[#4-姉弟の艶めかし]
[#4-姉弟の艶めかし]
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「ほらー、來智花!行くよー」
「姉さん待ってよ!今、朝食べるから⋯」
「はぁ⋯もお、あんたがわたしと一緒に登校したいって言うから、せっかく時間合わせたのにー⋯」
「姉さんごめん⋯もうこれ直ぐ掻っ込むから!」
「來智花、急いで食べたら喉に詰まるよ?」
「母さんトーストって今から作れる?」
「おにぎり食うの早っ!」
「ええ、そう言うだろうと思って作ってたわ。はいこれ───」
來智花は、母から手渡されたトーストを貰い、直ぐ口元へ押し込んだ。だが一発で食えるほどそのトーストは小さくなく⋯半分以上が口から露出した状態となっている。パンの耳のカスはボロボロと下へ落ち⋯ズボラな男の典型的な象徴へと、來智花は成り下がった。
「母さんいってきまーす」
トーストを加えたままの『母さんいってきまーす』。こんなにもの漫画のような朝があるだろうか。トーストをかじって、学校に向かうというこのシチュエーション。來智花のその状態を見て、熾泉花は微笑む。
「ママ、行ってくるね」
「2人とも行ってらっしゃい」
トーストをかじりながら、來智花は急いで玄関前へ出る。熾泉花が扉に鍵をかけようとした刹那、母から一つの文言が投げられた。
「熾泉花」
「⋯ん?なに、ママ?」
「⋯⋯気をつけてね」
「⋯⋯うん!」
玄関を出て、急いで最寄りの駅へと向かう善知鳥姉弟。
「お願いだから、朝から走らせるような事しないでくれる??」
「ごめん姉さん⋯今度はもっと早く起きるようにするよ」
「はぁ⋯それもう何度目なのかなぁ?ええ?」
「ええっとぉ⋯何度目だっけ?」
「とぼけてんじゃないの、ほんと。善知鳥家の男ってなんでこんな馬鹿ばっかりなのよ⋯」
「父さんと一緒にしないでよ!」
「いいやするわ。パパも変。あんたは⋯もっと!ヘン!!」
熾泉花に言い寄られる來智花。道路の壁際へと迫られていき、來智花は姉からの接近に狼狽える事を余儀なくされてしまう。ただ、若干、ここまで顔面を近づける事に関して、嬉しみを感じてしまったのは來智花が変態だからなのかもしれない。
「姉さん⋯」
「あぁん?なにぃ?」
「朝からめちゃくちゃ可愛いね」
「ん!?バカじゃないの!あんた」
「なんか珍しいなぁって思ってさ。姉さんがこんな⋯真ん前まで顔を近づけるなんて」
「バカな弟には、物理的にでも接近しないと効果が無いと思っただけよ」
「そう言って、ほんとはおれとキスしたかったとかぁ?」
「殺すよ?」
「ンアハハハ!!姉さんイジめるのやっぱ楽しい!」
「⋯⋯⋯⋯」
來智花からの意地悪な言葉でドギマギしてしまう熾泉花。視線が乱れ、逸脱した意識が熾泉花の脳内を蒸発。それはやがて、外界へと放出される“憤怒”へと成長していく。
「來智花⋯⋯このクソガキがァァ!!」
「うわっやべぇ!?姉さん怒った!!」
來智花が本気を出せば熾泉花から逃走するなんて余裕な事。ただ、來智花は本気を出さず、そのまま“捕獲”を望んだ。最寄り駅の近くにある路地裏。そこに來智花は逃げ込み、行き止まりの道へ来てしまった事を“演出”する。
「來智花、もう逃げれないわよ」
「姉さん⋯こんなおれに構ってていいの?学校に間に合わないよ?」
「あんたも道連れにすれば、わたし的には大満足よ」
「姉さんはほんと面白い人だよ。面白いし、可愛いし⋯何を切り取っても完璧な“才女”!」
「フン、こんな状況でわたしを称賛したって無駄よ。あなたはわたしに処刑される運命なの」
「いつ決めたの」
「さっき決めた」
「どうしてそうなったの」
「あなたが生意気だから」
