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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
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本当の自分を 愛してあげること #7

  自分たちグループの、精度を上げること。

  SNSで、売り込んでいくこと。


  年末ライブで 全員で歌う曲を、仕上げること。

  ユニットのオリジナル曲と、デュオのオリジナル曲を仕上げること。


「……………………… 超、ハードだわ」

  予想はしていたが、どれも手を抜かずに 全力となると、さすがの奏良そらでも 簡単にはいかない。

「………でも、私だけじゃない」


  候補生全員が、それぞれ 自分のやるべきことに集中して頑張っている最中なのだ。

  まして、自分は 全曲の《作曲者》なのだから、歌を覚えるという点は、免除されている。弱音を吐いている場合じゃない。


  意思を持って、観客を堕としにいく。

  自分で決めたことなのだから、誰のせいにもできない。

  何よりも――――


  今は、誰にも《負けたくない》からこそ。

「…………攻めるべき 時期とき



  十二月 九日。


  奏良そらは、いつものレッスン着へ着替えながら、《これからのこと》を考えていた。



「……………朝から、何?」

「え?」

奏良そらさん、すごい顔してますよー」

  おりとルーカスに指摘されて、無意識に 眉間にシワが寄っていたことに気付く。


「…………今日は、何を考えてたの?」

  家を出てから ずっと言葉少なげだったのを心配していたみことが、痺れを切らして聞いてくるほど。

  

  …………そんなに、無口だったっけ?


  今日も、相変わらずみことの《お迎え》は続いており、そろそろ《意識する》のも馬鹿らしいか―――と思う反面、なんだか 落ち着かなくなる《瞬間》があるのも事実だった。

  何と、表現するべきか。

  ………ソワソワ? うーん、しっくりこないか。


  具体的に《コレ》というものはないが――――

  いや、違う。

  思い当たることなら、ある。


  みことの《視線》、《眼差し》。


  以前と違うことくらい、さすがに 気付いている。


  ただ、それが《どういうこと》なのかは、わからなくて。

  身の置き所がないというか、少しだけ不安になるというか………とにかく、惑わされている場合ではない。

  目の前には、片付けなければならない《問題》は山積みなのだから。


「……………今後の予定と、年末ライブに向けてのことと。あとは――――」

「多いな」

「一個ずついきましょう!」

「………それで?」


  ――――話せ、と。


  おりに促されなくても、きちんとメンバーには話をするつもりではあった。

  もう、彼らに無駄に 心配をかけないように。

「そんな顔で見なくても、ちゃんと 今から言うから」

  一人の問題ではなく、みんなの問題。

  自分は もうスタッフではなく、みんなと同じ《アーティスト》。


  年末ライブだけではなく、今後のデビューまでを視野に入れて、奏良そらは様々な《計画》を考えていた。

  まずは、一つ目。

「これは、ぜひ《ティーオーツー2》のみんなに お願いしたいんだけど。……というか、彼らじゃなきゃ、無理だと思うから」


  年末カウントダウンライブで、全員で歌う曲。

「………《Candy Bitter Love》の《全体の振り付け》を、《ティーオーツー2》にやってもらいたいなぁ、ってこと」

「!」


  時間は 刻一刻と迫ってきているのに、ライブの具体的なことは、まだ 何も決められていない。

「待っているだけじゃ駄目だと思うし、与えられるまで 何もしないってのも 違うと思う」

  自分たちで積極的に、当日の舞台ステージを作っていく―――そういう姿勢が、何よりも大事だから。


  前座とはいえ、全国行脚とは会場の広さも違う。

  全員で並んで立つにしても、グループごとなのか、バラバラな方がいいのか。

  前後には、何のグループが、何の曲で歌うのか。

  パフォーマンスの順番によっても、見せ方は違ってくる。

「難しい振り付けは、あえて必要ないかもしれない。全員で、きれいに揃ってできる。その方が大事だろうし」


  何より、ユニットから漏れた候補生―――特に、ダンサーが多い『ティーオーツー2』に、わかりやすい《目標》を与えてあげたいのも、理由の一つだった。

  『STELLAステラ』はダンス初心者の集まりだから、こういう分野に関しては、まだ《戦力外》だと言わざるをえないし、『Infinity』 は中高生が多いから、今の時期 テスト期間と重なり、集合できない事情がある。


