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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
25/47

舞台の 光と影 #3

個人的に、この回の話が好きです。

  綿貫わたぬき 碧海うみ


  長身からくるスタイルの良さと、甘いマスクという抜群のビジュアル。

  さらに凄みのある演技で、ここ数年 演技賞の常連となっている、話題の多き男。

  そんな超 売れている《俳優》でありながら、プライベートでは血の繋がらない義妹いもうと奏良そらを こよなく愛する 変態――――もとい、愛の重い 重度のシスコン野郎だ。


  変装しているとはいえ、よくもまあ、こんな真っ昼間から堂々と出歩けるもんだ。

「バレたら、騒動パニックになるだろうに」

「そうなったら、せっかくの奏良そらの公演に支障が出る。そんなミスは、しない」

「はいはい、そーですか。――――――で、どうだった? 愛しの奏良そらちゃんは?」

「…………………」

「正直、知ってはいたけどさ………俺も」


  元から、デキる子だ。

  才能もあるし、努力だって惜しまない。

  妥協とか、手を抜くことをしない、いや できない子だ。


  覚悟さえ持てれば。

  誰にも負けないアーティストになるだろう。


「………舞台ステージで実際に歌ってるの見て、改めて感じたよ」

  人から見られれば 見られるほど、増していく。

  スポットライトを跳ね返すほどの、内側から溢れ出す《輝き》。

  身につけようとして、得られるものではない。

  あれが正式な初舞台だと、どれほどの人が信じるだろう。


「…………おれだって、違うと思いたかったさ」  

  碧海うみは、悔しそうに目を伏せた。


  けれど、あれが現実。やはり血は裏切らない。

  ――――――蛙の子は 蛙だと。


「………だよなぁ。人前に出ると、さらに進化する感じとか」

  リューイチにとっての《唯一の心配》は、奏良そらが成功するとか しないとか、そんなことではない。

  表に出ることで。

  真実が、思わぬところで《さらされる》ことになりかねないか――――それだけが気がかりだった。

「………やっぱり、似てるよ」

  あの、圧倒的な、周りを屈服させるほどの 神秘カリスマ的な威圧感オーラ

  そして――――あの歌声こえ

「いつか………気付く人が出てくるだろ」

  少なくとも、音楽業界にいる人ならば、いずれ誰かが気付くだろう。

  性別は異なっても、似ている部分は隠すことはできないのだから。

「………まだ、奏良そらちゃんは知らないんだろ?」

奏良そら自身が 《知りたい》と言うまでは、教えるつもりなんかないよ」

  知らないほうがいい。知らせたくはない。



  自分を捨てた、《実の父親》の存在なんて。


「どんな道を選んで、何をしても……おれは奏良そらの味方だし、なんだって応援するけど」

  あの子が。誰よりも優しい 奏良そらが。

「………傷付くのだけは、我慢できない」

  もし、そんなことになったとしたら。

「おれは―――――誰であろうと、許さない」

  たとえ それがリューイチであっても。



  相変わらず物騒な台詞セリフだけを残して、碧海うみは人込みに紛れながら 消えた。


  言われなくても。

「俺だって…………奏良そらちゃんのことは、昔から妹みたいに思ってるんだ」


  母親の死を、《本当の意味》で乗り越えていないのを知っているからこそ。


  あの子が、泣かないような未来でありますように。


  リューイチには願うことしかできないし、そのための 手助けしかできない。

  昔も、今も。

  そして、これからも ずっと―――――




  とりあえず、昨晩の《相馬事件》を処理するのが先だろう。


