66.人は誰しも失敗を繰り返しながら成長していく
遅刻した私に課せられたペナルティは裏庭の池に浮かんでいる落ち葉の掃除だった。遅刻はしたけどこの寒い真冬に池の掃除をしたくなかった私は、運命に抗う努力をする。できればせめて室内にして欲しかった。
「先生、人は誰しも失敗を繰り返しながら成長していくものではないでしょうか?」
「そういえば、他にも掃除が必要な場所があるんだが……」
「私は間違いを犯した時、自分の過ちを素直に認めることが大切だと思います」
たとえ寒さに震える未来が待っていようとも、時には運命に身を任せた方がいいこともあるのだと私は悟った。
「アリア、私も手伝うわ!」
撃沈した私をアイリスが励ましてくれる。可愛い子には旅をさせよとは言ったものだけど、私は暖かく安全な場所で健やかに育ってほしい。遅刻をしたのは私なのに、この寒い中アイリスにまで苦労をかけるわけにはいかないと首を振って断った。
「ううん、寒いからアイリスは先に帰ってて」
「でも……」
「他にも少し用事があるし、大丈夫。ササッと片付けてくるから」
私はにこりと微笑んだ。
***
違和感を感じたのは魔法大会が終わってすぐのことだ。常にどこからか視線を感じ、誰かに付けられている気配があった。初めは可愛いアイリスをつけ狙っているのかと警戒していたけど、相手が誰か認識し考えを改めた。
蜂蜜色の髪に眼鏡をかけている、子爵家の長男――セオドール・アシュトン。グループワークの時にエンリケと共にしていた男だ。彼のことも、というかエンリケのチームメンバー全員を崖から落としたから恨まれている心当たりはあった。寧ろ心当たりしかなかったんだけど。
セオドールはいつもエンリケに顎で使われていたから大人しい性格だとばかり思っていたのに、見誤っていたようだ。
そうして暫くの間は泳がせていたけど、私の予想とは違いセオドールは何かしてくるわけでもなく、ただ後ろを付いて回ってきただけだった。
「復讐って言うよりかは、観察されてる気がするんだけど……」
隙を狙わせるつもりでわざと一人で行動してみたりもしたのに、その時もセオドールからのアクションは何もなくて拍子抜けした。
いつも隣にアイリスがいるから問い詰めるタイミングもないし、無害なら別にこのままでも良かったけど、機会は巡ってきた。
「ペナルティだなんて運が悪いと思ってたけど、逆だったかも」
裏庭には人は居ないから、静かに話せるいい場所だった。つまり、この状況は私の受け取り方次第で不運にも幸運にもなり得るというわけだ。
「まずはこっちからやっちゃおうかな」
本来の目的である掃除から取り掛かるべく、魔法を展開させて水流を作り出すと、水は指先の動きに合わせて反応した。そのまま池の上に浮かんでいる落ち葉を掬い、先生から渡された袋に入れていく。
面倒臭かった掃除もやってみれば案外スッキリするようだ。ノクスが普段使っている場所の近くだからかもしれない。
私はいい気分のまま、再び魔法を発動させた。
「――清き水よ。我が魔力を糧とし、命の源たる力を授けたまえ」
私は魔力が少ないから、代わりに池の水の力を借りることにした。近くにある水を使えば、自分で一から作り出すよりも簡単に早く魔法を使うことができるのだ。
ぐるぐると渦巻いた池の水が、嵐を生み出してくれる。今日も後ろを付いてきたセオドールに的を定め、私は迷うことなく魔法を放った。
「水嵐」
「うわぁっ!?わあああ……!」
激しい水流はセオドールに向かって勢いよく迫り、彼の周囲を渦巻いた。セオドールは驚きの声をあげながら防御魔法を展開するも時すでに遅く、私の魔法に巻き込まれたまま水流の頂上まで打ち上がった。
「じゃあ、話してくれる?」
「はわわわ!!誰か助けてくださいい〜〜!」
「何のために私の後をつけたのか、きちんと説明して――」
「うおおおい!何やってんだお前!?」
「?」
セオドールと話していた最中、突然第三者の驚愕の声が響いた。誰が邪魔をするんだと不満を感じて振り返れば、そこには目を丸くしたグレイとノクスが立っていた。
「どうしたの?二人ともこんな所で」
「それはこっちの台詞だ!手伝ってやろうと思って来たら、なんだよこれは!?」
「何って、か弱くて無力な乙女を付け回してた男に対しての正当防衛中だよ」
「か弱くて無力な乙女は普通、水責めで尋問なんてしねぇんだよ!」
グレイが叫ぶ。相変わらず賑やかな男だ。対して横にいた心優しいノクスは「付け回していた」という言葉が引っかかったのか、私の心配をしてくれる。
「付け回してたって、何かあったのですか?」
「多分恨みを買ったのだと思うのですが、正確な理由は分からないので今聞いていたところです」
「聞いてたって、お前な〜どう見てもアイツが被害者にしか見えねぇけど?」
グレイが片眉をあげながら呆れたように上を見上げる。視線の先にはセオドールが「あわわわわ〜目が回ります〜〜」と叫んでいた。
「……とりあえず下ろしてやったら?」
「まだ話は終わってないんだけど」
「悪魔かよ。俺らも一緒に居てやっから、それなら大丈夫だろ」
「はい。絶対に逃がしませんので安心してください」
二人からそう言われて、私は渋々と魔法を解除した。地上に降りてきたセオドールはふらふらと覚束無い足取りでその場にへたり込む。
「はぁ……っ、怖かったです……くしゅんっ」
「……寒いの?」
くしゃみをしたセオドールに私は初めて罪悪感を覚えた。もしかして風邪でも引かせてしまったんじゃないだろうかと良心の呵責を感じていると、急にその場の温度が一気に上がる。
「問題ありません。すぐに乾きます」
「はぁぁ……暖かいです……」
ノクスが私たちの周囲の温度を上げてくれたようだった。寒さで震えていた先程とは違い、セオドールはぬくぬくと心地よさそうな表情でぼんやり呟く。私は笑った。
「さて、そろそろ吐いてもらいましょうか」
右にはノクス、左にはグレイが立っている。私は腕を組みながら、セオドールを見下ろした。
「先生、人は誰しも失敗を繰り返しながら成長していくものではないでしょうか?」
(訳: だから一度くらいは見逃してほしい)
いつもお読み頂きありがとうございます。予告時間より遅くなり申し訳ございませんㅠㅠ
次話からはまた不定期更新ですが、なるべく早めの投稿を目指していくので引き続きお付き合い頂けると嬉しいです!




