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[#17-1年ぶりの日付変更前お風呂]

[#17-1年ぶりの日付変更前お風呂]



2階。熾泉花と來智花が一緒に行き着く。


「それじゃあ⋯姉さん、また明日⋯でいいかな⋯」

「⋯うん」

恥ずかしさ、美しさ、それに⋯もどかしさ。素直に『うん』と言えないのは、まだ姉さんがおれにちょっとした壁を立てているのだ⋯と勝手に思った。その壁が直ぐに決壊するような薄い壁だと思えない。ただ、この壁が壊れた時、おれと姉さんの関係値は極致に達するだろう。おれはそんな日を待ち望む。


「あ、あのさ⋯⋯來智花」

「?⋯⋯どうかした?」

部屋へ入室しようとした來智花が、熾泉花に呼び止められる。熾泉花はまだ、部屋に入室していなかった。

「後で⋯お風呂とか入ってから⋯時間、くれない?何もかもぜんぶ終えてからでいいから」

「う、うん⋯もちろんだよ」

「ありがと。じゃあ⋯また後で。わたしの部屋に来て」

姉さんは扉を閉める。


⋯⋯⋯今日の感想会⋯的なことをしたいのかな。どうなんだろう⋯。でも、姉さんがこうして積極的に⋯とはまだいかないレベルだけど、誘ってくれるのはとても嬉しい。そうだな、夕飯も食べて、少し汗が溜まってしまうぐらいに、ガツガツ食べてしまった。お風呂入って、そっから姉さんの元を訪ねる事としよう。

今日、まさかこんな日が来ようとは正直思わなかった。場所が場所だったな⋯中野ブロードウェイ。姉さんの好きなものに合わせたから⋯っていうのが第一の勝利内訳にあるよう思える。て言うか、確実に勝利に導いてくれた。ほんと、感謝してるぞ。

⋯⋯⋯⋯⋯でも、姉さんの口から伝えられるアニメ・特撮の話がぶっ飛びすぎててよく分からなかった⋯っていうのは、本人に言わないでおこう。あの時、姉さんテンションはハイになっていて、とてもじゃないが、邪魔するのも気が引けたし。

今日、姉さんから聞いた話が全く理解出来なかった⋯と本人に伝えるのは、もっと時間が経ってからにしよう。何せ、姉さんはもう、引きこもりでは無くなったから、いつでも話せる。姉さん⋯明日から楽しみだなぁ⋯。朝起きたら、姉さんがリビングに普通にいるかもしれないんだ!

朝の姉さん。昼の姉さん。夜の姉さん。

全時間帯の姉さんを特等席で観察する事が出来る!こんな事をおれごときがやってしまっていいのかよ⋯。仕組みとか良く分かんねぇけど、グラビアのカメラマンとかってさぁ、四六時中グラビアアイドルを被写体にして写真撮影してんだよな?


【※そんな事はありません。來智花はバカなのです】


絶対勃起してんじゃん、アイツら。めっちゃ興奮してんだろ?

⋯⋯⋯⋯そういう事よ。

つまりはね、姉さんをそんな四六時中見れる環境がこれから、少しずつではあると思う。あると思うけど、これから成っていくんだよ。

⋯もう、最高じゃねぇか!!!!


『おはよう!來智花』

『行ってらっしゃい、來智花』

『おかえり、來智花』

『ご飯にする?お風呂にする?それとも…』

『映画一緒に観ない?來智花』


ンフウーー!!!最高。もう女神降臨。パない。もう勝ち組だなこりゃあ。よし、風呂入って、今日の汗を全て流し終えて、姉さんの部屋へ行こう!⋯⋯てか、姉さん、何の用があるんだろう⋯。


「來智花ー?」

「え、、」

おれの部屋。その扉の前から姉さんの声が聞こえる。どうしたんだ⋯と思い、迷い無く扉を開けた。

「あの、お風呂、先ぃ、入ってもいい?」

「あ!もちろんだよ!」

「ありがとう。ごめん、そんだけ」

「うん、ごゆっくり」


姉さんが階段を降りる。



午後8時40分。

こんな時間にお風呂入るの久しぶり。もう、1年ぶり⋯とかだよね。以上かもしれない。自分の籠り生活がいつから始まったのか明確に覚えてる訳じゃないから、大体のことが推測の域を出ない。

リビングでは、パパとママが風呂に入るわたしに声を掛ける。

「お風呂入るのね、行ってらっしゃい」

ママの声は優しい。それに綺麗。とてもわたしがこの人の遺伝子を継承した存在とはまったく思えない。こんな綺麗な人じゃ無いし、これからの人生でこうなっていくのかなぁ⋯社会性を帯びていくとこうなっていくのかなぁ⋯と思ってみるけど、そのビジョンがぜんぜんいい方向に転ばない運命の末路。

ウンザリだよ。自分が勝手に始めて、かってに終わらせられる物語なんだから、自由自在に奔放に操作すればいいのにさ⋯。なんかリアリティを求めてしまうんだよね。何のために映画鑑賞と読書をして来たんだよ。無駄に知識と智慧を蓄えてきた1年間なのに、そんなのが役に立つ事なんてほぼ無い。

ちょっと独創的な思考が回るだけ。


わたし、これから⋯どうしていけばいいのかな。こうやって、家族には自分を晒すことができた。本当は凄く怖かったんだ。2人が家に帰ってきた時、わたしは直ぐに2人の視線を予測。


