痛いくらいの覚悟と 勇気 #4
説明部分が多いかもしれませんが、今後に必要なところなのでお付き合い願います。
十一月 二十九日。午後一時。
昼ご飯を食べるために、奏良は、唯織、尊、千尋の四人で 本社ビルから少し離れた先の カフェに来ていた。
無農薬で新鮮な野菜を使っているサラダや リゾットなど、ヘルシーメニューが豊富な所で、疲れた身体にも摂取しやすいだろうと 尊の提案である。
これなら、ちゃんと『食べるよな』と、目で訴えられてしまえば、あまり食欲がないとは言えない。
世話焼き次男の《お母さん気質》は、場合によっては 結構面倒くさい―――なんて、口に出したら怒られそうだから、黙っているけれど。
三人に捕まったついでに、この際だからと 奏良は《協力》を申し出た。
「…………千尋くんには、先に話さなきゃいけないことがあるよね」
STELLAの二人は 奏良の事情をすでに色々と知っていたが、千尋にとっては初めての情報ばかり。
仮歌シンガーであり、作曲者であり、企画スタッフでもあり、プロデュースもしてきた過去を知らないと、ここから先の話はできないから。
驚きながらも、どこか納得しながら聞いていた千尋は、静かに 次の話を促した。
………さすが千尋くん。落ち着いてるなぁ。
その様子に感心しつつ、安心して 次の段階に入ることにする。
このプロジェクトでは 候補生とはいえ、彼らはすでに《プロ歌手》だ。
年齢的にも守ってあげなければならない《子供》でもないし、最近は ぐっと《成長》だってしてきている。
すべて、自分一人では、こなせない。
彼らを《仲間》として認めているから、次に起こりうる可能性のあることを、包み隠さずに 話す。
「……………と、いうわけなの」
リューイチからは何も教えてもらってはいないが、状況から考えて 想像することはできる。
あながち、的はずれではないはずだ。
「…………プロジェクトに干渉できて――――」
「上層部よりも《上》となると―――」
「…………金の《出どころ》か」
表現の仕方が唯織らしくて、少し笑いそうになる。
「株主とか、そういう系?」
千尋は三人の中では 一番歳若いが、大人びているから、こういう話題でも充分 話ができる。
「………………ご名答」
テレビ放映も順調で、SNS活動や 曲の配信だって、たまに機能停止するほどの反響ぶりだ。盛り上がっているのは間違えない。
世間的に、今回のプロジェクトは大きな話題となっていて、雑誌社の取材だって 多くきているのに。
まだ、足りない――――そう言われているのと同じこと。
「…………ここぞとばかり、《売上》を伸ばしておきたいんでしょ」
ここ数年、感染症問題で 音楽業界は大打撃を受けたから。
ライブやツアーの中止、席を大幅に減らしての公演など、《利益》という面で考えれば わからなくもない。
わからなくもないが、それが直接《候補生》に矛先が向けられるのは、また別の話だ。
「……………それで? 具体的には?」
「収益を上げるっていっても、ライブでもやらせるつもり?」
「全国行脚のステージ以外で?」
どれだけ、候補生が頑張っているか。
ここまで仕上げるのに、何を捨て、何を犠牲にしてきたか。
何も、わかってはいない。
わかってはいないからこそ、言えるのだろうが。
「…………新たな《話題性》を作れ、だって」
「…………はぁ!?」
尊の反応は早く、わかりやすく声を荒らげる。
「ふざけんなよ………」
千尋は少し遅れて、静かに毒づく。
「…………………バカなの?」
唯織は案の定、辛辣だ。
怒り方も三者三様で、面白いなぁと奏良は 思う。
「口を出すなら出すなりに、もっと状況をわかったうえで言ってくるなら、こっちだって譲歩してやらないこともないけど」
全国行脚を成功させるので 手一杯なのに、新しい《話題作り》とは。
これ以上、負荷をかけるとは、気が知れない。
「抗ったって、結局は 上層部だって従うしかないのが目に見えてるからね」
心苦しくても、何かをさせないと――――と、動くしかないだろう。
そうなれば、キツくなるのは当然 候補生――――――つまり、《自分たち》なのだ。
