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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
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グループ発表 #5

  補充された奏良そらを含め、デビュー候補生は全部で十九人。

  作るグループはA、B、Cの三グループだ。


「モニター越しだったけど、選考会オーディション見てもらったと思います。協議の結果、スタッフであった綿貫わたぬき 奏良そらさんに、新たなメンバーとして加わってもらうことになりました。男性ヴォーカルグループなのに、……って思う子もいるかもしれないけど」


  歌を聴かなければ、当然そう思ったかもしれない。

  どんなに優しいスタッフで、みんなが慕っていたとはいえ、性別は また別問題なのだから。

  けれど、実際に目の当たりにしてみれば、奏良そらが入るということに対しての《違和感》は 不思議と生まれなかった。レベルの差に 若干怖気付いている部分はあるけれど。


  それこそが、選考会オーディションを開いた目的でもあるリューイチは、内心 胸を撫で下ろす。


  いくら頑張り屋の奏良そらといえど、仲間から迎えてもらえないのは寂しいから。


「じゃあ もう一度《今後の流れ》を確認します」


  総合責任者はリューイチだ。

  それ以外に、グループごとの《専属プロデューサー》を置き、これからの活動を指導してもらいながら デビューを目指す。


「それから、オリジナル曲。これが決まらないと、グループの方向性とか、話し合うにもできないからね」


  今回のプロジェクトで一番のポイントは、デビュー前にもかかわらずオリジナル曲を作成すること。

「オリジナル曲を作り込みしながら、グループの方向性とか見えてくると思うし。その後は――――《全国行脚》に行ってもらいます」


  全国行脚とは。

  DHE MUSIC特有のもので、デビュー前の候補生たちが、ショッピングモールなどを借りて無料でパフォーマンスする《修行》のことである。


  お客様の目の前で、なまでパフォーマンスをこなすことで、未熟な面が浮き彫りになったり、トラブルの対処ができるようになったり、グループの結束力も格段に上がる。


  現在デビューしているグループのほとんどは、この全国行脚を経験し、一回り成長した状態でデビューしていた。

  韓国などでは このような修行を当たり前のようにさせているから、日本より実力が上だと評価が高いのだ。


  候補生のみならず、スタッフ、会場の関係者、来場するお客様。その全てで作り上げる空間は、デビュー後の候補生達にとって、何にも代えがたい《財産》になることだろう。


みことおり千尋ちひろは、初めてだね」


  プロとして活動する三人であるが、実は全国行脚は経験が無い。

  『Little Crown』というグループの《追加メンバー》としてプロデビューしていたため、今回の候補生のように、一からのレッスン、合宿、全国行脚など、三人は全てが初めてだった。


「ライブ経験がある三人にとっても、すごく貴重な経験になるはずだから、初心に戻ったつもりで 気合い入れて頑張って下さい」

「「「……はい!」」」

「おーし、いい返事だ」



  まずは、一番年齢層の若い グループC。

「名前は《Infinity》。無限大っていう意味ね」


 ・相沢 航大こうだい 十六歳

 ・加藤 未来みらい 十七歳

 ・清田きよた 裕介ゆうすけ 十九歳

 ・近衛このえ 恭弥きょうや 十四歳

 ・七尾ななお しょう 十六歳

 ・橋本 たつき 十五歳


  平均年齢 約十六歳。DHEの中でも年少グループだが、それぞれ年齢に伴わない 大人っぽさがあり、わかりやすく固定ファンが付きやすいグループだ。


「六人全員が《歌って踊れる》がコンセプトだ。それ以外の《付加価値》をどう付けていくかは、これからの君たち次第ってところかな」

  韓国などの海外グループに対抗するだけではなく。

  飽きられないように、独自の進化をしていく必要があるだろう。彼らの可能性は、グループ名の通り無限大なのだから。




  次に、人数が一番多い グループB。

「名前は《The One and Only》。唯一無二の、っていう意味ね」 


  プロのダンサー五人を含み、海外にルーツを持つメンバーが多い、八人組だ。

「ヴォーカル三人と、ラッパー五人。国際色豊かな部分を活かして、Infinityとは違う、唯一無二のパフォーマンスを期待します」


  ・小林 ひかる 十六歳 ※双子

  ・小林 眞白ましろ 十六歳 ※双子

  ・佐々木 じん 二十三歳

  ・首藤すどう レオナルド 十八歳

  ・千葉 祥太朗しょうたろう 十九歳

  ・仲宗根なかそね 真央まお 二十七歳

  ・ペク 智浩ジホ 二十四歳

  ・宮崎 千尋ちひろ 二十二歳



  平均年齢 約二十一歳、出身も年齢も職業もバラバラだが、それを どうグループのパワーに変えていけるか。

  プロヴォーカルの千尋ちひろとプロダンサーがいるため、彼らが中心となって作っていくだろう。





  そして、最後。問題のグループA。

  ここまで名前を呼ばれなかった残りの候補生と奏良そらが、自動的にメンバーだということは明確だった。


「グループAの名前は――――――」


  STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネス


STELLAステラには星のようにキラキラと輝く――――という意味があってね」


  歌が好きで、歌に愛と情熱を捧げる 歌手ヴォーカル集団グループ

  彼らの歌は、きっと聴く人を 幸せな笑顔にするだろう。


  しかも《HAPPINESS》というのは DHE社の一文字をとっている。


  DHE MUSICとは。 

 

