろから抱擁をしたので、両腕が姉さんの腹部に巻かれている。もう少し、おれの両腕を上にすれば、姉さんの胸に触れ当たる位置だ。こんな細くも無く、太くも無く、至って健康体な女の子の身体に一安心した。強引な手段だが、こうして姉さんの健康状態を把握出来たことは非常に大きい。

「釣り合えるとか、そんなのどうでもいいよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯え?」

「姉さんはおれの姉さんだ。おれはもう、姉さんが居ない生活が耐えられない。姉さんに何があったのか判らないけどさ⋯言ってよ。それ。姉さんが、ここまで引きこもるにはワケがあるんでしょ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯いえない」

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