[#13-サブカルの大迷宮]
[#13-サブカルの大迷宮]
「うわぁ⋯⋯⋯なにここ」
「ネットで検索はした?」
「うん、、、もちろん、、、ただ、肉眼で見るとこれまたすごいね⋯⋯」
「迷宮よね、ほんと、現地に来た方が何倍もの感動を味わえる⋯」
「外に出て良かったでしょ?」
「まぁそうね。ここはでも例外よ。わたしの好きなものしかない場所だから来てるだけ。明日になったらまた籠城生活の再スタートだからね」
「ええーそんなー⋯⋯ま、それをどうにかするのがおれの役目かな」
「無理だと思うよ〜。わたし、頑固もんだよ?」
「姉さんのその確固たる意志を跳ね除けてみせます」
「やってみろやってみろー」
「⋯んでさぁ、どこに向かってんのこれ」
「これはね、3階に向かってんのよ」
「あ⋯ほんとだ⋯下見してた通り、エスカレーターが向かう先は予測不能だね」
「ここはわたしに任せなさい。素人はわたしの傍を離れない事。いい?」
「じゃあ手繋ご」
「⋯⋯いいよ」
「え、、、、、」
絶対、絶対絶対絶対絶対絶対絶対ムリだと思ってた。直ぐに出来た。手を繋ぐ⋯姉さんは姉弟として⋯という解釈なのだろうが、おれからしてみればこれはもう、、、ご褒美以上のものだった。姉さんと⋯手を繋いでる⋯⋯⋯ヤバい⋯姉さんの手、めっちゃサラサラしてて可愛い。もっとこの唯一無二の温もりを感じていたいけど、変性を覚える可能性があるし、姉さんにもそれが伝わってしまうかもしれない。抑えよう、抑えるんだ⋯⋯。
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「これで、どこにも行けなくなったね」
「⋯⋯!?!姉さん⋯⋯」
「ん?どうしたの?來智花」
「いや⋯あの⋯⋯⋯」
「ん?あ、大丈夫?ここ、凄く赤いよ?」
「姉さん、どうしたの⋯⋯めっちゃ積極的じゃない?」
「わたし、ずっと來智花と“こういうイチャイチャ”したかったんだー」
「手⋯強くしたり、弱くしたり⋯姉さんの上下運動がいっぱい伝わって来てるよ」
「じゃあ⋯⋯」
「姉さん⋯!?」
「こうすればもっと近づけるし、興奮するから、副産物が生まれるかもね」
熾泉花が、來智花と手を繋いでいた左手を離す。ただ、その左手は彼女の胴体の横へは戻らず⋯。左手の脳神経接続は移植し、“左腕”へ。熾泉花の左腕は、來智花の右腕に絡まっていく。
「姉さん⋯胸が当たってるよ」
「んーん?イヤなのぉ?じゃあやーめよっと」
「いやいや⋯!そういう事じゃ無くて!」
「來智花、好きだよ。今日はありがと。わたしを家から出してくれて。來智花が一緒に来てくれるから、わたしは今ここにいる。本当に感謝してる」
「うん⋯それは⋯嬉しいよ。そこまで感謝してくれてるとは思ってもいなかったから」
「そう?じゃあ⋯もっと身体で表現しないとね。ほら、來智花ってエッチなシンボルとして見てるじゃない?」
「否定は出来ない」
「そでしょ?じゃあ⋯このわたしのおっぱいが当たってる右腕を〜、飛び越えて⋯」
熾泉花が來智花の真ん前に。
「こうやって、來智花くんの真正面に立つ」
「姉さん⋯⋯」
「來智花くんから借りたワイシャツだと、もっと興奮したのかなぁー。でもごめんね、これはわたしのワイシャツ。サイズは⋯ちょっぴりパツパツかも。だって⋯1年間も着てないから、たぶんわたし、この1年間でおっぱいも大っきくなったんだよ?」
「確かに⋯胸のあたりが、窮屈になってる」
「そ、悲鳴、上げてる。だから⋯このボタン、とって?」
「⋯⋯⋯ンハァ!!」
「おねがい⋯?」
熾泉花が胸を強調する。両腕が胸を寄せ付け、ある程度の余裕が感じられるスペースの誕生を表していた。しかしそれは、ワイシャツの上からでも透き通って見える巨乳の密着を意味している。とても⋯目線を逸らすことの出来ないシーンが連続的に起き、來智花の理性は暴発寸前。
上から、一つ、二つ⋯とボタンを開ける度に、“たゆん”⋯“たゆん”と山が揺れる。その様を見届ける“持ち主”の表情たるや⋯⋯⋯
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「⋯それでね、わたしはやっぱりこういう特撮系も好きだなぁって思ってきてさ、あ!あとこんなのも好きなんだよねー!⋯⋯⋯ね、聞いてんの?」
「あ⋯⋯えっと⋯⋯」
まただ⋯またこれだ。いっつもそう⋯⋯姉さんとの妖艶な時間を想像してしまう⋯。いやでもさぁ、普通に考えてさぁ⋯この容姿、可愛すぎて“そういうこと”想像しない方がおかしいだろ。
「ん?どうかした?」
「あぁ!ううん!大丈夫大丈夫!」
「そっぽ向いてる感じあったけど、もしかしてわたしの話飽きてた?」
「そんなことない!ほんとに無い!」
「ほんと〜??」
「ホントほんと!」
「もしそうなら、この手、離しちゃうからね」
「ちょっと!?それはタンマ!!」
「そ、そんなにわたしと手ぇ繋ぎたいの??」