  彼らにしか、できない。

  誰かに必要とされたとき、人間ひとは何より 成長できるのだから。

「もちろん、ティーオーツー2のみんなが、引き受けてくれたら………の話になるけど」

「あいつらが来たら、真っ先に聞かなきゃな」

「………パフォーマンスの順番とか、それも重要だろ」

「どこまで決まってるのか、リューイチさんに 確認しなきゃ………ですね。もう来てるかなー」

「………時間的に、余裕はないですね。歌だけでも、自分がどこを任されてもいいように、先に準備しておかないと……」


  メンバーは、それぞれ 先のことを想像しながら、自分たちにできることを答える。

  その様子は、グループ結成当時には無かった姿だ。


  《セルフプロデュース》―――奏良そらが率先して動いてきたが、彼らも段々と 未来について《自ら考える》ということが身に付いてきたようで、嬉しくなる。

「…………他には?」

「他は――――」


  それこそ、《企画》ということでいえば、幾つもある。

  プロジェクト自体が盛り上がってきている《今》だからこそ。

「この時期だからこそ、攻めるべきだと思うから」


  このプロジェクトを知ってるいる人も、知らない人も。

「せっかく、SNSという便利な《手段ツール》があるんだから、そこは利用すべきでしょ」


  名付けて『Candy Bitter Loveチャレンジ』。

「略して、《CBLチャレンジ》」


  候補生全員で歌えるように作った曲だが、歌う人によって《様々な表現》がしやすい曲なのだ。

「リューイチくんの《TEMPEST》と、カナデたち《B.D.》は、別々に歌ってくれることが決まってるじゃない?」


  まずは、DHEのプロが、それぞれグループごとに 好きなように歌って 表現してくれるだろう。

「それと並行して、《一般参加》でも、何かできないかな、って思って」

  SNS上で、みんなが 好きな振り付けで踊る―――それが《CBLチャレンジ》。


  どんな振り付けでも、オーケー。

  上手い人も、踊れない人も、何だっていいのだ。

「ルールは、ただ一つ―――誰もが《楽しんでやること》。参加資格は、それだけ。全国の人が 携帯さえあればどこでもできる……年齢も性別も職業も、何も関係ない」

  参加する人の数だけ、ダンスが生まれる。


  曲の宣伝にもなるし、DHEのアピールにもつながる。

  《営業目的》と罵られようが、知ったことか。


  流行はやらせてしまえば、文句は言えないだろう。

奏良そらさん……」

「……………それ、面白そう!」

「小さい子とかも、出来そうだし」

「親子で参加とか、幼稚園とか学校とか、《団体》での参加もアリだな」

「社会人とかも、職業別とか、すごく個性が出そうですね」

  一人でも、団体でも。

  何でも、アリ。

「各地の DHEスクールにも案内を出して、《スクール生》たちにも参加してもらいたいし」

  そういうチャレンジは、プロアーティストを目指す子たちにとっては《良い経験》になるだろう。


「でも、それをどうやって《開始》させるんですか?」

  それだけの規模となると、大々的な《何か》が必要ではないのか。

  はるの質問に、奏良そらは ニヤリと笑う。

「まずは―――私たちが《チャレンジ開催》の《お知らせ》をするの」

  今や、候補生の三グループの中で、一番の《視聴者数》を稼ぐのは、間違いなくSTELLAステラだ。

「確かに……俺たちが告知すれば、それだけで《話題》にはなるな」

「ボクたち、すごい成長しましたね!」

  短期間で、毎日 生配信を続けてきた甲斐があったということだ。

  

「それから、《ティーオーツー2》のみんなに、《レクチャー動画》とかで 企画の《後押し》をしてもらって―――」

  レクチャー動画は、講師も兼任しているプロダンサーたちは 得意だから。

真央まおさんとか、レクチャー動画 面白いし、作り方上手いよな」

「でしょ? アレは、使えると思って」


  今回の目的は、全国に流行らせること。

「上手ければ、芸術的観点からみて《すごいな》ってなるけど。上手いのも、もちろん価値があるけど、そうでなくても《楽しんでやっている》のが伝わってくるもの、とか。見て面白いタイプのやつも、募集したいよね」