  碧海うみを追うように、リューイチも本社ビルに戻って行った。


*  *  *  *  *  *  *  *


  同日、時間は 十七時 三十分。

  午後の 二公演目も無事に終了し、行きと同じように スタッフの運転する車に揺られながら、STELLAステラの五人は本社ビルへと戻る途中だった。



「……………奏良そらさん、寝ちゃいました?」


  一番後ろ、後列で 目を閉じたまま、末っ子と二人で スヤスヤとお休み中。


  その無防備な表情に、ルーカスは幸せな気持ちになる。

「……… 二人ともかわいい。癒やされる。天使みたい♪」

  カシャッ

「おい」

「なに 黙って撮ってるんだよ」

「えー………だって、可愛いじゃないですかぁ」

  幸せの《象徴》。

  すなわち 自分の心の《平穏》には欠かせないものだった。


「こじつけてんじゃねぇ」

「消せ、今すぐに」

「そんなこと言って………いいんですかぁ、アニキたち?」


  ルーカスは、知っている。

  バレていないと 本気で思っているとしたら、兄二人も 可愛いものだ。

みことくんも、おりくんも………奏良そらさんの写真を 携帯の画面に――――もごッ」


  素早い、 長男 次男の 息のあった連携プレー。

「…………何か、言ったか?」

「言わないよなぁ、ん?」

  余計なことを口走ろうとする三男を黙らせるのに、協力して どうする。


  まったく、いい歳をして、この二人は!


「アニキたち、ほんと 恥ずかしがり屋ですね。――――《好き》なら《好き》って、認めちゃえばいいのに」

「ゴフッ」

「ブッ」

  ルーカスの《爆弾》投下に、車内はいっせいに 飲み物を吹き出す始末。

「あー! なにしてんですかぁ!」

「バカ、騒ぐな!」

「起きるだろっ!」

「………起きませんよ、奏良そらさんは。さっき鎮痛剤 飲んだばっかだし」

  そもそも、騒いだところで 簡単には起きないということは、今朝の《寝坊騒動》で証明済みではないか。


  何を焦っているのやら。

  往生際が悪い。

「…………………お前、何か誤解してんだろ」

「俺は別に、お前が言ってるようなことは………」

「………へーえ………。それならそれで、いいですけどぉ」

  あえて《認めない》というのなら、それは彼らの《意思》なのだから、尊重するけれど。

「………突然 何言い出すんだよ」

「えー、おかしいですか?」

  DHEウチって、《社内恋愛》禁止でしたっけ?

「!」

「!」

「そんな規定、ないですよね?」

  グループとしての《和》を乱すのは問題であるし、慎重にすべきだが。

  好きを《隠す》文化は、ルーカスの辞書には存在しなかった。


「ボクは、前からずっと言ってますけど、奏良そらさんが大好きですし、ボクが毎日頑張るために、いないとダメっていうか」

  表現は陳腐だが、《空気》に似ている。

  あって当たり前、無いと生きてはいけない。


  でも、だからといって、独り占めできるものではない。

「………すごいこと 言うな」

「………それは、どういう種類の《好き》なわけ?」

  《人》としてなのか、《異性》としてなのか。


「やだなぁ、ボクだって 恋愛経験くらい ありますよ。違いくらいは わかりますって」

  憧れなんて、簡単なものではない。

  本当に《特別な恩人》――――自分の活力の源。

  ルーカスのすべてを拾い上げて、救って、導いてくれた人なのだから。

「女性として、もちろん魅力的で惹かれますけど……人としても大好きっていうか、存在自体が そんな《次元》ではないっていうか」

  この先 一生。

  ずっと《憧れの存在》として、追いかけていきたい。

「ボクは、多分《信者ファン》なんですよ」


  …………でも、アニキたちは違いますよね?


