[#18-今日、どうだった?]
[#18-今日、どうだった?]
風呂も終えたし、歯も磨いた。夜に済ませる必要のある事項を全て終了させ、おれは姉さんの言われた通りに姉さんの部屋を訪問。
姉さんとは今日、外出もして、ご飯も食べて、一緒に料理も作成した。でもなんだろうか⋯この部屋の前に立つと気持ちがリセットされてるような気がしてならない。不思議だな⋯姉さんの扉の前ってちょっとした魔力があるのかも⋯。まあいい。取り敢えずは⋯ノックしよ。
「姉さん?」
「⋯⋯⋯⋯ごめんね。もう平気?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ⋯中、入って?」
「⋯うん⋯⋯⋯」
モジモジしてない姉さん。今までの姉さんとは訳が違う。ただ別に、自信に漲ってる⋯とか、そういった大胆な変化が現れていることでも無い。
顕著な成長だけは感じ取れる。だって、扉で迎え入れてくれた時、目線が一切逸らされずにおれの方をずっと向いてたんだ。おれはそんな姉さんの視線に惹かれ、思うように動く事が出来なくなってしまう。
「あの⋯來智花?早く入ってくんない?」
「あ、ごめん⋯⋯」
扉を閉める。
姉さんが扉を閉め、自身のベッドに座る。“ポンポン”と、姉さんは左隣を叩き、おれを誘う。
ベッドに座る。姉さんとの距離、近い。ただ、少なからずの空白は作っておいた。本当はもっと近づきたい。なんだったら姉さんの真横に行きたい。
半袖パジャマ。左腕のサラサラ二の腕が、こんにちはしてる。おれも半袖パジャマでこんにちはしてるから、こんにちは同士で触れ合ったらきっと⋯⋯こんにちはとこんにちはが繋がって、サラサラァ〜ってなって、肌と肌が単に触れ合うでは収まらない興奮が待ち構えているに違いない!
「ねえ?」
自分世界に入り浸り過ぎていた中で、熾泉花の声が來智花の聴覚を刺激する。グッと現実に引き戻されたように、來智花の妄想は終焉。
「ん!?ん!ん?ん?姉さんなに?」
「今日はありがと」
「いやいや⋯とんでもない!楽しかった?」
「うん、楽しかった。わたしって外でも笑えるんだ⋯って思えたから、すっごい不思議な気持ち。今でも信じられない」
「姉さんがそう言ってくれて、おれは感無量だよ」
「來智花⋯⋯」
「ん?」
熾泉花は真正面。來智花は熾泉花がいる右隣を向く。
「今度⋯まだ一緒に⋯さ、、、どっかいかない?」
「⋯⋯⋯!!もちろん!行こうよ!」
断る理由なんて無い。姉さんからの誘いなんて⋯『信じられない』のはこっちの台詞だよ!
「來智花は⋯どこ行きたいとかあるの?」
「そんなの⋯⋯⋯」
どこでもいいに決まってるじゃん!!でも、姉さんの方から『どっか行きたいとこ』なんて言われちゃうと⋯高望みをしてしまうのは当たり前なわけで⋯。え、、、こんな時、どのレベルの場所を言えばいいんだろう⋯⋯⋯。
外メシ?
あ!遊園地とか!
姉さんって遊園地好きかな⋯まぉでも人混みがだいたいだから、あんまり姉さんの気分は損ねちゃうかもしれない。遊園地は⋯要相談って感じかな。でも、いつかは行きたい!!
姉さんとお化け屋敷なんて行ってさぁ、『來智花⋯來智花⋯⋯わたし⋯ムリかも⋯!』なんて言われて⋯!?!!
「エヘ⋯えへえへえへエヘえへえへえ⋯」
「え、、、、、、、」
激ヤバな瞬間を見られてしまった。ここは何も無かったかのように事を進めよう。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯進めよう。
「⋯⋯あ、、、、うん、姉さんとだったらどこでも大丈夫だよ!」
【ジト目】
「フン!」
「え、、、姉さん?」
真正面を向いていた姉さんが、ジト目でこっちを見るなり、直ぐに右側の何も無い方向を向く。怒ってるようだった。
「はぁ⋯」
「姉さん?ちょっと⋯!どうしたの??」
めっちゃ怒ってる。姉さんはそっぽを向き、おれはその姉さんの視界に入ろうと試みるが、姉さんはそれを拒絶。瞼を閉ざしてしまう。
「姉さん?どしたの?」
「はぁ⋯分かんないかなぁ⋯」
「え?」
右斜め彼方。來智花がいる方向とは無縁の逆を見続け、口を開く。
「わたしは⋯來智花が⋯わたしと一緒に行きたいとこに行きたいの⋯⋯」
「⋯⋯⋯!!」
「もお⋯こんなのわたしから言わせないでよ⋯」
「ごめん⋯⋯おれ、そんなのぜんぜん気づけなくて⋯⋯」
「はぁ⋯⋯」
熾泉花が左を向く。そこには頭を下げ、謝罪中の來智花の姿が。
「來智花、顔上げて」
ゆっくりと顔を上げる來智花。恐る恐る⋯熾泉花の声音は優しかった。だけど、その瞳には怒りが漲っているに違いない。そう思いながらの、自身の顔を姉に上げようとする行為はとても重いものだった。だがそんな恐れていた未来は、顔を上げ、熾泉花と目が合った瞬間に消え失せる。
──────
「今日はありがと」
──────
「いやいや⋯そんな⋯⋯⋯!!」
「⋯⋯⋯」
「ね、、、姉さん⋯!?」
熾泉花が一気に來智花との距離を詰める。そして熾泉花は両手をガバッと広げ、その身体を來智花の身体に預けた。來智花は思いもよらぬ姉の行動に驚愕。本来なら、姉の身体を身に受けてもビクともしないだろうが、あまりにも予期していた事態とは掛け離れた行動だったので、大きく揺れ、ベッドに倒れ掛けてしまう。幸い何とか持ち堪え、來智花は座着状態を維持した。
「ありがとう⋯⋯わたし、來智花が弟で良かった⋯。來智花が一緒に居てくれたから、今日こうして外に出れたんだよ?わたし、もう日の目を浴びれない存在だと思ってたから⋯⋯。ほんとに感謝してる⋯」
「姉さん⋯おれは、そこまでの事してないって」
「ううん⋯來智花がそう思ってても、無理かな。わたし、來智花となら色んなとこ行きたい」
「うん!行こ!」
「うん⋯!」
「姉さん⋯あのさ⋯⋯⋯」
「うん?どしたの?」
「いや⋯⋯あの⋯⋯⋯」
おっぱいめっちゃ当たってる⋯なんて言ったらどうなるんだろう⋯⋯ここでおれ、めっちゃ激烈にチャレンジングな事言ったらどうなんのかな⋯⋯。引かれる⋯⋯よな⋯⋯でも⋯⋯なんか⋯⋯アレ?⋯⋯んん??なんか⋯⋯姉さん、当てて来てない?え、、なんか⋯んな事ぁないよ。そんな事あるわけないよ?分かってるってバカ。まじでさぁ、おれ、妄想だけに留めとけよって。⋯⋯⋯⋯⋯いやでも、おかしいよな。なんか確実に⋯ズリズリ⋯あ、そこまでじゃないけど、いや⋯なんか、、時間経つにつれて密着度が増してるから⋯異常に姉さんの肌を直接的に感じるんだけど⋯⋯姉さん⋯これ⋯⋯⋯どういう⋯意味⋯⋯⋯。
「來智花は⋯高校で、女の子できた?」