  定期的に 参加動画をチェックして、面白そうなのを発表してもいいかもしれない。

「生配信で、こんなのありましたー、って発表するのもいいですね!」

「企画として《認められるか》―――まずは、上層部うえの《許可》が必要だろ?」

「………そうだね、リューイチくんの許しを得ないと」


  しかし、奏良そらは 自分の企画には自信があった。

  これまで、この企画力のおかげで、B.D.などを世に出してきた―――といっても過言ではない。

  ダメ出し、できるものなら やってみろ。

「………そもそも、リューイチくんたちが さっさと詳細を決めて動かないから、こっちは時間が足りなくなってくるんだし」

  さっさと決めて、さっさと動く。

  仕事の面では、奏良そらは相当な《せっかち》といえた。

「だって―――さっさと動かないと、万が一 駄目だったとき、取り返しがつかなくなるし、修正する時間も無い。だから、早く動くことは大事なんだから」

  慣れないことなら、尚更だ。


  早く動いて、時間に余裕を持たせながら しっかり準備して、完璧な状態を目指す。

  準備は もちろんのこと、変更するときの方が大変だということを よく知っているから。

「………他には?」

「えーとね、次は――――」


  必要なこと。

  これから、必要になっていくであろうこと。


  奏良そらが考えられる、《すべて》のこと。



  その日の午前中―――STELLAステラは念入りなミーティングで 今後のことについて話し合うこととなった。


*  *  *  *  *  *  *  *



  翌日。


「…………えーと。この後は、《Kalliopeiaカリオペイア》の衣装決めで。明日の午後はアー写だし……」


  十二月 十日、午後。

  ホワイトボードに書き込まれた予定を、もう一度 おさらいしていく。


「ルーくんは、やっぱ このへんの改善。春くんは、ここかな………」

  ユニットの活動をしている時間は、ルーカスとはるとは 別行動になってしまうから。

  経験値の少ない二人が、二人だけで困らないように、と。

  練習メニューや 時間配分などを、細かく書き足しておく。


「こんなもんか」

「あれ、奏良そらさん……」

「それ………」

「うん、私たちが出かけてる間、困ったら参考にしてね」

  これでも、長年 《凄腕サポートスタッフ》だったのだ。

  候補生の弱点を見抜き、《時間割》を作るのは 得意である。

「ありがとうございます!」

奏良そらさん……もう、めっちゃ愛してるー!」

「はいはい、わかった わかった」

  ガバっと抱きついてくるルーカスを 適当に相手しながら、室内に掛けられた時計を見る。


  弟のりくとの待ち合わせ時間は、午後一時。


  午前中に成田空港に到着し、荷物の配送手配を終えたら、そのままDHE本社に来てくれることになっていた。


  海外から帰って来たばかりで疲れているだろうに、本当に有り難い。

  『時差ボケで 眠いだけだから』

  そう言って、快く引き受けてくれるところが、昔から ちっとも変わらない。


  本当に、《お人好し》。

  あまり口数が多い方ではないが、ものすごく 細やかで、気遣いができて、誰に対しても《優しい》。

  りくと初めて出会ったのは、両親の再婚が決まるか―――という頃、奏良そらが小学校に上がる前だった。

  奏良そらは六歳、りくは まだ二歳。


  モジモジしながら、『ねーね』と言ってくれたのを、今でもハッキリ覚えている。

  りくが《天使》でなかったら、なんだというのだ。純粋なに、撃ち殺されたと言ってもいい。


  あの子も、今年 二十九歳。

  海外という離れての生活にはなるが、どこにいても 連絡をくれるし、奏良そらの好きそうな物や 似合いそうな物を定期的に贈ってくれる、マメな性格は全然変わらない。


「そういえば………りくさんて、ここの場所 わかるの?」

  ふと、思い出したように みことが疑問を口にする。

「言われてみれば―――」

  午後の予定のために、こちらのレッスン室へ移動してきていた千尋ちひろも、はっとしたように顔を上げた。


「…………ナビくらい見るだろうけど、意外と 本社前の道、わかりづらいよな」

  迎えに行くか―――と、おりは立ち上がろうとする。


「あー、いらない いらない。全然 平気」

「そうなの?」

「だって、りくだって ここに通ってたし」

「え」

「何?」

「どういうこと?」


  あれ、言っていなかったっけ?

