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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
4/47

グループ発表 #4

  最終、五曲目。

  ラストを飾るに相応しい、泣きのバラードだ。


  先程と同じ『DESTINY』の代表曲、『Show me your smile』。好きあっているのに、別れてしまう男女の物語だ。

 

  泣くのを我慢した女性が、男性に向かって《笑ってサヨナラしよう》という内容の歌詞が切ないと、世代問わず人気が高い。カラオケヒットチャートでも常にランクインし、全国の歌自慢が こぞって歌う曲でもある。


  この曲を、どう料理するか。


  ライブとして楽しんでいた審査員たちは、一層 期待が高まったといっても過言ではなかった。


  アキトと相馬は、結果的にみて《善戦した》と言わざるをえない。


  二人共、この異様な空間の中で、よく歌いきったといえる。

  奏良そらという特殊なヴォーカルがいる隣で、よく落ち着いていられたと、精神力を大きく褒めるべきだろう。特に訓練生のアキトは、自分の実力を痛感しても、逃げずにやりきったことは、次の成長にきっとつながるはずだ。


  〜♪♬♪〜〜♬〜♬〜〜♪〜♬♪♫〜〜♪♫〜


   『I don't wanna see you cry』


  透明感のある声が、静かに語りだす。



   『わかっているつもりで

    見て見ぬふりをした

    答えはすぐそこにあるのに

    君のためだと 心に蓋をして』



  奏良そらに、男女のアレコレはわからない。

  知らないから、わかりようもない。


  だから、もっと身近なところで考えた。


  歌う時には、物語ストーリーを必ずイメージしながら歌うから。


  悲しい別れ。好きなのに、別れること。


  実の母が亡くなった時の気持ちを思い出し、その思いを歌詞に乗せる。


 

   『早く忘れてと 君は言うけど

    忘れられるはずないよ

    いつも笑顔だった君を

    傷付けた僕を許して



    泣きたいのは君のほうなのに

    どうして笑顔でいられるの

    最後まで 僕を想ってくれる

    君に 何を返せるだろう?』


  実際に、奏良そらの母も最期まで《笑顔》を貫いた人だった。

  笑って、と。 

  子どもたちに 言い続けた人だった。



  サビ前のBメロで、すでに半数以上が泣いていることに、歌っている奏良そらだけが気が付いていない。

  情熱的に歌い上げるバラードなのに、わざと掠れ気味に音を出すから。その歌声こえが切なすぎて、踏ん張っている《涙腺》に これでもか、と畳みかけてくるのだ。

  

   『行かないで Baby

    そんなこと言えない

    君が幸せならば

    他に何もいらない


    Show me your smile

    僕も君のために

    うまく笑えてるかな


    去ってゆく君と 残される僕

    どちらが つらいかなんて

    誰が決められるだろう


    

    行かないで――――――――♪』



  ワンコーラス最後の、渾身のロングトーン。

  泣きたいのに、笑顔でいなくてはならないつらさは、経験している者にしか表現できない。


  奏良そらは、そんな経験をしてきたのか?


  そんな想像も相まって、胸を鷲掴みにするような奏良そらの叫びに、誰もが感涙必至だった。

  フルコーラス歌っていたら、どうなっていることやら。号泣まで いくかもしれない。


  

