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負けヒーローを勝たせる方法  作者: 本月花
幕は上がる
22/120

20.十五歳



「ワン・ツー、ワン・ツー、はいそこでターンです!」


ミシェル夫人の手拍子に合わせ、私はくるりと回った。側で見ていたアイリスが「わぁ…!」と小さく歓喜の声を上げる。

終わりのステップを踏み、仕上げにドレスの裾を持ってカーテシーのポーズをとった。


「……」


数秒の沈黙が広がり、パンッと、大きな音が響く。


「まぁ、良いでしょう」

「…!」

「ここまでよく頑張りましたね」


それは、長かったダンスレッスンがついに終わる合図だった。本来ならば三ヶ月ほどで身に付けるはずのダンスに四ヶ月もかかってしまったけど、何とか合格点まで来ることができたようだ。


「ミシェル夫人、ありがとうございました」


……本当に、心から感謝した。今では普通の令嬢らしく踊れるものの、最初の私は我ながら酷かったと思う。まるで地面に打ち付けられた魚のように見るに堪えない有様だった。最初の一ヶ月は中々コツが掴めず、何度挫けそうになったことか。

そんな私を見捨てずいてくれたのは嬉しかった。



画面越しに見ていたダンスは華やかで楽しそうだと思っていたけど、実際に体験してみると想像よりも大変で、なんだか夢から醒めたような気分だった。

でも、こうしてやり切ってみると、達成感もあって悪くない。


「アリア凄く素敵だったわ!」

「アイリスに比べたら全然だよ」


悲しいくらいの差だった。アイリスは私と違いきっちり三ヶ月で終わらせたのだから。軽やかに舞う姿は、天使の羽が付いているのではと疑うくらい愛らしかった。




「リア、アイリス終わった?そろそろだと思って待ってたんだ!」

「さっき夫人が褒めてたよ。お疲れ様」


一度着替えて、アイリスと共に談話室へと向かう。

ドアを開けると、そこには先客が居た。


「お兄様、帰ってきてたの?」


私と同じ疑問が浮かんだらしい。隣にいたアイリスが、先に口を開いた。


「最近は中々帰って来れなかったしね」


今年、十六歳になったキオンとエメルは、一足早く魔法学校へ入学した。学校は首都にあるから、領地に住んでいる私達とは会う機会も減っていて、今では月に一度会えればいい方だ。


「エメルが帰ってきたってことは、今日のお泊まりはお預けだね」

「うん……」


本来ならアイリスはこのまま泊まる予定だったけど、エメルが居るなら帰るだろう。私がそう言えば、アイリスは分かりやすく落ち込んだ。

泊まりたいけど、お兄様とも過ごしたいと心の中で葛藤しているのが分かる。

だけど、アイリスがここに泊まるのはエメルが居なくて寂しいという気持ちが大きかったはずだ。ならばエメルが帰ってきた今、ここに泊まる理由もない。「お泊まりはいつでもできるよ」と伝えればアイリスは渋々と頷いた。


「公女も俺とキオンが居なくて寂しかったんじゃない?」

「??」


一体なんだと私は眉を寄せる。どうやら、アイリスが寂しがっていたのを察したエメルが揶揄い半分で口にしたようだ。


キオンとエメルが首都へ行ってからのことを思い出してみるけれど……うーん、気楽に過ごした記憶しかない。永遠の別れじゃなく、二人も何度か帰って来たりもしてたし。でも……


「そうだね」


キオンが首都へ行ってから、鳴らなくなった扉には何だか物足りなさを感じたりもした。あの時感じた気持ちは寂しさに似ているかもしれないと、私は少し思った。




アリア・ウォレスになってから、早数年。

私は、気づいたら十五歳になっていた。以前、拉致事件を体験して以降は穏やかな日々が続いている。

変わったことといえば、アイリスやエメルと敬語無しで話すことになったくらいだろうか。

最初のうちは慣れなかったアイリスも、今では普通に話せるようになった。


ちなみに未だ推しには会えていない。

去年、社交デビューしたキオンとエメルを口実に何度か首都へ遊びに行ってるくらいだ。

さすがに王宮に忍び込むわけにもいかないし。


小説通りなら、キオンとエメルは第一王子と仲良くなっているはずなんだけど……そんな話は二人から全く聞かない。



「どうしたの?」


私の疑問が顔に出てしまっていたようで、キオンが不思議そうに首を傾げた。これは、聞いてもいいのだろうか。


「お兄様とエメルってもしかして……友達いない?」

「へ?」


予想外だったらしい私の発言に、キオンが目をきょとんとさせる。


「大丈夫。友達は数より質が大事だと思うから」

「ぶはっ」

「……エメル?」


慰める言葉を続ければ、エメルが耐えきれないかのように吹き出した。それを見たキオンがエメルの名前を呼び、目を細める。


「…っいや、だって…ふ…っあはは!」

「お兄様、あんまり笑っちゃキオンが可哀想よ」

「……そう言うアイリスも、ちょっと笑ってるけど?」


なぜか笑うオルレアン兄妹にキオンは拗ねるように唇を尖らせた。それでも否定はしないのだから、遠からず当たっているようだ。



「それにしても、キオンに友達がいないって公女はよく分かったね」

「別に友達がいないわけじゃないから。それを言うならエメルだって似たようなもんでしょ」

「俺はいないんじゃなく作らないだけだけど?」

「ボクだってそうだし!」


また始まった二人の言い合いに、私は黙ってお茶を口へ運んだ。この喧嘩も見慣れたもんだ。

キオンは可愛いまま育ってほしいという願いは残念ながら叶わなかったけれど……私の前では可愛いからそれでいいことにした。


「アリアはドレスもう決めた?」


キオンとエメルを余所に、向かいに座っていたアイリスが問いかけてくる。


「ううん、まだ悩んでて」


普通の夜会とは違い社交デビューの場では、白や薄いピンクなど淡い色のドレスが伝統的とされている。結婚の準備ができていると社会に示すためだとか。だから黒や濃い色のドレスを着てくる人はまず居ない。

勿論礼儀は守るつもりでいるんだけど、一つ問題がある。可愛らしいアイリスとは違い、私には淡い色はあまり似合わないのだ。


まだ時間はあるし、ギリギリまで悩むつもりでいる。

なんてったって、ついに推しに会えるのだから!

推しの目に映るかどうかは関係ない。これはファンとしての礼儀のようなものだ。




デビュタントがもう、目前まで近づいていた。


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愛しの婚約者さまに、今日も命を狙われています こちらもよろしくお願いします₍ᐢ‥ᐢ₎ ♡
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