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万剣物語  7

 日が傾き人々の行き交いも徐々に少なくなり始める頃、俺は、メルデンスへと戻ってきた。

 今回の事で、冒険者ギルドに何か情報が上っていないか確かめるためだ。

 具体的には、魔王軍幹部の討伐依頼が上がっていないか。

 幸いな事に今の所、情報は無く。

 こちら側で知る者はいなさそうだ。


 しかし、不審な魔物の死体が発見されることがあり、また、高位の冒険者の行方が分からない状態であるため現在、高位の魔物が、この近くに居るのでは無いかという噂がたっていた。

 『蛇女ラミア』の騒動もまだ完全には収束していないため何か良くないことが起こる前兆では無いかと一部の人は恐れている。


 そんな中、俺は、宿に戻る。


「お帰りなさい!」


 看板娘のフィリアが元気よくお迎えしてくれる。


「おや、戻ったかい!」


 フィリアの様子に気が付いたエミィさんも顔を出す。


「はい、戻りました」

「無事そうなによりだよ」

「心配させて済みません」

「良いんだよ。

 恩人に死なれちゃ心苦しいからね。

 例えそれが、冒険者にありがちなことであったとしても」

「ありがとうございます」


 エミィさんの言葉に心が暖かくなる。

 しかし、それはそれとして伝えなければならないことがある。


「エミィさん、これから俺は、当分この宿を離れる事になった」

「え!?」


 俺の言葉に真っ先に反応したのはフィリアだ。


「ど、どういうことですか!?」

「指定依頼があってね。

 当分の間、とある場所を防衛する依頼を受けたんだ」


 魔族の女性が来た事で、あの村の秘匿性はかなり低くなったと言って良いだろう。

 これからは、あの村に常駐した方が良いと判断した結果だ。


「そ、そんな」


 フィリアの様子に俺は、首を傾げる。

 かつて彼女を救ったことがあるが、あれは魔物が生息する土地に足を踏み入れたからだ。

 それにエミィさんも今ではすっかり元気だ。

 薬草を採りに行く必要もなくなった。

 俺がいなくても問題はないはずだが……。

 まあ、懐いてくれてると思えば悪くないな。


「大袈裟だなぁ、今生の別れじゃないんだから」


 俺は、そう言ってフィリアの頭を撫でる。


「どれくらい離れることになりそうなんだい?」

「分からない。

 期間が定められなくてね。

 短くても半年はかかると思う」

「そうかい。

 分かったよ」


 エミィさんも悲しそうにする。


「今日と明日は、色々と準備があるから出るのは明後日だ」

「急だね……。

 分かったよ。

 明日は、ご馳走を振る舞うから楽しみにしなさいな」

「ああ、ありがとう」


 宿屋の女将らしく笑うエミィさんに感謝しつつ自分の部屋に戻る。

 荷物はそれ程無いが、世話になった以上ある程度部屋を整えておく。

 そして、翌日、俺は、フィリアと一緒に買い物をしていた。

 ここ、宿場町メルデンスは、行商が行き来するだけありそれなりに品もある。

 その中で一人の人物が目につく。


「あ、ドラクルさん」

「おや、奇遇やなぁ」

「こんなとこで何を?」

「商人がする事は商売しかないやろ?」

「それもそうですが、」

「何、あの後、大変やってのをエリアさんから聞いてな。

 今戻って来たところや」

「そうでしたか」

「それで、その子は?」

「世話になっている宿屋の看板娘」

「そりゃ良い身分やなぁ」


 パイプを吹かせてドラクルさんは、こちらを見る。


「で、ここにおるって事は何か入り用か?」

「ああ、ポーションとか必要最低限の物を買いに来た。

 急ぐ必要はない」

「なるほどな分かったわ。

 じゃあ気を付けてな」

「ああ」


 ドラクルさんと別れて市場を見る。

 ドラクルさんから物を買う必要は無い。

 あの村に直接物資を供給してる人だからね。

 只、必要な物は伝えた。

 村の状況も分かっただろう。


「変わった言葉を話す人ですね」

「ああ、南部訛りだね」

「そうですね。

 あの人から物を買わないんですか?」

「ああ、ドラクルさんは、村の専属の商人だから個別の販売はしないんだよ」

「そうなんですね」


 まあ、相場より高く売れるのなら話は別だろうけども、そんなことは置いておいて。

 露天商やら、商店やらを回っているととあるアイテムが眼に入る。


「これは」

「どうしたんですか?剣?」


 露天商の一角に置かれた剣、見た目からして大した物で無いように見える。

 しかし、俺には、剣の秘めた力が分かる力がある。

 生まれつきなので、他人には分からない感覚らしいのだが、その剣にぞわぞわした物を感じるのだ。


「お兄さん、その剣いくらだ?」

「ん? ああ、これか?

