万剣物語 8
「さて、早速だけど君の能力について教えてくれないか?」
『分かった。
私の特徴としては、先ず話せること、物事を記憶できることだ』
「なるほど、特殊な能力はある?」
『特殊かどうかは分からないが、魔法を使うことが出来る』
「それは凄い!
どんな魔法を使えるんだ?」
『火の魔法を使える』
「火の魔法?」
『ああ、火球を飛ばすことができる』
「へえ、じゃあ魔物との戦いでも魔術が使えない者でも魔術が使えるように見せかける事は出来るということだね」
『まあ、そうだが、他の誰かに私を渡すつもりか?』
「そうとも言えるしそうじゃないとも言える。
そうだね。
君には、【教剣】が良いだろう」
『どういう意味だ?』
インテリジェンスソードが訝しむように尋ねてくる。
僕は、その問いに答えるために鏡剣を取り出す。
インテリジェンスソード、いや、今この時をもって新たな名前を与える。
「まあ、百聞は一見にしかずだ」
『写せ鏡剣、教剣インテリジェンス』
『『なんだ?
何が起きた?
……えぇ?』』
二つの教剣が同時に話し始める。
『『私が二つある!?』』
「因みにこっちが偽物だよ」
『『え?』』
偽物と言われて両方の剣がショックの声を出す。
「あれ?
てっきり意識がバラバラなのかと思ったけど違う?」
『『そう言われてみれば変な感覚だ?
本当に二人になったようだが、意識が一つよく分からない状況だ』』
意識を共有している?
……試してみる価値がありそうだな。
剣を地面に突き刺して、その場を離れる。
『どうするつもりなんだ?』
「もしかするととんでもないことができるかと思ってね」
十分に離れた事を確認して、もう一つの教剣を地面に突き刺す。
「合い言葉は、ミラージュだ」
『ミラージュ?
ああ、分かった』
そして、先程地面に突き刺した方に向かう。
「合い言葉は、分かるか?」
『ああ、ミラージュだろ?』
「そうだよ」
これは、かなり便利な能力だ。
離れた人と情報をやり取り出来るこれは、エリアルルさんに絶対に渡すべきだろう。
教剣を回収して、村に向かう。
村は、浮き足立っていた。
一応の平穏があるこの村から出なければならないときが近づいているんだ当然だろう。
村人達に挨拶を交わしつつエリアルルさんの所へ向かう。
「どうしたんですか?
また、魔族を保護してきたのですか?」
少し疲れを見せるエリアルルさんの質問に首を横に振る。
「いえ、今回は、別の発見があったのでこれを見て下さい」
そう言って、エリアルルさんに教剣インテリジェンスを見せる。
「剣ですか。
結界を維持するあの剣のような特別な力を持つ剣ですか?」
「はい」
『写せ鏡剣、教剣インテリジェンス』
「エリアルルさん、少し離れるので剣に話しかけてみて下さい」
「ええ?」
困惑するエリアルルさんに苦笑しつつ一度エリアルルさんの家から出る。
『どういうことかしら
話しかけるといわれたけれど……、貴方は新しいあの人の剣ね?
あの人は、色々な魔剣を集めているみたいだけど貴方もそうなのかしら。
もしそうならあの人を助けてあげて、私たちが信用、いえ、信頼できる数少ない人間だから。
と言っているな』
うん、どうしよう、聞いてたことを言うの難しいな!?
……話しかけて欲しいとは言ったけれど独白をするとは、でも言わないと話が進まない。
『ふふふ、なんてね。
響剣シンフォニアと同じように声を届けることが出来るのかしら?
もし聞いてたら戻って来て下さい。
実験は成功したか聞かせて下さい』
……敵わないな。
まあ、こんないつ人間が、攻めてくるか分からないような場所で村長をしているんだ。
度胸もつくか。
「それで、声は聞こえましたか?」
「はい、バッチリと」
「私の方に声を届けることは出来ないのですか?」
「そうですね。
そこは、この剣と同調しないと無理だと思います」
「そうなのね」
「ただ、この剣は自動で魔法を撃つことが出来るんですよ」
「あら、凄い剣ね?」
「はい、なのであいつらの一助になるかも知れないので、これらをあいつらに渡して下さい」
そう言って僕は、鏡剣ミラージュによってコピーした教剣インテリジェンスを四振りをエリアルルさんに渡す。
「一つ多いようだけど?」
「それは、エリアルルさんが持っていて下さい」
「分かったわ」
「性質上普通の剣としては使えないので注意して下さい」
「ええ、結界を張るためのあの剣のようなものね」
「はい」
「それで、貴方はどうするつもり?
この村に残っていた方が良いと思うけど」
「そうですね。
少し嫌な予感がするので、当分の間、この村に滞在します」
「ほ、本当!?」
エリアルルさんは、少しうわずった声を出してその碧の目でこちらを見つめる。
「え、エリアルルさん?」
「ご、ごめんなさいね。
でも止まる場所はどうするつもりかしら?」
「そうですね。
村の誰かに頼もうかと考えてました」
「そ、それじゃあ、この家にと、泊まりなさい」
エリアルルさんの申し出に少し考える。
「良いんですか」
「良いんです」
……少しくい気味なのが気になるけど、寝床を確保できるのは有難い。
「有難うございます」
「……それはこちらの台詞よ」
さっきの勢いは何処へやらいつも通りのエリアルルさんに戻る。
「身寄りのない私たちを保護してくれてありがとう。
貴方がいなければ、この村の殆どの子が死んでいたか、それより酷い目に遭わされてたでしょうから」
エリアルルさんの言葉に首を振る。
「運がよかっただけですよ」
「……そうね」
俺の言葉を汲み取ってくれる。
助けられなかった子もいたということ、それを責められたこともある。
だけど、
「何しんみりしてるんだ!?」
入り口から何時でも元気なアホが、声を張り上げる。
室内なので声が反響してなおのこと煩い。
「ヘイルさん、丁度良かったわ。
この剣を渡しておくわ」
「これは!?」
「魔法を撃つ事が出来る剣よ。
とても壊れやすいけどいざというときの切り札になるから持っておきなさい」
「了解!」
「残りの二人にも剣を渡しておいて」
「おっけー!」
ヘイルは、そう言うと元気に駆けだしていった。
「アホだが、元気が貰えるな」
「そうね」
僕とエリアルルさんの視線の先には、残り二人に渡すはずの二振りの剣が置かれたままだった。