35.Aクラス
「魔力測定ってどんな感じなのかしら。楽しみねアリア!」
ノアたちを見送った後、声を弾ませながら呼びかけてきたアイリスへ私は振り向いた。
ラウラが先程言ってた通り、今日は入学式の他に魔力測定も行われる予定だった。
「リアとアイリスは何の属性かな?」
「俺とキオンと同じだとすれば、アイリスは氷でアリアは風だろうけど」
「うーん、親族は同じ属性の可能性が高いと聞くけど絶対ではないからね」
キオンたちがわいわいと話し合う。
そういえば、ひか恋のアリアは何の属性だったっけ。キオンと同じ風だった気もするけど、記憶が曖昧だった。どうせなら水とかの方が嬉しいんだけどな。万が一、無一文で放り出されても水さえあれば何とかなりそうだし、一番役にも立ちそうだ。
だけどあまり期待はしないでおこう。他の属性だった場合ガッカリしたくない。
魔法という本来ならば生涯使用することができなかったであろう存在に、手が届いただけでも有難いと思わないと。
「私たちもそろそろ行こうか?」
「ええ!お兄様たちもまたあとで!」
まだもう少しだけ時間に余裕はあるけど、早めに向かっておいて悪いことはないだろう。アイリスも同意するように頷いて、私の腕を握った。
魔法学校の敷地内は王城と遜色ない程の規模で、長い廊下を渡りながら辺りを見渡す。
アイリスもその広さに驚いているようで、小さく口を開きながらきょろきょろと首を回していた。
今、私たちが居る東側と反対に位置する西側には、平民の新入生が使用する校舎と寮があるらしく、向こう側もこんな感じなのかと気になった。
「アリア見て、あそこみたい」
アイリスが一つの教室を指差す。Aクラスと書かれているそこは、入学前に届いた案内の紙に記載されていた場所と一致していた。
どういった方法で選別されているのかは不明だけど、同じクラスだと喜ぶ彼女を前に実は私も少し安堵したのは秘密だ。
ガラリと扉を開けば、中には既にそれなりの人数が集まっていて。
「オルレアン公爵家のアイリス様だわ。もう一人はウォレス公爵家の……」
「ああ、あの方が……」
「……」
ひそひそと囁き合う声が耳へ届く。どうやらあまり歓迎はされていないようだった。期待もしてなかったから別にいいけど。
それにしても未だにアリア・ウォレスの印象が良くないことが少し不思議だった。昔はどうしようもない子供だったにしても、取り返しのつかない間違いを犯した訳でもないのに。
一度調べてみようかと悩むけれど、すぐ考えを振り払った。実害があるわけでもないしお金の無駄だと。
「アリア座りましょう!」
「うん」
アイリスが私の腕を引っ張って、後ろにある席へと向かい、最後列の一番奥の窓際。競争率が高そうな場所をお構い無しに確保した。
促されるまま奥の方へと腰掛ける。私の隣にアイリスが座ると、さっきまでの声はあっという間に聞こえなくなった。
「……ありがとうアイリス」
「ふふっ、何のことか分からないわ」
お礼を伝えればアイリスは若葉色の瞳をパチパチと瞬かせ、ふわりと微笑んだ。そうしているうちに一人、また一人と、教室へ人が集まってくる。
雑音が消えたせいか気分は良かった。
そう、例え私の前に誰も座りたがらないとしても。
「魔力測定が終わったらどこか寄って帰らない?」
「いいね。アイリスが気になってたカフェに行ってみる?」
「行きたいわ……ア、アリア!?」
ガタガタ。話している最中に突然荒ぶりだした私に、アイリスが戸惑いの声をあげる。「なんでもないの」と口にしたけど、内心は全く何でもなくなかった。なぜなら――
ノクスが、推しが私の目の前に座ったのだ!
推しに貧乏くじを引かせてしまった申し訳なさと、推しカプが近くに揃った幸福がせめぎ合い結局、後者へと傾く。
複数クラスがある中でノクスとアイリスが同じクラスだなんて、運命というものがあるならきっとこういうことだと私は思った。
「全員揃ってるな」
幸せに浸っていた所に、前方のドアが開いて低い声が割って入ってきた。
「このクラスを担当するウォルター・アクセルだ。面倒ごとは嫌いだから一年間大人しく過ごしてくれよ」
無精髭を生やした担任の男がぶっきらぼうに言い放つ。その言葉には概ね同意で気が合いそうだった。
***
魔力測定は水晶のような透明の球体を使用して行われた。一人ずつ前に出て水晶へと手を翳す。そうすると魔力と属性が分かるらしい。
魔力は十段階あり、一が最小で十が最大。
属性は水、火、風、氷、雷、土、光、闇の八つが存在している。
「アイリス・オルレアン――魔力《六》、属性《光》」
トップバッターのアイリスが手を翳した瞬間、純度が高くとても綺麗な金色の光が水晶を満たした。
「いきなり六だなんて凄いですわ」
「さすがオルレアン家の方と言うべきでしょうか……」
周囲もざわついているのが伝わってくる。アイリスならば当然そうだと私は一人頷く。
名前を呼ばれて私は立ち上がり、教壇へと向かう。すれ違い際に「アリア頑張って!」とアイリスに応援をされたのでお礼を呟いた。
そしてアイリス同様、水晶へと手を翳す。
何の属性でもいいのは前提としても、やっぱり第一希望は変わらずに水だった。
「?」
しかし私の希望とは反対に複数の色が混ざり合う。まるで競いあっているかのように、その色はどんどん大きくなっていく。これは本当に正しいのかと私は慌てた
何これどういうこと……!?
アイリスのように朝に降り注ぐような優しい光とは違う、もっと強烈で眩しい光が水晶を満たした瞬間。
本能的に危険を察知して、パッと腕で顔を覆った。
パリンッ
「きゃあっ」
「……!」
何かが割れた音と、甲高い悲鳴が耳に入る。
こんな至近距離だしてっきり破片でも飛んでくるかと予想してたけど、私は無傷だった。
何にせよ良かったとほっと息をつく。
「大丈夫か!怪我は?」
「ありません。それより……」
駆け寄ってくる担任へ言葉を返しながら、粉々になってしまった水晶へと目を向ける。
色々気になることはあったけど、一先ずこれだけは確認しておきたかった。
「……先生、もしかしてこれは弁償ですか?」
ガシガシと頭を乱暴に混ぜた担任は「子供がそんなこと気にしなくていい」と溜息を吐いた。
どうやら自腹を切る必要はないようで、私は安心した。