「じゃあ⋯もっと生意気なっちゃおうかなー」
「は?」
路地裏の行き止まりに追い込まれた來智花。熾泉花の背には、メインロードの景観が広がっている。だがそのメインロードの景観は、2人が居る所から見ると細長く視認され、向こう側から見ると、こちら側の状況をしっかり覗き込まないと視認は難しい。來智花は2人だけの空間が作り上げられた⋯と断定。
この行き止まり路地裏にやってきた理由を遂行していく。
「あ、姉さんアレなに?」
「うん?」
まんまと古典的な方法にやられてくれた姉さん。そんな“ズボラ”な姉さんのガードが緩んだところを、おれは見逃さなかった。姉さんの身体を抱擁。姉さんは一瞬、力強く抱擁を拒もうとして見せたが、その拒絶行動は薄れていった。その薄れていく速さでおれは悟る。
姉さんは、おれを求めている。
「ちょっと⋯!やめてよ⋯こんな所で⋯⋯」
「こんなところじゃ無かったら、良いっていうこと?」
「調子乗らないの、バカ⋯」
「その“バカ”ってゆー台詞、もっと言って?」
「そんなこと言われたら、逆に言いたく無くなるの」
「えぇー女の子って難しいなぁ⋯」
「女の中で、特にわたしは難しい部類に入るからね」
「姉さんは案外単純な女の子だよ?」
「あらそう?ヤリチンの來智花くんに言われるのなら、そうなのかもしれないね」
「姉さん⋯おれは姉さん一筋だよ?」
「ちょっと待って」
おれが姉さんとの口付けを仕掛けようとした時、姉さんはおれの動きを止めた。それはただの拒絶では無く、何かに気付いたような反応。そして、姉さんはおれの唇に自身の右手親指を接触させる。先程から少々気にはなっていたトーストのパンカスが付着していたのを、姉さんは拭ってくれたのだ。しかも姉さんの指で。親指で。それだけでは終わらず、唇全体を綺麗な指でキレイにしてくれた。その際、姉さんの親指以外の右手は、おれの左頬に当てられ、“サラリサラリ⋯”とフェザータッチが行われている事に気付く。
しかも、姉さんの顔が異常に近い。近過ぎる。それが故に、姉さんの香水の匂いも、吐息も、全感覚器官で感じ取る事が出来た。もう、おれのオレは暴発寸前。一切触れていないのに、姉さんのセクシュアリティな部分をここまでもゼロ距離で受け止めると、肉親であろうとも⋯いや、肉親だからこそ覚える特殊な“情欲”がここにはあった。
「パンのカス、付いてたよ」
「あ、、、ありがとう⋯⋯」
「なにぃ?恥ずかしがってんの?」
「⋯⋯⋯⋯姉さん⋯」
「どうせ、この行き止まりの道なんて、わざと入ったんでしょ?」
「あ、バレてた?」
「当たり前でしょ。熾泉花お姉ちゃんを舐めない事。これからは肝に銘じなさい。分かった?」
「うん⋯分かったよ」
「んでぇ、どうするの?この状況。あなたはわたしに突然の抱擁を仕掛けてきて、そんでもって、建物の壁に打ち付けた。姉弟の距離は物理的にも眼前まで縮められ⋯こりゃもうする事と言ったら一つしかない⋯って感じの雰囲気だけど⋯?」
姉さんの唇の間から、姉さんの舌が現れる。上唇と下唇の黒の溝部分を切り裂くように出現した舌は、上唇をペロッと舐め、その勢いのまま下唇へと行き交った。姉さんの舌により、姉さんの唇は更なる輝きを取り戻す。十分な綺麗さを誇っていたのに、舌にまとわりついた唾液によって、より濃厚で神秘的な唇が完成。ダメだ⋯おれにはもう⋯止められるはずが無い。
「姉さん⋯⋯」
「こういうのは、男から来るべきなの。けど⋯⋯」
姉さんの右手人差し指がおれの唇に差し向けられる。人差し指が直立。一時的な行動停止を促すモーションだった。
「來智花くんはまだまだ子供だから、わたしからしてあげる」
「⋯!!」
