SNSと 曲配信 #4
十一月 十六日。
SNS活動が解禁となり、三グループそれぞれの公式アカウントは、賑わいを見せ始めていた。
まずはアー写の公開を皮切りに、各グループは個性を出そうと、それぞれが工夫を凝らす。
初の生配信ライブの反応が上々だったSTELLAとしても、勢いだけで どうにかなるものでもない。
休憩時間に 昨夜を振り返りつつ、今後の方針を話し合う。
「写真は できるだけ、一日 数枚ずつ公開していこう」
この せっかくのビジュアルの良さを、出し惜しみする必要はない。
「でも、飽きられたりしませんか?」
よく、『美人は三日で飽きる』と言われている。
いくら『顔面偏差値』が高かろうと、そんなに需要があるのか……という春音の疑問は、至極まっとうなものである。
「………まぁ、一般的にはそうだろうね」
「なに、勝算でもあるって顔だな」
「そりゃあ、当然でしょう?」
これまで、どれだけの数の候補生たちを見続けてきたと思っているのだ。
地方スクール生たちの『スカウト』の経験だってある。
奏良は、《人を見る目》には自信があった。
「自慢じゃないですけどねぇ―――――」
奏良が目をつけた、もしくは 声をかけた子は、どの子もすべてデビューを果たし、立派に活躍をしていた。
最近の話なら、『B.D.』がまさにそうであるし、身近なところでいえば、ルーカスと春音も その中の一人である。
「ボクも 春ちゃんも、まさに《奏良ファミリー》ですもんね♪」
その事実だけで、何が来ても怖くないと思える―――奏良という存在は、彼らにとって それくらいの意味を持っていた。
ぎゅっとハグをしてくるルーカスに応えつつ、奏良は続ける。
「単純に《見た目》がいいだけなら、それこそアイドル事務所とか、他にいくらでもいるけど。ウチは、DHEだからね」
見るものに 夢と幸せを与える、アーティストなのだ。
「飽きるってことは、要は《単調》になるってことでしょ」
「……飽きさせなきゃ、いいってこと?」
「歌と一緒だよ。いつも同じテイストで歌われたら、いくら上手くても つまらないから」
「《百のメリーさん》………あんな感じでですか?」
伝説のヴォイストレーナー 熊猫独自の《表現力》を養うレッスンメニューは、現在 グループでは尊を筆頭に三人が挑戦中だ。
服を変える、雰囲気を変える、やることを変える――― 俳優のように七変化……とはいかなくても、そのくらいの《変化》は必要だろう。
そうは いいつつも。
「………みんなと毎日一緒にいるけど、まったく飽きないんだよね」
何よりも 奏良自身が。
飽きるどころか、毎日、どの瞬間にも、しみじみと 思うのだ。
「――――――悔しいけど、めちゃくちゃ《かっこいいなぁ》って」
「!」
「!」
「!」
「!」
これだけ長時間、朝早くから夜遅くまで、同じメンバーで 同じ時間を過ごしていて、心から本当に そう思うのだ。
毎日 毎日、彼らは《色々な顔》を見せてくれるから。
「多分、ファンになってくれた人たちも、同じだと思うんだよね」
かっこつけた顔も、飾らない ふざけ合う姿も、きっとすべてが『愛しい』。
「愛すべき STELLAのみんなが、飽きられるなんて――――あり得ない」
変化を見せていく必要はあるが、彼らの魅力は そんなものではない。
一番近くで見ているからこそ、より強く思う。
「…………あ、そうか。ファン側の目線に立つことも必要かも」
女性ファンに受け入れてもらうことばかりを考えていたが。
受け身ではなく、こちらから《歩み寄る》のはどうだろう。
《女性であること》をマイナスに捉えるのではなく。
「………むしろ反対に、《共感》を得られるようにすればいいのかも?」
女性であることを、逆手にとる。つまり、利用するのだ。
奏良にしか、言えないこと。
奏良だから、見えること。
それを《発信》して、世界で一番《最新》な《彼らの魅力》を伝える―――
ファンには、たまらないはずだ。
「……毎回、そういうコーナーを作るか、それとも………」
一人で、先の先を考えこんでいたら、目の前のメンバーの様子がおかしいことになっていた。
