掴みたい夢と 加速する 恋心 #1
十二月 十二日。
全国行脚の次回公演に向けて、どのグループも 準備に一層 熱が入る中。
一日の練習が始まる前の、午前八時 二十分。
STELLAのメンバーは、次の撮影用の《打ち合わせ》を行う女性スタッフの横で、そのやり取りを聞いていた。
嬉々として中心になっているのは、専属メイクスタッフの《エリカ》と サポートスタッフ副主任の《麻里奈》である。
集められた《衣装》や《小物》たちは、すべて《奏良》の撮影のための物。
目の前に広げられた《それら》を前にして、ルーカスの心中は 複雑だった。
「コレ………公開していいんですかね」
…………うん、春ちゃん。正解。
ボクも、まったく同じこと考えてたもん。
今からちょうど、二日前。
奏良がエリカと組んで撮影した《お試し写真》は、予告も無しに SNSに投下された。
『PINKY』の女の子たちからプレゼントされた《攻めた衣装》―――何よりも、ヤル気になった奏良の《表情》が、本当に『とんでもない』の一言に尽きる。
またしてもコメントの多さでSNSは機能停止を起こし、その日のトレンドは『神カワ』いうワードで埋め尽くされるという事態。
『神カワ』。
神がかり的な、可愛さ。
神々しく、何よりも無垢。
汚れなき、圧倒的な《存在感》。
不可侵の《領域》。
どれも写真に対してのコメントであり、ルーカスは 『みんな表現がうまいなぁ』と ただ感心するしかなかった。
反応の良さに後押しされ、さらに《攻める》べく 《第二弾》の撮影を計画しているのだが―――。
「………やり過ぎですって、エリカさん」
「何よ? 文句ある?」
エリカと奏良は長い付き合いらしく、お互い信頼し合っているのが わかる。
だから奏良も、『もう好きにして』とばかりに、大人しく エリカの《されるがまま》になっているのだろう。
とはいえ――――
「………あまり、奏良さんに《無理》させないでくださいよー」
凄ければいい、というものではない。
奏良に『派手好き』というような、良くないイメージがつくのではないか……と 心配してしまう。
華やかな世界だからこそ、その場所に立つためには、ある意味《平凡》では生き残れないのも 理解してはいる。
ただ、その《笑顔》と《輝き》の裏に、本当は何が隠れているのか………なんて、メンバーのように 常にそばにいる者でなければ、知る由もないだろう。
「何言ってるのよ、ルーカスくん。奏良ちゃんなのよ? 着せたい物なんて、それこそ山のように あるし」
「マジですか………」
用意された衣装の色は、混じりけのない《白》。
「ベビーピンクとか、ペールブルーとも迷ったけど、やっぱり 白が王道よね」
「わかります! あー、でも《ペールブルー》も捨てがたいっすね。奏良さん、ブルー系でも めっちゃ可愛いくなりますし」
エリカと麻里奈は、女子同士で大盛り上がり―――どんどん暴走していきそうで、怖い。
誰か、この二人を止めてくれる人は いないのか。
「そうなのよ。似合う色が多くて、選ぶの困っちゃって」
「しかも、ショートパンツ! 最高っす!」
「でしょう!?」
「女から見ても イヤらしくならないって、不思議ですよねぇ。嫌味なく、可愛い。………もう、この際 《肌見せ》も取り入れちゃいませんか?」
―――――だから、それは ヤバいですって………。
エリカが用意したのは、冬らしい もこもこ素材の ゆるパーカーと、対のショートパンツだった。
―――――奏良さんは、これで いいの?
