表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/120

94.待っているのは




時間にすれば僅か一秒にも満たない時間で移動できただなんて信じがたいことだ。しかしブランシュ男爵家内では今まさに戦いが繰り広げられていたため、魔法スクロールへの感動に浸れたのも一瞬のことだった。


「ル、ルナ!」

「ルカ……!?確かに送ったはずなのに、どうしてここに居るのよ!まさかあのスクロール不良品だったんじゃないでしょうね!」


私の千ゴールドを不良品扱いするだなんて……でも確かに、逃がしたルカが戻ってきたのだからそう思うのも無理はない。


「私たちも行こう」

「うん!」


予想はしていたけど状況はこちらが劣勢だ。ここまでよく持ち堪えたと褒めたいくらい奮闘していた。


「大丈夫?」

「えっ、アリア様がどうしてここに!?」

「アリア様にお義兄まで、まさか助けに来てくださったのですか……!?」

「それはそうなんだけど!お義兄って呼ぶな!」


ルカがルナ、キオンがステファン、私がラウラのサポートに入る。近くで見ると三人はかなり満身創痍な状態だった。助けに入った私たちにルナがツリ目を更に吊り上げて怒鳴った。


「ちょっとアンタたちッ、なに余計なことしてくれたのよ!ルカもどんな言葉で唆されたのかは分からないけど今すぐ逃げて、」

「に、逃げない!!」


ルカが魔法を発動させながら叫ぶ。高圧な水流がルナを守るかのように渦巻いて、周囲の敵を一掃させる。いつもは緩やかに流れる川に似たルカの魔法が、今日は激しくほとばしっていた。まるで彼の心を現しているみたいに。


「た、助けに来てくれて……う、嬉しかった、けど……ひ、一人で、逃げるくらい、なら……い、一緒に、死にたい……!」

「……」

「さ、最初は、かっ家族なんて……いらない、かった、けど……い、今は違う……!」


一生懸命自分の気持ちを伝えるルカに影響されてか、ルナはグッと唇を噛み締めて涙を堪える。ステファンが「ルカがルナに言い返す所なんて初めて見た」と驚いていた。

そろそろ敵も減ってきたし、いい頃合いかな。


「ラウラさん、今ノア様はどこに?」

「場所が変わっていなければ大広間にいるかと……」


公爵家よりはだいぶ狭いが男爵家も大まかな構造は似たようなものだろう。とすれば、全力で走ってもノアの場所まで数分はかかるはずだ。選択肢は三つある。

①エメルを一人で向かわせる。今の状態のエメルを一人で行かせるのは正直不安だから却下だ。

②私とキオンも同行する。一番理想的な方法だけど、こっち側の戦力が薄くなってしまうからこれも駄目。

③私かキオンのどちらかがここに残り、もう片方がエメルに付いていく。これが一番無難な選択だろう。

そして、私は自分の戦闘力をよく理解しているので、迷うことなくキオンを送ることにした。


「お兄様、エメルを連れて――」

「リア危ない!」

「アリア!」


奇襲されかけた私をキオンとアイリスが同時に守ってくれる。……いや待って、なんでアイリスがここに!?更に、現れたのはアイリスだけではなかった。


「間一髪だったね。さすがキオンとアイリス、アリアのことになると本当に息がピッタリだ」

「……どうして殿下とアイリスがいらっしゃるんですか?」

「それはもちろん、報告が終わったから力を貸しに来たんだよ」

「……」

「あ、先生たちもすぐに来るはずだから安心して」


先生に報告してとお願いしたのは、カイルとアイリスをあの場に引き止めるためでもあった。決して、終わったら追ってきてという意味ではなかったのに。

正統派王子のような見た目をしているけど、カイルは元々計算高い男なのを忘れていた。文句の一つや二つ言いたかったが、頑張って耐える。


「危ないから、アイリスはボクの後ろに隠れてて!」

「あらキオン、私を守ってくれるの?」

「うん!それで後でリアに褒めてもらう!」

「何それずるいじゃない!私だってアリアに褒めてもらいたいのに!」


キオンとアイリスが競い合うように敵の元へと向かっていく。目の前でさっきまで頭にあった作戦が崩れていったのを確認した私は、これ以上考えるのは止めて走り出した。


「殿下、エメルを無理やりにでも引っ張って来てください!ここはお兄様たちに任せて行きましょう!」

「うん、任せて。丁重に運ぶよ」

「うわっ!……って、カイル様!?」


カイルが指先で水を操りエメルを浮かしたかと思うと、そのまま横抱き――所謂お姫様抱っこの状態で走り出す。180センチ台の男が同身長の男を抱いているという何とも形容し難い絵面が広がった。