「合同練習の話が出たでしょ? あれは、元々 もっと先の《構想》から生まれたことなの」
「もっと、先?」
いくら金がかかるとはいえ、最低でも翌年 一月くらいまでは、全国行脚の公演はあるはずだ。
「全国行脚を終えてから………三月か、四月くらいかな? そのあたりに、一つ――――大きな会場でパフォーマンスさせることは、前から決まってたの」
「…………マジで?」
「………うん。今のところ、《武道館》が最有力」
「武道館!?」
「……とんでもない話だな」
もちろん単独でやるわけではなく、どこかのグループのライブに お邪魔させてもらう―――というかたちになるが、武道館なんて 誰でもそう簡単に立てる舞台ではない。
それだけ、今回のプロジェクトには期待が掛けられていて、候補生の成長も順調だと判断されている、と考えていいだろう。
あまりにもスケールの大きな話に、萎縮してしまわないように――――あえて、これまで隠してきたけれど。
今なら…………今の この三人なら、大丈夫。
そう確信が持てたから、初めて 打ち明けた事実だった。
「仮の話だけど………武道館があるとして。そこで、グループ入り乱れての《シャッフル パフォーマンス》をやるつもりで、企画班は前から どういう組み合わせがいいか、って考えてて」
既存の三グループ以外で、誰と誰を組ませるか。
結局、候補生の全員すべてが魅力的だからこそ、色々なパターンが考えられるわけで。
「…………待って、それが」
「…………前倒しになってきてる、ってことか?」
「その通り」
「前倒しといっても…………」
どこで、披露するのか?
「――――――年末の、《カウントダウン ライブ》」
「!」
「!」
「!」
DHE MUSICのアーティストたちも、毎年カウントダウンライブを開催するグループがある。
今年、決まっているのは――――
「四年ぶり…………リューイチくんたちの《TEMPEST》と、あとは後輩アーティスト数組の、《合同ライブ》だね。あ、多分 《B.D.》も出ると思う」
そのライブの、《オープニングアクト》。いわゆる《前座》だ。
「これ………ここ、見て?」
携帯で、ライブ情報が載っているサイトを開いて見せる。
「カウントダウンライブは、夜 八時開始。それなのに、お客様の会場時間は――――」
「夕方、四時?」
「デビューしたての《新人》とか、活動の浅いアーティストが 出演するのはわかってるんだけど」
五時くらいからオープニングが始まったとしても、本公演までは 三時間も時間があるのだ。
「出演者が多いとしたって、オリジナル曲を 一曲歌うだけじゃ、さすがに時間が余るな」
「トークっていっても、会場にいるのは 先輩方のファンだろうし」
ライブ経験のある三人だからこそ、実際のイメージが浮かびやすく、話も早い。
「全国行脚みたいに、三曲くらい必要?」
一番いいのは、全国行脚で歌っている曲を、そのまま披露することなのだが。
「多分………それはNGだろうね」
全国行脚は、会場に来てもらってこその《生ステージ》がウリなのだ。
同じ内容のものを 他の場所でも披露してしまったら、《新鮮さ》や《特別感》が無くなってしまうから。
「そうなると………」
「年末までに」
「別の新しい曲を、増やすってことか?」
時間があるか どうか、考えなくてもわかる。
「現実的に、無理だろ」
「うん、候補生 全員は無理だと思う。だからこそ……《出来る人》に 話が集中すると思うの」
「出来る人って………」
基礎ができていて、舞台慣れしていて。
残り時間を考えて、準備できるような人。
「………まさか」
「オレたち、ってわけか」
「………………それ、もちろん 奏良さんも、含まれてるんだよな?」
「多分………そうだと思う」
他の候補生たちには、まだ 短期間で仕上げていくのは無理だろう。やれと言っても、酷な話だ。
できる可能性があるのは、ここにいる《四人》だけ。
こんな話、みんなの前では 迂闊に言えない。
いつ、どのタイミングで話すべきか―――奏良だって 悩んだ。
今日 たまたま、こういう時間が取れて本当に良かったと思う。
