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負けヒーローを勝たせる方法  作者: 本月花
一番星は輝いて
58/120

55.拒絶




学校に長期休みは夏と冬の二回ある。

休み期間中、寮生の中には残る人も結構いるらしく、その場合は図書館などの解放されている場所で過ごしているらしい。


私は領地に戻ったり、約束通り皆で遊びに行ったりと過ごして――初めての夏休みは終わっていった。

休みというのはもっと長いものだと記憶していたけど、案外あっという間だった。


途中、建国祭があったおかげでノクスの顔も遠目からだけど見れて良かったし。公式で推しを供給してくれるなんて有難いことだった。

とはいえ会えない期間の方が多かったから、久しぶりに推しに会えると心を弾ませつつ教室に入る。


「休み明けはやっぱだりぃなぁ」


席へ着くとすぐ、斜め向かいの席で頭の後ろに手を組みながらぼやいているグレイが視界に入ってきた。彼は私と隣に並んでいるアイリスを交互に見てから、ひらりと手を振った。


「おー公女サマ方は相変わらず仲が良さそうで」

「おはようございます!グレイ様は……なんだか勇ましくなられましたねっ」

「それがよ〜俺に負けた王子サマが中々離してくれないもんだから、すっかり日に焼けちまって」

「気色の悪い言い回しをするな。それに負けていない。不意打ちを食らって剣を落としただけだ」

「剣を落とした時点で王子サマの負けだろ?」


私は「まさか」と声を上げそうになったのを耐えた。

ひか恋のノクスは剣の練習だけは一日も欠かさずにやっていたのに。そんなノクスが負けただなんて信じられなかった。


「どんな手を使ったの?」

「それは……いっででで!!」


私の質問にグレイがニヤニヤと笑った時だった。ノクスの手が伸びて、茶褐色の頭を鷲掴んだ。


「どうやら命が惜しくないらしいな」


ノクスが殺気を放つ。グレイは「冗談、冗談だから!悪かったって!」と即座に謝罪している。

推しのプライベートの話を聞けず残念だったけど仕方ない。プライバシーは尊重しないとね。


「ところで、グレイ様はどうしてその席に?」


夏休み前まで、私の斜め向かいの席は別の人が座っていたはずだけど。自由席だから必ずしも同じ席に座らなければいけない理由はないけど、ふと気になって聞く。


「そりゃあ、隣には王子サマが居て、斜め後ろには公女サマが居たら普通は誰も座りたがらないだろ?だから席を変わってやったんだよ」

「……」


とてつもなく失礼な返答に、聞いたことを後悔した。ノクスは分かる。第二王子が隣に居たら、誰だって緊張することだろう。しかし私の場合は絶対いい意味ではない。


まぁ話したこともない人よりかは、知った顔の方がマシかな。「それはどうも」と呆れつつ伝えた。




***




魔法大会は二年に一度開催される行事だ。

学校に併設されている競技場で、朝から夜にかけて学年毎に競い合う。

武器の使用は不可だから、純粋に魔法の実力での勝負となる。


参加しなくても評価が下がったりすることはないけど、参加した人は実力分の評価が貰えるらしい。つまり、プラスかゼロのどちらかというわけだ。


「希望者は今週中に俺のところに来るように」


大会の説明をしていた先生が締め括る。

周囲は早速「お前は出るのか」と話していたり、既に立ち上がり参加の希望を伝えている生徒もいた。

できる時に点数稼ぎをしておくと楽なのは分かるけど、当初の予定通り私は不参加のつもりだ。

もしノクスが出場してくれたら……



『第二王子殿下っ、どうかお怪我はなさらないでくださいね……!』

『貴方が応援して下さるのなら、決してそんなことは起こらないでしょう。勝利を貴方に捧げてみせます――私の女神』



そしたらきっと、こうなるはずなのに!

