[#20-夏休みが終わって]
[#20-夏休みが終わって]
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高校──。
お昼休憩。
夏休みが終わった一発目の学校。
いつメンの優衣芽、結波、亜澄歌。
少し遠目に、楓生、紫苑。
おれを含めた6人による弁当タイム。
「と、まぁこんな訳で⋯⋯」
「來智花のお姉さん、今日の学校は?」
「来てない」
「夏休みは來智花と一緒にどっか行ったんでしょ?」
「お前、ちゃんと來智花さん優しく接したのか?」
「当たり前だろ!」
「じゃあなんで今日学校来てないんだよーー」
「それは⋯まだ姉さんも戦ってるんだよ⋯」
「うーん⋯まぁな⋯⋯」
優衣芽の心が曇る。優衣芽には夏休みが終わる前に伝えていた事があった。
「お前言ってたよな?『姉さんに会わせてやるよ』って」
「あー⋯まぁ言ったけどあれはさぁ⋯」
「あれは⋯ってなんだよ!あれはってぇ?えぇ??」
「優衣芽、そんなに怒る事じゃ無いでしょーよ」
「亜澄歌⋯だってコイツよ⋯⋯」
「熾泉花さんは今、心を休ませるタイミングなんだよ。1年間家に籠ってる女の子が、急にいっぱい外出した⋯ってなったら、麻痺でもしちゃったんじゃない?分かんないけど」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
來智花は箸を止める。結波のその言葉を受けて、自分のせいかもしれない⋯と思ったからだ。そんな思い悩んだ姿を見て、結波はフォローする。
「あ!違うよ!もちろん、來智花が悪いって訳じゃないよ!それは違うと思う!」
「いや、おれが悪いんだよ⋯⋯」
「來智花⋯おい!優衣芽、ちょっと言い過ぎなんじゃないの?」
「亜澄歌、俺はな、お前らよりも熾泉花さんの事を前から知ってたんだよ。写真も見せてもらってた、中学生時代の熾泉花さんのな。だけど俺らが入学した頃には、引きこもってしまったみたいでな⋯半憧れ、みたいな感じだったんだよ。そんな人とようやく会える!!ってウキウキして今日を待っていたのに⋯!!」
「もうホントごめん!おれが早とちりし過ぎたんだ⋯姉さん、学校来てくれると思ったら、やっぱりダメだった⋯」
「弟の來智花としか会わなかったからじゃない?」
「亜澄歌、それだな。引きこもりの女が出てこない訳だ」
「優衣芽⋯姉さんを悪くいうような事は許さないぞ」
「⋯⋯悪い。すまない⋯俺が馬鹿だった⋯ごめん」
「うん、分かってくれたらいいんだよ」
一瞬緊張感が走り、他4人の目線が來智花と優衣芽へ向く。優衣芽が自分自身を見つめ直してくれたおかげで、言い合いにならず事は終わった。
「でもなぁ⋯來智花。流石に熾泉花さん、見たいよ〜」
「そうか⋯⋯」
「な、亜澄歌達に、熾泉花さんの姿、見せたことあんのか?」
「いや、ないよ。姉さんがこういう状況だっていうのも初めて明かしたし」
「写真ぐらいは見せてやってもいいんじゃねぇか?」
「あ⋯⋯うーーん⋯⋯」
「見せて!」「見せて!」「見たい!」「見たいよ!」
亜澄歌、結波、楓生、紫苑。
楓生、紫苑に至っては、少し離れていたのに、この話になったら速攻で來智花に急接近。
來智花は悩む。
まぁ⋯⋯別に、見せても悪いもんでも無いしなぁ⋯。
「うんまぁ⋯見せるぐらいなら⋯。良いけど⋯」
「ホント?ありがと〜!來智花!」
亜澄歌が喜ぶ。他の3人もそれぞれの喜びを見せる。
【善知鳥熾泉花が映る写真を見せる來智花】
「⋯⋯めっちゃくちゃに可愛いじゃん⋯」
「うん、私⋯こんな可愛い人見たことない⋯」