「!」

「………だから、何がだよ」

「だって………思ったりしませんか?」


  ―――――毎日、会いたいとか。

「!」

  もう、そう感じただけで、決定的な気もするが。


「家に帰っても、《何してるのかなー》とか、《メールしようかなぁ》とか、携帯の前でウロウロしてみたり」

「!」

「服を選ぶときに、メチャクチャ時間をかけちゃうとか」

「!」

「夜だって、用はないけど声を聞きたいとか、寝る前には《おやすみ》って言いたいし、朝起きたら 一番に《おはよう》って言いたい、とか」

「!」

「手ぇ つないだり、ハグは 当たり前ですよねー」

「!」


  彼女が笑っていたら嬉しいし、傷付いていたら 胸が痛むとか。

「!」

「自分のこと、他の誰より真っ先に見てほしいし、《大好き》って言われたら 一日中ハッピーでいられる、とか」

「!」


  STELLAステラは《家族設定》だが、《姉》に対しての《思い》とは、明らかに種類が異なるはずだ。

「ずっと見ていたいとか、気が付くと 目で追ってるとか――――」

「!」

「!」

  二人の視線の先に《誰》がいるのか、ルーカスは 前から気付いていた。

「今すぐには 忙しいから無理ですけど。一緒に 色々な所へデートしたいとか、喜びそうな場所に連れて行ってあげたいとか」

「!」

「コレをしたら喜ぶかなぁとか、アレは好きかなぁとか、何を見ても思い出すとか」

「!」


  今日の みことと同じく、風呂上がりに《自分の服》を着た姿を 見てみたい、とか――――

「わ、わかった。わかったから!」

「ストップ! ………恥ずかし過ぎて、聞いてらんねぇ」


  何が恥ずかしいというのだ。

「ボクからしたら、隠したり 誤魔化したりする方が、よっぽど変だと思いますけど」

  日本人 特有の《奥ゆかしさ》が、どうも理解できない。

  そんなことをしているうちに、誰かに攫われでもしたら どうする。

「前も言ったじゃないですかぁ。奏良そらさん、絶対に 恋愛経験、少ないと思います!」

「何げに、失礼なことを言ってんぞ、ルー」

「ボクが言いたいのは………」

  変な男に 引っかかりでもしたら一大事、ということだ。

「……………気付きました? 左の三列目」

「!」

「!」

  初回公演のときに見つけた、黒いキャップ姿の人物を。

「やっぱり、どう見ても《PHANTOM》の……」

「……ん」

  わずかに動いた奏良そらに、一瞬だけ 会話を中断するが、起きた様子はなかった。

「……オレ、目ぇ悪いけど、確かに見えたわ」

  おりもパフォーマンス中に気付き、奏良そら本人が見つけなければいいと、肝が冷えたものだ。

  それだけ、例の男を包む空気が 異様だったわけで。

「………首を突っ込むべきじゃないと思ってたけど」

「……ルーの言う通り、今回ばかりは同意見だわ。ちょっと目つきがヤバかった」

「リューイチさんなら、絶対に 何か知ってるよな」

  教えてくれるかどうかは、別として。

  あれだけ、奏良そらを心配して 常に守ろうとしているくらいだから、知らないほうがおかしい。


  もう、ただのメンバーではない。

  誰にとっても大事で、大切にしたい―――――《特別な人》。

  二人には、自分のような《過去》は無い。

  どれだけ奏良そらという存在が大きいか、比べることではないが、こちらは 付き合いの《年数》が違う。

「多分、はるちゃんも そうだと思いますけど」

  奏良そらに《拾われた》者たちは、等しく 同じように思うだろう。

「………感謝しか、ないんですよ。ボクたちの場合は」


  信じてくれたこと。

  自分以上に、自分のことを評価して、大切にしてくれたこと。

  その思いに、少しでも応えられるように。期待を裏切らないように。

  《できたよ》と、言いたい。言えるような自分になりたい。

「……………褒められたいんですよね、単純に」

  そのためなら、いくらでも頑張れる。

  そばで、見ていてくれるなら、なおのこと。


  連日 レッスン室を訪ねてくるアーティストも、応援に来ていた《B.D.》も、オーディションで関わった候補生たちも。

  奏良そらを信じることで、《前を向ける》。


  スタッフの誰かが言っていた。

