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万剣物語 5

 まず、普通はオーガに『恐剣ティランタル』は、効かない。

 バーサーカーの(クラス)についてるやつが殆どだからな。

 逆に面倒臭い事になる為鏡剣を戻す。

 そして、こういうときに役に立つのはシンプルな強さ。

「写せ鏡剣『強剣ブレイバー』」

 写した剣は、装備者を強化する単純な剣だ。

 強化率に応じて反動が来るが、オーガを相手にするだけなら問題は無い。

 オーガは、こちらを認識すると凶悪な笑みを浮かべながら近寄ってくる。


「一応聞いておくけど、降参しない?」

「笑止、我が豪腕の前に沈むが良い」


 まあ、戦闘狂な種族だからな戦闘が出来るのであれば命を賭するのに全くの躊躇いが無いのが厄介だ。

 オーガは、その巨躯に見合わぬ速度で間合いを詰めてくる。

 いくら身体能力を強化したとは言え質量が違いすぎる故に受ける訳にはいかない。

 身を躱したその直後豪腕轟くように地面を打ち付ける。


「躱すか」

「当然だよ」


 さて、問題点は、ゴブリンのように話し合いにならないのであれば斬り捨てることにいささかの躊躇もいらないが、なまじ話せそうな雰囲気があるだけにどうにか話し合いに出来ないかという考えが過ってしまう。

 まあ、オーガに言うことを聞いて貰うには


「俺が勝ったら言うことを聞いてもらう」

「よかろう。

 我に勝てればな」

鋼腕(ハガネノカイナ)


 オーガは、身体能力を向上させる魔法を得意とする。

 その種類は、幾つかあるが、今回は、硬質化系の強化か。


『瞬歩』


 目の前に大きな壁が現れる。

 咄嗟に振り下ろされてきたものを受け流す。

 一気に汗が額から流れ出てくる。


「面白い、戯れに召喚に応じてやれば思わぬ強者とこのように死合いを演じられるとはな」


 こちらが、間合いをとるのを確認しつつそうオーガは、呟いた。


特殊個体(ネームド)かぁ」


 よりにもよってより上位のオーガがくるなんてついてない。

 この分では、(クラス)もバーサーカーの上位の(クラス)になっている可能性が高い。

 これは、ギアを一段上げないといけないなぁ。


「次は、防げるか?」

『瞬歩』

「これは、なかなか難しいなぁ」


 そう言って俺は、オーガの振り下ろす拳を受け止める。

 こんなに速く動かれるとマウントをとれないな。

 転けたりしないか?


「何!?」

「そら」


 俺は、オーガを蹴飛ばして間合いをとる。

 流石に重量があるため、動いたのはこちらであるが、それなりのダメージは入ったと思う。


「我が拳を正面から受け止めるとは、その身に如何ような力を宿しておる?」

「教えるわけ無いでしょ」

「ふむ、道理だな」


 オーガは、構えをとる。

 右手を前に左手を奥にしかし、両手の平は、こちらを向いている。

 身を沈め、力をためる。

 それを見て俺は、それを利用することにした。


岩壁(ロックウォール)

『瞬歩』


 次の瞬間、オーガが派手に倒れて地面に体を打ち付ける。

 そして、流石に体勢を崩したオーガは転がってこちらの足下まで来る。

 剣を突き付けて言う。


「俺の勝ちだ」

「いや、まだだ」


 オーガが立ち上がろうとしたときオーガの体が光始める。


「これは」


 オーガは、咄嗟にゴブリンの魔術師を確認すると、頭にナイフが刺さった状態で倒れていた。


「まあ、殺すまでやり合うとかそこまで労力をかけずとも負けたと思えるだろ?」

「ぐっ」

「じゃあね」

「次は、かなら……」


 必ず殺してやるかな?