  五曲すべて、終了。

  これで選考会オーディションも終ったと、誰もが思っていたのだが。


  社長が、もう一度静かにマイクを取る。

「もう一つ、いいかな」


  リューイチも予定外だったようで、驚きの表情を見せた。

「リューイチ、歌ってくれない?」



*  *  *  *  *  *  *



  歌う前の、不安やら何やら すべての感情が、終ってスッキリ消えていた。

  自分にできることは、やった。やれた、つもりだ。


  これを判断するのは、審査員の仕事。


  清々しい気持ちで 深く深呼吸をした奏良そらの耳に、社長のとんでもない発言が飛び込んできた。


「リューイチ、歌ってくれない?」

「え、ボクですか?」

「うん、そう。この三人とデュエットしてよ」

「おーっと、そうきましたか」


  ソロでの歌唱は、先程の五曲で充分 把握できた。

  しかし、今回はソロデビューではなく、グループでのデビューなのだ。


  他人と一緒に歌った時、魅力的に見せられるか。

  一人だけ目立ったり、逆に 埋もれて目立たないのもダメだ。

  他のメンバーが歌いたくなるような、誘えるような歌い方。

  それができるのかも、プロの必須条件だから。



「いいッスよ。何でいきます?」

「うーん………ミリー先生 オススメある?」

  ヴォイストレーナーの一人に尋ねる。


  ――――決めてなかったんかい!

  スタッフに突っ込まれても、社長は気にしない。


「あ~、そうですね。じゃあ――――――アレでどうですか?」


  突如 決まったのは、『7(ナナン)』の『LOVE STORY』。

  

「リューイチに 消されずに歌うこと。それから、リューイチが ノリノリに歌えるように、仕掛けること」


  言うのは簡単だが、実際にやるのは難しい。

  むしろ、これはプロになってからの課題だ。

  デビュー前から求めるには 酷な話である。


  だからといって、拒否権はない。


「じゃあリューイチ、スタンバイ」

「はーい」

「アキトくんから、はい、お願いします」


  曲をかけるようにスタッフに指示し、あっと言う間に前奏が流れ出す。



   『会いたい その言葉に

    駆け出していた

    平気なフリは もうできない

    

  