四人とも、両手で顔を押さえて悶絶しているではないか。
「…………あれ? どうしたの、みんな?」
奏良は気付いていなかった。
自分が、何を 言ったのか。
その言葉が、どれだけの《破壊力》を持つのか、ということを。
「…………ほんと、信じらんねぇ」
「………マジでやめて」
「……直球過ぎて、防御するヒマないですよねぇ……」
「これって、慣れる日がくるんですかね」
嘘が一切ない、全力の《告白》。
四人の方こそ、毎日 毎日、奏良の繰り出す攻撃に、惨敗中である。
「……奏良さん、お願いですから、外ではやらないでくださいね?」
「……知らないところでやられたら、対処できねぇぞ」
「……考えただけでも怖いんだけど」
「?」
通じ合ったと思う反面、たまにメンバー間で このような《すれ違い》があるのは、由々しき事態である。
「何かあるなら、話し合おう!」
ずいっと。
さらに距離を詰めるから、四人は逃げる。
「ちょっと、ひどくない!?」
「今のは、奏良さんが悪いだろっ!」
「何が!?」
まだまだ、心の距離を縮めていく努力が必要らしい。
もっと、もっと。
彼らと 一緒にいるために。
四人の心中を知らずに、奏良は新たな決意を固めるのであった。
「えー、じゃあ 話を戻すけど…………」
ミーティングの結果。
《Twittoe》と《Instagrem》に、写真を一日 三回―――朝、昼、寝る前など、定期的に投稿すること。
「朝は、気合入れなきゃいけないから、《爆イケ》路線の写真がいいかな?」
「………狙うは《腰砕け》?」
「それ、唯織くんだけでしょ」
「バカ、爆イケと正反対だろーが」
「朝から、アニキの色気はヤバいですよー」
「………教育に良くない感じです」
「じゃあ、寝る前ならいいのかよ?」
「……寝る前もヤバいな」
「寝る前は、ハッピーで終わりたいじゃないですかぁ」
みんなから一斉にダメ出しを食らった長男は、一人 叫ぶ。
「――――――見てろ、朝イチで《強烈なの》投稿してやるから!!」
……朝からSNSのコメントが 大荒れしそうである。
まあ、実際にどんなものを出してくるのかと、怖いもの見たさはあるが。
《TikToki》には、それぞれの《歌》と《ダンス動画》を投稿すること。
「単独でもいいし、複数で組んでもいいし」
「毎日、当番制にする?」
「そうだね、毎日 当番の人が自由に曲を決めて、歌っているところを撮ろう」
「できれば、なるべく色んなジャンルを選ぶようにしたほうがいいですね」
色々なジャンルを歌うことで、歌の幅が広がるからだ。
投稿をしながら、ついでにスキルアップにもなる。一石二鳥だ。
「ダンス動画は、なんたって《頑張ってます》ってのを見てもらいたいですもんね」
「下手なら下手なりに、応援してもらえるだろ」
本来は隠したり、誤魔化したりする部分を、あえて公表する。
その姿勢は、きっと見ている人の心を揺さぶるだろうから。
やるなら、徹底的に。
「合間に、失敗シーンとかも入れましょうよ」
「ドラマのNGシーンみたいな?」
「ボク、俳優さんたちのNGシーン 好きなんですよ。普段 見れない姿が見れるのって嬉しいじゃないですか」
「ルーの場合、NGだらけになるんじゃねぇの?」
「ひどいっ!」
「NG特集とかも、面白そうですよね」
それから、毎日の《生配信》の中でも、《歌うところ》を増やしていくこと。
「喋りは、放っておいても みんな勝手に喋るだろうから、自然のままでいいだろ」
「一応、その日のテーマとかは決めようぜ」
「質問を受ける日、とか?」
「僕たちを知ってもらうための《質問の日》とか、ひたすらリクエストに応えて歌う《歌う日》とか、そういう感じで決めるのはどうですか?」
「積極的だなぁ、春ちゃん♪」
「そうだな、丸々 歌う日っていうのも、作るか」
《歌手》なのだから、歌ってこそ魅力が引き立つというもの。
しかも、全員が歌えるのは、三グループの中でSTELLAだけなのだから。
「この中で、一番 幅広く歌えるのって……」
「―――――奏良さんだろ」
数も種類も多く知っていて、自由に歌いこなせる。
きっと、どの配信回でも 一番歌う場面が多くなるだろう。
