舞台の 光と影 #7
カッコつけな長男の《可愛い一面》を ご堪能ください。
十一月 二十四日。
二日連続の公演を終えて、STELLA LOVE HAPPINESSは、この日 丸一日《休日》と決めた。
ひたすら《寝る》というルーカスと春音。《洗濯と掃除》という尊など、メンバーは それぞれの休日を過ごすのだろう。
奏良は、どうするべきかを考えて――――
考えに、考えた結果。
自宅マンション近くの 遊歩道がある公園に来ていたのである。
* * * * * * * *
近所迷惑にならない程度に、滞っていた《家事》―――洗濯や掃除などを済ませ、その後 弟の朝ご飯を作ってから、こっそりと家を出た。
弟が起きてきたら、一日中ベッタリとくっつかれるのが目に見えていたから、奴が気付かないうちに行動して正解である。
どうせ、あとで『何で出かけたのー!』と電話をしてくるだろうが、出かけてしまえばこちらのもの。
二十歳を過ぎたのだから、いつまでも《三歳児》のようでは困るのだ。いい加減 姉離れをしてほしい。
「んー…………」
色々やって出てきたとはいえ、時刻は まだ午前七時。
朝の空気は清々しくて好きだが、あまり寝ていないため 眠さは色濃く残っている。
今の自分に必要なのは、《緊張》に負けないこと。
それには、《過去》に きちんと《向き合う》という 作業が必要だった。
「……………………過去、かぁ」
楽器演奏なら、舞台経験は たくさんあった。
『緊張に負けて失敗しなければ、プロの演奏家になれるよ』と、習っていたピアノ講師にも ヴァイオリン講師にも、当時 太鼓判を押されていたほど、本格的にやっていたのも事実。
他に夢が無いなら そういう《将来》もアリかな――――と、意識をしたこともある。
しかし、それは 《通常通り》にできてこそ、の話であって。
緊張をコントロールできない限り、演奏家としてのプロの道だって、難しいのが現実だ。
「………………はぁ………」
失敗をしたときの恥ずかしさと、悔しさと、絶望感。
奏良こそ、候補生以上に たくさん経験してきている。
だからこそ、どんなに緊張しても乗り切れるように――――誰よりも練習し 準備を怠らなかったのだが、それでも本番になると すべてがどこかへ飛んでいってしまうのだ。
時間を置いて大人になった今、改めて思い出しても 口の中が苦くなるような感覚は、そう簡単には消えてくれない。《失敗の記憶》というものは、いつまでも付き纏う 亡霊のようなものだと思う。
「…………………………でも、そうじゃない」
《失敗》をするから、人前に出るのが怖いわけではない。
本当の意味で、まだ自分のことを《認めて》いないから。
《本質》を、《否定》し続けているから。
自分のすべてを、《愛して》あげていないから。
こんなにも《自信》が無いのは、そこからきているのだろう。
何を、迷う?
《認める》だけで 済むのに。
もっと、前に進むために。もっと、上を目指すために。
実際に、歌い手として立ったからこそ 身に沁みてわかる。
舞台は―――――そんなに甘いものではないのだから。
「……………はぁ…………」
他人から受ける《好意》が、本当はずっと怖かった。
家族にしても、リューイチにしても、メンバーだってそうだ。
彼らは、揃いも揃って 優しくて。
優しくされても、何も《返すもの》が無い。そこまで、大事にされる《理由》が見つからない。
だって、もし それが消えてしまったら?
何かの事情があって、失われてしまったら?
