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誕生日

楽しんでいただけましたら幸いです。

今日、33歳になった。

夏の匂いは嫌いではないが、暑さに強いと言わ続けても夏は好きになれないまま、今年も誕生日を迎えた。20代の頃からあまり誕生日に対して過敏なほうではなかったが、30代に入ってより一層興味は薄くなっていた。それでも少し寂しいと感じるのは、会いたい時に会えない相手を想ってしまうからなのかもしれないと思いを巡らせた。

ソファに身体を預けて小さく深呼吸をすると、バラのアロマオイルの香りが鼻に届く。生花の世話は面倒だが、花の匂いに囲まれていると安心できる。

「もう3年か」

誰に聞かせるわけでもなく、ひとり呟いた。

タイミングよく目の前のテーブルの上でスマホが鳴った。画面には『三神 尊』と表示が出る。相変わらず抜け目がないと思わず小さく笑ってしまった。スマホを手に取りスワイプした。

「史佳、誕生日おめでとう」

右耳に響く、落ち着いた低い声。聴き慣れたこの声は、史佳に考えることを放棄させる。

「ありがとう」

取り繕っているわけではないが、落ち着いた声色で答えた。

「ごめんな、今日、会えなくて」

バツが悪そうに三神が言う。

「仕方ないよ、今日は金曜日だもの。大丈夫」

史佳はこの類の会話の時、努めて明るく話すと決めていた。暗くなって重い女と思われたくないのだ。

「電話くれただけでもうれしい。もう家でしょ?奥さんは大丈夫?」

「大丈夫だ。心配しなくていいよ。今日が終わらないうちに、お祝いだけ伝えたかったんだ」

「うれしい。ありがとう」

「また、会える日は連絡するから」

「わかった。待ってるね」

じゃあ…と三神は電話を切った。

ものの数分で終わる会話。史佳はそれでもうれしいと感じてしまう自分が虚しかった。


お付き合いいただきありがとうございました。

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