79.人生の不平等さを嘆きたい
「すげぇ睨まれてたけど、何したんだよ?」
「さぁ……それより魔法競技大会のことなんだけど」
「それよりってお前な〜」
ルナが私を睨んだことに気付いたらしいグレイが問いかけてくるけど、今の私は別のことで頭がいっぱいだった。軽く受け流せば「もう少し気にしろよな」と呆れられる。
「魔法競技大会の組み分けは先生たちがランダムで決めるのよねっ!三年生が一人と、二年生が二人ずつだったかしら?アリアと一緒のチームになれたらいいのに……」
「そうだね」
「お二人も同じチームだといいですね!」
「いえ。私は結構です」
「王子サマがひでぇ」
グレイと同じチームになることをノクスは軽く首を振って拒否する。当然ノクスはアイリスと同じチームがいいに決まっているのに。
私も、可愛いアイリスの言葉を否定することはできないので頷いたけど、一緒のチームになることはないと知っていた。なぜなら、今回行われる魔法競技大会がまさにアイリスとノクスの出会いイベントだからだ。
「ふふっ」
にやけを隠せないまま目が合ったグレイへ、にこっと満面の笑みで微笑みかければ、寒気でもしたかのように身震いされた。失礼な奴。
***
「これから魔法競技大会のチームと顔合わせをしてもらうんだが、メンバーと会う前に大会の説明から始める」
魔法競技大会は毎年行われる二年生と三年生の合同イベントらしい。三年生が一人と、二年生が二人の三人一組になって、他のチームと競い合う。既にどんなイベントか知っている私は「説明なんか後でいいから先にチームで集まらせて」と逸る心を落ち着かせながら、先生の話に耳を傾ける。
「この魔晶核を、当日はチーム同士で破壊し合ってもらう」
皆が見えるように上へ翳されたのは、ダイヤのような形をした透明の結晶だった。私たちに魔晶核を見せながら先生が魔力を流し込むと、透明だった色が深い緑色へと変わっていく。
「このように、魔晶核に魔力を込めれば色が変化するんだが……核は魔力を流した相手の属性になり、相対する属性で砕くことはできないようになっている」
魔法の属性には、それぞれ相性というものが存在している。例えば、私の水属性は火や土には強いけど、雷や風には弱いのだ。……これ、もしも同じ属性が三人揃ったら詰まない?何だか不吉な予感がする間にも、先生は話を続けている。
「相対する属性で砕くことはできないとは言ったが、抜け道もきちんとあるから安心しろ。魔力を込めた人間よりも多い魔力量で攻撃した場合、相対する属性の魔晶核でも壊すことができる。配るのはチームで一つだから、誰がこの役をするかはきちんと話し合って決めろよ」
全然安心できなかった。魔力三の私にとってあまりにもクソゲー展開すぎる。結局は魔力量が多いチームが有利ということではないか。ノクスとアイリスなんて八と六だけど。
人生の不平等さを嘆きたくなったが、嘆いたところで何かが変わる訳でもないから諦めた。
「説明は以上だ。名前を呼ばれたら、この紙に書かれた場所に向かってくれ。トーマス・ハート……ノエル・サリヴァン……」
先生に名前を呼ばれた生徒が立ち上がり、教卓に向かっていく。子供たちはやる気に満ち溢れているようだけど、私は完全にやる気をなくしてしまった。元からあったかと聞かれれば別にそういうわけではないんだけど気分の問題だ。
「アリア、何だかわくわくするわね!誰と一緒になるのかしら。楽しみだわ!」
「……」
魔力がなんだ。そんなこと重要か。否、今一番重要なのは、ノクスとアイリスの距離を更にどう近づけるかではないか。こっそりと私に耳打ちをして、声を弾ませているアイリスに気持ちが浄化されていく。
「次、アリア・ウォレス」
「じゃあ私は先に行くね」
「ええ!」
アイリスに挨拶をしながら、私は先生から紙を受け取る。早速開いて確認すると《図書館》と文字が書かれていたので、目的地に向かって足を動かした。
こうしてバラバラの場所で集まる理由は、チームメンバーを漏洩しないようにする為らしい。もちろん公表は各自の自由だけど、情報を必要以上に開示する必要はない。対策を練られて不利になるだけだから。
「私は誰と同じチームかな」
できれば静かで、向上心や闘争心などがなく、平均点で満足してくれる人だといいんだけど。そういう意味ではステファンはかなり理想的なチームメンバーだった。彼も私と一緒がいいと言っていたし、お互いにとって悪くない相手ではないだろうか。
色々考えているうちにあっと言う間に図書館に到着する。私は躊躇うことなくガラリと扉を開いて――パタン。静かに閉めました。
「……」
夢かな?夢であれ。
開いたドアの先で目が合った人物は、私の知っている人で正しいのか確かめたいのに手が動かすことを拒否をしている。
現実を疑いながら立ち尽くしていると、私ではない誰かが勢いよくドアを開いた。
「アリア嬢よく来てくれた!遠慮なく入ってきてくれ!」
やっぱり夢ではない。金色の瞳が私を映して輝きを放つ。ノア・ブライトン――どうやら私の理想とはかけ離れた男と同じチームになってしまったらしい。