「これが⋯1年上にいるの、、、」
「ワッチの知るアイドルよりかわいい⋯」
紫苑の一人称“ワッチ”なのが気になるとこだが⋯4人が喜んでくれて良かった。まぁ当たり前だけど。こんな美人マジでいないし。絶対。マジで。確実。確定。断言。
「こんな可愛い人が、引きこもり⋯⋯何があったの?」
「お、愛美確かに。それは俺も聞いた事ないな」
「それが⋯おれにも教えてくれないんだ⋯」
「⋯ってなると、恐らくは⋯⋯人間関係で色々あったんじゃないの?」
亜澄歌が言う。それは來智花の思考にも当然、あったものだ。
「おれもそうだと思ってる。たぶんだけど⋯姉さん、あまりにも他人を信用してないような目をする時があるんだ」
「それはたまに?」
「結波⋯そんなたまにじゃないんだよ⋯⋯」
「それはちょっと心配だね」
「それなのに、お姉さんは外出してくれたんだね。それって凄い変化じゃん!來智花のことを信用してなきゃ絶対無理だよ」
「亜澄歌、ありがとう」
「だからさ來智花。お姉さんに何があったのかは、こっちから詮索するのはやめといた方がいいと思うよ。吐き出せばお姉さんの気は楽になるだろうと思うけど、もうちょっと他人と関わってからの方がいいのかも」
「ユイもそう思う。てか、もしそうなら、來智花のお姉さんをこんな目にあわせた人達許せないね」
「ああ、俺がぶん殴ってやる」
「僕も」
「ワッチもだなや」
「⋯ありがとうみんな。だからさ、優衣芽。もうちょっと待っててくれない?姉さんが完璧な状態になったら、姉さんに友達を紹介していいか聞いてみるから」
「おう!そん時は頼むぜ」
「私もよ?」
「ユイも!」
「僕も!」
「ワッチも!」
「はいはい。でも姉さんが怖がっちゃうから、一気に5人を会わせるのは無理だからね」
◈
久々、ってわけじゃない。
夏休み中もたまぁに独りの時間はあった。でもその時は、逐一來智花からのメッセージが届く。
『姉さん、今日のランキング勝てた?』
來智花は本当に優しいな。本人からしてみれば、絶対にどうでもいいし、理解も難しいと思うのに⋯わたしの機嫌を損ねないために、わたしに話を合わせながら、それに加えて、わたしを独りにしないようにしている⋯。
わたし、別に独りで良かったのに⋯。
でも、今は⋯來智花の存在が必要不可欠になってしまった⋯。こんな将来全然読めてなかったよ⋯人生ってもう⋯ムズすぎる⋯
弟に惚れてる⋯?
まさか⋯⋯⋯そんなわけ無いって。
でも⋯わたしは、來智花に肉体的接触を図ろうとした。一瞬、いけないことしてる⋯と思い、思いとどまったけど⋯。
今日からまた、学校か⋯。
來智花とは夕方まで会えない⋯。
だけど学校に行ったら、休み時間にでも会える。
それに授業中だって、隠れながらメッセージのやり取りも行える。來智花にその余裕があれば⋯の話だけど。
学校⋯⋯⋯行ったら、來智花といつでも会えるのか⋯⋯⋯
会いたいな⋯⋯⋯⋯⋯⋯会いたい⋯⋯。
【メッセージの通知音】
あ、來智花だ。
『姉さん!今日学校早く終わるんだって!だから今日、早く帰るよ!』
⋯⋯⋯⋯わたしの弟、良い男すぎ。
The END.
Authored by Kanroh Kisari.
虧沙吏歓楼です。当たり前です。じゃなかったら大問題。
ここで終わり。一旦終わり。『Lil'in of raison d'être』本篇に取り掛かります。
楽しかったです。『引きがため』
また、CHAPTER.2をやる機会が出来たら⋯。
続編構想は全然あります。ただ優先順位的に言えば、、、なので。
熾泉花と來智花。この2人を忘れないでください。




