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[#12-異性間嫌悪言動ゲーム]

[#12-異性間嫌悪言動ゲーム]


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「姉さん、大丈夫?」

「うん⋯⋯わたし⋯人混み嫌なのよね⋯ほんと⋯⋯」

家から最寄りの駅まで、姉さんは一言も発さず、ここまで徒歩でやってきた。時たまこちらから会話を仕掛けようとも思ったが、姉さんはあまりにもの緊張で汗水を垂らしており、むやみに反応するのはお門違い⋯と思った。⋯こういう時って女の子に寄り添った方が良かったのかな⋯おれ、ひょっとして選択間違えたんかな⋯。姉さん、口も開けなさそうなぐらいオドオドしてたから⋯。

「大丈夫、午前11時は通勤時間から外れてるし安心だよ」

「んなの分かってるわよ⋯。わたしのことタイムスリッパーだと思ってんの?」

「そういう事じゃないの??」

「わたしが言ってるのは単純に、人が苦手なのよ⋯」

「ああ⋯いやでも、この時間は⋯大丈夫だと思うけど⋯⋯おれもこの時間帯に乗ることはあんまり無いから分かんないや」

「使えないわね」

「姉さん⋯それはちょっと聞き捨てならないなぁー」

「なによ、いっちょまえに『守る』とか言ってたクセに、何も知らないのね」

「何も知らないって事は無いよ!」

「ンフフアハハハハ!なんちゃって。何にも思ってないよ。ゴメンゴメン」

駅のホームで高笑いしながら、両手をおれに向けて合わせてきた。傍から見ると完全におれらは、ただのカップルに見えて違いない。悪い気はしないけど、姉さんはおれをバカにし過ぎだ!!


電車がやって来た。



電車に乗り込み、空席へと座った。車両の端っこだ。姉さんが端で、おれはその隣。意外と電車の座席って、密着度がパないんだよな。これだと姉さんの肌が当たっちゃってヤバイよ⋯⋯。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「姉さん?」

先程、ホームにいた時以上に姉さんは、ドギマギしていた。すると姉さんが目でこのように訴えかけてきた。


『どこが“人いない”なのよ⋯』


いや⋯、この程度で⋯とは思った。乗車率は決して高いとは言えない。人もまばらだし、空席だって存在。立っている人間も、ほんのちょっとだ。たまにいるよな。空席があるのに、窓を眺め続ける景色が好きなヤツ。そんな感じの男が、女がチラホラといる状況。だがこれを姉さんは“人混み”と捉えているみたいだ。

そんな姉さんのドギマギした表情。めっちゃくちゃ視線が挙動不審で可愛いが、ちょっと心配ではあるので、おれはこんな遊びを提示する事にした。


【熾泉花の肩をポンポンと叩く來智花】

「ん?」

【携帯見て。と、手振りをする來智花】


わたしは來智花に指示された通り携帯を見た。すると携帯の通知センターには、來智花からのメッセージが届いていた。何してんの⋯別にこんな近くにいるんだから、ここから話してくれればいいのに⋯。

⋯⋯⋯と、思ったが、今のわたしは、とても言葉を話せる体調では無い。人が“大勢”いる中で⋯けっこう恥ずかしい⋯。來智花だけだったから、まぁ⋯ある程度は自分を出してもいいかなぁとは思えるけど、もしここでわたしにスポットライトが当たるような事があった場合、無条件に赤の他人の視線はわたしの所へ向く。それが嫌だ。口なんて安易に開けない。まさか⋯⋯來智花は、それを思って⋯?