  Dreamゆめ

  Happinessしあわせ

  Evolutionしんかの頭文字である。


  今まで どのグループも社名をもらったことはなかった。逆にいえば、それくらい期待されている、ということなのだ。



  ・おき 春音はると 二十歳

  ・熊谷くまがい みこと 二十五歳

  ・平良たいら おり 二十六歳

  ・渡辺わたなべ ルーカス まどか 二十四歳

  ・綿貫わたぬき 奏良そら 三十三歳



  平均年齢 二十五歳オーバーの、大人なヴォーカルグループだ。

  Infinity や The One and Only と比べて ダンス面では 未熟だが、マイクパフォーマンスなら随一を誇る。

STELLAステラは、とにかく歌を聴かせることが一番だから、ダンスをやらないってわけじゃないけど、自分たちのペースで これから強化していこう」


  しばらくダンスは、基礎練習を継続。

  加入する奏良そらだってダンス初心者だ。

  相当な特訓コースが待ち受けているだろう、頑張ってもらうしかない。



「このあとオリジナル曲の発表と、専属プロデューサーとの対面。それから、自分たちの方向性とか色々話し合うため、《会議ミーティング》の時間に当てます」

「リューイチさん、奏良そらさんがまだ来てませんけど?」

  候補生の中で一番 奏良そらと親交があるルーカスが質問する。 


  グループ発表があったというのに、奏良そらは姿を見せていない。  

奏良そらちゃんは、今 スタッフにお仕事引き継ぎ中なんだ。いきなり決まったから、ね」


  いつも他人の三倍は働いていた奏良そらが抜けるというのは、スタッフ側にとっては大きな痛手だ。

  今後、STELLAステラとして活動しながら、しばらくはスタッフ業務も兼任することも あるかもしれない。


「……………奏良そらさん、平気かな」

  STELLAステラの最年少メンバー春音はるとも、心配げにつぶやく。彼もまた、訓練生時代から 奏良そらに懐いている一人だ。


「とりあえず、曲の発表を始めようか。打ち合わせ終わったら一旦 来るように呼んであるから、そろそろ来るんじゃないかな」


  状況が目まぐるしく変わる中、オリジナル曲の発表が始まる。



*  *  *  *  *  *  *  *



  The One and Onlyのオリジナル曲は、彼らのエネルギッシュな歌とパフォーマンスを存分に発揮できる『explosion』、《爆発》という意味だ。


  〜♪♫〜〜♬♪〜♪♫♪〜〜♪


  重低音の響くサウンドに負けない、歌とラップ。

「…………すげぇ」

「超、かっこいい!」


  歌の割り振りなどは、次回ゆっくり決めること。

  プロダンサーがいるので、曲の振り付けはグループ全員で行ってもらうことが告げられた。

  さらに、専属プロデューサーは、『CRASH BOYZ』のダンスパフォーマー、ヒロミ。


「君たちを見に来たい、そう思わせるパフォーマンスをしてほしいし、DHEの代表となるようなグループになってほしい」

  歌もダンスも全力で。


  ………カロリー消費の激しいことになりそうだな、俺は無理だなぁ――――とリューイチは こっそり苦笑いした。





  Infinityのオリジナル曲は、『fly high』。

  大人っぽい彼らの魅力が出せるよう、色気はあるがスローテンポはあえて避け、スピード感があるというところが 新しい。

  サビでは高音やファルセットが連発するので、メインボーカルは たまったものではないが、歌いこなせたら相当すごい曲に出来上がるだろう。


  〜♬♪♬♪〜〜♪〜♬♪〜♬〜〜♬〜


  今の彼らにとっては、まだ歌いこなすには難しいかもしれない。

  だからこその挑戦でもあるし、できるようになることを想定して作成した。


  ――――作曲者は 奏良そらちゃんだけどね。


  今回の三曲の中で、奏良そらの作成した曲が一つだけ採用される――――はずだったのだが。

  こちらも、大きな変更がなされた。


  まぁ、本人が後で聞いたら さぞや驚くだろう。

  作曲者ソングライターとしての顔は まだ知られていないから、もう少し 候補生達には秘密にしておくけれど。


「この曲、絶対に歌いこなします!」


  メインヴォーカルの未来みらいの顔は真剣そのものだった。

  難曲に負けたくない、そんな思いも見え隠れするが、良い傾向だとリューイチは嬉しくなる。


  ヴォーカルとして悩んでいた時期を知っているから。

  挑もうとしている高い壁を、曲のタイトルのように軽々と飛び越えて行ってほしい。

「専属プロデューサーは、《DELIGHT》のタクヤだ。プロとしての魅せ方とか、色々 教わることが多いと思うから」

「「「「よろしくお願いします!」」」」


  元気な挨拶に満足して、リューイチは 最後のグループA―――――― STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネスの発表へと移ろうとしていた。



*  *  *  *  *  *  *  *




「…………………………………はぁ」

  候補生の元へ行くのに、躊躇ためらいがないわけがない。


  本当に、自分が行ってもいいのか?