当たり前に思っていたのに 無くなってしまった時に、きっと耐えられないだろう。
それなら、最初から 無い方がいい。
期待して、悲しい思いをするくらいなら。
《失う》怖さを 知っているから。
「………………あぁ、もう。弱気に なっている場合じゃないのに」
本当の意味で、《強く》ならないと。
自分だけではなく、迷惑がかかるのはメンバーなのだ。
夢に向かって必死になっている彼らの 邪魔になることだけはしたくない。
「………………しっかりしなきゃ」
候補生たちには偉そうなことばかり言ってきたくせに、自分こそ 理想のカタチには 程遠い。
では、なぜ そこまで《自分》を《否定》してしまうのか――――。
それは、自分の《出自》に関することが原因だろう。
それくらい、さすがに 気付いている。
誰が、《実父》なのか―――――
周囲は、みんな奏良が真実を知らないと思っているが、かなり前から知っていた。
人前で歌うことができなくなったのは、同級生から《からかわれた》ことだけが 原因ではないのだ。
『似ている』と。そう 言われたから。
『あいつ、誰かに似てない?』
『プロ歌手でもあるまいし、あんな歌い方ってナイよな』
『自分が上手いとでも 調子乗ってんじゃね?』
『モノ真似してるだけだろ』
『気持ち悪い』
―――――――本当に。同級生の言う通り、心底、気持ち悪いと思った。
《あの人》…………否、《アイツ》に似ているなんて。
「……………何で、私は 《お父さん》の子じゃないんだろう」
碧海も陸も、後から生まれた陽だって、全員が 《今の父》―――綿貫 昌也の子であるというのに。
当然ながら、兄弟四人の中で 奏良だけが違う。
血の繋がりなど関係なく、どこの家族よりも親密で、信頼し合ってきたと思っているが、いつもどこかで、ふと 感じてしまうのだ。
―――――――――自分だけが、違う。自分だけ、《異質》だということを。
こんなこと、誰にも言えない。
愛してくれる家族には、なおのこと。
「……………はぁ………」
自分のことを、認めること。
つまり、《出自》を受け入れること。
「………………………何で、今さら現れるの?」
昨日の午後、名古屋公演にて。
視力が悪いのに、ステージ上から アイツが来ていることに気付いてしまったのだ。
話題性があるから? テレビで見たから?
自分のことを、知っていた?
「………………まさかね」
三十三年間、音沙汰無し。
今さら、存在を知っていたなんて あり得ない。
向こうが知らないと思うからこそ、嫌悪するだけで済んでいるのだ。
それが、知っていて 放置していたとしたら?
「……………いや、それはない。多分、知らないはず」
これ以上、憎みたくない。
負の感情は、抱えているだけで 重くて痛いから。
「…………………苦しい……………」
あぁ、そうか。苦しいんだ。
原因がわかっているのに 受け入れられない現状と、焦っていく心。
事実だからこそ、捨てることも、忘れることも、できない。
「………………………ハァ……………」
外の冷たい空気に触れて、吐息は白い煙へと変化して、やがて消えていく。
この時期、朝の公園は 寒い。
こんな重くて暗い感情など、一緒に溶けて消えてしまえばいいのに。
冷静になれる分、体はどこまでも冷たくなっていく。
……………そういえば、今 何時になっただろう。
あまりにも静かだから、自分の考えに集中し過ぎて 周囲のことなど気にもしていなかったのだが。
「―――――――――――寒いっ!!」
「!」
至近距離で叫ばれて、素で驚いてしまう。
「…………………い、唯織くん?」
まさか。
こんな時間、こんな所に いるはずのない人物。
だって、唯織の住むマンションは、確か ここからは遠いはずだ。
「……………寒い、もう限界。一体 いつまで ココにいるつもりだよ!」
何だか、とても怒っているように見えるのは、気のせいではなかった。
* * * * * * * *
我ながら どうかしていると、唯織は思う。
せっかくの休日なのだ。
ルーカスや春音のように、身体を休めるなり、好きなことをして 気分転換するなり、有効に使うべきだとわかっているのに。
疲れているのに、眠れなくて。
気付いたら 家を出て向かっていたのだから、どうしようもない。
気になって。
気になって。
奏良が―――――元気でいるのか、と。
昨日の公演の最中、一瞬だけ見せた《表情》が、頭から離れないのだ。
絶対に、何か あった。
何かを見たのか、何かに気付いたのか。
すぐに 何事もなかったかのように振る舞ってはいたが、唯織の目を 誤魔化すことはできない。
いつの間にか――――何をしていても、どこにいても、気になって仕方がなくて。
《自分の時間》を 何より《優先》する唯織にとって、百八十度 変わっていくような感覚に、初めは戸惑いもしたけれど。
落ち着いて、冷静に気持ちを辿っていけば、案外 単純な話だった。
とにかく、どうしているのか、知りたくて。
この目で確認しないと、安心できなくて。
「そうはいっても…………まだ 朝だけど」
休日なのだから、寝ているかもしれないし、起きていたとしても 家からは出ないかもしれないし、会える保証など 何もない。
なら、メールか 電話でもするか?
