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負けヒーローを勝たせる方法  作者: 本月花
一番星は輝いて
55/120

52.辿る運命の先に




叫びながら落ちていったエンリケ・コリンを見て、私の溜飲はようやく下がった。


「結構高さがあったようだけれど、大丈夫かしら……?」

「まーあんだけ元気がありゃあ平気だろ」


アイリスの心配に、グレイが下を眺めながら答える。私の位置からは彼らの具体的な状況は見えないけど「覚えてろよ!」と悪役のような台詞を叫んでいるのは聞こえるから、まぁ大丈夫だろう。


今回は、彼らがスタートと同時に大規模な魔法を使ったせいで変形してしまった地面を使用したのだ。私はそれにほんの少し手を加えただけで、結局のところは彼らの身から出た錆だった。




「時間ギリギリだぞ〜お前らで最後だな」


そのままゴールへと向かえば、先生が待ちくたびれたと言いたげに欠伸を噛み締めていた。「憎たらしいぜ」と呟くグレイに私は内心同意する。


先生のすぐ近くには二班と九班が居て、私たちよりも先にゴールしたようだった。


「おい、まさか……」


グレイも同じことを考えたようだね。そう、今この場には私たち含め三つの班しか居ないのだ。六班の魔法は大規模ではあったとはいえ、全ての班が巻き込まれたわけではないはず。

つまり他所でも争いが行われていたということだ。


「三班か。予想ではもう少し残るはずだったんだが……」


先生が独りごちながら、私たちを順番に見渡した。


「まずは課題クリアおめでとう。今回の課題を通して確認したかったのは二つだ。普段とは違う場所で、初めて組むチームメイトと如何に協力し課題に取り組めるか。そして、予期しない出来事に直面した際、どう対処していくかだ」


順応力と応用力を注視していたようだね。静かに話を聞く私たちに、先生は珍しく大きな声で続ける。


「遅かれ早かれ、毎年必ずこういう事が起きる。簡単に言うと、生徒同士のぶつかり合いだな。そういった事が起きた時、俺が何も言わずとも自分たちで考え、見極める力を養っていかなければいけない。その点で言えば、今日のお前たちは良くやったと思う。でも、これで満足はするな」


――強くなりたいのなら、上へ上がりたいのなら


「頭を止めず常に考え、学び続けろ。無駄なプライドは捨てて、出来るものは素直に吸収していけ。それはきっと成長の糧となり力に変わるはずだ」


静かな森林に先生の言葉は響く。私以外の生徒たちの間に青春的な空気が包まれていた時だ。普段の気怠げな声へと戻り、その空気は一瞬で消え去っていった。


「……っと、まぁそんな感じで。じゃあ俺は他の奴らを回収してくるから、お前たちは先に教室へ戻っててくれ」


そう告げた先生は風魔法を発動させ、アッサリと飛んで行った。


「よくわかんねー教師だな」

「……」


何はともあれ、そうして初めてのグループ課題は終了した。




***




課題終了後から、クラスの雰囲気が変わった。

いや、クラスだけではなく学年全体が意欲的になったとでも言うべきか。そんな中でも、ノクスやグレイみたいな例外も居たけれど。

ちなみに私も特段変わりはない。他の生徒のように燃えながら魔法の練習をしているわけでもなければ、必死に机と向き合っているわけでもない。


普段と同じ日常を過ごしているだけだ。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あ、はい」


店員さんからの問いかけに、私はメニューから顔を上げて頷いた。


「フルーツティーでお願いします」

「畏まりました。他にご注文は宜しいでしょうか?本日はこちらのケーキがオススメとなっております」


売り込みのケーキは断ると店員さんは会釈し、踵を返していく。

普段ならついでだしと食べていたかもしれないけど、今日はこの後キオンたちと合流する予定だから、飲み物だけで済ますことにした。


少しして運ばれてきたフルーツティーは、グラスの中に季節物のフルーツが浮かんでいて可愛らしい。

一口飲むと冷たい紅茶が身体に染み込んで、渇いた喉を潤してくれる。


「おや、君は……」


来月はもう夏休みか、なんて休みへ思い馳せていると頭上から声を掛けられた。聞き覚えのない声に疑問に思いつつ顔を向けると、水色のおかっぱ髪の男の人が居た。

どこかで見たような気がするけど……誰だっけ。

思い出せずに困惑する私へ、その人はご丁寧に名乗ってくれる。


「私はミシェル・ハーマン――モニカの同僚で魔法省に所属している。以前もこのカフェで会ったのだが、覚えていないだろうか?」


そうだ、思い出した。前にモニカとここで会った時に一緒に居た人だった。


「アリア・ウォレスと申します。……気付かずに失礼致しました」


一応は礼儀として挨拶し返すけど、この人が私に一体何の用だろう。ミシェル・ハーマンは頷きながら私の向かいの席へと視線を向ける。


「覚えていなくても無理はないよ。それより、君一人なら同席しても?生憎、他に空いている席がなくてね」

「……」


普通に嫌だけど。会うのは二度目とはいえ、ほぼ初対面に変わりないわけだし。そんな人と二人きりで何を話せと。しかし他に席が空いていないのも事実なので、本音を飲み込み頷いた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう助かるよ。ああ、気は遣ってくれなくてもいいからね」