  例えは変だが、《教祖》という言葉が近いかもしれない。


  洗脳でもなんでも、この際 なんでもいい。

  誰もが前向きに、ハッピーになれるなら、こんなに幸せなことはないではないか。


  ルーカスや春音はるとの言う《好き》や《愛してる》とは、そういう意味のものだった。

  情熱的な、《勝ち取る愛》ではなく、敬うような、未来を《信じる愛》。



  ここまで言えば、さすがにわかるだろう。


  中途半端に 嫉妬なんてしていないで、正直になればいいのに。

  二人とも、これまで たくさん《恋愛経験》あるはずなのに、何で グズグズしてるかなぁ。


  本当に自覚が無いのか、メンバーだからと ブレーキをかけているのか。

  らしくもなく《振られたとき》のことを心配しているのか。

  見た目に反して、随分と お行儀よくて、悪くいえば臆病チキンといえる。


「ボクだったら、アタックしまくりますけどねぇ」


  愛は《勝ち取るもの》だと 教えられて育ってきたのだ。

  アタックあるのみ。

  当たって砕けろ。………いや、砕けるのはイタイけれど。

  攻めてこそ、表現してこそ、気持ちとは伝わるもの。

  外国にルーツがある我が家では、正直ストレート以外は あり得ない。

「ボクは、ずっと仲良く ラブラブしていきますけどねー」

  奏良そらは、いつだって《それ以上の愛》を返してくれるから。

  せいぜい、仲良くしているのを見ていればいい。


「時間は《有限》、明日は何が起こるかわからない――――って、奏良そらさんが よく言ってるじゃないですかぁ」

  その時に、後悔しなくてもいいように。

「明日、急に会えなくなったら どうしよう………そういうふうに思いたくないから、ボクは 《正直》に生きた方が、人生《得》だと思いますよ?」

「……………」

「……………」

  フフフ、困ってる 困ってる。


  カッコつけてたら、欲しいものは 手にできないんですよ、アニキ。

「………」

「………」


  ルーカスの発言に触発され、立ち上がるのは 果たして誰なのか。

  楽しみのような、そうでもないような、複雑な気持ちではあるけれど。


  出会えたことが、奇跡。

  毎日が、奇跡の連続だった。


  そう思えることに、感謝したい。



「……………若いって、いいなぁ」

「私達も一緒に乗ってるってこと、完全に忘れてるよね?」

  運転手の蒲田と メイクスタッフのエリカは、呆れるしかない。


奏良そらちゃんて―――――何で こんなに《鈍感》なのかしら?」

  まるで、何か 悪い魔法にかけられた、おとぎ話のお姫様のように。

  誰が何を言っても、本人には いっこうに届かない。

  さすがに、何か根深い《原因》があるのでは………と心配してしまう。


  《呪い》のような、硬い殻をこじ開けるのは 一体 誰なのか。

  一人だけニコニコと、笑顔全開のルーカスを除き。

  微妙な空気を漂わせた車は、本社ビルの地下駐車場に到着した。


*  *  *  *  *  *  *  *



「…………それでは、そろそろお時間ですので。本日の配信もここまでにしたいと思います」

「コメントやいいねも、たくさんお待ちしております!」

「ポイントの集計にもつながりますので、ハッシュタグは忘れずにつけて投稿してくださいね!」

「明日の公演は、午前十一時は静岡、午後四時からは名古屋でやらせていただきます!」

「お時間のある方は、ぜひ会場までお越しください!」

「…………会いに来てね」

  ダメ押しとばかりに、おりのセクシースマイル炸裂。


  『キャー!!』

  『ナマで見たい!』

  『仕事休んで行きます!』


「…………やり過ぎー」

「恥ずかしいヤツ」

「ある意味、尊敬ですねー」

「僕にはハードルが高いです」

「………文句あるか?」


  視聴者が喜んでいるから、これも必要なパフォーマンスなのだろう。

  とても、真似はできないけれど。

「以上、STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネスでした! 本日もありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「また明日!」

