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万剣物語 4

村を出た後は、ゴブリンの討伐と結界の確認をする。

結界は、『境剣ホライゾン』により強化されている。

『境剣ホライゾン』は、境を定める魔法と相性が良く。

結界魔法を強化するのにはもってこいの能力だ。

『境剣ホライゾン』自体結界を張る能力はあるのだが、いかんせん範囲が狭いため今回のようにエリアルルさんが主体となって結界魔法を使うことにより広範囲に強力な結界を張ることが出来る。

それにハイエルフたるエリアルルさんが、張っているのは普通の結界だけではない。

見つけられないための結界も張っているのである。

それ故にこの村を隠す森は迷いの森と呼ばれ、近隣の村や町の人は近寄らないのである。

「ん?」

『境剣ホライゾン』は、複数あるが、どれも強度が著しく低いため簡単にヒビが入ってしまう。

だから定期的に見回っているのだけど肝心の『境剣ホライゾン』が見つからない。

ここら辺に設置したはずなのだけど。

「動かないで」

不思議に思っていると首元にひやりと冷たい感触が当てられる。

気配を感じなかった。

何より人間が入って来られない場所だから油断していた。

「ここは隠れ里で間違いないわよね?」

その問いに首肯する。

「では、何故人間のあなたがここに居るの?」

「俺は、」

「!」

答えようとしたその時、矢が飛んできた。

正確に俺に当たらないように射られた矢は、俺の背後にいた人物を狙って飛んできたようだ。

気配が離れたことにより俺は、襲撃者から距離をとるように離れその姿を確認する。

その姿を見て驚く、深い藍色の長髪、鋭いしかし、何処か慈愛を感じさせる瞳、すっと通った鼻筋にぽっかりと開いた口。

 どうやら向こうも驚いてるようである。

 しかし、驚いた。

 昔村にいた人間にそっくりの魔族である。

 いや、村に居たそっくりな人よりはかなり若いか。

 しかし、魔族に人間と瓜二つの存在がいるとは、心臓が飛び出るかと思った。

 ズキリと頭に痛みが走る。


「何のつもり?」


急激にその場の空気が変わる。


「よくもよりによってその姿に化けるとは、シェイプシフター。

 許さない」


そして、空気がうなりを上げる。

目に見える程の魔力が襲撃者の女性の周りを巡る。

濃度の濃い魔力のせいか頭の痛みが悪化する。

流石にこれは不味い。

俺は、慌てて短剣を取り出しそれを剣の柄に叩き付ける。

短剣は、砕け光輝き俺を包み込む。

郷剣ホームそれがこの砕けた短剣の名前。

俺が設定した場所にワープする。

「何をしようと無駄です!」

光を纏う俺に魔族の女性が吼える。

『穿て水弾ウォーターバレット

バレット系の魔法は、威力が低い代わりに速度が速い。

しかし、それでも大丈夫だ。

魔法が放たれる前に俺の視界は、真っ白になる。

そして、次の瞬間目に入ったのは村、ではなく洞窟だった。


「え?なんで?」



-----



「逃がしましたか」


穿たれた木々が倒れていく中、呟く魔族の女性。


「で、貴方は逃げないのですか?」


魔族の女性が目を向けるとそこには、ハイエルフのエリアルルが立っていた。


「四天王の一人、万魔を相手に逃げられるとは思っていません」


エリアルルの覚悟を決めたような目を見て魔族の女性はため息をつく。


「別に貴方達を敵にするつもりはありません。

……えーっと」


 魔族の女性が言い淀むとエリアルルが彼女の勘違いを訂正する。


「あの方は、人間ですよ」

「……変化してたわけでは無いのですか?」

「ええ、あの姿があの人そのものの姿です」


エリアルルのその言葉に納得がいかないが、しかし、最初からあの姿になっていた事には得心がいくため頷く。


「……そうですか

……私は、貴方達を保護する為に来ました」


 魔族の女性の言葉にエリアルルは、訝しむ表情をつくる。


「私達の恩人に危害を加えてきたあなたを信用出来ると思っているのですか」


その言葉を予想していたように魔族の女性は、首を振り、提案と言うよりは命令に近いお願いを口にする。


「いえ、ですから今日は、このまま帰らせてもらいます。

 明後日また来ますので、話し合いの場を用意して下さい」

「……分かりました。

話を聞くだけでもしましょう」

「ありがとうございます」


 魔族の女性は気まずそうに言う。


「それともう一ついいですか?」

「なんでしょうか?」


魔族の女性が抜き身の剣の柄をこちらに向け渡してきた。