――――――まさか。
できるわけないだろ。
できるなら、そもそも こんな時間に、こんな所で うろついたりしていない。
強気に見られがちな唯織だが、自分からは《近付けない》という、シャイな面を持っていた。
好意を抱いたら『全力でアタックする』というルーカスが、今は 羨ましいとも思う。
「…………………完全に、不審者だな」
付き纏っている『PHANTOM』の野郎と、何が違うのか。
衝動的に家を出たはいいが、あとのことを まったく考えていなかった。
…………何 やってんだ、オレは。
うっかり出会っても、言い訳に困る。
自分のマンションは最寄り駅も違う、反対方面。適当に歩いて 来れる距離ではないのだから。
………………やめた、帰ろう。
慣れないことをするから、失敗するのだ。
帰ってから、仕切り直そう。
そう思った矢先。
通りかかった公園で、一人 ぽつんとベンチに座る奏良を見つけて、帰れなくなってしまったのだ。
考え事をしているのか、どこか遠くを見つめたまま、動こうともしない。
どうしよう。
こういう時、普通なら どうする?
声をかけるのは、躊躇われた。
だって、何を言えばいい?
気の利いた言葉をかけてあげられるような、優しい人間ではないから。
まともな人付き合いをしてこなかった《代償》。
ルーカスや尊だったら、きっと自然に 手を差し伸べられるのだろう。
「………………………あぁ、クソッ」
弱っているときに 一人になりたい気持ちは、唯織にも分る。誰かに頼らないのも、頼りたくないのも、同じで 似ているからこそ よけいに目につくわけで。
一人で考え、行動し、解決する。それが 染み付いている人間に、とやかく言うつもりもない。
けれど、傷付いていないわけではないし、ましてや 奏良の場合、そのことに 本人が気付いてもいないから。
ハラハラするし、イライラするし、見ていて心臓が痛いし………心配だし。
これだから。
やっぱり、目を離すと こうなるから。
一人に させたくない。
何よりも、オレが、無理。
「……………………まったく、動く気配ゼロだな」
だったら、待つしかない。彼女が、立ち上がるまで。
このまま離れるなんて、とても できない。
そうして、少し離れたベンチに自分も座り、捜査中の刑事のように 張り込みをすること、一時間半――――。
時刻は、午前八時 四十分。
唯織にしては、辛抱強く、待った。
こんなにも待ったことはないし、そもそも 誰かを待とうと思ったことさえ 無い。
自他とも認める、超がつくほどの寒がりだが、奏良が動こうとしないから。
待って。待って。待って。
身体の芯から冷え切って、とうとう限界に達して。
こっそりと見ているだけのつもりが、結局は 我慢できずに、思わず叫んでいたのである。
「……………寒い、もう限界。一体 いつまで ココにいるつもりだよ!」
奏良だって寒がりだし、冷え性のはずだ。
自分が こんなに冷え切っているのだから、その前からいるであろう彼女は、もっと冷たくなっているに違いない。
「え………何で? 唯織くん?」
「オレは、尊と違って………手ぇ冷たいから」
「?」
