80.ありがた迷惑な好意
他人と一から関係を築くことは容易なことではない。私のように排他的な人間なら尚更「まさかアリア嬢と同じチームになるとは!ステファンに羨ましがられてしまいそうだな!」だ。
そういう意味で言うなら既に関わりのあるノアは「そういえば、アリア嬢とルカは初対面ではなかったか?早速紹介しよう!」
「……」
少し静かにしててほしい。考え事をする隙もない勢いでノアは話しかけてくる。小説を読んでいる時も、文字だけで騒がしい男だとは思っていたけど、現実は想像の五百倍は煩かった。
ノアと同じチームなことを受け入れるよりも早く、私は急かされて図書館に足を踏み入れてしまう。
「……」
「……」
「もう一人のチームメンバーである、ルカだ!同じ学年だからもしかしたら会ったことはあるかもしれんな。ルカにはルナという妹が居て、ああ、ルカとルナは双子なんだが性格は正反対なんだ!ルカは物静かだが、ルナは活発的で――」
この男、めちゃくちゃ喋る。次から次へと溢れ出てくる言葉に私は思わず感心してしまう。しかしこのままでは一向に終わる気配がないから、私は適度に頷いて話を進めることにした。
「そうなんですね、ご紹介頂きありがとうございます。お互い紹介も終わったことですし早速魔法競技大会について決めていけたらと思うのですが……」
「おお、そうだな!」
「単刀直入にお聞きします。お二人の現在の魔力量はおいくつですか?ちなみに私は三なので、魔晶核に魔力を流す役目はお二人のどちらかにお願いしたいと思っています」
単純に考えて、一番魔力量の多い人間がやるべきだろう。遠回しにそう伝えれば、ノアも同意だったのか頷く。
「俺は七だ!ルカは確か四だったよな?」
「ぼ、ぼく、五に増えたよ……」
「おおお!そうなのか!?凄いじゃないか!」
「そうですね。では魔力を流し込む役目は、魔力量が七のノア様にお願いしてもいいでしょうか?」
「分かった!任せてくれ!」
まさかノアの魔力量がそこまで多いとは思わなくて驚いた。七以上の魔力を持っているのは私が知る限りノクスくらいだし、魔力差で魔晶核を壊される心配はほぼないに等しいのではないだろうか。と言っても、キオンのように魔力は増えたりもするらしいから、完全に安心はできないけど。ノアの属性は確か雷だから、相対するのは水と光……
「そういえば、ルカ様は何属性ですか?」
「俺は雷だ!」
「はい」
ルカのことはよく知らないなと、ふと思い出して尋ねれば、何故かノアが前のめりで手を上げて割り込んでくる。ルカはフランス人形のように長い睫毛をゆっくりと瞬いてから、おずおずと口を開いた。
「え、えっと、水、です……」
「ルカは水属性だ!」
「私と同じですね」
なぜ繰り返したのか突っ込みたかったけど、深い意味はない気がしたからそのまま話を続行させる。顎に手を当てて作戦を考えていると、何を思ったのかルカは私に謝罪をしてきた。
「……ごめんなさい」
「うん?何が?」
「お、同じ属性で……ぼくが違う属性だったら、色々できたのに……」
「?別に同じ属性でも大丈夫ですよ。戦い方は色々ありますからね」
「そうだぞ、アリア嬢の言う通りだ!ルカが気にすることはない!」
どちらかと言えば私の方が足でまといになりそうだと内心思ったが、敢えて口にはしない。それより、私の言葉にノアも同意するのはいいけど、声が大きいので少し音量を下げてほしかった。
「ノア様は、魔法競技大会に参加されるのは今年で二度目ですよね。去年はどうでしたか?」
「とても楽しかったぞ!」
「……去年の経験から、役に立ちそうな作戦はありますか?」
「うぅむ。俺はそういった小難しいことを考えるのは苦手でな。とにかくその場その場で、臨機応変に動いていた!」
キオンと同じく、頭で考えるよりも先に行動するタイプだね。別にノアがどんなタイプであろうが好きにすればいいけど、問題は今、私たちは同じチームということだった。
私はノアと逆で、準備を前もってしっかりしておきたいタイプだからだ。つまり、猪突猛進型のノアとは相性があまり良くない。
「……ルカ様は、何か意見はありませんか?」
「ぼ、ぼくは、練習をたくさん、するのは、どうですか?」
「それはいい考えだ!ならば、今日から魔法競技大会の日まで、毎日放課後特訓をしよう!」
「!?!?」
嫌だ。絶対に嫌だ!
ノアの爆弾発言に恐怖の悲鳴をあげていると、ルカがぎゅっと両手を握り、ノアの言葉に何度も頷く。
「い、いいと思う!」
全然良くない。魔法競技大会まであと一ヶ月はあるというのに、毎日特訓だなんて冗談じゃない。私は程々の成績を取れれば満足だし、頑張りたくなんてないのだ。
「では、お二人は特訓を頑張ってください。私はデータ集めなどをしておくので」
「何!?アリア嬢は来ないのか!?」
「はい。私は体力がなく特訓についていけないと思うので、別の所で役に立てるように頑張ります」
「そんなこと気にしなくていい!アリア嬢でもできるようなメニューを考えておくから安心してくれ」
ノアはもっと言葉の裏を読み取ってほしい。遠回しに拒否した言葉はストレートに受け止められ、ありがた迷惑な好意となって戻ってきてしまう。
このまま話していても埒が明かないと私は小さく息を吐いて、頷いた。
「……そうですね。では、お願いします」
「ああ、任せてくれ!」
二、三度行けば十分義理は果たせるだろう。その後は適当な理由をつけて抜けようと、意気込むノアとルカを前に計画を立てた。
「アリア!チームメンバーはどうだった……ア、アリア?」
チームメンバーの顔合わせが終わり教室へ戻ると、すぐに帰りのホームルームが始まる。先生が連絡事項などを伝達し、一日のスケジュールが全て終わったと同時に、隣にいるアイリスが声を弾ませて尋ねてきた。私はとにかく癒されたくて、アイリスの頭を無言で撫で続ける。
グレイが背もたれに凭れ、にやりと私に向かって目を細めた。
「公女サマは随分疲れた顔してんな〜チームメンバーと早速トラブったりでもしたか?」
「探りを入れても無駄だよ。馬鹿じゃないんだから、当然言うわけが……」
「アリア嬢、迎えに来たぞ!早く行こう!」
「……」
鼻で笑ってグレイの探りを躱す私の言葉は、大きな声によって阻止される。信じられないことに、ノアが教室まで私を迎えに来たのだ。
瞼が痙攣して、私は眉間を抑えた。誰かチームを変わってほしい。切実に。