「次が、唯織か?」
「唯織くんは洋楽も得意ですよね」
「まぁな」
「俺はヒップホップ系だなぁ」
「ボクと 春ちゃんは、Kポップも強いですよ!」
「みんなの得意分野を、お互い 学んでいけたらいいね」
「…………奏良さんは、まだ 人前で歌うのに抵抗ありますか?」
「んー………」
今まで 人前で歌うことにトラウマを持っていたからこそ、覆面で《仮歌》の活動してきたのだが。
追加メンバー選考会で、曲者ばかりの関係者三十人を相手にし、抜き打ちで五曲を歌いきったのは、ある意味 《転機》といえよう。
「まだ、お客様の前に出てないから、なんともいえないけど」
歌うことに、もう違和感はない。
もとから、歌は好きなのだ。
周りに 同じような《歌好き》が集まっているのだ、楽しくないわけがない。
生配信で歌うことに対しても、もう拒否感は感じられなくなっていた。
「だいぶ、平気になったと思う」
「それに、これだけ毎日、カメラで撮られてるしな」
テレビ放送用のカメラに、DHE公式の写真用カメラ……休憩時間や 食事風景だって撮られるのだ。気にしていたら身がもたない。
選考会のときは、先のことなんて考えられなかった。
自分が選ばれなければ、アキトか相馬が選ばれてしまう。
それで、いいのか――――それしか頭になかったから。
けれど、最近は 変わってきている。
少しずつ、《欲》が出てきたのだ。
「もっと、歌いたいなぁ……って」
「奏良さん、俺たちが歌ってるとこに 入ってくるようになったよな」
何をしていても、誰かしらが歌っているような環境の中。
一人が歌えば、一緒になって歌う。
そこに、自然と加われるようになったのは 大きい。
「何でも歌えるし、誰とでも歌声が合うってのがスゴイですよね」
「……………奏良さん入ると、マジで楽しくなるよな」
気を付けないと、練習そっちのけで、ずっと歌ってしまいそうだ。
「そういう感じを配信でも見せて、みんなにも感じてもらいたいですよね」
歌うことの楽しさ―――《Happiness》の部分を。
「………で、今日は 早速、どうする?」
今のところ、生配信はどうしても夜になってしまうだろう。
動画のアップは、それよりも前の《夕方頃》がいいだろうか。
「動画と生配信で、歌のジャンルを《統一》するのは どうですか?」
例えば、歌の《動画》がKポップなら、夜の生配信の中で歌うのもKポップにする、ということだ。
「あ、それいいですね」
「動画見てくれましたか?って、生配信でも話ができるしね」
「今日の《話のテーマ》は?」
「今日は まだ始まって二日目だから、けっこう質問とか多くきてるじゃない?」
「《質問の日》―――をテーマにして、合間にちょこちょこ歌を挟みましょう!」
「一週間に一回、《歌の日》を設定するとかは?」
「……平日より、週末とかのほうがいいかもな。特別感が出るし」
アーカイブで 見逃した人にも見れるようにするとしても、何か決まりがあったほうが 《マンネリ化》せずに メリハリがつくだろう。
「じゃあ、今日の配信で、これからの《やり方》を発表しておいた方がいいな」
「正直、昨日は グダグダでしたしね………」
「カオスでした」
「今日は真面目にやんぞ」
「できるかなぁ……」
「《動画》のトップバッター、どうする? 誰やる?」
唯織の問いかけに、いち早く手を挙げたのはルーカスだった。
「はい、はーい! ボク、やりたいです!」
「よし、まかせた」
「切り込み隊長、何を歌うんだ?」
「ボクは、奏良さんと唯織くんと三人で、歌いたいヤツがあります♪」
「……いいぜ。じゃあ、あとで撮ったら、夕方にはアップするか」
「やったー、楽しみっ♪」
「………じゃあ、歌の《撮影》は三時くらいにして、それまでは練習な」
休憩 兼ミーティングを終え、五人は練習へと戻っていく。
その様子を、総合責任者のリューイチが 隠れて見守っていた。
レッスン室の扉越しだが、メンバーは誰も気付いていない。
「なんとか………やれてるみたいだな」
期待はしていたし、できる……と信じてはいたが、やはり心配してしまうのは《親心》というべきか。