  …………プツリ



「………終わったー」

「疲れたー」

  SNSの生配信を終え、ようやく《今日の活動》が終了というわけだ。

「長かったぁぁ…………」


  五人は、長い息を吐き出した。


  昨夜から続いた《相馬事件》に、ハラハラした《初公演》。

「………みんな、お疲れ」

「よく、乗り切った」

「もう、ボクたち、サイコー………」

「なんか、一年くらい経ったような気がします」

「………やめて、春くん。これ以上、歳取りたくない……」

  よく、全員で乗り切ったと思う。


  それぞれの長所を活かし、ダメなところを補い合って。

  このメンバーでなければ 成し得なかったとさえ、思えるなんて。

「――――遅くなったけど、メシ、どうする?」

「疲れすぎてるけど、食べないと 体力 たないよな」

「どこかで軽く食べながら、明日の時間を確認しときましょう」

「………明日こそは、寝坊しません」

  公演中は、食べ過ぎも厳禁。

  栄養があって、身体に負担にならないもの。


  何がいいかな、と考えていると。

奏良そらさん! 誰か訪ねて来てますよ」

「え?」

  ルーカスの言葉に、レッスン室の入り口を振り返ると。


  DHEでデビュー間近のガールズグループのメンバーが、中を覗き込んでいた。


「扉、開けますね」

  すぐに歩いていけない奏良そらの代わりに、春音はるとが開けに行く。

「………お疲れ様です」

「お疲れ様です! ありがとう、はるくん!」

  慣れない 女子特有の黄色い声に、はるは少しだけ たじろぐ。

  相変わらず、れてなくて可愛い反応だ。


「少しだけ、お邪魔します」

「……奏良そらさん!」

奏良そらさーん!」

「どうしたの? 久しぶりだね」

  一年半前、サポートをしていた《PINKY》という五人は、一斉に抱きついてくる。


「聞いてください!」

「もう、一番に伝えたくて!」

「?」

「………決まりました!」

「ついに決まりました!」

「私たち、年明け、一月にデビューです!」

「! 本当に!? おめでとう!!」

「ありがとうございます!」


  候補生として、グループを組むのが早かったわりに、昨今の感染症問題などのあおりを受けて、音楽業界も 活動が縮小されていた。

  この難しい時期に、デビューを目指していた彼女たちは、通常よりも 苦しい下積みが続いていた中。

「………よく、諦めないで、頑張ったね」

「………奏良そらさーん……」

  一人一人、改めてギュッとハグをしてねぎらう。彼女たちの頑張りは、この先、きっと無駄にはならないはずだから。


奏良そらさんが、ずっと応援してくれたからですよ」

「ツラい時も たくさんあったけど」

「いつも、欠かさずメッセージとか、電話くれたじゃないですかぁ」

「もう、本当に感謝です」

「……私は たいしたこと、してないよ」


  奏良そら自身も、初日の舞台ステージを終えたからこそ、改めて《デビュー》ということの《重み》と《特別感》が身に沁みて実感ができた。

「……………本当に、おめでとう」

  こんなに嬉しいことはない。

  応援していた子たちが《巣立って》いくときに、何よりも思う。


  ――――この仕事を、サポートという仕事を、してきてよかった。

  心から、そう思える瞬間だ。


奏良そらさんも、STELLAステラのみんなも、初日 おめでとうございます!」

「ありがとう」

「ありがとうございます!」

「………次は、STELLAステラの番ですからね?」

「!」

  一歩先で。

「………待ってますから」

  あとに続いて、デビューするのを。


「………ほんとだね。《PINKY》のみんなは、これから《先輩》になっちゃうんだね」

  今後は、敬語で失礼のないようにしないと。

「やだ、やめてくださいよー」

奏良そらさんは いつまで経っても、ずっと私たちの《奏良そらさん》なんですから」

  この先も、それは きっと変わらない。


「………まぁ、そういうわけで」

「準備で忙しくなるので、公演には行けなくなりました」

「明日、行く予定してたんですよー。名古屋公演」

「ありがとう。気持ちだけで 充分嬉しいし。しっかり準備してね」

「その代わり!」

