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[#3-善知鳥家はヤリ手揃い]

代弁者・熾泉花。言ってやったぞ、言いたくても言えない事を。だってわたしには後先なんて無いし。

コンプラ??知らん知らん。

[#3-善知鳥家はヤリ手揃い]


────────────────

「熾泉花、大丈夫か?」

「判らないわ。今日も一切出てこなかったから」

「食事は⋯してるんだよな」

「ええ、そうね、してるわ。扉の前に置いてあったから⋯綺麗に食べてくれたわ、今日のカツ丼」

「そうか、それだったらいいんだが⋯」

「熾泉花はいつまで続けるんだろうな」

「もう1年以上ね⋯こんな事⋯。昔の熾泉花が信じられないよ⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」


【沈黙】


「熾泉花、今日もオンラインで何かを注文したみたいよ」

「熾泉花は⋯何か、バイトをやっているのか?」

「まさか⋯熾泉花が外出してる姿なんて見た事ないわよ」

「でも、届くんだよな⋯?配達物が」

「ええ。まさか⋯良からぬことやってないわよね?」

「それは⋯⋯⋯⋯⋯」

「考えれないことでは無いわよ⋯」

「あの子は頭が良いからな。可能性としては⋯」

「ちょっと⋯熾泉花が、犯罪に手を染めているとしたら⋯」

「やっぱり確認する必要があるな」

「あなた、扉に防音システムを設備した時、何か違和感感じなかったわけ?」

「そんなの無かったよ。至って普通の部屋だったさ」

「普通の部屋⋯ってどんなのよ」

「それは⋯⋯女子高生の部屋だろ」

「女子高生がやるようなバイトなんて、限定されるわ。ネットを使って、大金を得られるような仕事ってあるの?」

「判らないな⋯最近闇バイト関連について調査して特番を組んだ報道センターの方に友人がいるから、その人に頼ってみる事にするよ」

「ええ、お願いね。私も、熾泉花の部屋の前に立って、言葉を掛けてみるわ」

「頼む」

───────────────


「姉さんと、一緒にご飯が食べたい」

「來智花⋯」

「母さん、姉さんと一緒に、こうしてみんなでご飯食べれるよね。また」

「⋯⋯⋯うん、食べれるよ。絶対に」

母さんの反応が遅かった。深読みかもしれないが、“姉さんを部屋から出す事に、自信が無い⋯”という現れのように感じ取ってしまった。


姉さんが居なくても、家族は楽しい。和む。幸せ。

こんな素晴らしい家庭環境は中々に無いと言える。断固として言える。友達の家庭環境を聞くと、色々と問題を抱えているケースが多くあり、それを聞く度に、自分は恵まれているなぁと感謝せざるを得ない。

ただ、今の“楽しい”に姉さんが加入する事によって、それは何倍にも何百倍にもなるのだ。

姉さんが⋯おれの隣にぽっかりと空いた空席に着席してくれれば⋯おれはどれだけの歓喜を表現するんだろうな⋯。なんだかニヤけてしまうな。



見られてしまった。が、そこまで深く考え込まなくてはいい事だ⋯と、ラクに解釈を終わらせる。別に背中を見られただけだ。髪の毛もそこまでボサついてなかったし⋯安心した。特に顔面を見られることは本当に嫌。絶対に嫌。こんなブサイクな顔面、誰にも見せたくない。たとえ家族だろうとも。

來智花の声。久々に聞いた気がする。あの感じだと容姿はけっこう良い感じもしれない。うん、そりゃあそうだ。パパとママが産んだ男なんだもん。当たり前だよね。わたしは欠陥品だ。パパはテレビプロデューサーで番組をバンバン成功に導いたやり手テレビマン。たまにテレビ番組を見ると、パパの名前がクレジットに記載されているから『へぇー』と唸っている。普通に凄いなぁ⋯って。単純な感想を放つ。

対するままはアパレルブランドのプロデューサー。プロデューサーばっかりだよこの家系。シャレオツなんだよねママ。ママのSNSアカウントをよく見ているんだ。もちろんこれは、本人には伝えたことは無い。見る専のアカウントを作成して、“絶対にいいねしねぇ!!!”と慎重になりながら、ママのアカウントから投稿されたものを漁っていた。ママがあまりにも綺麗すぎる魔性の女だから、見まくってたら『うわ!いつの間にっ!?』ってなってるのはザラだ。

1時間2時間、余裕で経過している日だって、ぜんぜん稀じゃない。本当は、小説読みたかったのに⋯とママのアカウントを見漁っていた直後は思うが、その後悔は一瞬で消え去るもの。