きっと無下にするんだろうな。

わたしなんて視界に入れたくないよな。


それらに追随するよう、複数の同種族ワードが脳内を駆け巡った。ただ、そんなネガティブ思考は打ち砕かれる。

パパとママは、優しくわたしの語り掛け、そして抱擁までも実行。わたしに寄り添ってくれた。それに比べて⋯わたしはなんだ。両親からの愛を逆撫でするような考えを巡らせて⋯。凄く、酷い事をしたと思う。まだ、心の中で留めておいたものだから良かったものの、これを表に出していたら⋯と考えただけで、わたしはどうにかなってしまいそうだ⋯。

良かった⋯。取り敢えずは⋯良かった。


ドキドキしない中でのお風呂っていうのも久しぶり。色々な“久しぶり”が混在している。まるで旅館に来たかのようだ。

深夜。家族全員が寝静まった中で入るお風呂。シャワーの水・お湯をゆっくりと出し、ゆっくりと締める。その時に射出される水量に関しても、わたしは徹底していた。とにかく音を立てないことを最優先に置いていたから。とは言っても、深夜に入っている事なんて、家族みんな周知だろうし、ひた隠しにする必要は無い。ただただ、わたしの姿が見られたくなったからだ。


「ふぅ⋯⋯⋯」

「サッパリした?」

「!?、、!ママ!?」

風呂から上がり、洗面台で髪をドライヤーしているところに、ママが背後から迫って来た。その迫り方というのも実に変態的で、胴体を拘束するようにガシッと、ママの両手で固定。身動きが取れなくなってしまった。

「アハハハハハ!熾泉花のお風呂上がりの顔、ほんと久々ね」

「や、やめてよ⋯なにそれ⋯⋯⋯」

恥ずかしいって。なんだよその言い方⋯事後のAV女優みたいじゃんか⋯。

「ノーメイクでもほんと可愛いわね。さすが我が娘ね!」

「まぁ⋯それに関しては感謝してる」

「嬉しいなぁ〜!ねぇねぇ!もっと言ってみて!」

「は、はぁ??なんでこんなこと何遍も言わなきゃいけないのよ!」

「だってぇー可愛い娘に『ママ可愛い!』って褒められるの最高じゃない?」

「そういうもんなの?」

「そういうもんなんです!」

ルンルン気分のママ。今にもわたしからの褒め言葉を期待している様子で、胴体を揺らしている。確かに、これが36歳には思えない。

とっても可愛い。

普通に綺麗。

たぶん、いない。

普通に探してたら見つからない。

表参道、池袋、渋谷、日比谷、六本木。

⋯⋯⋯⋯各エリアに24時間張ってればようやく会えるかな⋯といった具合に激レアな美貌の持ち主。


「ママが可愛いからわたしも良い感じの顔です。だから感謝してまーす」

「最後の最後にダレてきちゃったけど⋯まァよろしい!」

「はぁ⋯ママってこんな面倒な女だったっけ」

「あなたが引きこもってる間、何か心境の変化があったか⋯?って問われたら、私的には『ううん』だけどね」

「わたしのせいだったらごめんなさい」

「ううん!まぁ多少なりともは熾泉花が一因にはあると思うけどね。だって愛する我が娘が、ずっと部屋に籠りっぱなしなんだもの⋯⋯」

ママが強く抱擁。でも、それは苦しいものでも無ければ、窮屈な感情に苛まれることは無かった。心が落ち着く⋯孤独からの解放を感じる、一つの手段として、ママはわたしを包み込んでくれた。⋯⋯⋯泣いちゃうって。



わたし、案外、色んなこと出来るのかもしれないって、今日一日動いてて分かった。でもまだ出来ない事もある。來智花がフォローしてくれたりで、何とか事が進んだけど、あんなのは出来なきゃダメだよね。店員さんを呼ぶ⋯とは、そんなの出来て当然。

⋯⋯あれ、そうなってくると、『色んなこと出来るのかもしれない』との定義がごっちゃごちゃになってしまう気がするけど⋯違うの!違う違う!わたしが言いたいのは、そういう誰でもが出来て当然の事じゃなくて⋯なんだろうなぁどう言ったら伝わるのか⋯⋯⋯ああああ!!!もお!

ぜんぜん頭が回んない!!どうしてなの!?いつもと同じ日常サイクルじゃないからだ。わたし、混乱してる。普通だったら今の時間⋯今は⋯夜の9時半とか。この時間帯なんて、部屋でゲーム三昧だよ。インターバルで、一人の息抜きタイムが始まって、事終えたら、またゲームコントローラーをチマチマカタカタ⋯。この生活を昨日まで続けていたのに、今日はなんだ⋯。こんなの予定してなかったよ⋯⋯⋯。

すっげぇ動けんじゃん、わたし。

やっぱり日頃から筋トレやってるからかな。來智花もビックリしてたかなぁ⋯けっこう來智花って感情のポイントがあからさまだから、判るんだよね。今日一緒に動いてて。

わたしがバァーっと、作品それぞれのウンチクを來智花に伝えるんだけど興味アルナシの差が、激しいィ!!っダラ激しい!

わたしも悪いんだけどね。初めての人に教えるんだから、もっと全体的に詳細な作品概要説明が出来たら良かったんだけど、何せ、贔屓目に見ちゃうシーンもあったんだ。熱意のこもった作品と、まぁまぁな思い入れの作品ってあるじゃん?ねぇ?みんなにもあるじゃんか!?

⋯⋯⋯⋯あ、そういえば、今日サブカルチャーを実際に生で教えてほしい!⋯とかの理由で來智花に外出させられたんだ。じゃあ、使命は果たせたんじゃ無いかな⋯でも、來智花の表情を思い返してもぉぉ⋯あの“冷めた表情”は無いんじゃないのぉ〜⋯⋯。

まぁ⋯後でこっち来るけど、そん時はこの話はやめておこ。他に、もっと話したい事あるし。


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