りくは、私たちの《先輩》にあたるから」

「!」

「え、じゃあ」

「候補生だった―――ってこと?」

「うん」


  彼は、歌もダンスも、お世辞抜きで上手かった。


  長男 碧海うみは、《歌うま俳優》としても有名だが、彼は何よりも《魅せ方》が上手い。

  三男 ひなたは、すでにデビューしているのだから歌はもちろんだが、《ダンス》が抜群に上手かった。

「でも綿貫家うちの三兄弟の中で、歌が一番上手いのは、りくなんだよね。………ひなに言ったら拗ねるから、あまり言わないでいるけど」

「マジかよ……………」

「ほんと、奏良そらさんって、どうなってるの?」

「……………候補生だったのに、デビューしなかったの?」

「そうなんだよね………」

 

  奏良そらの目から見ても、りくはアーティストとして、通用したはずだ。

  ただ上手いだけでなく、彼には《華》があったから。

「………デビュー間近、ってところまできてたんだけど」


  突如、本人が《辞退》を申し出てきて、DHEを辞めてしまったのだ。

「えぇ?」

「何それ」

「勿体ねぇ………」

「私も、そう思うよ。まぁ………でも、あの子の《選択》だし」


  候補生として、《アー写》撮影を繰り返すうちに、りくは《撮られる》ということに、惹かれていったらしい。

「あの子、あんま 話すの得意じゃなかったし」

  カメラという 限られた《枠》の中に、自分を最大限《表現》する―――歌手とは異なる、音も何も無い その《世界》が、彼にとっては案外 性に合っていたのかもしれない。


  身長 百八十五センチしかないから、二メートル超えの海外モデルから比べたら、断然 低い。身長だけで、お断り―――という場合だってある。

  それでも、今では立派に 海外モデルと肩を並べて仕事をしているのだから、彼なりに 相当な努力を積んだのだろう。

「アーティストを目指すほど、《魅せる》ということには 元々《意識》が高かったわけだし」

  有名ブランドのデザイナーからは『リクでないと駄目だ』とまで 言わせるようになっていて。


  姉としては、本当に誇らしい。

  しかも、中身は 昔と変わらず《いい子》だし。

「…………ほんと、可愛い子なんだよ」

「………天は二物を与えた、ってことか」

「俺たちのために わざわざ来てくれるってだけでも、相当 イイ人だとは思ったけど」

「仲良くしてあげてね」

「そりゃあ……俺たちの方こそ」


  そうこうしているうちに、リューイチが ひょっこり顔を出した。

「リューイチさん!」

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です!」

「みんな、頑張ってるかー?」

「ハイ!」


  その、リューイチの背後に――――

りく!」

「…………姉ちゃん」



  待っていた弟が、立っていたのである。


*  *  *  *  *  *  *  *



  いきなりショップに行く、というのは時間の無駄になるからと。

  まずは、いくつか 候補を絞ってから、出かける予定だった。


  ―――――マジかよ…………すげぇ笑顔。


  りくが部屋に入ってきてから、奏良そらは この上なく嬉しそうだった。

  柔らかい表情かおが、また 凄まじく 愛くるしくて。

  ―――――その瞳で、見つめられたい。独り占めしたい。


  みことは 触れたくなる衝動を抑えようと、深呼吸を繰り返して なんとか誤魔化す。

 


  現れたりくは、男の自分から見ても、文句なしに かっこよかった。

  先日、帰りがけに挨拶した 碧海うみは、吸い込まれるような ミステリアスな色気が漂う感じだったが、こちらの次男は かなり違う。


  本人が《時差ボケ》と言う通り、どこか眠そうな感じではあるが、きちんと 《Kalliopeiaカリオペイア》のために 一緒に考えてくれるあたり、《イイ人》なのは間違いない。

  しかも、《姉の同僚》として、歳下のみことたちに対しても、とても 礼儀正しく接してくれるなんて。

  スゴイ。奏良そらが《べた褒め》するだけはある。


  みことも、すぐにりくのことが好きになっていた。



「…………じゃあ、絞れた候補は、この四つくらいか」

「場所が 距離的に離れているから、考えて回らないと」

「一番の候補から 先に行く、とかは?」

「それだと………こういう順番か?」


  何でもいい、というわけではない。

  色は、濃紺ネイビーブルーで、程よい《セクシー系》。


  四人の会話を聞いていたりくが、静かに提案アドバイスをする。

「―――必ずしも 同じブランドで揃える必要はないと思う」

りく?」

「同じブランドだと デザイナーも同じだから、確かに《似た系統》になりやすいかもしれないけど」


  『Kalliopeiaカリオペイア』の゙四人は、個性もバラバラだから。

「どれが似合うかは、人それぞれだから。個人の良さを発揮できるもの―――そのことに重点を置いてみるのは? まったく違うショップや デザインでも、ドレスコードや雰囲気を揃えることって、意外とできるし」


  ……なるほど。言われてみれば、一理あり。

  結成以来、何でも《全揃え》をテーマにしていたSTELLAステラには、思いつかなかったことだ。

  

