45.存在が既に満点以上
定期テストは年に三度に分けて行われ、その一回目が終了した。掲示板には上位五十名の名前が張り出され、人目にさらされる。
皆が順位を見に集まる中で、私も確認しに来たんだけど……
二位 アイリス・オルレアン
その名前に目を瞬く。貴族と平民と合わせればかなりの人数だったのに、その中で上位三位にアイリスが入るだなんて。
「見て!アリアは六位だわ!」
おめでとうと声を弾ませアイリスは喜ぶ。二位の後に見ると大したことがないように感じてしまうから不思議だ。それでも目標よりずっと高い順位ではあったので素直に喜ぶことにした。
アイリスの頭を撫でながら掲示板へ目を通す。私の名前のすぐ上の五位には、グレイの名前があった。そういえば自分で頭がいいとか言ってたっけ。
「第二王子殿下の順位は見られましたか?」
グレイの言葉は本当だったんだなと思い出していると、ノクスの話題が入ってきて私は耳を澄ませる。
「第一王子殿下は常に一位をキープされていらっしゃるのに、第二王子殿下は三十六位でしたわ」
「昔は優秀だったという噂も嘘ではないでしょうか」
ヒソヒソと囁き合う声に気分が悪くなる。
ノクスは存在が既に満点以上なのに!つまり、例え最下位になったとしても実質的には一位ということだ!
悔しさで震える私の腕にアイリスがぎゅっと抱き着いてくる。「どうしたの?」と可愛らしく見上げられ、荒ぶる心が落ち着いていく。
アニマルセラピーは人の心に癒しを与えると聞いたことがあるけど本当だったね。まぁアイリスは人だけど、可愛いのは同じだから。
落ち着きを取り戻した所でもう一度、順位を確認していくとラウラ、ルカ、ルナの名前も目にした。このままいけば小説通りに三人は特待生になれそうだった。
「……!」
四十七位の横にあったステファンの名前に私は目を瞠る。どうやら彼も五十位以内に入れたようだった。とはいえ、まだ試験は二回ある。特待生になるためには座学だけじゃなく、実技も評価対象になるらしいし。……それでも。
「アリア、なんだか嬉しそうね」
こてんとアイリスが首を傾げる。「テストの順位が思ったより良かったからかな」と私は笑いながら答えた。
***
学校生活を送るうえで避けられないことがある。それは友達が居ない人間にとっては致命的な難点でもあった。
「じゃあこれから四人一組でグループを組んでくれ。組み合わせは好きに決めていいぞ〜」
担任とは気が合いそうだと思っていたけど、どうやら私の勘違いだったようだ。せめて二人一組にしてくれれば良かったのにと恨み言を口にした所でどうしようもない。
「アリア!一緒に組みましょう!」
「アイリス……」
アイリスが横から誘ってくれる。その声がけが嬉しいと思う反面、申し訳なくもあった。彼女一人だけだったなら、今頃沢山の人が集まったはずなのに。
しかし周囲はアイリスと組みたい気持ちより、私と組みたくない気持ちが勝ってしまうらしい。遠目からチラりとこちらの様子を伺うだけで声を掛けてくる人はいなかった。
「相変わらず嫌われてんなぁ」
プハハッと笑いながら突然グレイが私の斜め向かい、つまりノクスの隣に座る。エメルといいグレイといい氷属性の人間は皆こうなのか。「なんの用?」と私は不審げに目を細めた。
「お前はどうせ組む奴も居ねぇんだろ?なら俺らと組もうぜ」
「なっ……!」
そう言いながらグレイはノクスの肩に腕を掛けた。あまりの気安さ、いや馴れ馴れしさに開いた口が塞がらない。
「ちょっと何してんの!?失礼でしょ!」
「このくらい気にすんなって。王子サマもいいだろ?」
グレイがにやりと笑う。ノクスは「近い、離れろ」と言いながらも、回された腕を振りほどかなかった。
私が裏庭に行ってない間に何があったのだろう。混乱したまま二人のやり取りを眺めていれば、不意にノクスが振り向き、肩が跳ねる。
「……私は他に組む人もいませんので、お二人さえ良ければ」
推しの言葉を誰が拒否できようか。私は一も二もなく頷いた。単純に他に組む人が居ないってのもあるんだけど。
「私は問題ありません。アイリスも大丈夫?」
「ええ、勿論。よろしくお願いしますねっ!」
アイリスがにこりとノクスに笑いかけた瞬間、ひか恋のワンシーンが頭に浮かんだ。初めてノクスがアイリスと出会った日。
――ノクスはその時、太陽の下で明るく笑う彼女から目を離せなかった。
『初めまして』
――光を一身に浴びて輝く彼女は、向日葵のように真っ直ぐとノクスへ手を伸ばした。
シチュエーションは全然違うけど、まさに出会いの瞬間を見れたような気分になった。向日葵の花言葉が〝貴方だけを見つめる〟なのもまた最高だったと私は幸福に浸る。
ざわつきが広まってきた教室に、先生の声が響いた。
「全グループ決まったようだな。来週の授業は今決まったメンバーで行動してもらうことになる」
つまりノクスとアイリスの親睦を深めるためのイベントというわけだ。
「場所は裏山、これを摘み取ってくるだけの簡単な課題だ」
先生が教卓の上に薬草を置く。青い根と赤い葉で形成されている植物、科名は『ムラサキ』
解熱や火傷などの薬に、主に用いられる多年草だ。確かに簡単そうではある。ムラサキは希少な草でもないし、奪い合いになることはないだろうけど……
この時に感じた違和感ときちんと向き合うべきだったのに、私は浮かれるあまり完全に見過ごしてしまった。




