番外編 人気投票の話
「あと五分……はぁ、緊張してきた」
スマホを片手で持ったまま私は心を落ち着かせるように、ぐるぐるとその場を歩き回っていた。ベッドの上には半月前に発売されたオンラインくじで、記念すべき百回目に獲得したA賞のノクスのぬいぐるみがこちらを見守っていてくれている。
私は腕を伸ばし、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら「どうか、どうかお願いします……!」と祈りを込めた。
今日はひか恋の第三回人気投票の結果発表の日だった。きっと何も手につかないだろうことを予想して一日予定はいれず、ただこの瞬間が来るのを待っていた。
そしてついに訪れた発表の五分前。私はそわそわ落ち着かない様子で意味もなくSNSを閉じたり開いたりする。
「前回はアリアからアイリスを守るカイルに一位を掻っ攫われたけど、今回はノクスに見せ場もあったしいける!」
万年三位を脱出し、推しに輝かしい王冠を被せる日がついに来た。
時計を確認すれば、発表まで残り一分だった。息をするのも忘れたまま、カチカチと響く指針に耳を傾け――二十時ぴったりになった瞬間、私は画面を開いた。勿体ぶることはせず、真っ先に確認するのは当然一位だ!
「うわああああ!!!!!」
どうしてそこにいるのか!!『一位 ノア・ブライトン』の文字に私は悲鳴をあげた。その隣には念願だった推しの名前がある。つまり、ノクスは今回二位だったわけだ。
「ううう……ノアめ〜」
まさかヒーロー候補でもメインキャラでもないサブキャラに負けるとは思わなく、私は悔しさでどうにかなりそうだった。
納得はできないけど、理解はできる。人気投票期間直前に、魔力を失い物語から退場することになったノアの最期は私から見ても格好良かったから。でもきっとそれだけじゃない。これは多分、
「……牽制票だよ」
今回の人気投票は二人まで投票できる。だから本命のキャラと、もう一人はヒーロー候補以外の好きなキャラに投票する人が多かったのだろう。ひか恋はまだヒーローが確定していないことも関係しているはずだ。人気要素が今後の展開に左右されるかもしれないから。
ちなみに私が投票したもう一票であるアイリスは五位だった。
「幼少期ノクスを逃すなんて〜!」
たとえ何位であっても、私の中で一位なのは変わらないって?いつもは言えた綺麗事も今日ばっかりは素直に思えなかった。
なぜなら今回の一位には作者書き下ろし幼少期エピソードがついてくるのだから!
読みたかったと私はノクスの人形に顔を埋めて暫くの間、唸っていた。
それから一週間後、一位特典である幼少期ノアのショートストーリーが公開されたが、私は後で読もうと開いた画面を閉じた。
……決してノクスが二位だったことを根に持っていたわけではなく、ただほんの少しだけ仕事が忙しかっただけだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
3章は来週30日から投稿予定です…!
また、新連載を始めました!
♡愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています♡
https://ncode.syosetu.com/n2303jo/
主人公以外いらない愛の重い婚約者×チョロいヒロインの話です。こんなタイトルですが溺愛です。
3章開始までの空白期間にぜひ読んでお待ちください₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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