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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
9/47

レコーディングに向けて #1

本格的始動一日前の、みこと目線です。

  グループ発表から、一夜明けて。

  九月十六日。


  相変わらず、都心の最高気温が 三十五度といわれ、アスファルトから立ち昇る熱気が 履いている靴を溶かすのでは……と心配になる程だ。

  夏が嫌いではないみことだが、湿度の高さで 肌がベタつくのだけは我慢ならない。


「………あっちぃ」


  喉のケアのため、いくら暑くても 冷房をかけっぱなしで寝ることはしない。

  二年半とはいえ、プロ歌手として 活動させてもらっているのだ。

  体調管理は すべて自己責任。

  喉に良いといわれているものは必ず試すし、生活習慣には 特に気を付けている。


  夜更かししても、なるべく同じ時間に起きるように心がけているのも、その一つ。

  今日は たまたま普段よりも遅くなってしまったので、明日からは気を引き締めないと、と一人で反省する。


「………………フゥ」


  起きてすぐにシャワーを浴びて汗を流すと、気分がスッキリした。

  その流れで、歯磨きと髪のセットも済まして、ようやく キッチンへと向かう。

  冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、乾いた身体を潤しながら なんとなくテレビをつけると、朝のニュースからワイドショーヘ切り替わるところだった。


  昨夜は、グループ初の決起集会。

  飲みすぎない程度に酒も入り、グループのメンバーと 色々な話ができて、とても充実した一日だった。


  候補生の離脱、グループ発表の延期――――と、突如 発生した 予想外の出来事。

  これから どうなるのか。

  プロジェクトが終わってしまうのではないか。


  《悪い想像》が頭の中を巡り、自分を含めた周りの候補生達の間に動揺が広がる中。

  ただ一人、『落ち着いて、心配しないで』と 候補生たちに寄り添い 一人一人に声をかけていたのが、サポートスタッフの主任チーフ奏良そらだ。


  彼女は、どんな時、どんな場面でも、一貫して変わらないからこそ 誰もが信頼を寄せる。


  《候補生のために》《候補生を守る》

  こんなに候補生の事を 四六時中考えているスタッフなど、DHEでは彼女以外はいないと いってもいい。


  玄関先で鳴くセミの声を聞きながら、みことは 半年前の事を思い出していた。


*  *  *  *  *  *  *  *


  『三人とは 初めましてだね。サポートスタッフの綿貫 奏良そらです。これから よろしくお願いします』

  初めて 彼女と言葉を交わしたのは、今年の二月末。


  この大型プロジェクトが始まった《第一期》から、みことおり千尋ちひろの三人は オーディションの様子を注目して見ていた。

  自分たちのデビュー前とは、まったく違う。一からのレッスン、合宿、審査。


  恵まれて、整えられた環境。その分、一層 厳しい判定に、落選していく訓練生たち。


  自分の姿を投影して、胸がキリキリと痛んだ。


  第二期が終了し、続けて第三期が開催される。

  今回はプロアマを問わず、参加者を募集している―――

急に飛び込んできた 信じられないような情報に、最初は デマだと信じなかったくらいだ。


  けれど、それが本当の話だとわかってから。

  心が 揺れた。自分でも、驚くほど。

  もうすでに、プロとして活動しているというのに、どうしても 無視できない。考えてしまう。

  所属しているグループがあるのに、まるで浮気をしているような、とてつもない《罪悪感》。

  それを上回る、新しい未来を望む《期待感》。


  どちらも本音で、ぐちゃぐちゃになった時――― 実は、おり千尋ちひろも 同じ気持ちでいることを知ったのだ。

  