姉さんとキス。こんなにも最高のキスは今までに感じた事無い。なんというか⋯してはいけないキスのように思えてくると、どんどんと拍車が掛かっていく。こちら側がキスのペースを上げていくと、なんと姉さんは舌をおれの口腔にまで差し込んできた。一つ一つのおれの歯を舌で舐め取るように、姉さんのオーラルセックスにはテクニカルな部分が多々見受けられる。
姉弟、路地裏、通学通勤の雑踏が行き交うすぐ隣、高校へ遅刻確定⋯。
様々な要素が絡むと、それはそれで新たなる快楽への入口となる。20秒間ノンストップにて行われたディープキス。キスが終わると、姉さんの顔はとんでもないレベルで赤く火照っていた。
「姉さん⋯赤くなってる⋯」
「⋯これは⋯当たり前⋯!だって弟とこんな事してるなんて⋯」
「興奮する?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん」
「⋯好きだよ、姉さん」
「⋯!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯調子のりやがって」
「姉さんからのターンがあるなら、おれからのターンもあって当然だろ?」
「まぁ⋯それもそうね」
「姉さん⋯めちゃくちゃ可愛いよ」
「ほんと?」
「うん、マジで可愛い⋯好き過ぎる⋯」
「でもどうせ、他の女いるんでしょ?」
「もう⋯姉さん⋯おれらは姉弟なんだよ?恋人と姉さんへの愛はまた違うから」
「ふぅーん⋯⋯」
「嫉妬してるの?」
「⋯!⋯うるさいっ!」
「姉さん、嫉妬してくれてるの?」
「あーあ!もうイイ!飽きた!」
「えっ!ちょちょっと」
建物の壁にいた姉さんは、おれを押し退けて、その場から離れた。
「可愛い可愛い姉の事を意地悪するので、もうおしまいです」
「そんな⋯⋯姉さんじゃあ!」
「なによ」
おれの掛け声に振り返る姉さん。その振り返りと共に、おれは姉さんの身体に再度抱擁を実行。2回目となるこの抱擁を彼女は100%の想いで受け入れてくれた。1回目の時にあった拒絶に相当する感情は今の姉さんには無い。
「姉さん、好きだよ」
「分かったから。はいはい」
「頭撫でて」
「はぁ?」
脳天を差し出す來智花。
「もう⋯⋯⋯よしよし」
『頭撫でて』とお願いしたのに、『よしよし』なんてオプションを勝手に付けてくれる辺り、やっぱ姉さんは天使過ぎる。マジで可愛い。『よしよし』なんて普通つけるか?アドリブで。本当に可愛い⋯唯一心残りなのは、『よしよし』を発動した瞬間の姉さんの顔面を確認出来なかったこと。あーこりゃあ失敗した。またやってもらおう。ただその時に『よしよし』を言ってくれるかどうか⋯⋯。こっちからお願いするもんじゃないからなぁ。それだともう意味無いのよ。
「來智花、当たってる」
「だって⋯こんな可愛い人とハグしたりキスしたりしたんだから、しょうがないじゃん⋯」
「姉に欲情するなんて、ほんと変態だね」
「姉さんの方がよっぽど変態だよ」
「ええ?どこがよ」
ここでさっきの『よしよし』と言ってしまったら確実に金輪際言ってくれなくなる。それだけはマジで避けねば。
「こうやって、弟からの抱き着きを許してくれるところ」
「誰にでもやると思ってるの?これ」
「違うの?」
「好きな人にしかやらないよ」
「姉さん⋯⋯」
「はい、おしまい!もう行くよ!学校!9時過ぎてるし!」
「遅刻確定だね」
「それも姉弟揃ってね。まぁそれはそれで“仲良いね”って感じで丸く収まるか」
「姉さん」
「ん?」
「電車の中で、姉さんとイチャイチャしたいん──」
「あんたバカか」
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メモアプリからコピー、本当に緊張する。