「これって、上層部からいつ発表されると思う? 遅くね?」
「さすがに、もう十二月だし。そろそろ言ってくるだろうと思うけど」
一ヶ月以内で。
全国行脚と SNS活動の合間をぬって。
新たなライブ用に 二曲以上、作り上げる。
「………………まぁ」
「確かに、俺たちなら」
「やれなくは、ないな」
新たな話題性という《要求》に、応える。
求められていることに 全力で応えられなければ、プロとは呼べない。
「……でも、会場に入れる人数は決まってるだろ? 収益っていう課題は?」
「それは、アレじゃない?」
「何?」
「……………ライブビューイング」
「!」
「それか!」
会場に入れない人のための、生配信。
携帯やパソコンなど、好きな端末で見られる利点はあるが、その《権利》購入には チケット代に近い値段が設定されることが多い。
「………配信でもいいから 絶対に見たい。一人でも多く そう思わせるように、新たな話題作りを要求してきたのか」
「ライブビューイングに流れる人たちが 多ければ多いほど、会社は儲かるってわけね」
例え、たった五分間しか出演しなかったとしても、ファンならばお金を惜しまない。
今までに見たことがない《組み合わせ》、披露していない《曲》。それが見られるとなれば、見逃すはずがない。
ファン心理を利用した、嫌な売り方だ。
「…………とはいえ、ファンがいてこそ会社が成り立つし、俺たちも活動できるってことだよな」
「夢を売るはずのアーティストが、聞いて呆れるけど」
「…………ここのところ、考え込んでたのは《コレ》だったわけ?」
もちろん、それもあるが。
「…………どうしたら、奴らを《黙らせられるか》、って」
「!」
「だって、大人しく 言いなりになるなんて癪じゃない?」
―――――馬鹿にしているとしか、思えない。
舐められるのも、馬鹿にされるのも、好きではないのだ。
「そう思ったら…………なんか、眠れなくて」
「奏良さん…………」
「あ、でも 時間を無駄にしていたわけじゃないの」
「眠れないのは、問題だろうが」
「そんなことないよ。こういう時だからこそ………」
《イイ曲》が出来上がる確率が、格段に上がるから。
「!」
「おい――――」
「今の私、《無敵》かもしれない」
かつてないほど、メロディが降ってくる。
でも、それは、目の前の三人のように、イメージを掻き立てられるような《歌い手》が すぐ近くにいるからだ。
「ねぇ、前に言ってたことだけど。………三人とも、歌詞を書いてきて?」
「!」
今ならきっと、満足いくような曲が書ける気がする。
彼ら、一人ずつ。
彼らなりの歌詞を元に書いた曲は、きっと 今まで以上に 魅力的になるはずだから。
「とりあえず、先に 三曲出来てて………」
「はぁ!?」
「いつの間に!?」
「編曲に回したやつが、そろそろ出来上がるんじゃないか、って連絡待ちなの」
「それって……リューイチさんとかは?」
「もちろん、内緒に決まってるじゃない。バレたら怒られるに―――――」
ブブブブ ブブブブ
震える携帯電話。
噂をすれば、影。
着信の相手は、リューイチと表示されている。
「……………いませーん」
「なに、出ないの?」
「タダイマ、留守ニ シテオリマス」
「無視かよ………」
プロジェクトの総責任者とはいえ、知ったことではない。
必要だと思うから、やっているだけなのだ。
心配してくれるのは わかるが、こちらの事情というのも理解してほしい。
奏良の後任としてサポートスタッフ主任になった『川口』は、自らが育ててきた甲斐あって、よくやってくれている。
サポートスタッフは、候補生たちを守る《砦》。
上層部や 邪魔する勢力の防波堤になってくれると信じて、こちらは歌い手として 攻めるべきところは攻めていかなければ。
ブブ ブブ
新たな バイブ音。
「…………あれ?」
「メール?」
「もしかして―――――」
こっそり依頼していた《編曲作業》が終わったのかもしれない。
今回の三曲は、曲に合わせて 編曲者を指定したし、仮歌シンガーも厳選した。
どうしても、通したい原曲。絶対にボツにはしたくなかった。