  それから三人で 徹底的に話し合い、意見がまとまったところで 先輩メンバーに相談に行き――――。

  『やりたければ、やってみなよ』と許しをもらって、この第三期への参加を表明したのである。


  よく、参加なんてできるよな。

  グループはどうするの。

  脱退とか解散になるのかな。

  裏切り者。

  何のために、デビューしたの。


  批判は、想像していた以上に 自分の身に突き刺さった。


  せっかくついてくれたファンの方にも、精一杯 気持ちを伝えられるようにしたつもりだが、本当に納得してもらえたかどうかは わからない。

  『Little Crown』ではなくなった、ただの 《熊谷 みこと》として、新しくスタートを切れるのか。


  自分の考えが、甘かったのではないか。

  手にしていたモノの価値に気付けず、愚かにも 捨ててしまったのではないか。


  不安はさらに不安を呼び、泥沼にハマっていく。

  第三期の 《初顔合わせ》を前に、情けない話たが 食事が喉を通らなくなっていた程だった。


  プロとして、他の候補生からは 特別な目で見られることも。

  せっかく射止めた《居場所》を捨ててきた《薄情者》として、レッテルが貼られてしまうことも。

  歯がゆくても 自分ではどうにもできない。


  知らず顔は強張こわばり、かつてないくらいの緊張感に押し潰されそうになって。


  そんなとき、リューイチよりも先に現れたのは 《ただの女性スタッフ》だった。

  『はーい、みんな揃ってますかー? 遅刻者はいないですねー?』

  『奏良そらさん!』

  『奏良そらさんだ!』

  『奏良そらさーん!』 

  第二期からの参加者は全員、誰もが彼女の登場に笑顔になって。


  一体、何者なんだ。

  何で こんなに、慕われている?

  言い方は悪いが、ただのスタッフなのに?