昨日の尊のように、《自分の手》で温めてあげることができないのだ。
そう考えると、無性に腹が立つ。
何だ、あいつ。
自覚した途端、堂々と 開き直りやがって。
「……こんな所に長時間いて、風邪引いたら どうすんだよ。大事な時期だって、自覚ある?」
「………これくらいじゃ、風邪ひかないもん……」
んなわけ、あるか。可愛い顔しても ムダだからな。
反論を無視して、とりあえず 自分が巻いてきたマフラーで ぐるぐる巻にする。
まったく、この人は。
自分のことになると、途端に扱いが《雑》になる。
もっと、自分を労れよ。
顔はいつも以上に青白いし、耳は 霜焼けになりそうなほど真っ赤だし、手なんか紫色してるし。
「!?」
………驚いてるな。
オレの方が、驚きだよ。
何でこんなこと、してるのかって。
一度だって、こんなこと したこともないのに。
「……………何、してたの?」
周囲をシャットアウトして、一人で、こんな所で。
「え、えーと。………自分との《対話》?」
「一人で?」
「…………友達いないって、バカにしてんでしょ?」
親しくしている人がいないのは、唯織だって同じだ。
それどころか、過去の精算―――アドレスや番号を変えて、整理しようとさえしている。
馬鹿になんかしない。
むしろ、独占できるから、こちらにとっては好都合。
「家にいても、弟が《構って構って》ウルサイから………」
「一人 さみしく?」
「………休みの日までディスってくるの やめてもらえませんかー」
先程までの 思いつめた雰囲気は、すっかり消えていた。
それだけでも 来た甲斐はあったと嬉しくなったのも、束の間。
―――――ちょっと、待て。
周囲の人たちが、近付きたいと 熱烈にアピールしていることや、虎視眈々と 機会を狙っていることなど 想像もしていないというわけか。
前から、おかしいとは思っていたのだ。
他人の視線に気付かない、気にならない―――それは、裏を返せば 他人のことなど 奏良にとっては眼中に無い、ということだ。
つまり『他人に まったく興味が無い』ということと 同じではないのか。
…………盲点だった。
じゃあ、オレは?
オレのことも、まったく眼中に無いのか?
これだけ、長い時間 近くにいるのに?
浮かんできた答えは、ひどく面白くないものであり。
「…………………ムカつく」
「えぇ!?」
鈍感で、その分 誰よりも純粋。
唯織の不可思議な言動に対して、変に思うどころか 疑いもしないなんて。
「…………唯織くん? 唯織くんこそ、寒いんでしょ!? えーと、どうしよう? 近いのはウチだけど……」
急にオロオロしだして、せっかく巻いたマフラーを外そうとするから。
「――――――朝食」
「え?」
「食べたの? 食べてないの?」
「…………食べてない、けど」
「………じゃ、行くよ」
彼女の右手を掴んで、強引に歩き出す。
やっぱり、手が冷たいじゃないか。オレもだけど。
「…………………………」
意を決して、繋いだ手ごと 自分の上着のポケットに突っ込む。
こうすれば、マフラーは外せないし、少しは冷たいのも解消されるだろう。
それに、利き手である《右手》を封じてしまえば、容易に逃げられないだろ?