 そうだな、金貨一枚だ」

「……そんなに価値があるのか?」


 感じる物があったが見た目はごく普通の剣だ。

 下手をすれば銅貨でたたき売りしててもおかしくは無い。


「……分かったよ。

 銀貨八枚でどうだ?」

「銀貨五枚これでも多いだろ?」

「銀貨六枚これ以上は値切りは受けねえよ」


 少し考えるふりをして頷く。


「分かったそれで手を打とう」

「まいどあり」


 こういう露店では値切りは基本だ。

 それに物欲しそうにすれば値をつり上げられる。

 正直、金貨一枚でも十分に買う価値があるのだけど万が一金を出す奴だと覚えられると次回何か買いたいときに値切りがうまくいかない可能性もある。

 やり方は他にも色々あるのだけど今回は端折った。

 フィリアが物珍しそうに尋ねてくる。


「その剣気に入ったんですか?」

「ああ」

「へえ、やっぱり剣って良い値段するのですね」

「そうだな」


 その後、市場を一通り回り付き合って貰ったお礼にぬいぐるみをフィリアにプレゼントして別れる。

 カーバンクルと呼ばれる愛らしい魔物を象ったものだフィリアも喜んでくれていた。


 そして、購入した剣を見る。

 この剣、魔剣だ。

 その性質はまだ分からないけど、確かに異質な力を持つ。

 持つだけでも影響がある剣もあるけど少なくともこの剣は、そういったことはないようだ。

 俺は、はやる気持ちを抑えながら冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドの地下には、訓練施設が用意されている

 少なくとも訓練施設で剣を抜いていても違和感は無い。

 この剣を見極めるのには丁度良いだろう。

 先ず、剣に名前を付けなくては、そのためにも性質を確認する。

 剣を抜くと両刃のショートソードだった。


 見た目で言うならやはり出しても銀貨三枚出せば買える程度の剣だ。

 剣を見据えると何となくだが、魔剣としての性能の方向性が分かる。


「強化型、心的影響力は……、あるね。

 でも問題ない程度?」


 心的影響力が一定では無い……?

 こんなことは初めてだ。

 今までの魔剣は、強弱の違いこそあれど心的影響力があるものは基本的に一定だ。

 これは、なにか話しかけられているようにも感じる。


 一先ず剣としての性質を把握するために素振りをする。

 そうすることで、剣との同調をあげることが出来る。

 心的影響力が大きい剣は対話が始まる前に乗っ取ろうとしてくるが、この剣は、大丈夫そうだ。

 素振りを百回もすると声が聞こえてくる。


『き……るか……おぃ……や……りだ……?』


 途切れ途切れだけど聞こえてきた。

 ふむ、どうやら意識がある剣のようだ。

 初めてだ。

 インテリジェンスソードか。


『おい……っぱり聞こえ……だろ』

「ああ、段々聞こえてきたよ」

『ほ、本当か!?』

「いま、はっきりと聞こえたよ」

『偶々、言葉がかみ合ってるとかじゃねえだろうな?』

「中々に疑り深いな?

 経験か?」

『そ、そうだな。

 偶に会話が成立しているように感じたことが複数あったんだ』

「それは大変だったね」

『お、おう、た、大変だった』

「で、君は何が出来るの?」

『何が出来るか?』

「そうだよ、枠に限りがあってね。

 有用な能力なら良いのだけどそうでないなら写すかどうか保留にするだけど」

『?

 要するに使ってくれるかくれないかを今から決めると言うことか?』

「そういうことになるね」

『分かった』


 俺は、そう言いながらも【鏡剣】に写すつもりではある。

 名前を付けるための参考とするために聞きたいだけである。

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