一年中 メンズ服しか着ない奏良は、兄弟からのプレゼントでなければ、レディース服なんて まず手に取ることさえない、との徹底ぶりなのだ。
しかも、人前で《足を出すこと》を 特に嫌がっている。
似合うか 似合わないか――――そんなことは愚問だ。ミニ丈のスカートだって、似合わないわけがない。やれば、確実に 大きな話題にはなるだろう。
奏良特有の《クール》かつ《ナチュラル》な雰囲気と、甘く惑わすような《色気》。
幼さと 無垢さと、年相応の 大人の女性のセクシーさの 混在。
恋愛感情が無いルーカスでさえ ドキドキして、そう思うこと自体に、なんだか《イケナイこと》をしている気になってしまうのだ。
「はぁ………………」
いつだって、自分のことを見て欲しい。
他のグループと親しげにしている姿を見れば、当然 嫉妬だってする。
救ってもらった《あの日》、まさか こんなふうに思う日がくるなんて、想像もしなかった。
だからといって『独り占めしたい』とか、『誰にも見せたくない』とは 思わないのだ。いや、思ってはいけないと―――どこかでブレーキをかけているのかもしれないが。
ルーカスの中で、《恋愛》との線引きは《そこ》だった。
どんなに愛していても、自分にとっては《敬愛》。《憧れの存在》なのだ。
けれど、唯織や 尊は、その範囲を 大きく飛び越えてしまっていると思う。
見ていれば わかる。
彼らが、とっくに《本気》になっているということを。
――――どうするつもりなんですか、アニキたち?
どうしたい? どうなりたい?
『自分はモテない』と、奏良本人は 本気で信じているのだ。
堂々と、真正面から 口説いてくれるような人でないと、いつまで経っても 奏良は《一人》のままだろう。
仮に、『付き合ってくれ』と告白したとしても、『……どこに?』と、コントのようなボケを 素で返すような人だから。
自分が《好かれている》なんて、一ミリも思いもしないだろうから。
『君が 好き』と。
視線を合わせて。
じっくりと。情熱的に。何度でも。
根気よくアタックしていかないと、彼女の心には 絶対に響かない。
「………そろそろ時間だな。今日の練習 始めるぞー」
「はいはい、二人共、出てってください」
唯織と尊が、エリカと麻里奈を レッスン室から追い出しにかかる。
気が付けば、午前八時 半になっていた。
「えーっ」
「奏良さん、打ち合わせの続きは また今度やりますよ!」
奏良という《おもちゃ》で もっと遊びたいと、駄々をこねる《女子二人組》――――そう見えてしまうのは ルーカスだけだろうか。まったくもって たちが悪い。
「…………そのままで、いいのに」
無理をして、気張らなくたって。
いつもの《レッスン着》でも充分、奏良は とびきり《可愛い》のだから。
そんな周りの 《想い》や《視線》など、本日も まったく《気付いていない》長女――――やはり、誰かが そばにいて、しっかり彼女を守ってあげなければ――――と、ルーカスは改めて 強く思う。
「………今日は、何? どうしたの?」
「え?」
エリカたちが撮影について騒いでいた事など、当の本人は まるで《他人事》のような様子だった。
それくらい、集中している。
「エリカさんたちの話、聞いてなかったの?」
「あー…………えーと、うん?」
「どっちだよ」
「聞いてないな、これは」
朝来てから、奏良はパソコン画面と 練習ノートを見比べては、深く考え込んでいたのだ。
原因は、昨晩 ルーカスの方から持ちかけた《相談》―――きっと そのせいだろう。
「………実は昨日、ボク 奏良さんに相談したことがありまして」
「ルー?」
「相談?」
頼りっぱなしで申し訳ないとは思うが、この間のように、《不安》を胸にしまい込んで 自滅することだけは避けたかったから。
「ボクに足りないもの………それを 手に入れることと、苦手なことを克服していくこと。そのためには、どうしたらいいかって………」
自分に足りないものは、舞台での経験。それから、歌の レベルアップ。
それを身に付けるための《全国行脚》なのだが、その公演だけでは 到底足りない。
思いつく限りの《練習》はしているが、成長度合いが《緩やか》なのは認めざるを得なかった。
焦ってはいけないと思いつつも、他に、もっと何かできないか―――完全に手詰まり状態なのが 正直なところである。
「………………私も、足りない部分は 同じだからね」
「奏良さん?」
「有効な手段が 他にもないか、って………ずっと考えてたんだけど」
これまでの経験と、知識。
DHE MUSICという社内にある、様々なデータ。
講師陣の助言。
それらを総合的に考えて、たどり着いた《結論》。
「…………やっぱり、《一つ》しか 思いつかくて」
本当は、嫌だけど―――それが《最善》なら、やるしかない。そんな顔だった。
「………何、そんな《嫌なこと》なの?」
「嫌っていうか…………覚悟が必要、っていうか」
「覚悟なんて、とっくに決めたんじゃないの?」