    口に出したら 止まらない

    電話越しじゃ もう隠せない

    I miss you

    君をこの手で抱きしめたい』


  ミドルテンポのバラードだ。

  情感たっぷりに歌うと もたつくし、サラッとし過ぎても味気ない。

  絶妙な、さじ加減。


  これは、正直プロのヴォーカルでも苦戦するだろう。


  リューイチは、さすがに上手い。

  そのリューイチに、訓練生のアキトはあっさり飲み込まれてしまった。


  相馬は、飲まれはしないが、リューイチに合わせて歌うことができなかった。

  俺が、俺が―――と、自己主張の強さが仇となる。


  では、奏良そらはどうなのかというと。



「お〜♪」


  思わず、社長が感嘆の声を漏らす。


  まるで、長年 グループを組んでいるメンバーのように、自然と溶け込み ハーモニーをつける。

  自分のパート部分は積極的に歌って、リューイチに繋げる。


  目の前で こんなふうに歌われたら、リューイチがハイテンションになるのも無理はない。

  誰が聴いても《一緒に歌いたい!》と思わせる。それこそが 最大の強み。

  奏良そらマジックなのだ。



「はい、三人ともありがとう。お疲れ様でした」

  今度こそ、選考会オーディションが本当に終った。

「結果は、追って連絡します。じゃあ全員、解散!」





  マイクを回収に来たスタッフに囲まれて、奏良そらは やっと終ったと実感する。


「もう、もう! 奏良そらさん、何で内緒にしてたんですかー!」

「そーですよ、見た目もびっくりしたけど!」

「歌! 一曲目から鳥肌立っちゃって!」

「僕、めっちゃ泣きました!」

「私、二曲目でキュン死にしましたよ!」

「Sniper、アレ最高にかっこよかったです!」


  自分の歌で、こんなにも反応してもらえた経験が無かったために、どう返事を返していいのかわからない。


「戸惑ってるの?」

「やだ、可愛い」

「歌ってる時と別人じゃない」

「………っていうか、何で黙ってたのよ」

  ヴォイストレーナーやダンストレーナーは、奏良そらと同年代が多いため、言葉に遠慮がなかった。

「絶対に《コラボ企画》するから、待ってなさいよ?」

「……イヤでーす……」

「ここまで歌っておいて、無理だから」

「ねー、シンさんの曲とか、すごく合いそうじゃない?」

「あ、いーかも、似合いそう」

「早めに《新曲作れ》って、圧かけとくわ」

「何系? バラード?」

「どのジャンルもいいけど、バラードは やっぱ外せないよね~」


  会話だけ、なんだか独り歩きしていく。


  今更だけど、逃げたい。


  女性――――特に《大人女子》は怖い。グイグイくるパワーに対して、奏良そらの防御力は低すぎた。同性なのに、何故か精神がゴリゴリ削られていく気がするのだ。


奏良そらちゃーん、このあと打ち合わせあるから来て〜」


  リューイチの助け舟に、奏良そらはすぐに乗っかった。

  持つべきものは、長年の友。

  否、兄の友だけれども。幼馴染、くらいは言っても許される仲だろう。


「結局、リューイチくんが連れてっちゃうんだよね」

「過保護過ぎ〜」

「まぁ、分からなくもないけど」

「それにしても、奏良そらちゃんの あのビジュアル。犯罪だよね~」

「雑誌社、争奪戦かもね? うちの広報課も宣伝しがいがあるわ〜」

「他の子もイケメン揃いだし。グループA、楽しみ〜♪」



  ミニライブをたっぷり楽しんだスタッフ達は、元気をチャージして、各々の仕事に戻っていった。



*  *  *  *  *  *  *



  一方、こちらは別室でモニター越しに見ていた 候補生、十八人。


  候補生といえど、経歴は様々だ。



  オーディションから勝ち上がってきた子。


  候補生ながらデビュー直前の審査で落選し、敗者復活して臨んでいる子。


  プロダンサーとして活動するも、アーティストになりたくて応募してきた子。


  プロのヴォーカルとしてデビューするも、レベルアップを望んで、掛け持ち覚悟で 応募した子もいる。



「………ヤバい」

「ヤバかった」



  この場にいる全員が、奏良そらをよく知っているつもりだった。

  この企画が始まって六ヶ月。

  候補生が困らないように、文字通り駆け回ってサポートしてくれているのを、みんなが理解していた。


  奏良そらに言えば、何とかしてくれる。

  奏良そらに相談すれば、解決できる。


  もっと前から関わってきた子もいるため、奏良そらの存在というのは 候補生にとって大きかった。


  一昨日、仲間であった一人が辞退し去ってゆくのを目の当たりにし、少なからず動揺していたが、その時も奏良そらが積極的に声をかけ落ち着かせてくれたのに。


  まさかの、《メンバー補充》の話がきて。

  さらに、選考会オーディションをする、と急展開し。


  出てきたのは、イメチェンしまくりの 奏良そら、だなんて。


  一体、誰が想像できただろうか。


「あれってさ、最初の二人にはホントごめんなさいって感じだけど」

選考会オーディションやる意味、無かったよね」

「誰が見たって、奏良そらさん一択だよな」

「それしかないっしょ」


  強烈な登場に度肝を抜かれたが、あとに続く歌声のほうが、もっとインパクトが大きかった。


「俺さ、ミリー先生のヴォーカルレッスンで泣かされると、いっつも奏良そらさんとこに行ってたんだけど」

「俺も、俺も」