「時間があれば、自分で《歌入れ》したかったんだけどね」
いくら、《一発録音》が得意とはいえ、今は そのわずかな時間も取ることができないから。
「………っていうか」
「奏良さん、自分で《歌入れ》って」
「それ、ほぼ ただのレコーディングじゃん」
「…………え」
「自分が《アーティスト》だってこと、そろそろ《自覚》しろよ」
もう、仮歌シンガーではない。
一人の、表に出る《アーティスト》なのだ、と。
「あ………………そっか」
「反応 遅っ」
「慣れろよ、いい加減に」
唯織は呆れるが、作った曲に歌入れするのは もはや《習慣》といってもいい。
「………で、メールは?」
「あ」
千尋に催促されて、メールボックスを開くと。
「……………きた。わぁ、三曲とも!」
編曲者と仮歌シンガーの仕事の早さに、感謝しかない。
もう少し時間がかかると思っていたが、今 サンプルが出来上がっているのなら、年末公演に 使えるかもしれない。
本音を言えば、年末に やりたい。
メールに添付されてきた《音声ファイル》を展開する。
「………………音、出る?」
「奏良さんも、仕上がり聴くの 初めてでしょ?」
「うん、超 楽しみ」
「聴きたい。音出して」
本当はレッスン室などで、爆音で聴きたいところだが、贅沢はいえない。
とにかく、曲の仕上がりを すぐに確認したいのと、この話は 周囲にはまだ《秘密》だから。
ざわつくカフェの店内で、一つの携帯を真ん中に置いて、四人で耳を澄ます。
この先、こんな出来は もう二度とないのでは――――そう思ってしまうくらい、思いが詰まっている曲たち。
プロとして、この三人は どう評価するか。
奏良はドキドキしながら、流れてくる音を待った。
* * * * * * * *
候補生全員など、大人数で歌えるように―――と作った、クールでノリの良い『Candy Bitter Love』。
〜〜♪〜♪〜〜♫♬〜♪〜〜♪〜♬♪〜〜
「!」
「!」
「!」
前奏が流れた瞬間、三人の表情が変わる。
半音下がりが特徴のイントロは一番こだわったから、そこに反応があると とても嬉しい。
「…………………………奏良さん、やばっ」
「カッコいいし、ダンスナンバーとしても いける」
「………………いいじゃん」
尊、千尋、唯織。
三人とも、気に入ってくれたようだ。
睡眠時間と引き換えとはいえ、結果が出るのなら惜しくはない。
ミュージシャンである実父の存在を、否定せず認めること。自分の出自から、逃げないこと。
避けてきたことに目を向けて、向き合う中で生まれたメロディは、これまでに作ってきたものとは 雰囲気が違って当然だ。
ほんの少しだけ、自分の世界が広がった気さえする。
「確かに、大人数でやったら迫力あって、見応えありそうだな」
「歌もラップも 程よいバランスであるし、歌い繋いでいくのが面白そう」
「………年代別に別れてやっても、面白いんじゃね? 結構、歌う人によって 違う感じに仕上がりそう」
「あ、それはそうかもね」
一つの曲に、アイディアがどんどん溢れ出てくる。
こういう時間が、何よりも楽しい。
歌に対して お互い真剣だからこそ、しっかり話し合える関係性というのは すごく貴重だ。
二曲目の『Darling』。
「これはねぇ………この四人でやりたくて 作ったの」
「!」
「!」
「!」
唯織の持つ、少し気怠いようなセクシーさ。
尊の持つ、とろけるような甘さ。
千尋の持つ、Sっ気のある魅惑的なカッコよさ。
彼らの魅力を かけ合わせて織り込んだような、まさに《彼らのための》もの。
『Call me when you're unsure
Call me nobody else
Darling Darling〜』
ミドルテンポと見せかけて、歌うと 以外に早いタイプの曲だ。
何よりも、曲の雰囲気にこだわった。
シンプルだけど無駄がない伴奏が、お洒落な感じを出してくれている。
ウィスパー系で チカラを抜きながら歌うのが合うかもしれない。
「………………オレ、こういう系 好きだわ」
お洒落好きの唯織なら、そう言ってくれると思っていた。