  みんなは、受け入れてくれるのだろうか?


  この時間に来るように呼ばれていたのに、なかなか室内へ入っていけないまま。すでに数分が経過している。


  どんな顔をしてしていいのか、わからない。


  リューイチから話しを聞いて、選考会オーディションがあって、その夕方。

  外はすっかり日が落ちて、今日が終るのも 数時間といったところだ。


  たった一日――――否、半日しか経っていない。

  そんな短期間で、人の気持ちが変わるものではない。

  自分が候補生の立場なら、気持ちの切り替えなど 難しいだろう。


「……………やっぱり、ここにいた」


  ふいに、扉が開けられる。

  奏良そらを迎えに出てきたリューイチだった。

「………リューイチくん………」

「大丈夫、みんなを信じて」


  ―――――――自分を、自分の《してきたこと》を、信じてあげて。


「…………」

「誰よりも、みんなのことを応援しているんなら」


  一歩を、踏み出すべきだと。


  みんなのため。そして、自分のために。


「もうすでに、奏良そらちゃんは みんなの《目標》になってるんだから」


  カッコ悪いところは見せられないよ?

「!」


  リューイチが、全力で 退路を塞ぐ。

  同じ場所に留まることは、もう許されない。そんな時期は過ぎた、と言われているようだ。

  どう転がっても、進むことしか 道は無いらしい。


「私……………いいのかな」


  本当に、自分の歌が受け入れられるのか?

  自分の存在が、彼らにとってマイナスになりはしないだろうか?

  彼らのためと言いながら、何が一番正しいのか わからなくなってしまった。

「みんなのために 何かしたいって、それは今でも思ってるけど」

  彼らの《応援団長》であるべき自分が、《仲間》として同じステージに立ってもいいのだろうか?

「ステージは そんなに甘くないって知ってるし」


  デビュー前の候補生たちが行ってきた《全国行脚》。もちろん、奏良そらはスタッフとして 何回も帯同してきている。 

  人前で行うパフォーマンスが、どんなに大きいことであり、見ているお客様に どれだけ影響を与えることになるのか、一番近くで ずっと見てきたのだ。

「あの光の下に、私は立つ資格があるのかな」


  望んでも得られない、デビューという機会チャンス。輝かしい場所でありながら、当然 暗い部分も秘めていた。

  物事は、常に 表裏一体。

  光があれば 影がある。


「………奏良そらちゃん、もう《あの事》は忘れよう」


  かつて、誰よりも、何よりも応援していたグループがあった。

  彼らは訓練を経て候補生となり、見事デビューを勝ち取ったのだが。

  その中の一人が――――――いや、言葉に出すのもためらわれる。

  とにかく、自分がいることで、また同じことを繰り返してしまうのではないか?


「アレは、奏良そらちゃんのせいではないし、むしろ 奏良そらちゃんは被害者だ。非難されるのは間違ってるし、自分を責めちゃダメだ」

「でも………!」


  しばらく、訓練生や候補生達から 距離を置いて、別の仕事ばかりしていた五年間。

  社長から声がかからなければ、今も こんな場所にはいなかった。


  再び、訓練生や候補生のサポートスタッフに復帰して。

  ガールズグループ四つと 男性グループ二つのサポートをこなし、さらには 専属プロデューサーとして《ビーディー》という男性グループを世に送り出した。

「これまでの奏良そらちゃんの仕事ぶりが評価されて、今回もスタッフに抜擢されたんだよ?」

  社を挙げての大型プロジェクトの、しかも、サポートスタッフの主任チーフだ。


  それに、今回は。

  奏良そらがいることで潰れるような、そんなヤワな子たちではないのだ。

「…………………ね、そうでしょ?」

「………………」


  グラグラと、心が揺れる。

  拒否を続けるのも、疲れるものだ。

  かといって、できないものを 引き受けるつもりもない。


「初めから言ってるでしょ。奏良そらちゃんは、歌うべきだ」

  サポートスタッフという面で、もちろん優秀だ。このままスタッフとして 働いて欲しいけれど。

「歌でもそうだけど、奏良そらちゃんがいるだけで きっと、みんなにとってプラスになるはずだから」


  存在が。その言葉が。その視線が。

  人を惹きつける―――――天性の《魔性》。

「…………ほら、おいで」

  怖がらずに。

  

  さあ、一緒に みんなの所へ行こう。




「はい、みんなー。ようやく新しいメンバーが来てくれました。奏良そらちゃん、せっかくだから一言どうぞ?」

「えっ……」



  姿を変えた状態で、候補生の前に初めて立った時の 心境を、奏良そらのちにインタビューで こう語ることになる。


  『緊張しすぎて、何も覚えていない』と。


  STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネスの一員として立つ、記念すべき瞬間。




  大きな一歩というものは、笑顔で踏み出すことばかりではなく―――――案外 そんなものなのかもしれない。

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