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負けヒーローを勝たせる方法  作者: 本月花
一番星は輝いて
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56.私の役目




「…………っ」

「キオン!」


私の手を弾いたことに驚いたキオンが一瞬目を見開くも、すぐに顔を歪めてどこかへ走っていく。そんなキオンをアイリスが名前を呼びながら追いかけていった。


……そういうのって普通は私の役目じゃない?後ろ姿を見ながら思う。


しかも二年生の中に一人取り残され、居心地は最悪だ。もうすぐ午後の授業も始まるし仕方ないと、私は自分の校舎に戻るべく足を動かす。

キオンにはアイリスがいれば大丈夫だろう。今は冷静になる時間が必要だろうし。


「……それで、いつまで付いてくる気?」


一年と二年の校舎の境目にある渡り廊下。私は振り返らずに背を向けたまま問いかける。


「気付いてたんだ」


私の後を追ってきたエメルが呟いた。


「もうすぐ次の授業が始まるけど」

「知ってるよ」

「なら戻らないと。遅刻する訳にはいかないでしょ」

「嫌だって言ったら?」


私はため息を飲み込んだ。どうしてだろうか。いつもは気にならないエメルの言葉が、やけに引っかかって受け流せない。

しかし子供に当たりたくなんてない。目を瞑り、一度深呼吸をしてから口を開く。


「馬鹿なこと言ってないで早く戻って。私も、もう行くから……」


歩くスピードを早めた私の手を、エメルが突然掴んだ。「なに、」と言いたかったけど、口を閉じる。反射的に振り向いた先で、真剣な表情のエメラルドの瞳が私を射抜いていた。


「戻れるわけないでしょ。さっきからずっと――迷子になった子供みたいな顔してるくせに」


なに意味の分からないことを言っているのか。そう返したいのに、声が喉に詰まって上手く言葉にならない。エメルの目を真っ直ぐ見れなかった。


「……離して」

「離したら逃げるでしょ」

「逃げるんじゃなく授業に行くだけだから」

「アリアがそんな真剣に授業を受けてるとは知らなかったけど」

「私はいつだって全力で真剣だよ」

「はい、嘘。アリアは何に対しても程よく手抜きするから、全力になることはありません〜」


ああ言えばこう言う。減らず口を叩くエメルに呆れつつも、先程よりずっと息がしやすくなったことに気付いてしまう。私は今度こそため息を吐いた。


「……ほんと性格悪い」

「酷い言われようだなぁ。ならもっとお姫様のように扱おうか?」

「いらない。はぁ……なんでアイリスがあっち行っちゃうかな……」

「アリアも分かるでしょ。キオンを慰めるのは俺よりアイリスの方が適任だって」


否定出来なかった。キオンを追いかけていたのがエメルだったなら、火に油を注ぐ結果になっていた確率が高いから。



「アリア!エメル!」


誰かが私たちの名前を呼ぶ。振り向くと、息を切らしながらカイルが走ってきていた。


「やっと見つけた!騒ぎがあったと聞いたけれど、一体何があったんだい……って、アリア?」


丁度いいタイミングだね。カイルにエメルを押し付けると、カイルは目をぱちぱちと瞬かせながら困惑する。


「詳しくはエメルから聞いてください」


カイルも一応関係あるし知っておくべきだろう。無理やり押し付けられたエメルは「ちょっと、アリア」と私を引き止める。


「私はもう大丈夫だから」

「でも、」

「それとも何。私が一人隠れて泣くとでも思ってる?」


即座に「ないだろうね」と否定はするけど、未だ躊躇うエメルに私は仕方ないと口を開く。


「心配してくれてありがとう。でも……少し一人にしてほしい」


私の本心だと察したエメルが「分かったよ」と肩を竦めて、ようやく手を離してくれた。


「カイル様、行きましょう」

「……いいのかい?」

「大丈夫ですよ。教室に戻りながら説明します」


カイルは私の様子を伺いつつも、エメルの言葉に頷いて背を向けた。事情を知らないカイルにも気遣われるなんて、そんな酷い顔なのだろうか。


二人の姿が見えなくなったのを確認してから、私はその場にしゃがみ込んだ。


「はぁ……」


膝に顔を埋め、何度目かの溜め息をつく。

動揺していることを認める。と同時に、少し手を振り払われたくらいで、こんなに心を乱されてしまう自分が情けなかった。


私にとって家族とは縁遠いものだった。

昔は必死に家族からの愛を求めたこともあったけど、いつしかそれも諦めて。

友情や恋愛も同じだった。いくら耳触りのいい言葉を並べても、呆気なく崩れていくものだと身をもって学んだ。


家族も友情も恋愛も無駄なことだと諦めた私がキオンの隣に居られた理由は――私がキオンの〝妹〟である限り、彼に裏切られたり傷付けられたりすることはないと知っていたからだ。

だからいくら近付かれても大丈夫だったし、私の警戒心を解くには十分な判断材料だった。


打算的な理由でキオンの隣に居た私に傷付く資格なんてないのに。手を振り払われた瞬間、昔のことが頭を過ぎり()を拒絶されたような感覚に陥ってしまった。


「……」


誰かが大事になるというのは、自分の心をその人に分け与えるということだ。

私はもう二度と誰にも心を傾けたくなかった。深入りせず、程よい距離を保ち、傷つく前に離れて。そうしてずっと自分を守ってきた。


だからいつものようにすればいい。

元々ひか恋のアリアとキオンは仲が良くなかったわけだし、こっちが正しいんじゃないのだろうか。アイリスたちとも疎遠になるかもしれないけど、最初はそのつもりで避けていたんだから寧ろ都合がいい。

ノクスも、本来アイリスと関わるのは二年生になってからだったけど、予定より早く仲良くなれたし、ひか恋では居なかった友達も出来た。少しくらいは推しの役にも立てたんじゃないかな。

そうだよ、もう十分だ。いつ壊れるか分からない人間関係に時間や感情を無駄に消費していないで、このまま離れればいい。


頭ではそれが正しいと分かっているのに。


「……本当に愚かだね」


気付きたくなかった。気付かなければ良かった。

アイリスのように明るく、真っ直ぐな性格だったら、きっとすぐにキオンの元に走って行けただろうけど。


立ち上がり、教室へと向かう。

私はこんな生き方しか知らなかった。




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愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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