「SNSの方では、盛り上げますから!」

「任せてくださいね!」

「う、うん……?」


  目が、本気マジだ。


  何となく、嫌な予感がする。


「………はい、奏良そらさん♪」

  《PINKY》最年少のカナミが、大きな紙袋を ずいっと前に出してきた。

「?」

「写真は、色んなパターンが必要ですよね?」

「………あ、ああ、そうだね」

「―――――飽きさせない努力、必要ですよね?」

  奏良そらが教えてきたことを、ナオがそのまま返してくる。

「う、うん?」

  ………多分、これは、逃げたほうがいい場面だろう。

  自分の中での《危険サイレン》が鳴っている。

  こういうときに、何で捻挫なんかしているかな。


「五人で何がいいかって、メチャクチャ悩んだんですけどね」

「《爆イケ》も、かっこよくていいですけどぉ」

「……………やっぱ、《激カワ》も見たいじゃないですかぁ」

  ミク、アカネ、サトコが笑顔で詰め寄るから、ホラー映画の 殺人シーンばりに迫力満点だ。


  受け取りたくはないのに、強引に押し付けられてしまえば、返すわけにもいかず。


STELLAステラのみなさん!」

「絶対に、奏良そらさんに《着させて》くださいね!」

「後悔はさせませんので!」

「じゃあ、奏良そらさん!」

「写真を投稿アップしてくれるの、待ってます!」


  言いたいことを言い終えて、《PINKY》の女子たちは 嵐のように去っていく。


「…………何だ、あれ」

奏良そらさんに、プレゼント?」

「なになに、中身見たいでーす♪」

「……………あ、メッセージカード入ってますよ」



  『PINKYより 愛を込めて』

  『みんなを 悩殺してください♪』

  『第二弾も 準備中。お楽しみに!』

「…………はぁ?」

  何を企んでいるのだ、あのたちは。


「服と、靴?」

  色は、見事に 黒と白で統一されてはいるが。


  レースをふんだんに使用した華奢なトップスに、柔らかい落ち感の ロングスカート。

  それに合わせた、ピンヒールのショートブーツ。

「……………これって」

「―――――どう見ても、《女性物レディース》だよな」


  色とデザインはクールに攻めているが、素材や袖のディテールなど凝っているし、可愛い印象を受ける。

「………クール・キューティー」

「……………やるな」

「まさに、奏良そらさんの分野ですね。似合いそう」

「…………………頂いたからには、着ますよね?」

「えっ」


  はるから たまに発せられる鋭い発言に、ギクリとする。

「前に、奏良そらさん言ってましたよね?」

  ――――貰ったものは、使い倒すのが《礼儀》だと。


「う………」

「明日の公演が終われば、次の公演まで 少し時間があるしな」

「……………明後日以降の、《お楽しみ》といくか」

「ちょっと、待って。話の流れがおかしいよ、みんな?」

「おかしくない」

「激カワ、見たいですもん!」

「…………………絶対、似合わないから やだ」


  そもそも、スカートを まともに履いたのは、いつだったのか。

「高校の制服………うわぁー、何年前だよ」

「…………あ、今 《制服》で思いついちゃったんですけど」

「…………コスプレ?」

「そう! それです!」

「普通に 私服で撮るのもいいけど、確かに 色々やれて面白そうだよな」

「……………やるか? みんなで」

「コスプレ シリーズ?」

「まずは、王道の 《制服》からですよね?」

奏良そらさんにも やらせるために、エリカさんは確保しないとな」

「…………………おーい」

  まったく、聞いちゃいねぇ。

  ―――――勘弁して。



  疲れたと言いつつ、会話は いっこうに減らない男たちは。


  今後の《新企画》の話で盛り上がり、奏良そらが入り込む余地さえ 与えなかったのである。

  

 この先、長男 次男はどうするのか。

読んでくださっている方がいらっしゃれば、感想などもお待ちしております。


 アリスシリーズをお待ちの皆さまへ。叶人とウサギさんを書くために、体力をつけながら準備をしておりますので、もうしばらくお待ち下さい。

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