様々な背景を持つ、特殊な五人だからこそ、不安は尽きない。
その中で、お互いを認めあって、高めあっていけるような雰囲気が、すでに作られてきている。
「………頑張れ」
一番心配しているグループだからこそ、一番 成功を掴み取って欲しいと強く思う。
みんなに見つかる前に、リューイチはレッスン室から離れて行った。
* * * * * * * *
個人練習、全体練習、舞台での動きの確認、SNS用の写真撮影、歌の動画撮影―――そして、夜は《毎日配信》が待っている。
文字通り、STELLAは時間に追われていた。
オリジナル曲の配信は、十一月 二十日。
二十日の 午前零時が配信開始となるが、その前日、十九日には別の大一番が控えていた。
「直前チェックか……」
二十二日から始まる《初公演》に向けて、グループごとに《レベルチェック》が行われるのだ。
ステージに出すレベルに達しているか、お客様の前に立つのにふさわしいかどうか。
三十人の審査員たちの前で、本番さながらに披露するのである。
「ここでダメってなったら、作り直す、ってことですか?」
「何に対してダメ出しされるのか………にもよると思うけど」
オリジナル曲の仕上がりや、あとに続く二曲の完成度。
STELLAが選んだ二曲に関して、自分たちなりに なかなかの出来具合だと確信してはいるのだが。
奏良は、何かが 引っかかっていた。
上手くいっている、はずなのに。
拭いきれない《不安》なのか、漠然とした《焦り》なのか、その正体を掴めずにいる。
「…………上手く、評価されるといいんだけど」
十一月 十六日、十七日、十八日。
SNSの投稿や、生配信は好調だった。
写真を揚げればコメントが殺到し、歌の動画も コメントやいいねが飛び交い、生配信も日を追うごとに 視聴者数がぐんぐん伸びていた。
この三日間で、奏良は 問題視していた《女性ファン》を、自らの《魅力》で《味方》に変えることに成功する。
キレイ、可愛い、カッコイイ。
そんな要素に加え、飾らないナチュラルな性格が同性にもウケて、奏良が喋るたびに好感度が跳ね上がる。
さらに、弟たちのカッコよさを利用し、奏良が厳選した 彼らの《かっこいいエピソード》を会話の中に盛り込んだところ、これが大当たりしたのだ。
ファンから嫉妬されるどころか、『もっと教えて!』『女子トークみたいで楽しい!』と、奏良応援隊が急増し、晴れて『STELLAは全員が推しだよね』――――と、いわゆる『箱推し』へと風向きを変えていったのである。
「奏良さーん、コメントすっごいことになってますよ!」
相変わらず、ルーカスは 《奏良情報》を拾って教えてくれる。
「今朝の写真、あれはヤバいですよねぇ♪」
十一月 十九日、朝。
朝の恒例、《おはよう写真》。
本日の写真は、唯織と奏良のツーショット―――テーマはもちろん《超絶セクシー》である。
まだまだ写真に慣れないとはいえ、唯織のような《魅せ方のプロ》が目の前にいると、影響されて 上手くできるのかもしれない。
何気なく顔の近くに持ってきた《手》と、《流し目》がポイント――――唯織の指示の通りにしただけだが、二人が寄り添って並ぶ様は 圧巻だ。
色気だだ漏れな二人の姿に、案の定 コメントが殺到し、SNSのシステムが一時 停止したほどだ。
「確かに、いい感じで撮れてるよな。自画自賛だけど」
「二人とも《爆イケ》っていうより、《美しい》って感じですよね!」
「……目を奪われる、って言葉が ぴったりじゃないですか?」
「悔しいけど、見ちゃうよな……」
キュート比率が上がっていた奏良も、この時ばかりは 本来の《魔性ぶり》をいかんなく発揮していた。
そんな感じで、すべてが順調に進んでいるかのようにみえたのも、束の間。
人生、何事も そうそう上手くいくはずもなく。
その日の午前中に行われた《直前チェック》で、STELLAは 思わぬ評価を受けることになるのである。
* * * * * * * *
三グループとも お披露目パフォーマンスが終了し、すぐに評価が発表された。
Infinityは、オリジナル曲の精度を もう少し上げること。