「……ごめん。ちょっと、でしゃばりすぎた?」

「そんなことないっすよ」

「正しい指摘、助かります」

「………さすが、プロ」


  みんなから弟を褒められた奏良そらは、誇らしげな顔で 話をまとめる。

「じゃあ、これから店を回って―――ピンときたものがあれば、ブランドに関わらず どんどん決めちゃう、ってことで」

「オーケー」

「それでいこう」

「それじゃあ、着替えるとするか」

りく 待ってて、私服に着替えてくるから」


  宣伝のために、いつも外出はレッスン着……としていたとはいえ、さすがに 服を見に行くのに コレでは恥ずかしい。


  今日も、みことは気合の入ったコーデで出勤していた。


  STELLAステラの活動をするようになってから、毎日のコーデには 手を抜かない。

  今まで以上に、意識して服やアクセサリーを合わせて、自分に似合う物、格好良く見せてくれるものに、こだわっている。


  おり千尋ちひろも、普段から 相当な《お洒落さん》だった。

  初めてプロになった時、自分が いかに《野暮ったい》かを、痛感したものだ。

  外見に自信はあるが、《見た目》というのは《総合力》―――どんなに 本人自体が良くても、身に付けるもので、魅力なんて どうにでも変わってしまうから。


  ――――この際、りくさんに 普段の《私服》も相談してみようか。この人なら、話を親身に聞いてくれそうだし。


  自分だけで選ぶと、どうしても偏ってしまう。

  色は、コレ。デザインは、コレ。


  それでは、変わり映えしない。

  どんなときも、他者を圧倒するくらいでないと、彼女の隣に堂々と立つことだって できないだろう。


  いつも通り、手早く着替えて 再集合すると。


「……さすが、みんな 着替えるの早いな」

  りくが感嘆の声を上げる。

「まぁ………」

「早くなった、といいますか」

おりは、前は 遅かったよなぁ」

「………オレは、完璧主義者なんだよ」

「あとは、姉ちゃんだけか」

  そう言いながら、りくは微妙な顔をした。


りくさん?」

「……………みんな。いつも姉が《迷惑》かけて、申し訳ない」

「え」

「あの」

「……………いや、言わなくても わかってる。あの人、本当に《世話が焼ける》し」

「!」


  心当たりが――――無いわけではない。

  世話が焼ける、という意見には みことも同感だった。

「………否定はしませんけど」

  あれは あれで、可愛いし。

  頑張りすぎている故のことだし。

  世話を焼くのは、嫌いではないし。


  奏良そらならば―――好きな人のことならば、もう 何だっていいと思うのは、おかしなことだろうか。

「《迷惑》っていうのとは、違います」

「………だな」

「――――――時々、マジで 腹は立つけど」


  おりの正直な感想に、りくは 心底 《げんなり》とした顔で 相槌を打つ。

「………わかる。ほんっっっと、あの人――――《適当》だからなぁ……」

「ぷっ………」


  細やかなんて、誰が言ったのか。

  《どうでもいい》と思ったことは、ぽーんと 遠くに投げ捨ててしまえる、豪快な性格。

「確かに」

「笑っちゃ 可哀想だろ」

「いや、その言い方が《姉弟きょうだいなんだな》、って思って」

  一年未満の付き合いである みことたちでさえ そう感じるのだから、一緒に育った弟ならば、それこそ色々あっただろう。


「………謝っときます。すいません。これからも、あんな姉ですが、面倒みてやってください」

「えっ」

「やめてくださいよ」

「俺たちの方こそ、ですって」

「…………お待たせー、って。何、みんなして………さては、私の悪口でも言ってたんでしょ?」

「………別に」

おりくんが笑ってる時は、絶対 そうでしょ!」

「………笑っちゃ悪いかよ!」

「…………しばく!」



  奏良そらの前では、あのおりでさえ、ただの《少年》のようになってしまう―――

  いつだって、周囲の人を《丸裸》にしてしまう人。


  本当に、飽きさせない―――目が離せない人。

「……………待て! 俺も、混ぜろ!」

「うわっ」


  往来だというのに、小学生のようにじゃれ合う三人を見ながら。


「…………今度、飲みに行きませんか」

  色々、話したいです。

「――――あぁ、ぜひ」

  連絡先、交換しようか。



  千尋ちひろりくという《歳の差》コンビは、二人で静かに約束を交わしていた。

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