「うっ」
唯織の鋭い指摘は、ルーカスの胸にも 突き刺さる。
その通りだ。
生半可な気持ちでは、何も掴めない。
「………教えてください、奏良さん。ボク、何をすれば いいですか?」
「………ルーくんだけじゃなく、私も やらなきゃ。もちろん、春くんも《必要》だと思う」
まずは、歌そのものの レベルアップ。
「もう一度、《基礎練習》を始めから、徹底的に《やり直す》こと。技術面での底上げは大事だし」
それに加えて。
「………シンプル、かつ ダイレクトに効果がある《経験値上げ》、かな」
「え?」
ため息とともに、奏良がメンバーに切り出した、究極の《武者修行》。
「もちろん、リューイチくんの許可を取ってからになるし、書類も必要だし。年末ライブの準備をしながら、どこに《その時間》を入れ込むか………」
時間が無い――――― 超 過密スケジュールなのに、さらに追加できるのか。
それでも、やるしかない。
やれることは、何だってやる。
上を目指すなら、のんびりしている時間なんて無いのだ。
「………やりましょう! ボク、やりたいです!」
上手くなるために、今 必要なことを。
諦めない。それが、自分の《長所》だから。
真剣なルーカスに、奏良は ふわりと笑った。
―――――あぁ、すごい。
これだけで、どこまでも行ける気がした。
目の前の、この人さえいれば―――何がきても 怖くはない。それは、一種の《魔法》。
「―――――じゃあ、《道路使用許可申請》をしなきゃね」
奏良の口から出たのは、DHEでは聞き慣れない、まさかの単語だった。
* * * * * * * *
『道路使用許可申請』。
「奏良さん、それって…………」
長女から告げられた単語に、さすがの尊も『嘘だろ』という顔をしている。
DHEでは、アマチュアも プロも関係なく、所属している以上、色々と《制約》が多かった。
ファンとの《近すぎる接触》や、固定のスタッフとの《密な関係性》の禁止、など―――アーティストの《カリスマ性》や《品位》を保つためには 仕方がない事なのかもしれない。
だから、その《活動》が許されているとは 思いもしなかったのだろう。
「――――――路上ライブか」
唯織だって、意外すぎる《提案》に、面食らった顔をしている。
それが どんなに《過酷》なことなのか。
奏良は もちろん知っていて、それでも《選択》するしかなかったのだ。
「………全国行脚という《修行の場》を設けているから、わざわざ表立ってやる必要が無いっていうのが、一般論なんだけど。ウチでも認められてはいるんだよ、一応。最近だと―――《B.D.》にも やらせたことだし」
「!」
「え!」
「B.D.が!?」
「マジで!?」
路上ライブ。
《見られる》という点では、これ以上のものはない。
「原点に戻るのは、今だからこそ 必要。もう一度 基礎からの やり直しは、今後を考えたら絶対やらなきゃダメだと思う」
何事も、基礎が重要。
基礎なくして、上達なんてあり得ない。
奏良は一貫して、それを言い続けてきた。
「…………全国行脚だけじゃ、足りない。そう言ってきた ルーくんの《意見》、私は正しいと思う。前回の公演で、より実感したし」
《緊張感》の克服には、とにかく回数をこなして、経験値を積む以外に 方法がないのだ。
「唯織くんと尊くんは、その部分では 私たち三人より、ずっと先に進んでるし」
五人の中で、差が あり過ぎるのだ。
先日の《悪夢の三日間》。あの失敗は、主にそこからきているともいえる。
いくら、メンバー同士で《フォロー》しあっても、簡単に その差は埋められない。どうしてもパフォーマンスの端々に 現われてしまうのだ。
人前では、誤魔化しなんて きかないから。
「…………一番ベストなのは、《一人》でやること」
「!」
「一人って………」
「…………これ。この映像、見て?」
奏良は 先程まで見ていたパソコン画面に、過去の映像を映し出す。
「!」
「わ!」
「これ………ミケさん!?」
「アオイさん、カナデさん………みなさん、全員いますね」
人通りの多い歩道に、間隔を空けて、一人ずつ。
立ち止まる人も少なく、見ている人も 生温い視線。
数年前の、まだ素人だった『B.D.』六人。
「……………」
「うわ………」
「しんど………」
「ボクなら、泣きそう………」
無名の若者が、一人で立つ、ということ。
誰もが振り返ったり、立ち止まる―――なんて、そんなの ただの《都市伝説》にすぎない。
「六人全員なら、まだ インパクトがあったかもしれないけど」
あえて、一人ずつ やらせたことに、意味がある。
「………最初の頃なんて、誰も止まってなんかくれなかったから」
実力が無いわけじゃない。
けれど、聴く人に《伝わるか》は、別の話。
「…………今の俺だって、同じことになるかもな」
すでにプロとして活動していた尊でさえ そう感じるのだから、まだデビュー前の素人なんて、《惨敗》して 当然といえる。
では、それが『STELLA』なら?