アイリスの手の甲に口付けを落とすノクスを想像して幸福に浸るけど、残念なことに現実になるのは難しそうだった。

ノクスの性格的に、こういう大会には絶対出ないだろうから。


……それでも一応聞くだけ聞いてみようかな。

微かな希望を胸に私はノクスと、カモフラージュとしてついでにグレイにも問いかけた。


「第二王子殿下とグレイ様は出られるのですか?」

「俺は面倒いし出ねぇよ。切羽詰まった成績でもないしな」

「……私も、出場する予定はありません」


だよね。予想通りとはいえ、肩を落としてしまうのは仕方のないことだ。「公女サマたちは出んのか?」と聞かれ否定した。

結局私とは縁のないイベントだったらしい。



「午後は魔法数式と歴史の授業だっけ?眠くなりそう」

「私も……」


昼食を終え、アイリスと校内を歩く。午後の授業を考えるだけで既に眠気が襲ってきそうだった。


「グレイ様は凄いわよねっ、あんなに堂々と眠れるだなんて……!」


あまり認めたくないけど確かに凄かった。あの図太い神経が。今日の三限の時も普通に寝てたし。

それでいて私よりもテストの順位が上なのは少し悔しかった。


「――じゃん!――せに!!」

「――て、――ろ!」


?何の声だろう。何と言っているかまでは分からないけど、二年の校舎の方から騒いでいる声が聞こえてくる。

アイリスも気付いたのか「どうしたのかしら?」と首を傾げた。


「まだ時間もあるし見に行ってみる?」

「そうね、行きましょうっ!」


提案したのはただの気まぐれだった。普段の私なら面倒事には近寄りもしなかっただろうけど、今日はまだ昼休みが終わるには時間が余ってるし、いい暇つぶしにでもなるかと思ったからだ。


二年の校舎に近づくにつれ、人が多くなっていく。他の人たちも一体何事だと、野次馬の如く集まっていた。


「一々突っかかってきて、いい加減ウザいんだけど!」


騒ぎの中心。中庭のど真ん中で叫んでいる人の声に身に覚えがあるのは気の所為だろうか。

アイリスが「ねぇ、あれって……」と視線を固定したまま私の腕を引く。


「大体なんなの。ボクの成績がどうだろうが君には関係ないくせに、毎回チェックしてるのもキモいから。そんなにボクのこと好きなわけ?でもボクは君のこと嫌いだから関わって来ないでよね」



「……お兄様」


そう、騒ぎの中心に居たのはキオンだった。

不快さを隠そうともせず、冷ややかな眼差しで正面の男を睨んでいる。近くにいるエメルが「少し落ち着きなよ」と声を掛けたけどキオンは「エメルは少し黙ってて」と突っぱねた。



「と、止めなくて大丈夫かしら……?」

「まだ大丈夫」


そわそわ落ち着かない様子のアイリスを宥めながら、私は中心の方まで寄っていく。いつでも止めれるように、キオンの近くに待機した。


「お前みたいな落ちこぼれが近くに居るってだけで、殿下の足を引っ張ることになるのがまだ分からないのか!」

「っ、だからそれが余計なお世話だって言ってんの!カイル様から相手にしてもらえないからってボクに八つ当たりしないでくれる!?」

「ハッ、俺はただ事実を言っただけだが?そっちこそ、図星だからって必死だな」

「はぁっ!?」


お互いが煽りまくり、口喧嘩は収まるどころかヒートアップしている。そろそろ止めに入った方がいいのではと考えあぐねていると、キオンの喧嘩相手であるグレーの髪の男が余計な提案をし始めた。


「なら、これはどうだ。次の魔法大会――そこでケリをつけよう。ああ、お前は俺より魔力が下だしハンデでも付けてやろうか?」

「そんなの要らない。その代わりボクが勝ったら地べたに這いつくばりながら謝罪してもらうから」


うーん、丸刈りにした上で土下座の方がいいんじゃないかな。キオンの甘い条件に不平を唱えていると、グレーの髪の男はニヤリと笑った。


「なら、俺が勝ったら――殿下の隣から外れろ」


つまり、カイルやエメルたちともう一緒にいるなと言うことだろう。私は目を瞠り、足を動かす。こんな条件受ける必要がない。すぐにキオンを止めるつもりだった。


「…………いいよ、分かった」


しかしそれよりも先にキオンが了承してしまう。


「お兄様!」


私はキオンを呼び、手を伸ばした。




バチンッ




触れた手が、弾かれる。

それは明確な拒絶だった。





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愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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