ふと、わたしは思った。

──────────

『すぐそこに、20万フォロワーを超えるインフルエンサーがいるんだから会えばいいじゃん』って。

──────────


⋯⋯いやいや、それは無理。そんなことを思うのは簡単だ。出来るならとっくにやってる。⋯⋯⋯でも、ママに直接会えれば、『あの服さ、すっごい可愛い!』とか感想を直接言えるよね。ママのアカウントは、フォロワーやフォロワー以外からのリプライを許可していない。だから感想を直接本人に伝える手段はゼロに近いのだ。たまーーーーに、立ち上げているブランドの展示会があって、オーナー兼プロデューサーのママは展示会を主催。回廊したりして、ファンとの交流をSNSにて発信している。わたしはそれを発見する度に、ファンを呪うような言葉を吐き散らす。


『こんな近くにいるのにぃィィ!!』

『アアア!!!こんな綺麗でエロい人がわたしのママなのかァァァァ!!』

『前までのママと全然違ぇじゃん!!やっぱ女って変わるんだよなぁ⋯スゲェ⋯』

『おい!くっさそうな男がママに近づいてんじゃねえ殺すぞ!!』

『イケメンだけにしろよ〜。近づくのはぁ』

『パパが嫉妬しない程度のなァ〜』


なぁんて文言。ネットには投稿しないけど、有り余る程の悪口は、機関銃のように無造作放たれていく。その弾痕が残らないようネットへの投稿は自制。ガチガチのネット民だけど、一応、そのぐらいの事は考えられるほどに余裕はある。コンプライアンスは考えなきゃね。

誹謗中傷、わたしも嫌いだもん。

ただ、言わなきゃいいだけ。表にしないだけ。

だって私には、表裏が存在しないから。



わたし、高校三年生。2回目の“引きこもりの夏”が始まった。高校はもう少しで夏休み。これはわたしにとって最悪を意味する。

家に、家族がいる時間が増えるのだ。

これによってわたしの生活リズムは崩壊。新たなるスケジュールを立てなければならない。かといって、このケースは初めての事じゃない。昨年の夏休みは、大変だった。それを踏まえて挑んだ⋯冬の陣!(冬休み&年末年始)、春の陣!(春休み)。特にお風呂とか、トイレに行く際は、攻防劇が幕を開ける瞬間が何度もあった。生憎、來智花は非常にアウトドアな人間で、家に在宅している時間がかなり少ない。それでも、長期休暇シーズンは在宅の時間は普段よりも圧倒的に多くなる。わたしは來智花がいない間に、トイレを済ます。わたし達の家の2階にはトイレが常設されており、わざわざ1階へまで下らなくとも、小便を垂らす事が可能。これはとても嬉しいものだ。1階へ行ってしまうと、ママがいるから。ママは主に、長期休暇シーズンは在宅ワーク。パソコンをカチャカチャとタイピングしている光景を、わたしがまだ“こうなる前”に見ていたから間違いない。

でもそれは、高校一年の記憶。2年も経過していれば、ママの仕事内容も当然変わってるわけで⋯というか変わってるし!!絶対に!!だってどちゃクソに稼いでるもん!あの人!エグいよ!

この前だってママのアカウントの投稿見たら、ママがプロデュースしたブランド品をママ自身がモデルになっているものがあった。着装しているコーデは、赤いコート、黒いコート、白いコート、3つのコート全てはモコモコな可愛いもので⋯ラグジュアリーな装飾品にはダイヤのネックレスがあったり⋯それにそれに!テーラードジャケット!黒色のジャケットは、銀髪のお母さんにどストライクだった。更にさらに!このエロい女と来たら⋯太ももを限界ポイントにまで露出した美人しか着ちゃいけないミニスカートも披露!!

こんなんヤバすぎ⋯!

パパよ、こんな人が近くに居て、よくわたしと弟だけで終わっていられるな。わたしが男だったらこんな美人毎晩抱くぞ。⋯あ、もしかしたらこの2年で2人のペースが変わってたり⋯する?どうなんだろう⋯もし仮に⋯⋯仮によ??もう既にママのお腹には⋯⋯⋯⋯3人目⋯有り得るかなぁ⋯⋯。

もしそうなったら、わたし⋯⋯見たいなぁ。

3人目誕生の瞬間。こうなってたら、見れないよね。その時はさすがに、、、、部屋から出ようかな。

身勝手すぎる?自分の方から出に行ったら、変に思われる?その時、パパとママと來智花は、初っ端、どんな言葉をわたしに向ける?