「…………えぇ?」
唯織にしてみれば、かなり《攻めた》行動だった。
ただ、実際にやってしまえば それほど違和感はなく、もっと攻めても いいような気がする。
逃げ足が速い奏良は、隙を作れば いつもすぐに 逃げていってしまうから。
「??」
すぐそばに、いる。
隣にいる。
安心したと同時に、気持ちは さらに加速して、どんどん貪欲になっていく。
はたから見れば、仲睦まじい《恋人同士》にしか見えないだろうが、配慮なんか するつもりはない。
誤解されたくない人がいたとしても、知ったことか。
むしろ、大いに誤解をして、彼女の周りから去ってしまえ。
「………唯織くん?」
「オレは寒いし、腹減ったの」
「………う、うん?」
最初から、こうすればよかったのだ。
あれこれ細かいことを頭で考えるより、行動したほうが 上手くいくことがある。
見ているだけでは、何も変わらない。
近付いて、触れたら―――――こんなにも 安心できるのなら。
今度から、こうしよう。
文句は、いっさい受け付けない。
「…………………唯織くん?」
さすがの奏良も、いつもと違う 唯織の雰囲気に動揺しているのか、青白かった頬に 赤みが戻っていた。
唯織の 作戦勝ち。
そうだ。
そうやって、少しは 意識しろよ。
自分だけなんて、悔しすぎる。
面倒な男を《その気》にさせたのは、奏良なのだ。
その責任くらい、とってもらおう。
奏良の初々しい変化に気を良くして 自信を取り戻した唯織は、口元が緩むのを隠そうともせず、街中へと向かった。
* * * * * * * *
何だか、変な感じだ。
休みの日に、どうやって過ごせばいいのか――――これまで《遊び方》を知らないできたため、『自由にしていいよ』と言われるのが 一番苦手だった。
趣味は、仕事。
恋人も、仕事。
友達もいないし、弟と買い物に出かけるのが関の山。
そんな奏良にとって、休みの日に 誰かと《一緒にいる》、なんて。
人生始まって以来の、びっくり初体験だったのだ。
しかも―――――目の前にいるのは、あの 唯織なわけで。
「…………どしたの? 足、痛い?」
朝、公園で会ったあと。
何故か、街中に連れてこられて。
カフェで朝食を取ったあと、元から『メガネ屋に行くつもりだった』という奏良の予定通りに、メガネ屋に行った、その帰り。
時刻は、十二時 半。
忙しなく行き交う人々は、みんな お昼時だろうか。
何故、あの公園にいたのか。
何故、自分を連れ出したのか。
今だって――――相変わらず 手を繋いだまま、離す気はないらしい。
「奏良さん?」
言葉がキツかったり、言い方が乱暴なだけであって、彼が 元々《優しい》ことは知っている。
慣れて 気を許してくれるようになったのは 嬉しいが、周囲から変な《誤解》を受けやしないか――――この優しさが、唯織に《悪影響》になりはしないかと、それだけは心配である。
正式に出会ったのは、今年の二月。
それから………かれこれ 九ヶ月が経とうとしていた。
個性的で、なおかつ 人見知り。
他のスタッフからは《扱いづらい》と苦手意識を持たれていたが、奏良は まったく違った。
別に、普通だと思ったし、それが彼の《個性》なのだから、変だとも思わない。
碧海や 陽が身近にいるせいか、あの強烈に《面倒》な二人から比べたら――――唯織なんて、とても《可愛い》ものだ。
だって――――――
強気で。自信家で。
器用で、何でも そつなく こなすのに。
「……………………本当は《寂しがり屋》だし、意外と《照れ屋》だし」
「なっ…………何だよ、急に」
分かりづらいだけで。
いい子だなぁ、と。
心から、そう思う。
「唯織くんが、《可愛い》って話」
「はぁっ!?」
…………怒ったって、怖くありませんとも。
「…………足、平気なの?」
「平気だってば」
今日だって、足首の捻挫を考慮して、極力 歩かないように気遣ったり、心配したり。
……………モテるのが、わかるなぁ。
男女ともに、人気があって 当然だ。
外見だけじゃなくて、内面も 知れば知るほど 魅力があるのだから。
「このあと どうする?」
どこ行く? どこ行きたい? 何 したい?
「…………質問ばっかだね」
「!」
「唯織くんこそ、行きたい所は?」
「オレは…………」
唯織が何を考え、何を思って、こうしているのかは わからない。わからないけれど。
目の前の顔を見たら、理由なんか どうでもよくなっていた。
おそらく、彼にとって《こういう時間》が 必要だったのだろう。
それならば、最後まで 付き合うしかない。
―――――――まぁ、いいか。
唯織が、なんだか嬉しそうに笑うから。
こういう休日も、悪くない。
誰かと 休日に過ごすことの楽しさを、奏良は この日、初めて感じていたのである。
自分からは《近付けない》という唯織が、今後どう変化していくのか。
奏良や 他のメンバーの動きにも ご注目ください。