「学校の令嬢なら誰もが夢に思うであろう状況だよ。良かったね」

「本気で居た堪れないからドン引きするのはやめて……カイル様、自分で走るので降ろしてください……」

「俺は別にこのままでも大丈夫だけど」

「いいえ!自分で走ります!」


さすがに恥ずかしかったのか、降ろしてもらったエメルは今度こそ自分の足で走り出した。


「それにしてもエメルがブライトン君と知り合いだったとは思いもしなかったな」

「……養子になる前の友人だったんですよ」

「〝だった〟ということは、もう違うのかい?」

「ノアは思っていないでしょうね」

「それならエメルは?ブライトン君のことを友人だと思っていない?」

「俺は……」


カイルの問いかけにエメルは何も返せず黙り込む。大広間へと続く渡り廊下を走っていると、中庭の向こうから「こっちにも居たぞ!」と張る声が響いた。


「ここには私たちが残るから、エメルは行って」

「なら俺よりアリアが行った方が――」


ああもう!煮え切らない態度のエメルに、痺れを切らして私は叫んだ。


「ノアが待ってるのは!来てほしい相手はッ、私じゃないでしょう!」


私とカイルは立ち止まり、エメルに背を向け魔法陣を展開させる。

そういえば、そろそろカラーリング薬の効果時間が切れる頃だと思うけど……まぁいいか。私よりもっと騒ぎになりそうな人がすぐ隣に居るから。


「エメルとブライトン君の間に何があったのかは分からないけれど、これだけは忘れないでいてほしいな。俺たちはいつでもエメルの味方だということを。そうだよね、アリア?」


カイルが柔らかく微笑み、何を思ったのか私を巻き込み始めた。無条件の信頼。以前までの私なら、最も理解し難い感情だっただろう。


「……そうですね。だから早く行ってきて。例えどんな結果になっても、見放したりしないから」


でも今は、少しは認められるようになった。

私の言葉にエメルは困ったように眉を下げて苦笑う。


「はは……二人に言われると説得力があるね」


ありがとうと掠れそうな声で呟いたエメルはそのまま先に進んでいった。そして予定通り私とカイルがその場に残ったわけだが……


「アリアは実利的な合理主義者だから相手の感情を理解は出来ても、情に流されたりはしなくて、それを冷たく思う人もいるだろうけど」


なんでいきなり悪口?これでは手元が狂ってカイルに攻撃が当たってしまいそうだ。

しかしカイルの言葉は、そこで終わりではなかった。


「でも俺は、その人にとって最も必要な選択をしてくれる、アリアのそういう所を好ましく思っているよ。さっきの……ルカ君だっけ。あの子が助けを求めてきた時だって、自分が介入するよりも大人の方が彼らの助けになると判断したから拒否したんだろう?」


全部分かってるよと言いたげに、カイルはにこにこ笑みを浮かべて余計な言葉を付け加える。


「アリアは親しくなった相手には、なんだかんだで弱いんだよね」

「……もう敵が来ますよ。戦う時は私が囮になって先行しますので殿下はサポートしてください」

「ふふ、うん。分かったよ」


カイルが可笑しそうに肩を震わせる。実際は猫がライオンを守るくらいの戦闘差だし笑われるのも仕方ない。

仮にも王子であるカイルを私の盾に使うわけにはいかないので私は全力で引き付け役に徹することにした。


「お喋りとは随分と余裕だな。もう逃げ場はないぞ!」


バタバタと大きな足音を立てて走ってきた騎士が、私たちの周りを囲み剣を向けてくる。


「男爵様の屋敷に侵入したからには、」

「したからには、どうするのか気になるな」

「なっ!?ど、どうして、殿下がここに……!」


騎士が限界まで目を開き、カイルに向けた剣先を震わす。私は水を噴射させ、騎士を投げ飛ばした。


「まあ。あろうことか第一王子殿下に剣を向けるとは!ブランシュ男爵家では騎士たちにどのような教育をされているのか気になりますね。家臣として私が殿下を守らなければなりません!」


十分すぎるほどの名目が手に入り遠慮する必要もなくなった。足元から広がった魔法陣が、いくつもの水の球体を作り出す。

ふわりと宙に浮かぶ私の髪が、毛先からゆっくり黒から紫へと戻っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