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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ジャパニーズ・安楽死・ファーストタイム

作者: ヒロモト

『日本初の安楽死認められるました』


工場の休憩所でスマホを弄っていた佐藤は思わずテレビの方を見た。


「安楽死の法令が通って意外と早かったなぁ」


工場長が紙コップで麦茶を飲みながら佐藤の肩に手を置いた。


「安楽死なんて聞こえがいいが、人が人の命を奪う事を国が認めるってこった」


工場長は死刑制度にも反対する人権派だ。


「佐藤。お前。来月でもう30だろ?管理職にまわって見るか?」


「えっ!?」


作業員からチームとスケジュールの管理、指導に出世と言うわけだ。

現場に全くでなくなるということはないだろうが、かなりの時間をエアコンの効いた事務室で過ごせる。

最近腰が痛い佐藤にとって嬉しい提案だった。

佐藤はもちろん承諾した。


『この間ね。健康診断がね。酷くてね。医者にも匙投げられたし……それなら安楽死しようかなぁって』


日本初の安楽死を認められた老人が頬杖をつきながら会見をしていた。


(この人が死ぬのか)


近い未来国に殺される人間がテレビに映っているというのが信じられなかった。

戦争に行く人間を見送る家族の心境はこんな感じだったのだろうか。


『城島さんは12年前。娘さんを強姦、殺害される。娘を失ったショックで妻は自殺』


(家族を失い。一人暮らしで病気かぁ。工場長には悪いけど。この人は死んだほうが楽かもね。まさに安楽死って奴だ)



その夜は良い夜だった。

妻は出世を喜んでくれたし、とんでもないサプライズもあった。


(俺もパパになるのかぁ)


工場長にその事を電話で報告したら急遽居酒屋でパーティーを開いてくれた。

疲れているだろうに仕事仲間たちも祝ってくれた。

グデングデンに酔って家から500メートル離れた場所でタクシーを降りた。

佐藤は家までのこの500メートルの道が好きだった。

マンションの自分の部屋に上がりが灯っている。

妻が自分を待っている。

その明かりに向かってゆっくりゆっくり歩いていくのが本当に幸せなのだ。

空を見上げた。

満天の星空だ。

幸せだった。


トス。


丸めた紙を投げてゴミ箱に落ちた様な音。


ザス。


キャベツを半分に切った音。


グチュ!グチュ!


例えようが無い不快な音。


「あ」


背中と腹を包丁で刺され、腹に刺した包丁をグリグリとえぐられた。


声を出し、暴れようとしたが4人の屈強な男達に両手両足をロックされ、顔面からアスファルトの歩道に叩きつけられた。

鼻は潰れ、前歯を全て失い、片方の眼球

に石の破片が刺さった。

頭部への衝撃と出血のショックで視界がまっ黒とまっ白を行き来する。

佐藤が最期に見たのはテレビで見た城島だった。


「お前ね。人の家族を奪っといてね。自分は幸せな家庭築こうなんて思っちゃ駄目よ」


確かに佐藤は城島の娘を犯して殺した。

でも17歳の血気盛んな少年には性欲の暴走なんてよくあることで、ちゃんと法の裁きも受けた。

何で今さらこんな目に合わなきゃいけないのかと怒りが湧いた。

こんな理不尽な事があるだろうか。


「あんらくひ。どうひたろ?」


「だからね安楽死だよ。これが」


「ふらけんなぁ」


「お国にゃ逆らえないね」


首と頭に一突きずつされ、佐藤は息絶えた。





……


「あんた逆に異常だよ。肉体年齢が二十代でなーんにも異常無し」


「先生なんとかならんね?俺は早く死にたい。娘と妻のとこへ行きたい」


「いやいや。お手上げよ。あなた健康すぎです。これなら120まで生きるよ」


「そんな。俺はこれから心の傷に耐えながら何十年も生きろってのかね?」


「安楽死すればよか」


「安楽死?」


「犯人の男ば殺せばあんたの人生これから安らかに生きられるやろ。死ぬ時も笑って死ねる。ほい診断書。これを役所に持っていかんね」


「安楽死ねぇ」


城島は佐藤殺害後、50年生き、ハワイの自宅で後妻と息子に見守られながら老衰で亡くなった。

その死に顔は安らかだったという。








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