  怪しい宗教のようにも思える光景だったが、その理由は その後すぐに理解することになる。


  実際に、レッスン、合宿、とプロジェクトに参加を始めてみると、彼女がいかに 自分たちにとって《必要な存在》であるのか、思い知ったのである。

  ただのスタッフ、どころの話ではない。

  本当に、何から何まで、自分たちのことを徹底的に守り、全力で応援してくれているのが 痛いほど伝わってくるような人。


  自主練したくて、集合時間よりも早くレッスン会場に行った時も。

  休みの日に、自主的に行った日も。


  どんな時でも、奏良そらはすでに出勤していて、仕事をしているのだ。それも、どう見ても《他人の何倍》もの量を。

  押し付けられているのでは?―――と疑ったこともあったが、まったく違う。彼女は自ら率先して行っているし、彼女でないとさばけないことも多かった。


  真面目で、手堅くて、冷静で、周りを見渡せるところは、本気で尊敬する。

  押し付けない優しさや気遣いなど、《人として》学ぶべきところもあった。


  レッスンで 講師から手厳しい評価を受け、心底 悔しくて、恥ずかしくて、落ち込んでいた時も。

  大げさに励ますこともなく、かといって 放置するわけでもない、絶妙な 距離感。


  彼女の 気負わないナチュラルな雰囲気が、みんなを《自然体》でいさせてくれるのだ。


  あぁ、彼女は何があっても、味方でいてくれる。

  何が起きても、見捨てないでいてくれる。

  もう少し、頑張ってみよう。

  もう一歩、踏み出してみよう。


  そう、思わせてくれる人だった。



  そんな信頼をしていた人だからこそ。

  《追加メンバー》の選考会オーディションが開かれ その中の一人として登場した時は、とても複雑な気持ちになった。


  スタッフだったのに。

  ずっと応援してくれると信じていたのに。

  勝手に抱いた思いが 半分くらい裏切られたような気がして、純粋には喜べなかったのだ。


  しかも、歌わせてみれば、あの歌声。

  千尋ちひろが言ったように《脅威》であったし、おりが漏らしたように『負けたくない』と強烈に思ったのが 偽らざる本音。


  さらに、グループAの所属。よりにもよって、同じグループとは。


  彼女本人も そうだっただろうが、ルーカス以外のメンバー、四人とも全員 多少の戸惑いはあったと思う。


  それでも、さすがというべきか。


  『持ってるものは、すべて出す。使えるものは何だって使う。足りなければ、奪ってでも持ってくる。私がSTELLAステラに必要だってことなら……もう迷わない』


  キッパリと言い切った姿は、これまでに見てきた彼女と、何ら変わりはない。

  スタッフであれ、追加メンバーであれ、奏良そら奏良そらなのだ。

  どんな時も変わらない、揺るがない、そんな人。


  固くなっていた心を溶かすには、それで十分だった。

  最悪の場合、グループ発足時から ギクシャクしてしまいそうな場面で、やはり そうはならない。彼女が全力で、そうは させなかったから。


  気が付けば、この半年間 培ってきたイイ関係性のまま、STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネス開始スタートできたのである。


*  *  *  *  *  *  *  *


  本社ビルまでは、自宅マンションから電車で二駅、三十分もあれば到着する。


  事故や怪我など 何かがあっては困るため、DHEではプロになると自動車の運転を基本的に禁じられる。

  移動はもっぱら公共交通機関、売れっ子や先輩方はタクシーを使うが、新人の部類に入る自分は、まだまだ電車が分相応だ。


  実家を出て一人暮らしを始めて 七年。

  歌手になりたくて、絶対にDHEに所属する―――その決意の元、本社から近い今の物件に わざと決めた。

  どんなときも決意が揺るがないように――――自らを追い込むため、カタチから入るのは習性クセかもしれない。


  オーディションに落ちて、アルバイトで食いつないで。

  実家には頼るまい。

  仕送りを断って、意地でも 合格してみせる。

  その思いで ようやく掴みった『Little Crown』の追加メンバーの座。

  あの時は、プロになることが目的だったし、プロになれるだけでよかった。他には何も望まないと思っていたのに。


  プロとして見られるようになって、二年半。

  もっと上に行きたくて、さらに可能性を広げたくて、飛び込んだ新しい環境。

  まさか、半年前の自分には、こんな展開が待ち受けているなど、思いもしなかっただろう。

  それでも。


  ―――――悪い気は、しない。


  なるべくして なった。

  昨夜 そう思えてきて、なんだか 笑えた。

  肩のチカラを抜いてみれば、決められた五人が すごく当たり前のように、自然に感じられる。

  彼女の一言が その雰囲気を作り出した――――それも一つの原因だろう。




「……おし、もう、いいか?」

  汗が収まってきたのでクローゼットヘ向かい、しばし考える。

  今から着ていく服を決め、袖を通しかけて。

  ………やめた。


「……………違う、コレじゃないな。こっちか……いや、コレでもない」

  いくつも取り出しては組み合わせ、ああでもない こうでもない。

「やっぱコッチか?」


  普段なら、こんなには悩むことはない。

  プロのアーティストとして 人から見られる職業だ。見た目には 気を使っているが、もう少し 雑……否、その日のフィーリングで選んでいるのに。

  今日は、そうしたくはない。

「………いや、コレか?」

  自分を最大限 魅力的に見せられるモノ。

  知らず知らずのうちに、かなり気合の入ったコーディネートが完成していた。


  本気ガチの姿を鏡で確認し、ふと あることに気付く。

「………………デートじゃねぇんだよ」

  何やってんだ、俺。

  女の子とデートに行くわけではない。

  これから本社に行くのだ。


  ――――まぁきっと、奏良そらは必ずいるだろうけど。


「……………っ!?」

  待て、待て、待て。

  何を考えた?


  まるで、彼女に見せたいがために、真剣に服を選んでいるような。

「……あり得ない。マジで、やめて」

  自分で自分に突っ込んでも 虚しいだけ。


  では、いつものように、気楽な感じで行く?

「………………」


  『みことくんは何着てもかっこいいねぇ』

  以前に私服姿を 褒められたことがあったが、その時と今と、いったい 何が違うというのだ。


  違わない。違わない……はず。

  ――――――本当に違わない?