テレビ放送があるとはいえ、自分たちを知らない人も まだ多い。その中で、一体どれだけの人の足を 止めることができるだろう。
「………全国行脚は、ファンの゙方が わざわざ、自分たちを《目当て》に 見にきてくださる。けど、路上は違うから。誰も見てくれない―――それが当たり前」
足を止めさせるには《自分の歌》しかないのだ。
言い訳なんか、通用しない。ビジュアルだって、二の次。もしかしたら、オーディションの《審査員》より 残酷かもしれない。
歌手として、人を振り向かせるだけの《魅力》が無ければ、素通りされて 終りなのだ。
「緊張感を克服することと、自分の《アピールポイント》を見つけて《勝負》していくこと。路上での修行が 一番適していると思うんだ」
自分を信じて、緊張に負けずに 歌う。
自分の《武器》を見つけて、聴く人を 虜にする。
理想の―――プロの歌い手に、成長するために。
「……… 二人には申し訳ないけど、路上に出てる時間帯は、別行動させて」
完全、敵地。
守られた、安心 安全の《舞台》とは、百八十度 異なる。
全国行脚以上に、過酷な 挑戦。
それでも――――
「本拠地でなけりゃ、戦えない―――そんなレベルじゃ、これからプロになる、だなんて言えないから」
「………………それなら、《別行動》は違うだろ」
「え?」
パソコン画面から顔を上げた 唯織が、尊に目配せする。
「唯織くん?」
「………オレたちには必要ない、ってことは ないだろ?」
現状で満足しているなら、そもそもプロジェクトに参加なんてしていない。
プロになったのに、さらに《上》を目指したからこそ、ここにいるわけで。
「まさか………」
「俺たち全員で、やろう?」
尊が、力強く微笑む。
「!」
「………でも、それじゃ」
「よけいに、ボクたちとの《差》が縮まらないじゃないですかぁ!」
「………残念だったな」
「まぁ、諦めろ」
誰より、上手くなりたい。そのために必要なら、何だってやる。
同じメンバー相手だって、負ける気なんかない――――長男、次男の瞳が、何よりも雄弁に そう物語っていた。
「…………いいよな?」
――――――あぁ、そうか。
この二人だって、ずっと努力して 這い上がってきたのだから。
プロだからといって胡座をかいているような、軟弱者ではない。
「お前らだけ《抜けがけ》なんて、させねぇ」
「……… 二人とも………」
「だって、奏良さんだって やるんでしょ?」
人前に出ることが、誰よりも苦手だったのに。
「……………うん」
きっと、この先 慣れることはないのかもしれない。
人前で演奏することも、歌うことも、怖くて仕方がなくて。
それでも、やればやるだけ、《経験》は 確実に積めるはずだから。
「まさに………《修行》だな」
「まぁ………そういうのも、俺たちらしいだろ」
プロも素人も 関係無い。
攻めてこそ、『STELLA』。
「せっかく全員が毎日 集まれるからこそ、いろいろ 挑戦できるはずだし」
たとえ、それで《失敗》したとしても。
「ダメなら、また 《次》を考えればいいんだし」
他のグループより、結果を出せなきゃ おかしいだろ?