「大人のポップスって感じ。ベース音も落ち着いていて、すごく効いてる」
音楽の好みが 自分と似ている千尋なら、そういうところに気付いてくれると期待した通り。
「…………………歌いてぇ……」
尊なら、純粋に そう思ってくれるだろうと思っていたけれど、実際に聴かせるまでは 不安だってあった。
「私も、コレは自信作」
歌う人を想定して作ると、やはり一味違うから不思議だ。
漠然と 曲を書くよりも、特定の人を思い浮かべてやったほうが、現実味が増す。
「もう一曲は?」
「………これはね―――――」
次の曲のファイルを開こうとして。
「――――――――奏良ちゃん」
その声に、阻まれる。
「げ」
先程まで、いなかった人物。
「リューイチさん!」
「…………お疲れ様です」
「どうして、ここに……?」
いつも穏やかなリューイチに似つかわしくない厳しい表情に、三人は 固まった。
反対に、奏良は幼馴染だから 慣れている。
こうなることも 半ばわかっていて、自分でやったことだから驚きもしない。
「…………私、発信機でも付けられてる?」
あえて 明るく言ってみたが、通用しなかったようだ。
「………茶化さないの。奏良ちゃん? これは、どういうことかな?」
リューイチが手にしているのは、資料や 曲についての情報だろう。見なくてもわかる。
「……………………怒られても、ねぇ」
何か、間違ったことをしただろうか。
不要なことをしたのなら、責任を持って謝るけれど。
「…………奏良ちゃん、俺 言ったよね?」
――――――焦るな、と。
心を無視して、無理に進んでいくな、と。
「……………………はっ………」
「何がおかしい?」
「だって、そうでしょ」
じゃあ、どうしろというのだ。
何も知らない、わからないなら、どんなによかったか。
想像できる、予測できる。
こうなったら、次は こうなるだろう。足りないのは、アレだろう。
これまでの経験と、たくさんの《失敗》があるからこそ。
「………わけもわからず 振り回されるなんて、絶対に嫌だし」
自分を――――自分たちを守ろうとして、何が悪い?
「……………それでも、この曲数はナイでしょ。アルバムでも作る気?」
「……………まだまだ、できそうなんだけど。私 今、過去最高の《無敵モード》発動中なんで」
「奏良ちゃん!」
「…………だから、怒らないでよ。みんながビックリしてる」
リューイチが言おうとしていることは、わかる。
一曲作るのに、本来は どれだけかかるか。
作曲者として遅筆といえる奏良が、この短期間――――数日のうちに書き上げたのは、五曲だ。実はあと二曲、編曲に回してある。
通常では、あり得ないペース。
しかも、リューイチが一番心配しているのは、奏良の《精神状態》だった。
人によって、曲を作る時の感情は、それぞれ異なる。
ハッピーな時に作りやすいとか、社会への不満や怒りが曲に繋がる人もいる中で。
奏良は―――――苦しいときほど、メロディが降りてくるタイプだった。
弱れば弱るほど、危機感からなのか 感覚が冴えてくる。
それを知っているリューイチは、曲が出来上がる度に 心配をしてきた。
表には、弱みを出さない子だから―――と。
そんな奏良が、かつてないほど《無敵モード》だなんて。
「いい子だから、一旦 落ち着いて――――」
「私は落ち着いてるし、わかったうえで やっているから大丈夫」
「奏良ちゃん!」
「……………………話は、終り。行こう、みんな」
昼休憩が、終る時間だ。
大丈夫、ちゃんとわかっているから。
心配されているのも、痛いほど。
有り難いけれど、従うわけにはいかない。
「………今を逃したら、きっと《後悔》するだろうから」
最適な時期は、ほんの一瞬。
守りに入って逃したら、それこそ 目も当てられないではないか。
「……………大丈夫」
――――――大丈夫なように、してみせる。
それが できるだけのチカラは、自分は持っているはずだ。
「さぁ、午後の練習 頑張ろうね!」
これが、今の自分にできる《最大限》だから。
奏良は、リューイチのことを振り返らずに、レッスン室へと戻って行った。
次回、全国行脚の公演になります。