 その剣は、ブレイブが結界の強化の為に用意した剣だ。

 即ち、今村の結界に綻びが生まれているということである。


「貴女は碌な事をしませんね」


 剣を受け取りながらエリアルルは、ため息交じりに呟く。

その言葉を聞いた魔族の女性は、親に怒られた子供のようにしゅんとする。


「まあ、直ぐにどうこうはありませんが次は触らないようにお願いしますね」

「分かりました。

 ごめんなさい」


何だか子供を相手にしているような気分になるが、相手は魔王軍の幹部、四天王の一人だ。

気を抜いてはいけない。


「他に要件は、ありますか?」

「あの青年に私は、貴方に危害を加えるつもりは無いとだけ伝えて下さい」

「信じられると思いますか?」

「口約束しか出来ませんが、信じて貰うしかないですね」

「はあ、伝えるだけ伝えます」

「ありがとうございます」


どうにも調子が狂う。

エリアルルは、そう思いながら魔族の女性を見る。

凛麗な姿に言葉も綺麗だが、時折覗く不釣り合いな言動がどうにもやりにくい。

気まずそうに魔族の女性は、

「それでは私は立ち去ります」

と言って踵を返して立ち去った。


「次は騒ぎを起こさないで下さいね」


エリアルルの言葉は、聞こえたのか聞こえてないのか分からないが、魔族の女性は転んだ。



-----



「……なんで?」


なんで洞窟?

転移先がズレた?

よく分からないが、村に戻って体勢を立て直してからあの魔族の女性と対峙するつもりだったのに……。

いや、むしろ良かったかもしれない。

頭の痛みは、まだあるが行動する分には問題ない。

洞窟の中にはぎゃあぎゃあ騒ぐ声が響いている。

ここは、ゴブリンの住み家だ。


「これは、戻るのに時間が掛かりそうだな」


そう言いながら俺は、剣を抜く。


「写せ鏡剣『恐剣ティランタル』」


 この剣は、ゴブリン相手にはとても使いやすい剣だ。

 ゴブリン達の動きを止めて一方的に攻撃できる。

 最初は、心が痛んだが、ゴブリンは、殺すことに躊躇してはいけない。

 生かしておいて碌な事にはならないからだ。

 特に村の周囲で脅威になり得るのがゴブリン達である。

 あの魔族の女性が村に害を与える心配が無いわけでは無いが、彼女が魔族を相手に危害を及ぼすとは思えない。

 あくまでも希望的観測だが、最初に躊躇なく攻撃してこなかったから、いや、それ以上に謎の確信が俺を支配している。

あの人がそんなことをするわけが無いと。

 

 それよりも俺が戻ると話が拗れる可能性の方が心配だ。

 ここは、ゴブリン達を倒して、討伐報酬を貰って、次の日に色々物資を持って行こう。

 そう決意して、ゴブリン達を探す。

 しかし、相変わらずの馬鹿騒ぎで居場所は直ぐに分かった。

 問題は、ゴブリン達の数である。

 定期的に間引きしていたというのに洞窟内には、確認しただけでも十体以上存在する。

これは、上位者が存在すると推測していい。

ホブゴブリン、オーク、オーガ、最悪としてはドラゴン。

まあ、最後はないにしてもオーガだけでもかなり面倒臭い。

数が多いため数を減らすのも簡単では無い。

『恐剣ティランタル』のお陰でゴブリン自体は敵ではないのだけど、上位者には、下手に使って逃げられでもしたら大変だ。

まあ、やることに変わりは無い。

【暴君の威圧】

『恐剣ティランタル』の能力で目に入ったゴブリン達の動きを止める。

出来るだけ迅速に首を跳ねていく。

『境剣ホライゾン』による結界による斬撃も併用してゴブリン達を殲滅する。

あまり騒ぎになっていないが、いや、寧ろ静かになったことに違和感を感じたのか大きな影が奥から出てくる。


「オーガ、また大物が出て来たな」


その身丈は、俺の身長の倍はゆうに超える大きさだった。

しかし、ここは洞窟の中、窮屈な場所になんでこんなデカぶつがいるのか。

オーガの後ろにいる魔術師然としたゴブリン、いやホブゴブリンが物語っていた。


「ええ?

 まさか召喚したのか?」


 召喚したのはいいが言うことを聞かないような状態になっているみたいだ。

 ゴブリンが後ろでこそこそとオーガの後をついてきているのが良い証拠だ。

 あいつらアホだからちょっと強い味方がいると直ぐにイキって前に出て来るからな。

 案の定、オーガに何か騒いだ魔術師然としたゴブリンは、オーガの一睨みで黙る。


「まあ、制御できてないって事は、連携が無いから楽ではあるか」


 そう言って、俺は、剣を構える。


「さて、どう処理しようか」

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