14.こんな展開なかった
素直に認めます。私が間違っていたと。
妹がいきなり飛び出して行ってキオンがじっとしているはずないと、少し考えたら分かったことなのに。私も意外と焦っていたようだ。
「ここは……?」
私と一緒に転移したキオンが呟く。
視界が切り替わった先は、地下牢のような場所だった。
辺りを見渡せば子供が二、三十人くらいと、鉄格子の向こう側に見張りらしき男が一人いる。
ちなみに、私は地下牢に入れられている側だ。
……まさか破滅を迎える前にこんな所へ入ることになるとは思わなかった。
「アリア様!キオン!」
驚いた声が響く。先にこっちへ来ていたアイリスが私達に気付いたようだ。
「まさか二人まで捕まっちゃうとは思わなかった」
「……待ち合わせ場所から近かったですからね」
本当は自分から飛び込んだんだけど……これも嘘ではない。
苦笑うエメルも、どうやら私達が助けを呼ぶと考えていたようだった。私は心の中で謝罪した。
「それで、一体何があったのですか?」
まずは状況整理から。落ち着きを取り戻した私は悲鳴が聞こえた時の状況を尋ね、アイリスはその時の事を思い出すかのように、ゆっくりと唇を動かした。
「お兄様と街を回り、待ち合わせ場所へ向かう途中に一人の男の子とすれ違ったんです。その子が何かから逃げるように怯えていたので、気になりつい声を掛けてしまって……」
「まぁ、簡単に言えば巻き込まれたんだよね」
アイリスの言葉にエメルが付け足す。
ヒロインだしね、巻き込まれるのも仕方ない。私は納得した。
「その男の子は今どこに居るのですか?」
この辺にいるのだろうか。聞きたいことがあるから、話ができたらいいんだけど。私は辺りを見渡した。
「その子を逃がしてるうちに私達が捕まってしまったのでここには居なくて……」
そんな私の心中を察したのか、アイリスが申し訳なさそうに眉を下げる。
「……無事に逃げられたのなら幸いですね」
良いことだった。
「じゃあ違う人に聞いてみよう」
居ないのならしょうがない。すぐ切り替え、私は代わりに他の人から話を聞くことにした。
動くなら見張りが少ないうちにしないと。
今の位置から近い場所にいて、且つ年齢がなるべく高い子供で。一番条件を満たした子に、私は怖がらせないよう慎重に話掛けた。
「突然ごめんね。少しいいかな?」
「……」
のだけれど、顔を上げた少年を見て戸惑う。
やせ細った身体に、何日も寝ていないのか酷いクマ、そして何より目に光がなかった。
この子の詳しい状況は分からないけど、確かに普通の子供なら突然連れ去られた上に、光も当たらない場所に長時間閉じ込められたら絶望するのが当たり前かもしれない。
こんな状態の子供に更に追い討ちをかけるわけにはいかないと、私は一言謝ってから退き、適任者を探すために少し移動することにした。
牢の中はそれなりの人数の大人が入れるくらいには広く、今は小さな子供しか居ないせいかスペースには余裕があった。だから四人で動くのは難しくなかったけど、ちょっと不審すぎる。私は後ろに付いてくる三人へ目を向けた。
「別に付いてこなくてもいいのに」
「リアが行くならボクも行く」
「私も行きます…!」
「それなら俺も行かなきゃだね。公女一人でこの二人の面倒見るのは大変でしょ」
「ボクはリアに面倒なんてかけないけど?エメルは一人で座って待ってなよ」
分かったから喧嘩しないで。
私は口を閉じた。そして、ぼんやりとしていれば見逃してしまう程の刹那。
――ふわりと甘くて優しい匂いがした
「シエナ……?」
以前、いいや。ほんの一時間程前にも嗅いだことがあるその香りは、確かにシエナのものだった。
だけど当然、シエナはここに居ない。代わりにその場所に居たのは小さな少年と少女だった。
「お姉ちゃんを知ってるの……?」
私の呟きが届いていたのか、少女が目を瞬かせる。
「お姉ちゃん…ってことはもしかして…」
キオンへ私は頷いた。もしかしてとは考えていたけど、やっぱりシエナの弟妹もここにいたようだった。
「ボク達はシエナの――むぐっ」
「私達が探してるのはシェイナだよ、お兄様。二人ともごめんね、人違いみたい。うーん、そろそろさっきの場所に戻ろうか」
「???」
私は明らかに戸惑っているキオンの手を引き、最初に居た場所へ戻った。
