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71.生殺与奪を握っている気分




「やあ、アデライン公爵令嬢。君も休憩に来たのかい?」

「はっ、はいっ!カイル様もいらしていたのですね。それにエメル様とキオン様まで……」


カイルを認識した途端、縦ロール先輩は急にしおらしくなり、その後をついてきたAB先輩も、キオンとエメルに目を向けて「奇遇ですね」なんて声をかけている。

完全に彼女たちの眼中から外れた私は、黙ってケーキを食べることにした。さりげなくアイリスの様子を伺えば、バチッと視線がぶつかるも、彼女はなんてことない顔で笑う。


「アリア、どうかした?」

「ううん。……ただ、綺麗だなと思って」


心がね。自分をいじめていた相手が、あからさまに自分の兄や友人に好意を示しているのに、嫌な顔一つせず、仕返ししようとも考えないアイリスの気丈さや強さが、私は好きだった。突然褒められ恥ずかしいのか、アイリスは顔を赤くさせながら両手で頬を挟んだ。


「アリアったら、皆がいるのに……っ!」

「はいはい。二人だけの世界に入ってないで、戻っておいで」

「いつも思うけど、アリアはこれを自覚無しでやってるんだから凄いよね」

「そのせいでボクの気が全然休まらないので困ってるんですよ」

「もうお兄様ってば、そうやっていつも邪魔するんだから!」

「邪魔だなんて、酷い言い草だな。それより、二人は知り合いだったの?さっき、アデライン令嬢がアリアのこと呼んでたよね」


唇を尖らせ拗ねているアイリスをエメルは軽くあしらい、縦ロール先輩へと視線を向ける。まさか私との関係を指摘されるとは思っていなかったのか、縦ロール先輩は肩をびくりと跳ねさせ動揺した。


「そうなの?リア」

「ん〜〜〜〜」


あえて否定も肯定もしないで笑みを深めると先輩たちの顔がみるみる青ざめていくから、まるで生殺与奪を握っている気分だ。

実を言うと、私は縦ロール先輩がそれほど嫌いではない。考えていることがすぐに顔に出るから分かりやすく、内心に悪意を抱えながらも表面上は友好的に近づいてくる人より、ずっと良かった。


「まぁ、そうだね。先輩には何度かお世話になってるかな。……ですよね?ローズ先輩」

「そ、そうですわっ。今日もウォレス令嬢がお一人で寂しくお茶でもしているのかと心配になり、つい声をかけてしまいましたの」

「へぇ……何度も、ね。アデライン令嬢がアリアのことをそんなに気にかけてくれているとは知らなかったよ。――二人はキオンやエメルの妹であることはもちろん、私にとっても大事な友人だから、くれぐれも配慮してほしいな」


以前、私たちの間でトラブルが合ったのを知っているカイルが、遠回しに忠告する。穏やかな口調ではあるけど、目の奥は笑っていない。カイルの意図を汲み取った縦ロール先輩は、唇をぎゅっと噛み締め、ゆっくりと頭を下げた。


「……はい。それでは、私たちはこの辺で失礼しますわ」

「ああ、引き止めて悪かったね。楽しいひとときを過ごして」

「お気遣いに感謝いたします。カイル様もどうぞ、良い時間をお過ごしくださいませ」

「うん、ありがとう」


先程よりも優しい声でカイルはお礼を伝える。縦ロール先輩が去っていく後ろ姿を見ながら、私は詰めていた息を吐いた。元々カイルは線をきっちり引くタイプだ。親しくなったせいで最近は忘れていたけど、本来ならアリアも縦ロール先輩と同じ立場だったはず。そして、いつかそうなるかもしれないと想像したら他人事じゃなく感じて、私は身を引き締めた。

縦ロール先輩もこの機に、いい加減大人しくなってくれるといいんだけどな。


「随分とアリアには秘密が多いみたいだね?」

「……」


カイルから向けられる、全てを見透かそうとするような眼差しが居心地悪くて、もう縦ロール先輩が恋しくなった。私は観念し、にこやかな笑顔で圧をかけてくるカイルに降参した。


「……休みが始まったら、殿下が行きたがっていた隣町の祝祭に行きますか?」

「あ、逃げた」


戦略的撤退と言ってほしい。変に言い訳して失言するのではなく、私は強引に話題を変える。そして餌を投げた相手は、カイルではなく別の相手だった。


「ボクも行く!」


カイルを誘った直後、見事に釣り竿にかかったキオンが前のめりで右手をあげる。私は腕を伸ばして、キオンの口の横に付いているクリームを拭いてから、再びカイルに問いかけた。


「お兄様は行くそうですけど、殿下はどうされますか?」

「……勿論行くさ。はぁ、君は本当に判断力に優れているね」

「ありがとうございます」

「悪知恵が働くんですよねぇ〜〜」

「エメルは来ないみたいです」

「ちょっとアリア?」

「お兄様がいなくても私は行くわ!」

「アイリスも、俺を見捨てるのが早すぎじゃない?」


残念ながら当日は不在らしいエメルとは違い、アイリスは「楽しみですねっ!」とカイルに嬉しそうに笑いかけた。見つめ合う二人を見ていたらひか恋を思い出して、カイルに対して罪悪感が湧いてくる。

せめてもの罪滅ぼしに、私はその日カイルに普段よりも優しく接した。




「うぅ〜〜寒い〜〜!!」


外に出ると風が強く吹いていて、カフェの中で温められた身体が急激に冷えていくのが分かった。キオンが自身の身体を抱き締め、寒さに震えながら叫ぶ。


「余計に寒くなるから言わないで……」

「キオンの風魔法でどこかに飛ばせないのっ?」

「無茶言わないでよ。さすがに自然現象はどうにもできないから!リア、カイル様、早く早く!」

「はいはい」


その場で何度も足踏みをして促すキオンの元へ歩いていく――私の腕を、カイルが掴む。


「アリア」

「?」


その場に立ち止まり振り返ると同時に、カイルは他の人に聞こえないくらいの声で、すれ違いざまに囁いてきた。


「俺は、秘密にされると余計に暴きたくなる性なんだ」


熱い吐息が耳に触れ、掴まれた手が離される。それはほんの一瞬のことで、目を見張る私にカイルは満足気に微笑んで、キオンたちの元へと歩いて行った。




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愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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