『姉さん、なんかゲームしようよ』

わたしは來智花から送られてきたメッセージとのやり取りを開始。更新相手は、すぐ隣にいる⋯っていうのに、なんとも変な感じね。でも、これ、イイかも。

『え?ゲーム?何すんのよ』

『アニメとか映画に出てきそうな台詞⋯でしりとり!』

『なによそれ』

『どう?』

『興味はある』

『よし!』『じゃあやろう!』

『いいわよ。わたし、負けないから』『あんたみたいな素人に負けるはずがない』

『言ったなー?じゃあここはレディーファーストで、姉さんからどうぞ』

『あら、気が利くわね。じゃあ⋯』『しりとりの“り”から』

『うん』


『竜の渦』

『え、なにそれ』

『竜の渦、よ。わたしが好きなRPGゲームにそういうダンジョンが存在してるの。んで、それに向かおう!って主人公達が言うのよ』

『なるほど⋯“竜の渦”っていう場所があるんだね』

『そうよ。こんなわたしに勝とう、っていうわけ?』

『もちろんさ!“ず”ね』

『うん』

『ずっと君のことが好きだ』


「んプフ」

熾泉花が笑う。それを横目で見る來智花が微笑む。


『wwwだっさwwww』

『ちょっと!どこがダサいんだよ!』

『だってダサいじゃない!』『聞いたこと無いわよ』

『え?!意外と無い系??』

『うーん⋯まぁそれは冗談。あるね。まぁたしかに。でもありきたりね。つまらない』

『別に、オモシロを決めるゲームじゃないから』

『へぇー。來智花はわたしに“面白くない男”認定されてもいいってことね』

『いやいや!それは!!』

『ハイハイ。次ね次。ええーっと、“だ”ね』

『うん』

『大っ嫌いなのよ、あなたと一緒にいるの』

『、随分と、野蛮な台詞だね』

『そうね、わたしもそう思うわ。でもこの言葉で世界観とか色々想像出来るじゃない?』

『うん確かに。なんか、普通じゃない感はビンビンと伝わる』

『ね。はい、“の”よ、らちか』

『野毛山デートでもいいかい?』


「ンプフフフフ」

熾泉花が笑う。口に手を抑え、これ以上の笑みを堪えているようだ。來智花は嬉しくなる。


『らちかwwwそんな台詞が出る作品、この世に存在しないわよwww』

『そうなの?』

『野毛山デートなんて、現実でも無いでしょwww』

『え、よくあると思うけど』

『は、マジ』

『うん、まじまじ』

『いやーそれは無いっしょ』


実際に、來智花の顔を覗き込む熾泉花。その顔は、まさに“本気と書いてマジ”。

來智花は微笑みを返し、携帯を打つ。そして、一つのURLが熾泉花と來智花のチャット内に投稿される。


『見てよ姉さんこれ』

『野毛山デート⋯あ、けっこう人気なんだ⋯』

『それに、ここ』

『何このいい感じに曲がったところ』

『野毛山の居酒屋スポットだよ。凄いよねこれ。居酒屋が何店舗もあって、サラリーマンは凄い困ってそう〜』

『うわーいいね、こういうとこ』

『姉さんとも行きたいな』

『は』

『いや、姉さんとも、お酒を飲める感じの年齢になったら一緒に飲みたいなぁって思ったんだけど』

『まぁ、考えとくわ』

『ありがとう!』『じゃあ次は、なんだっけ』

『“い”でしょ?でももういいわ。このしりとりは』

『え、飽きちゃった?』

『そうね、もうだいぶと飽きたわ』

『そっか、』

『わたしのほうから、したいことがあんだけど』

『え!ほんとに!いいよいいよ!姉さんからのゲームの提案!なになに?』

『嫌いな異性の特徴言い合いゲーーーム!』

『え、なにそれ』

『その名前の通りよ。異性だから、わたしは男。らちかは女。それぞれの嫌いな特徴を言いあいっこしよう』

『なんか、凄いダーティーな匂いがするゲームだね』

『毒ッ気が欲しくなってきたのよ。やりましょ』

『うん、いいよ。姉さんお手本見せてくれる?』

『レディーファーストって言わない辺り、らちかくん弾倉ゼロ?』

『バレたか⋯いや、全容が読めなくて、、発案者からのベースを知りたいんです!お願いします!』

『いいわよ』

『お願い!』

『胸をチラチラ見てくる男』

『そりゃそうだよね。女子の胸をそんなように見る男なんて最低だよ!』


あ、、、、なんだろうこれ。おれに言われてる感が凄いんだけど⋯⋯


『まぁ、好きな人からだったらいいんだけどね。わたし、現実世界に出たの1年ぶりなんで、現世の人間になんて恋なんてしないから、ほぼそれは無いんだけど』

『姉さんはこの世の男に恋心を抱いたりしないの?』

『しないね』

『絶対になんて言いきれないよ!』

『まだ言ってないんですけど』

『次言うつもりだったでしょ』

『まあ、それもそうね。わたし、興味無いね』

『付き合いたいって思ったりしないって、絶対はないと思うけどなぁ』

『はい、これがわたしの提案したゲームいいじゃない。これで少しは話のネタにも繋がるしさ』

『うん、そうだけど、、、ちょっとブラック過ぎるな』

『そんなブラックを望まない優等生の弟は、どんな女が嫌なのかなぁ〜』

『おれは、恋人を特別扱いしてくれない女子、が苦手』

『ほぉ〜良いね。いいじゃんいいじゃん』

『せっかく恋人っていう契りを結んだのに、色んな男と同じ対応してくる女の人って嫌だなぁ⋯とは思うかな』

『そういうことが実際にあったの?』

『うん』

『へ〜、いつ?』

『中3の時に付き合った彼女』

『え、それってわたしも知ってる女じゃん。あの子、誰でも彼でもな感じなの?』

『うん、なんか、そうみたい』


はぁ、あのクソブス。わたしの弟に良くもこんな感情湧かせやがって、マジで殺してやろうかな。ぶっ殺す。絶対に殺す。次会ったからなぶり殺す。正直会おうと思えば、会えるぐらいの距離だったもんなあの女の家。