「え、みんな行ってるよね?」

「行ってる、行ってる。じゃなきゃ 毎回立ち直れないわ、マジで」

「なんか、やたらと《的確なアドバイス》くれるって思ってたんだよな」

「……………確かに」

「今 思い返してみると、そうかも」


  講師陣は、当然 厳しい。プロになるためのレッスンなのだから、訓練生や候補生は たいてい泣かされる。

  そこから、どう這い上がれるか。

  自分だけで対処せずに、周りに助けを求めることも 大切なことだった。


  一人では限界がある。視野も狭まってしまう。

  相談したり、お互い助け合ったり、大人に助けを求められるか。

  それを学ばせるために、サポートスタッフは常に近くに存在する。

  声をかけられたらいつでも相談に乗れるように、メンタルサポートも学びつつ、日々 候補生たちと向き合っているのだ。



  大型テーブルに 十八人全員が座って映像を見ていたが、その中の三人が 突如椅子を引いて立ち上がる。


  プロ歌手でありながら、さらなる高みを目指して挑戦している三人――――みことおり千尋ちひろだ。


  どうしたのか、と不思議そうな他の候補生達の顔を見て、三人の中では 一番年下の千尋ちひろが口を開く。


「………俺は、正直 《脅威》だと思った」

「「「「「え」」」」」


  まさかの単語に、十五人は固まる。


  言葉の意味を測りかねているメンバーに向かって、みことが補足した。

「今回の企画は、落とすオーディションじゃないからよかったけど」

  通常、オーディションというのは、誰かが受かって、誰かが落ちる。そういうものだ。

「もし、今回も普通の選考の仕方だったら―――――」


  奏良そらが入ることで。

  確実に、誰か一人が不合格になっていただろう。


  プロとして、活動して わずか二年半。

  たったそれだけでも、プロという世界の厳しさを肌で感じてきた三人にとって、実力がいまだ未知数ともいえる奏良そらの存在は、言葉の通り《脅威》でしかなかった。

「今日の歌は、きっと百パーセントじゃないと思う」

  いきなり連れてこられたような、戸惑った表情。

  断れない中で、受け入れるしかなかった――――そんな会社の裏事情が想像できる。

  それでも、できる限りのことを 披露して見せた。

  

  しかも。

  髪や見た目を少し変えただけなのに、あんなにも雰囲気が変わるなんて。

  イケメンとしても それなりにファンがついている三人にも負けない、あの中性的なビジュアル。

  

  圧倒的な歌声と、身にまとうオーラ。

  プロになった自分たちだからこそ、おそらく誰よりも強く思ったはずだ。


  ――――――――悔しい、と。


  憧れの先輩や、上手なアーティスト達を間近に見てきたというのに。


「…………俺たちはプロだからって、みんなと比較するつもりもないし、このメンバーで一緒にレッスンしたり合宿したり、頑張ってきただろ」


  ここにいる全員がライバルであり、仲間だった。

  まだグループ発表されていないから、どんなグループに所属するのかもわからない。

  誰と同じになってもいいと思えるくらいは、苦楽を共にしてきて、仲良くなったと言える。


  それぞれ個性があって、才能をたくさん持っていた。見習いたいこともあるし、苦手な部分を教え合ったりもしてきた。

「みんなにだって、もちろん絶対負けたくないって思ってる」

  だけど、それ以上に。


「………………オレ、《あの人》に絶対 負けたくないわ」

  おりが、はっきりと宣言した。


  元スタッフだからとか、女性だからとか、そんなことではない。あの歌声を聴いたら、そんなことは、些細なことでしかない。


  そうではなくて。

  歌い手として。


  奏良そらは、ずっと《先》を歩いていたから。


「「「「「!!」」」」」


  言われて、他の十五人も ようやく気付く。


  仲間というには、遠すぎた。

  あまりにも、差がありすぎた。今はまだ。


「会社は、俺たちに発破をかけてるってこと?」


  追いかけろ、と。

  プロで活躍するためには、あの位置まで行け、と。


「……………………………」


  スタッフとしての奏良そらがくれたアドバイスを、今更ながら思い出してみる。


  自分を見つめ直すこと。

  自分を知ること。

  色々なことに触れて、幅を広げること。

  誰かに頼ること。

  何より、好きと言う気持ちを忘れないこと。

  悔しいという気持ちを 無駄にしないこと。


「俺は、めちゃくちゃ悔しいと思った」

  顔を歪ませて、千尋ちひろが言う。


「俺だって………もっと歌える。今よりずっと、上手くなれる」

  みことは、上にいくためには何が必要か、考え込むような表情で。


「………とりあえず、オレたちは自主練するけど?」

  おりは、《お前たちはいいのか》、と問う。


  運営スタッフからは、次の時間スケジュールの予定がまだ出ていなかった。

  ダラダラと遊んで 無駄に時間を費やしている場合ではない。


  プロの三人が 率先して動き出すのにつられ、他のメンバーも 次々と立ち上がる。







  課題で出されていた歌やダンスを練習しながら プロデューサー達を待つこと、一時間。


  グループ発表の知らせを持ったリューイチが顔を出し、待ちに待った発表が行われる。

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