貴方はもう少し気を遣ってくれてもいいんだけど?いや、やめよう。熱くなりそうな心を落ち着かせるように、紅茶を飲む。

そろそろキオンたちも到着する頃だし、あと十分くらいの辛抱だった。

急いで紅茶を飲み干し席を立つ考えも過ぎるけど、その場合この暑い中、外で待たなければいけないことになる。

それよりかはここで過ごす方がまだマシだった。


「君はこの店のデザートを食べたことがあるかい?焼き菓子も勿論美味しいんだが、特に生菓子が絶品でね。私は外に出る度に、つい食べに来てしまうんだよ。君が今飲んでいるフルーツティーも季節毎に入っているフルーツが変わるから、私も毎回楽しにしていて――」


……やっぱり外で待とうかな。目の前で繰り広げられるマシンガントークに紅茶を飲むペースを早める。ミシェル・ハーマンの話を聞き流しながら適度に相槌を打っていると、彼はふと何かを思いついたかのように鞄を漁り始めた。


「相席させてくれたお礼に、君を占ってあげよう」

「いえ、結構です」

「遠慮しなくていいとも。こう見えて占いは私の特技なんだ」


人の話を聞いてほしい。紅茶を飲み終えたのに、彼がテーブルの上にカードを並べ始めるせいで席を立つタイミングを逃してしまった。

そもそも私は、占いなんて根拠のないものは信じていないのに。


一度やらせれば満足してくれるだろうと、私は持ち上げた腰を降ろす。


「アポロ、私に力を貸してくれたまえ!」

「えっ……」


ミシェル・ハーマンが魔法陣を展開し、使い魔を召喚する。てっきりカードで運勢を占う程度だと思っていたのに、予想とは違う大掛かりなやり方に私は戸惑った。


ていうか、ここカフェだから!

私が頭を抱えている間に、彼はアポロと呼んだイルカを呼び出してしまう。


「キュー!」

「この子はアポロと言うんだ。可愛いだろう?」

「可愛い、ですけど……その、店内で魔法の使用は他の方のご迷惑になるので……」

「そうだろう、どうやら君には見る目があるようだ」


この人、全然人の話を聞かないんだけど。

周囲の視線が集まり居心地が悪い私とは反対に、ミシェル・ハーマンは気にも留めずに占いを続ける。


「さぁ、辿る運命の先には何がある?今日がゆく道を彼女へと示してくれ!」


彼が発動した魔法陣が、海のような色に光る。アポロが「キュー!」と愛らしく鳴いて、跳ねた瞬間、カードが浮かび上がった。

思わずその光景に見惚れていると、ミシェル・ハーマンが口を開いた。


「ふむ……不協和音の暗示が出ているね。心が少しずつ不安定になりつつある。東の方角にはあまり行かない方がいいだろう」


私の心が不安定だなんて、真夏に雪が降るくらい有り得ないことだよ。やっぱり占いってのはインチキだったね。


「一つ選択肢を間違えば永遠に大事なものを失うかもしれない。自分の心へ素直に――」

「ミシェル!!」


占いの最中、怒号が店内へと響き渡り、ミシェル・ハーマンの言葉が掻き消された。





いつもお読み頂きありがとうございます。

ちなみに占いは


*信じない


アリア(お化けや神も信じないし願わない)

エメル(へぇ、占いとか信じるタイプなんだ?)

カイル(未来は自分自身で切り開かないとね^^)


*信じる


キオン(えっ!ボクとリアの相性が悪いって?!でもその壺を買えば良くなるの?ボク買います……ってリア止めないで!)

アイリス(今日のラッキーカラーは紫だから、アリアとずっと一緒に居ればいいのね!)

ノクス(気にしないと言いつつ、やっぱり少し気になる。グレイがラッキーアイテムの苺を勝手に食べたのでボコボコにした)


です。6月中に2章を終わらせる予定でしたが、全然終わりませんでした(すみません)もう暫くお付き合い頂けますと幸いです…!


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愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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