『あっそ〜、なぁんかわたしの変なスイッチ入っちゃったかもしんないわ』

『え、どういうこと?』

『弟がこんな複雑な恋心を抱いておきながら、それをわたしに打ち明けずに、そっとしまっておいたんでしょ?』

『うん、まぁ、、姉さんとは簡単に話せない距離感が続いてた中での、その人との別れだったから』


あ、複雑な心境を維持させたのはわたしのせいでもあるか⋯⋯⋯⋯


『大事にされたいんだね。好きな人からは、みんな以上に』

『うん、おれって甘えてるかな』

『甘々だね。でも、わたしは嫌いじゃないよ』

『え、』

『だって、彼氏彼女って特別な関係値であってほしいもん。それなのに、みんなと同じって嫌だよ』

『姉さん、ありがとう』

『わたしだね次は⋯』


と、まぁ姉さんの異質なゲームがその後も繰り広げられていき⋯でも、姉さんの回答も面白かったし、おれもなんだか違う世界の扉を開けたような感じがして楽しかった。まさかしりとりからこういったゲームへと展開するなんて、とは思ったが、結果的には盛り上がってよかったな。その証拠に右隣にいる姉さんを、常々横目で見ていると⋯『ンフフ』と口角を上げてるシーンが多々あった。中には、『ムン?』と困り果てた顔から、『アァん?』とお怒りムード漂う空気も感じられ、いったいなんでだろう⋯となったな。確かあれは、おれが『平等に接してくれない彼女』と答えた時だった。

異常に怒ってたな。顔。

メッセージ上では、平常心を保っていたけど、実際の顔を見るととんでもない怒りを帯びていた。そんなプンスカフェイスの姉さんも可愛かったけど。おれの事でそんなに怒ってくれるなんて嬉しいよ。嬉しい。

それと、怒ってる“ムカァ”って顔、めちゃクソ可愛かった。⋯⋯抱きたい。めちゃめちゃにしたい。ただ、姉さんが冷めた対応をしてくるのは、やっぱりおれのことなんて眼中に無いんだろうな。まぁ、そんなの当たり前なんだけど⋯姉弟だし。




12時

中野駅──。


「着いたね」

「着いたわね」

「人、けっこういるね」

「まぁそりゃあ、夏休みだから当然でしょうね」

「知ってる?観光客の方が中野駅を往来する人間って多いかもしれないんだって」

「そんなの常識でしょ?中野ブロードウェイはサブカルチャーの聖地よ。世界中の日本アニメと特撮ファンがこぞって一つの街に集まるんだから」

「へぇ〜、やっぱり姉さんは詳しいなぁ」

「中野ブロードウェイは、わたしにとっても特別な場所だからね」


中野駅から中野ブロードウェイへと続く商店街を歩きながら、両脇に構える店舗を見つめながら、反対方向からやって来る人間に注意しながら、熾泉花と來智花は歩きを進める。


「1回だけ行ったことあるの」

「いつ?」

「去年よ。春に行ったことある」

「じゃあ、姉さんがまだ籠城していない時期ってことだね」

「ええそうよ」

ぶっきらぼうに返す。あまり触れてほしくないポイントのようだ。

「ごめんなさい⋯⋯」

「いいわ、事実だから。あの時は一人で行ったわ。とっても楽しかったのを覚えてる」

「何か買ったの?」

「ううん、これといって買ったものは無いわ⋯⋯あ、まぁCDかな。CDを買ったわ。好きなゲームのサントラ」

「そんなに思い入れない感じ?」

「今のわたしの思い出し具合を見るに、そう捉えてもおかしくないよね」

「うん、なんかそう思っちゃった」

「來智花、いい読みしてるじゃん」

「ほんと?」

「うん、まさしくわたしが購入したサントラには何の思い入れも無い。何せ、わたしの好きなゲームの先代のシリーズだったから」

「なるほど⋯姉さんがやってたゲームの音楽では無かったんだね」

「そうなの。もう分かりずらいのよパッケージが」

「今日は?どうする?せっかく来たし、なんか買おうとしてるものはある?」

「うーん、わたし⋯今、欲しいグッズはここに売ってないと思うのよね」

「そうなの?」

「中野ブロードウェイは基本的には中古商品を売っている場所だから。わたしの欲してる最新ゲーム、最新アニメの資料書籍とか、音楽CDとか、円盤とかは無いんじゃないかなぁって思ってる。あったら買いたいけどね」

「一緒に探すよ!」

「ありがと☆」

中野ブロードウェイに続く門をくぐると共に、熾泉花の笑顔が弾ける『ありがと』が來智花に向けられた。その突き刺してくるような妖艶な口角スマイルに、生唾を大量に飲み込む。

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