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64.恋愛マスター




魔法大会も無事に終わり、季節は秋から冬へと移行した。今年の冬はそれほど寒くないおかげで外に出るのもそこまで億劫にならずに済んでいる。身が凍える程ではないとはいえ、寒くはあるんだけど。

校舎の外に出ると吐いた息が白く染まった。私は早足で二年の校舎側に繋がる渡り廊下を歩き、行き先を急ぐ。


「はぁ……寒い……」


手を息で暖めながら一人呟いた。もうすぐ二年に進級するだなんて実感が湧かない。私がアリアになってから時間が経つのが早いと感じていたけど、この一年はこれまで以上にあっという間に過ぎていった感じだ。

肝心のノクスとアイリスの恋愛の進捗はというと……


- この人、一年間も何してたの?私ならもっと早く二人をくっつけられたのに……神様、私にやらせてください!


どこからかノクス推しからの怒りの声が聞こえて来るようだね。正直私もここまで何の進展もないとは思ってなかった。ヒロインには恋愛がつきものだから、私が何かをするまでもなくフラグが立つだろうという驕りも多少はあったし。

しかし実際のところ、アイリスは私に常にぴったりくっ付いていて恋愛をしている様子はなく、ノクスやカイルとは完全に友情ルートまっしぐらだ。一体なぜそこまでアイリスに好かれているかも分からない。

それでも一応ひか恋の頃の二人よりは進んでいるのだから、欲はかきすぎないようにしないと。焦って失敗するよりかは、遠回りしてでも確実に手に入れた方が良かった。



想念に耽けているうちに、今日の目的地である図書館に到着した。冷たくなった手で扉を開くと、古い本の匂いが鼻先をかすめる。天井にまで届きそうなほど高い書棚には無数の本が壁一面を埋め尽くしていて、膨大な量に長い歴史を感じた。

中央のホールには木製の長机が並び、学生たちが静かに本を捲る音が響いている。


残念ながら検索機のようなものは置いていないようなので、私は目的の本を探すため近くにある棚から順に目を通していく。司書がいるから尋ねれば教えてくれそうだけど、聞くのは少し恥ずかしかった。


「魔法書、歴史書、社会風習、言語書……」


まだ十分の一も見終えていないけど、既に挫けそうだ。それでもこれだけ広いということは色々な種類の本があるに違いないと僅かな希望を抱き、辛抱強く探していく。決してここまで来ておいて途中で帰るなんて悔しかったわけではない。


「宗教、精霊、魔道具……」


本棚を上から下に向かってぐるぐると見て回り半分以上を過ぎた頃、ようやく探していた種類の本と出会えた。私は自然に手を伸ばながら本を厳選し『恋愛の基本』『これで貴方も恋愛マスター』『恋愛を必ず成功させる十の法則』という三タイトルを選び、満足気に口角をあげた。


「これでよし」


本を腕に抱いて共有スペースの長机に置き、一冊目を開く。内容を読んでいけば様々なアプローチ方法が書かれているけれど、中々めぼしいものは見つからない。


「まずは意識してもらう所から始めましょう。素直に相手に気持ちを伝え……って、もっと建設的で現実的なアドバイスはないわけ?うちの子はシャイで奥手な性格であって、丸腰でラスボスに挑むような猪突猛進なタイプではないのに」


ぶつくさと本に向かって文句を呟きながら私はため息を吐いた。あんなに苦労して見つけた本は結局大して役に立たった気がしなく、これならまだ恋愛小説の方がいいのではないかと思うほどだった。


「告白か……」


そういえばひか恋のノクス――いや、推しを含めたヒーロー候補全員が、アイリスに対して「好きだ」と直接的な言葉を伝えている場面は見たことがなかったことを思い出す。明らかにアイリスを特別扱いしていたから告白せずとも気持ちが丸分かりだったとはいえ、やはり気持ちはきちんと伝えるべきではないだろうか。この本にも一応書いてあるわけだし。


『……好きです。一目会ったその日から、貴方以外いないと思っていました』

『第二王子殿下……』


真っ直ぐに愛の告白をするノクスに、頬を染めながら嬉しそうに微笑むアイリス。そんなのめちゃくちゃ見たいに決まってる!


この世界で一番尊く、アイリスに似合う相手は当然ノクスだが、他のヒーロー候補たちも中々手強い。でも、もし一番先に告白出来たなら、そんな彼らを出し抜くこともできるはずだ。


私は勢いよく立ち上がり――静かに着席した。


「こほん」


周囲の視線が集まる中、小さく咳払いをして誤魔化す。確かに推しによる愛の告白は私の理想の完成形ではあるけど、さすがに今ではないことは恋愛経験がない私にも分かる。

もう少し現実的な案を練ることにした。




***




次の目標が決まった。出会って距離を縮めた次は、当然これだろう。丸に囲まれたデートという文字に私は頷く。

問題はどうやって推しカプをデートに持ち込むかだった。


「ノクスが直接アイリスを誘って二人で出かけるのは難易度が高すぎる……なら自然になるように、私の他に誰かもう一人誘って四人で出かける?」


でもノクスには友達がいないから、その場合は必然的にグレイが私の相手になるのではないか。うーん、それはちょっと。私はワイルドな男より、穏やかな男の方がタイプだ。「何で俺が振られたみたいになってんだ!」と脳内で騒ぐグレイを無視して、頭を悩まし続ける。


「……駄目だ、何も思いつかない」


なんかこう、上手くデートの流れに持っていければいいんだけど、肝心の『上手く』の部分が全く思いつかなかった。今こそ物語の強制力が機能するべきなのに。

暫く頭を抱えて案を捻り出そうとしたけれど、十五分を過ぎた頃に諦めて立ち上がった。


こういう時は大抵何も思いつかないから、今日はここまでにしよう。時間は効率的に使うべきだ。


「結構遅くなっちゃった」


いつの間にか外は暗くなってしまっている。持ってきた本は一度戻して、代わりに他の本を三冊選び、早足で外に向かおうとした時だった。



「きゃっ」



ドンッと誰かと勢いよくぶつかり、小さな悲鳴がその場に響く。目の前の少女は、どさどさと持っていた本を落としながら尻もちをついた。


「すみません、大丈夫ですか?」

「いたた……いえ、私もよそ見をしていたので……あれ?めがね、めがね……」

「どうぞ」


床を手で探りながら眼鏡を探している三つ編みの少女――ラウラに、私は代わりに落ちていた眼鏡を拾って手渡した。






いつもお読み頂きありがとうございます。今日から3章スタートです。楽しんでいただけるよう頑張りますㅠㅠ

珍しくストックがあるので明日、明後日も更新予定ですやったー!(セルフ歓喜)12時台か21時台に更新します。以降はまた書き終え次第更新していきますのでよろしくお願いします…!


小話を少しすると、アリアは善良で純粋で守ってあげたくなるようなタイプに弱いです。(気まぐれな猫より人懐っこい犬派)ノクスも本来ならばアリアの好みからは外れていますが、推しフィルターにより可愛い赤ちゃんのように見えています。




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愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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