曲が難しいことと、踊りながら歌うのが まだ不十分だということで、特にメインヴォーカルの改善がポイントとなった。
The One and Only は反対に、ダンスパフォーマンス面で まだ改善の余地があるとして、振付の再考が求められる。プロダンサーがいる分、評価は厳しいのだ。
そして、STELLA LOVE HAPPINESSは、どうかというと。
「悪くは、ないんだよ。歌えてるし、悪くはないんだけど」
―――――――何かが、決定的に《違う》と。
「オリジナル曲は、振付を変更して よくなってきてるし、いいと思う。洋楽も、君たちの個性が発揮されてて、楽しそうだし とてもイイ選曲だと思う」
問題は、先輩たちの曲。
目の前の、リューイチが所属する『TEMPEST』の曲に、《待った》がかかったのだ。
「なんだろうなぁ。歌えては、いるんだよ」
難しい曲ではあるけれど、練習の成果が出ていて、上手く歌えている。
けれど、ただ、それだけ。
「………厳しいことを言うけど、上手いだけじゃプロとは言えないでしょ?」
つまりは、そういうことなのだ。
「―――――選曲ミス、かもな」
「!」
五人は、絶句した。
ここにきて、今になって。
痛恨の、選曲ミス。
それは、《自分たちを まだ理解しきれていない》と言われていることと、同じなのだから。
「申し訳ないけど、その状態で、その曲を披露するのは反対です」
社長の言葉に、さすがの奏良でさえ 反応が鈍くなる。
見かねたリューイチは、五人に優しく語りかけた。
「……この曲、難しかったでしょ? たくさん練習した?」
「……はい、しました」
「うん、そうみたいだね。ここまで歌るようになるってことは、それだけ頑張った証拠なんだと思うよ」
頑張ったことは、決して無駄にはならない。
挑戦したことで、グループ全体のレベルは、間違えなく上昇しているだろう。
「だからこそ、勿体ない。君たちには、もっと似合う曲があるはずなんだ」
難しい曲だから、挑戦したい。
できるということを、見せつけたい。
季節に合う曲だから。
お客様に、ウケそうだから。
王道の曲は、無難だから。
「失敗しないことを前提に、選んだりしてないかな?」
「!」
悔しいが、そう指摘されると その通りだった。
《何を見せたいか》よりも、《何なら認められやすいか》で選んでいたのだ。
「考え方として、プロには大事なことかもしれないけど、まだ今は その時期ではないんだよね」
もっと素直に、ありのままを見せてほしい。
「自分たちが、本当に《歌いたい》って思う曲を、今回は選ぶべきだと思うよ」
自分たちが、心から やりたいと思えるもの。
背伸びせずに、自らの心の声に気付いてほしい。
「もっとね、自分たちの《実力》を、信じてごらん? ……怖がらなくていい。君たちは、ちゃんとデキるチカラは充分持ってるし、それだけ努力だってできるんだから」
とにかく、安易な方向に 逃げないこと。
やりたいことを 遠慮せずに、楽しんでやる―――結局のところ それが一番、グループの魅力を伝えられるのだ。
「それこそが、きっと君たちグループを輝かせてくれることに繋がるはずだから」
もう一度、曲を選び直すこと。
そして、それを改めて発表すること。
「今回、三グループとも、それぞれ《改善点》を言われたと思うので、もう一度改めて、その部分だけチェックさせてください」
全国行脚は二十二日から始まってしまう。
本日、十九日。あと三日間しか時間が無い。
「えー、前日の二十一日、十五時にしましょうか。十五時に、もう一回この場所に集まってください。最終チェックをするので、しっかり修正してきてください」
STELLAの場合、修正ではなく 完全なる《変更》を命じられたことになる。
「STELLAはキツイだろうけど、きっとできると信じているので、ぜひグループ 一丸となって乗り越えていってください」
言葉で言うのは簡単だが、実際はとんでもなく 難しい要求をされているのと同じだった。
グループとしての《問題解決力》が、試される。
STELLA結成後 初めての、大きな試練にぶつかったのであった。