「何、ナニ、なに、自分が怖いんだけど」

  落ちつけ、変な意味じゃない。

  服装をこだわるのは、悪いことじゃない。

  ただ、せっかくだから、かっこつけた姿を 見てもらいたいだけ。

  ただ、それだけで、何もやましい気持ちはない。


  ひとしきり自分の中で 言い訳をし、結局 みことは気合の入ったコーディネートの方を選んで身に着けた。

  それに似合うピアス、ネックレスと、指輪も付け加えて、完成。

  

  どこから見ても、イイ男。これなら、合格点だ。

  とりあえず満足して、駅へと急ぐ。


  公共交通機関での移動は、それなりに人の視線が多い。

  一応、サングラスで顔を隠すようにしているが、なんたって、ファンがつくほどのイケメンで、スタイルもイイ。自分で言うのも気が引けるが、当然 目立ってしまうのは仕方がない。


  外の熱風のせいで せっかくセットした髪が崩れてしまいそうになり、チッと舌打ちする。後でもう一度 やり直さなければ。

  

  電車から降りて本社ビルへと入り、セキュリティのゲートをくぐる。

  まず向かったのは受付だ。アーティストやスタッフなど、主要な人たちの出勤の有無や、居場所がわかるからだ。


「おはようございます」

「おはようございます、あれ? 今日は活動が休みでは?」

「………自主練したくて」

  それは、嘘ではない。

  目的は、それなのだ。

  間違っても、単に彼女に会いに来た――――というわけではない。………たぶん。


  そう告げると、受付の男性スタッフは嬉しそうに笑う。

「頑張ってますね! プロジェクトをずっと応援してますよ」

「ありがとうございます。頑張ります!」

「あ、そういうことなら……奏良そらさんが第六レッスン室にいらっしゃいますよ」


  欲しい情報をゲットし、足取り軽く 階段を使って移動する。

  そもそも、DHEの中で、誰もが彼女のことを「奏良そらさん」とファーストネームで呼ぶのが、以前から気になっていた。

  昨夜 本人から聞いた話によると、今は退職していないそうだが、もう一人《綿貫》という同じ名字の人がいたらしい。

  その人と区別するために、彼を名字で呼び、奏良そらのことは名前で呼ぶ。

  その名残で いまだに続いているそうだ。


  奏でるという字に、良いと書く。

  改めて考えてみると、彼女にピッタリな名前ではないか。

  

  

  途中、トイレに寄って髪型を直してから、お目当ての 第六レッスンヘ。

  ガラス製の透明な扉から中を覗けば、忙しそうに何かをしている 彼女の姿が見えた。見たことのないスタッフも数名いる。

  入っていいのかは分からないが、とりあえず行くしかない。


  ………よし。

  気合を入れて扉を開けると、他のスタッフたちが先にみことに気付いて声を上げた。


「えっ!」

「おはようございます」

「ヤダ、みことくんじゃない」

みことくんも、来たの?」

  ……………「も」?


奏良そらさーん、二人目の《彼氏》ですね〜♪」

「こら、みことくんに失礼でしょ。そういう冗談は可哀想」

  こちらに気付いた奏良そらはスタッフをたしなめる。

「おはよう、みことくん。どうしたの?」

「自主練、しようと思って。………もしかして、邪魔した?」

  彼氏。 ……彼氏?

  彼氏に、自分は見えるのだろうか?


  嬉しいような、恥ずかしいような、むず痒い感覚。

  顔がニヤけるのを我慢して、平静を装う。


「さすが、いつも頑張ってるね! あ~、だったら 一緒に練習しない?」

「……いいの? 何か仕事してたんでしょ?」

「あぁ、でも もう終わるから」

「ですよね~。指示もらえたんで、僕らはもう行きますね」

「《彼氏さん》が《二人》も来たんじゃ、邪魔者は退散しますよ。奏良そらさんモテモテだなぁ~」

「だから、やめなさいって」


  スタッフの言葉に、ん?となる。

  いや、ちょっと待て。浮かれる前に。

  …………「二人も」って、どういうことだ。

  自分以外に――――いや、自分よりも先に、他に誰かいるのか!?