 何とか強敵をやり過ごした俺は、ゴブリンの生き残りがいないか確認して洞窟から出る。

 洞窟から出た頃には、日が沈みかけていた。


「さて、どうしたものかな」


 町までそう遠く無いとは言え夜移動するのは危険だ。

 ましてやここは森の中、多少の光源を使ったところで上手く進めない。

 ため息をついて俺は、洞窟へ戻る。

 一晩過ごすには、洞窟の中の方が良い。

 血生臭いのは、どうしようも無い。

 死体が腐り始める前にゴブリン達を洞窟の外に運び出す。

 そして、鏡剣を複製し死体を囲むように地面に刺す。


「写せ鏡剣『響剣シンフォニア』」


 全ての鏡剣に響剣を写して詠唱する。


『燃やせ聖なる火よ。

 この者達が、不死となりて彷徨う前に

 ホーリーファイア』


 響剣シンフォニアによって、魔法は、増幅されゴブリン達を燃やし尽くす。

 燃やし尽くした後は、残った剣を鏡剣で叩いていく。

 すると複製した剣は、光を散らすように消えていった。

 その後、洞窟の空気を入れ換えて寝る場所に結界を張り眠る。

 結界と言っても壁みたいなものだ。



 翌朝、最悪な目覚めと共に洞窟を出る。

 野営は、幾度かしたことがあるが、やはり眠るのであればしっかりとした寝床でないと疲れがとれない。

 とはいえ、行動するのには支障が無いので、このまま町に戻る。

 郷剣ホームの能力を使うと隠れ里の位置が分かる。

 そこから町の大体の位置は予測出来るので、特に問題なく町までたどり着く。

 ゴブリン討伐の依頼を完遂し多くは無い報酬を受け取る。

 オーガの出現は報告しなかったが、ゴブリンの魔術師が召喚の儀式をしていたことを報告すると受付嬢は、顔を真っ青にしていた。

 この報告が事実と判断されたなら報酬が上乗せされるそうだ。

 取り敢えず今は、あの魔族の女性に対抗するためにある程度の準備が必要と言うことだ。

 あの魔力は、尋常な魔力では無かった。

 下級魔法でもかなりの威力になったであろうことは想像に難くない。

 圧倒的力を前に出来る事は限られている。

 取り入ることは、何故か俺を見た瞬間に怒り狂った事から不可能だろう。

 力で対抗するのもかなり無謀だ。

 ならぱ、受け流す他ないだろう。

 幸いなことに郷剣ホームの感覚があるので、あの村が今も無事であることが分かっている。

 何故転移位置がずれたかは分からない上に、郷剣ホームの転移には制限があるため当分の間は使えない。

 しかし、急いで向かったところで敵わないだろうからこそしっかりと準備をしていく。

 やることは、鞘を用意する事ぐらいだけどな。


 準備を終えた俺は、町を出た後で鏡剣で複製したいろいろなキョウ剣を鞘に収める。

 町を出るときは変人のような目で見られたが、まあ、仕方が無い。

 強剣ブレイザーで身体能力を底上げして、村に向かう。

 大丈夫だと妙な確信があるが心配は、心配だ。

 村に着くとそこには変わらない建物が見えた。

 やはり、あの後襲撃を受けたわけではなさそうだ。


「あっ、ぶれー」


 ハーピーの女の子が最初に俺のことに気が付く。


「え、あ、ほんとだ」

「びゅれー」


 子供達が近づいてくる。

 大人達も気が付いたようだ。


「大丈夫だったか?」

「怪我は無いか?」


 等々質問を受ける。

 一応答えるが、全てに答えるのは難しく。


「ほらほら、皆さんブレイが困るでしょう」


 ハイエルフのエリアルルの言葉でその場が静まる。


「無事で良かったです。

 こっちに戻ってると思っておりましたので心配していたのですよ」

「それは済まない。

 この通りだよ」


 エリアルルは、軽く胸を叩く俺を見て微笑み、しかし、次には難しい顔をする。


「その、装備の数は、あの方と敵対するつもりですか?」

「いや、あくまで殺されないようにするための備えだ」

「そうですか。

 明日、またこの村に来るそうですが、お会いになりますか?」

「……いや、合わない方がいいだろうな」

「どうして」

「俺を見るとまた怒りが出て来てしまうかもしれない。

 そうなれば交渉するどころでは無くなるだろうな」


 俺の言葉にエリアルルは、頷く。

 正直に言うともう一度会いたいが、会う理由が無い上に寧ろ害にしかならない。

 交渉は、エリアルルに任せるしか無いだろう。


「そもそも向こうの要求はなんだ?」

「それが、何も言わず去ってしまったので分かりません」


 何しに来たんだあの人。


「あの、こちらをお返しします」


 そう言ってエリアルルが剣を差し出してくる。

 ボロボロ境剣だ。


「確かに受け取ったよ」

「それと、」

「ああ、結界は、見とくよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、見てくる」

「お願いします」


 俺は、結界を見回る為に村を出た。

 あの剣が無かった場所に向かい用意した境剣を突き刺す。

 これで、綻びは無くなるはずだ。

 そして、あの魔族の女性を思い出す。

 昔暮らしていた村にいた人間の女性に似ている。

 しかし、あの人はいない。

 あの日、あの村の人間は、人間によって皆殺しにされたはずだから。

 あの人は、……ズキリと頭に痛みが走る。

 何故か分からないが深く考えないようにした。


「さて、これからどうするかな」


 正直に言うとこの村はかなりギリギリで成り立っている。

 村の収穫があるにはあるが、村人が徐々に増えている加減でそれも怪しい。

 勿論、ただ村にいるだけでは駄目なのでいろいろな方法で稼ぎそして、外から食料を調達したりしてはいる。

 それでは、これから先俺が助けた人を連れてきつづければ村はパンクしてしまうだろう。

 しかし、解決手段は、思いつかない。

 自分の領地でも持っていたなら話は簡単だったんだけどな。

 あるいは、あの魔族の女性が、助け船になってくれたりするのか?

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