「繋ぎたいです繋ぎたいです!もうこのまま!もう一生手ぇ洗いません!!」
「なんか、來智花もサブカルに染まってきた感あるじゃん!いいね!いいねー」
「あ、そ、そう、、、なの?」
分からない。今のおれの発言のどこがサブカルっぽかったのか⋯まぁでも良かった。取り敢えず姉さんの気分も元に戻ったし。
「それでね⋯わたしがオススメするプラモデルは⋯」
てか、ここどこだよ。なにここ。プラモデル⋯完成したプラモデルに、大量パッケージが積まれた棚。めっちゃ不謹慎なこと言うけど、地震とか来たら可哀想になってくる悲惨さが窺えてしまうな⋯。
「カッコよくない!?これ!」
「あ、、」
姉さんはあまりの興奮っぷりに手繋ぎをやめてしまう。おれは『あ、』⋯となんだか飼い主から離れていくペットを見てるような気分になった。だが姉さんは直ぐにおれの元へ戻ってきた。
「來智花!見て!これ!」
「うん?これは⋯⋯戦艦?」
「そう!航宙母艦ヒュウガ。艦載機も大量に完備することが可能で、なんといってもこのフォルムよ。重厚感もさることながら、先頭部分に沿って、細くなっていくフォルムが堪らないんだよねー!」
「姉さん⋯こういうプラモデルも好きなの?」
「大好き!本当はいっぱい欲しいんだけど、あいにくわたしは未来に向けてお金を貯めてるから」
「母さんと父さんから貰ってるお金、使わないでいるんだ」
「そうよ。致し方無い⋯っていう時のみ使うようにしてるわ」
「それって⋯将来の夢⋯的なもの?」
「そうね、それに関係してくる。わたしは、ゲームデザイナーになりたいんだ」
「へぇー!そうなんだー!」
「ゲームが好きだから、っていう安直な理由なんだけど、わたし、ゲームで人生救われたから、恩返しがしたいんだよね。そのために、今度はわたしがゲームを作るの。でもそれには多くのお金が必要になる。実際、パパとママからは物凄い大金を貰ってるから、もう十分だとは思うんだけどね」
「何かあった時のためにとっておくのは大事だよ」
「だよね。⋯⋯あ!これもこれも!凄い!」
姉さんは戦艦もののプラモデルに興奮し、おれに姉さんお気に入りのプラモデルを紹介しては、パッケージを実際に持って、値段を見て吟味をしていた。先程、『買わない』とか言っていたのに、一応値段は見るんだな。やっぱり欲しいのかなぁ⋯と思ってしまう。
「姉さん、欲しいの?」
「⋯⋯⋯いや」
パッケージと睨み合い。そんな睨みの対象として選定されているのがこの“ドレッドノート”。
はせ⋯⋯8,800円⋯。中々にするんだな⋯。
「姉さん、おれが買うよ」
「え、いや!そういうのはいいよ!」
「でも、欲しいんでしょ?」
「うーーーーーーー⋯⋯⋯」
「姉さんのそんな顔見てたら、買わない方がおかしいと思うんだけど」
「いや⋯でも⋯!來智花、それはちょっとほんとに待って」
「⋯⋯分かったよ」
姉さんの“マジ”の顔を見て、おれは財布を鞄へしまう。きっと、自分のお金でいつか、買いたいんだろう。それがオタクとしての意地というものか。カッコいいな姉さん。
◈
下の階へ。
「プラモデル・特撮コーナーはもうお腹いっぱい!じゃあ次は⋯」
そういえばおれ、元々ここに来た理由って⋯なんだったけ⋯?なんかいつの間にか、姉さんについて来てるような感じになってしまっているのだが⋯まぁ、いいか!姉さんのこんな笑顔。ハツラツとした元気の炸裂を見てしまえば、他のことなんて忘れ去る事が出来る。⋯⋯⋯あ、そうか、中野ブロードウェイに来て、実際にアニメに触れて、姉さんからご教示頂こう⋯と思っていた⋯⋯のかもしれん。うん、、あんま明確には覚えてない。そのぐらい、おれは今行われている、流れている時間が耐え難く好きだ。手を繋ぎ、半歩前を突き進むように歩く、おれの姉さん。
おれの女。
時たま後方にいるおれに振り向いて、おれの気分を確認してくるあたり、かなりおれの現状を気にしている⋯と見て取れる。きっと、自分だけはしゃいでるかも⋯と危惧しているのだ。⋯⋯もう、そんな思いやりもできるのに、どうして引きこもりなんかになっちゃったんだ。引きこもりによって生まれた“障害”が一切見れないじゃん。普通じゃん。普通の、オタクの女の子じゃん。ただの、ちょっとした人混みが苦手な女の子。
「來智花、大丈夫??」
「う、うん!大丈夫!次はどこに行くー?」
「あのさ⋯⋯お腹、空いちゃった」
「あ、確かに⋯⋯昼ってもう過ぎてるね」
現時刻、13時10分。
「お昼、食べない?」
なんで⋯なんでそんな⋯普通の質問がエロくなるんだ⋯。そうだ、その“トロン”とした眼球がいけないんだ。何でもかんでもエロくさせてしまう魔力が生じている。無意識なのか、意識して発動させているのか分からないけど、取り敢えず、おれの姉はやっぱり可愛いしエロい。何回言っても、困りませんからね。
「姉さんが食べたいならいいよ!」
「ほんと!ありがと♡」
手繋ぎが再開された。
姉さんの胃袋、マジでサンキューな。