顔も名前も知らない子供を見つけるのはさすがに無理だと思っていたから、偶然見つけられたのはラッキーだった。「シエナの妹さんと弟さんはいませんか」と叫んで回るわけにもいかないし。
「リアさっきのどういうこと!?」
「シエナの弟妹が無事で良かったね」
「うん……ってそうじゃなくて!なんでシエナのこと知らないフリしたの?あの子達怯えてたよ。ボク達がシエナの知り合いだって伝えたら二人も安心できたんじゃない?」
そうだね、キオンの言葉は正しい。
私は怯えていた弟妹を思い出す。シエナの名前を口にした時、少し希望を見出した表情をしたのも。
だから、そんな二人の希望を断ち切った私はさながら悪魔のようだろう。
「お兄様は何か買い物をする時、どういう基準で物を選ぶ?」
「?」
答えの代わりに、私はキオンへ質問した。
「沢山の商品の中から一つを選ぶ場合――珍しかったり、貴重だったり、他の物よりも綺麗だったり、そういう基準で選ぶ人って少なからずいると思うんだよね」
払う値段が高ければ高いほど、そんな人も更に増えるだろうし。逆にそういった他とは違う商品は、売る側の工夫一つで大金にもなり得るだろう。
「なるほど。まるで今の俺達みたいだ」
ずっと黙っていたエメルがキオンよりも先に反応した。
そう、今の私達には〝貴族〟という肩書きがある。何の目的でここに子供を集めているのかは分からないけど、売るか利用するか、とにかく良いことではないだろう。
そもそもこんな真冬に誘拐事件を起こすような奴が正気なわけない。子供が死なないように気にするくらいの頭はあるのか少しの暖は取れているけど、それでも寒いし。
つまり待遇が最悪だ。
そんな今の状況で、貴族という肩書きがプラス要素になると思えるほど私は楽観的な性格ではない。「貴族だったの!?ごめんなさい」と簡単に解放してくれるはずもないだろうし。
もし、私達が近づいたせいでシエナの弟妹を傷つけるようなことになれば、私はシエナに顔向けができない。
だから必要以上に関わらないで、遠くから見守るくらいがちょうどいいのだ。
「お兄様」
意味を理解したのか、自分の発言を恥じているような表情のキオンを手招く。
私はつい計算して行動する癖があるから、キオンのように、目の前のことに対して真っ直ぐ行動できることがむしろ羨ましかった。
「お兄様が二人のことを思って言ったこと、ちゃんと知ってるからそんな顔しないで」
それにキオンはまだ子供だよ。ゆっくり大人になっていけばいい。アリアと同じ紫の色を優しく撫でた。
それからどれほど時間が経ったのか、アイリスが不安げに呟いた。
「すぐに助けが来てくれますよね……?」
「そうです、だから少し休んでください」
ずっと暗いし時計もないから正確な時間は分からないけど、多分もう深夜頃だろう。
「お兄様も寝て」
「うん……リアは?」
「私は眠くないからまだ大丈夫」
いつもなら、子供の身体のせいか夜には強制的に眠くなるのに、今日は全く眠くなかった。
子供の体力に、私の警戒心が勝ったのか。
安心させるためにアイリスの言葉を肯定したけど……実際は私にもいつ助けが来るのか分からなかった。
小説にはこんな展開なかったからだ。
数時間前、気になっていたことが三つあった。
一つ目は、シエナの弟妹のこと。
こんなことに巻き込まれてはいたけど、幸か不幸か目の届く範囲にいてくれるのは良かった。
二つ目は、これが首都で起きてる行方不明事件と関係があるのかどうかということ。
時々弟妹の様子を見る限り、周辺にいる子供達は知り合いではなさそうだった。だから公爵領以外の場所から来た子供が混ざっている可能性が高い。断言まではできないけど、首都で起きている事件と同一と考えてもいいだろう。
そして最後は――今この場所に、ヒーローがいるかどうか。
小説ではこんな展開見たこともなかったけど、幼少期に事件に巻き込まれてヒロインとヒーローが出会うシチュエーションは割と鉄板だったからもしかしてと思ってしまった。
まぁ結局、ヒーローどころか小説の登場人物すらいなかったんだけどね。私は息を吐いた。
いつもお読み頂きありがとうございます!
こぼれ話です。
シエナの妹は姉が作ってくれた香袋がお気に入りで持ち歩いています。兄が同じ場所に来るまで、一人で辛い時や怖い時はお守りのようにずっと握っていました。