――――本当に、彼らときたら。
どこまで、カッコいいのだろう。
これでは、一人だけ弱音なんか 吐いていられないではないか。
「リューイチさんの許可が取れたら、管轄の警察署に《申請》するんだろ?」
「問題は、どこでやるか、だな」
「人通りの多い場所……やっぱり駅前とか? 時間帯も重要ですね」
「やる場所の《下見》、行ったほうがいいかな」
「必用な機材とか、借りられますよね?」
「スタッフも連れてかなきゃ だめだろ」
決めたら、次は どうするかを すぐに考えていて。
なんて頼もしく、憎らしい………愛すべき《仲間たち》。
「…………ふはっ」
もう、笑うしかなかった。
「………奏良さん?」
「え、今 笑うとこ?」
「え、いや ごめんごめん。……なんか、さすがだなぁ、って思って」
「?」
怖いのは、当たり前。個人差はあれど、それは みんな変わらないのだ。
どれだけ、目標に向かって《すべて》をかけられるか。
「…………そうだね。やろう、みんなで」
置いていかれたくない。失いたくはない。
そうならないために。
「………さっそくリューイチくんを《突撃》しないとね」
そして、その三十分後。
プロジェクトの責任者、リューイチに相談した結果――――許可は、下りた。
ただし、実行するにあたって、いくつかの《条件》は出されてしまう。
まず、機材は 借りてよし。
歌う曲は《DHE》の曲に限定で、一回のライブでは 四曲まで、とすること。
全国行脚で披露する曲とは、別の曲にすること。
それから、スタッフを必ず同行させること。
「さすがに、候補生だけ 単独で行かせるわけにはいかないからね」
所属している以上、会社としては守る義務がある。
外では 何が起こるかわからないから、それは当然だ。
そこまでは、いい。
奏良も 予想していた通り。
ただ、今回のプロジェクトは 通常とは何もかもが違うから。
「……最終的には、人員確保の問題だったかぁ……」
『B.D.』の時は、六人がバラバラになっても、一人ずつスタッフを同行させることができたが、今回は 三グループ同時にデビューを目指して活動しているのだ。
圧倒的な、スタッフ数の不足。
一人で 四人か五人分の《戦力》となっていた《奏良》が、スタッフから抜けた影響も 当然大きい。
リューイチから、『スタッフが足りないから、五人バラバラは 許可できない』と、言われてしまったのである。
「…………それにしても」
「《二手に分かれろ》って………」
「どうします? 分け方」
三人と、二人。
二手に分かれて、路上パフォーマンスをこなせ、というのだ。
「………うーん?」
奏良、ルーカス、春音という、《経験値不足組》をどう分けるか。
「………一人でやることを想定していたくらいだから、どんな分け方でも、それはそれで 面白いんじゃない?」
「奏良さん?」
どうせ分かれてやるなら、いつもと違う組み合わせがあっても悪くはない。
「あえて、毎回《くじ引き》にしてみる、とか」
「くじ引きって………」
「………けっこう 攻めるな」
「どうせやるなら、とことん この機会を有効活用して、成長したいし」
中途半端なんて、いらない。
やるなら、全力で。
結果はともあれ、やり切ることが 一番《重要》だから。
「………………オーケー」
「それぞれ、何を歌うか………迷うな」
「通行人の足を止めさせるためには、《十八番》で勝負するべきですかね?」
「いや、逆に 不慣れな曲のほうが いいんじゃね? その方が、自分の力を試せるだろうし」
唯織の意見には、奏良も賛成だった。
「SNSで、毎日 いろんな曲にチャレンジしてるでしょ? 難しく考えずに、それと同じように考えたら?」
生配信でのトーク以外に、絶え間なく 歌の動画を撮り続けているのだ。
歌の幅を広げるために習慣化した、いわゆる《公開カラオケ》。
「あ」
「………そうですね!」
この活動だって、同じようにやっているグループは他にはない。
それだけ、『STELLA』は独自の目標の下に、様々なジャンルを歌いこんでいる。
――――すべては、未来の《自分たち》のために。
「………じゃあ、具体的な日時や場所を決めるか?」
年末までに、少しでもレベルアップしておきたい。
自分たちを知らない観客―――目の肥えた 先輩方の《ファン》に見られるのだ。
「……どこよりも《上手い》って、言われたいし」
そうでなければならない。
それは―――――プライド。
怖がっているなんて馬鹿げている。
《歌》で生きていくと決めたのだから。
「…………誰であろうと、虜にしてみせる」
『STELLA LOVE HAPPINESS』として、新たな挑戦の幕開け。
次の公演まで、あと三日。
残された時間を考えながら、練習メニューなどを立て直すため、五人は 念入りに話し合うこととなった。