⋯⋯⋯想像しただけで、吐き気が催されるよ。キツいな⋯良い方向に転ぶとは思えない。

言葉にしたくない。

言葉にしたくない。

言葉にしたくない。

けど、言葉にしないと⋯脳みそが爆発するように、ネガティブ思考ルーチンが溜まっていく。古いものから順にゴミ箱行きなんてされることは無く、わたしにはネガティブの全てが形骸化される。それも、ゴミ箱行きになった“言葉”にも同等。


わたしは、言葉の魔力を信じている。



さて、夏が始まっても、わたしの生活サイクルはさほど⋯変わるって言ってんでしょうが!!!変わるんだよ!!物凄くね!!何せ、ママが在宅ワーク中心の生活になるから、廊下でばったりご挨拶⋯みたいな事になりかねない。わたしはママの存在をネットによって逐一チェックしている状況。ママはわたしのSNSアカウントを知らないので、安心だ。まぁ顔写真なんて投稿内掲載しているような自己満アカウント、わたしは運用していないので、バレようはずが無いんだが。

⋯⋯⋯あ、違うよ。なんかこういう言い方だと、顔写真とか容姿スタイルを掲載しているアカウントが女版ナルシストみたいな感じで、わたしがそれをスっげぇ嫌ってる〜って映っているだろうけど⋯。

違うからね!その⋯⋯なんつーの⋯⋯ええっと⋯⋯だから、、その⋯ねぇ?まぁ、、、、やばい。ここでわたしの好感度を急落下させるような台詞、言っちゃってイイのかな⋯⋯いやでも⋯ここまで来たら、相当な事を言わないといけないし⋯あ!でも⋯⋯⋯⋯そう、今ね、上手いように回避できる言葉を見つけかけたんだけど⋯やめたやめた。


はいはい、言います言います。

言やぁいいんでしょ。言やぁ!!


⋯⋯⋯

⋯⋯⋯

⋯⋯⋯⋯⋯ブスは載せちゃダメなんスよ!!!!!


⋯⋯⋯言ったからね、わたしは。

わたしは“代弁者”だよ!

みんなが言いたくても言えなかった事を言ったぞーーー!!!

男どもー!いいかァ!!今日から各方面SNSタイムラインにて、ブスの写真が減るぞーーー!!待ちに待った日だろー!オマエら!!イイなぁ!最高だよなァ!!ブスがいなくなるんだぞ!ネットワーク上から!

え?“一個人の意見が受け入れられないだろ”ぉ??


⋯⋯⋯そりゃあそうやん。

当たり前やん。

無理に決まってるやん。

わたしの意見なんて、所詮はネット民からしてみればゴミも同然。ちょっとオンラインゲームとかの配信をかじったりしてるだけで、10万人のフォロワーを抱えているわたし。

いやいや、10万人フォロワーなんて普通の一般人でも全然いくから。いくいく。全然いくよ。

⋯⋯⋯いかんかぁ。“一般の皆様”はいかんかぁ。そうよなぁ⋯やっぱわたしはネットに愛されてるからなぁ〜〜〜。

んてぇ、浮かれてる場合じゃねーわ。今日も今日“とて”、オンラインゲームの集いがある。

これはたまにあるネットサークルの会合をオンラインゲーム上で行う⋯といったものだ。広大なオープンワールドの中に、プレイヤーが30人集まって、そこで思い思いの暮らしをする。のんびり車をコレクションしたり、改造した車でレース&ドライブをしたり⋯はたまた犯罪に手を染めて、警察のお尋ね者になったり⋯多種多様なゲーム体験が出来る最高の巨大オンラインゲーム。わたしはこの会合のヌシとして鎮座。わたしがいなきゃ今日集まるメンバーは、集まらなかった⋯と言っても過言では無い。そんな中々スペシャルなメンツが一つのワールドに集まる⋯。しかもオンラインゲームだから、日本中の色んな所にいるんだよ。それってさ、最高過ぎない?パないよね!!

わたしは今、横浜にいるけど、沖縄の人だっているし、広島、山口、新潟、青森⋯と。

オンラインゲームの素晴らしさをもっとみんなには分かってほしいな。遊びだけど遊びじゃないんだ。ゲームは人の輪を簡単に拡げられる唯一無二の手段。今のわたしがいるのは間違いなくゲームのおかげで、今日集まるみんなのおかげ。本当に感謝。

望郷へ帰ろう。

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