  目が据わったみことの背後から、聞き慣れた声がする。

「あれ、みことくんも来たんですか!?」


  何故か、休みのはずの ルーカスがいたのである。


*  *  *  *  *  *  *  *



奏良そらさん、持ってくるのって これで合ってますか?」

「あ、そうそう。ごめんね、重くなかった? お手伝いありがとう、ルーくん」

「全然♪ 楽しいからいいんでーす」


  ルーカスの奴。

  何で、いるんだよ。


  自分のことは棚に上げ、みことはルーカスを こっそり睨む。

「………えーと。みことくん? 怒ってます?」

「……怒って、ない」


  しかも、何だ その格好は。


  シンプルで派手すぎない服が好み――― と言っていたくせに、気合い入ってんじゃねぇか。


  自分だって本気ガチでキメて来たくせに―――なんだか、非常に面白くない。

  早く来ていたこともそうだし、ちゃっかり 彼女の仕事を手伝いながら、ガッチリ隣をキープしているように見えて……。

  モヤモヤするし、まるで《ケンカを売られている》気分だ。


  そんな こちらの心境などお構いなしに、ルーカスのスキンシップは止まらない。

奏良そらさん」「奏良そらさん?」「奏良そらさーん♪」


  いくら外国の血が流れているとはいえ、さすがに 馴れ馴れしくはないか?

  っていうか、彼女も彼女だ。

  男があんなにも近付いているのに、なぜ 好きなようにさせてんだよ。


  怒ってない、と言いながら、ふつふつと怒りが湧いてきて、はたと気付く。


  どうした、俺。大丈夫か。

  思っていた以上に、朝からおかしい。昨夜、飲みすぎたのだろうか。


  二日酔いのような、変な感覚に戸惑う。


「………とりあえず、ここに全部入っているから。吉井さんとマコちゃんで担当して。で、こっちは斎藤くんに 任せる。加藤ちゃんは――――」

  社会人のかがみ奏良そらはいつも通りに仕事モードだ。


  自分の抜けた穴を埋めるため、何人ものスタッフに仕事を引き継がせるのは 簡単なことではない。

「本当に申し訳ないけど、《何か》あったら、すぐに言ってね。何とかするから」

「………奏良そらさん、自分が一番 大変な状況なのに」

「……奏良そらさんに心配かけないように、自分たちで頑張ります!」

「うん、ありがとう。でも 何かあったら絶対に教えてね?」


  決意を秘めた瞳に、誰もが撃ち抜かれる。

  男も女も 関係ない。

  ある意味 《男らしい》真っ直ぐなところに、スタッフも等しく目がハートになっているではないか。



「やっぱり奏良そらさん、メチャクチャかっこいい……」

  ルーカスが 頬を染めてはしゃぐのも、無理はない。


  メンズ物しか着用しているのを見たことがないが、今日も 白のビッグサイズのTシャツに、光沢のある黒の細身パンツを合わせ、とてもクールだ。


  意識して かっこつけてきた自分が、ひどく恥ずかしくなるくらい――――飾らない、ナチュラルな美。

  少し開いた襟元から覗く 白い肌と鎖骨、黒のタンクトップとの対比がセクシーで。目のやり場に困るが、本人に自覚はない。


「………よし、じゃあ 練習を始めようかな?」

「おぉ、頑張って下さい! 僕たちは失礼しまーす」

「みんなによろしく言ってね。大変だろうけど 信じて任せたから、お願いします!」

奏良そらさん、ご飯だけはちゃんと食べてくださいよ?」

「はいはい、わかってるわかってる」

  室外へ出ていくスタッフを見送る 奏良そらの後ろ姿を見ながら、みことは ぼんやりと思った。



  

  ――――――もしかしたら。


  この人には、一生 勝てないのかもしれない、と。

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