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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
16/47

SNSと 曲配信 #1

  大人のメンズファッションブランド『ALTAIRアルタイル』の、銀座本店で。


  ようやく、STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネスは、舞台ステージ衣装を決定した。


  値段も張る ハイブランドである。

  まだデビュー前の《新人》が、そんなに着飾っていいのか―――という批判も考慮して、おりが選定した結果。


  トップスは ミルキーホワイト色の ゆるっとした《ニットカーディガン》――――ざっくりとしたローゲージのケーブル編みで、深めのVネックタイプだ。

  カーディガンのボタンを 一番下以外は閉じて着用し、インナーに合わせるのは 胸元にセピア色の写真プリントが入った《真っ白なTシャツ》。

  それに黒の《細みパンツ》という、意外にも一見 おとなしめでシンプルなコーディネートだった。

  たっぷりとした長め袖のクシュクシュ感が 大人可愛くて、メンバーのお気に入りポイントでもある。

  

  カーディガンの正面は無地だが、背面には『ALTAIRアルタイル』のブランドロゴ―――《飛ぶ鷲》のデザインが入り、背中からの視線も抜かりない。

  無地の黒に見えるパンツにも、よく目を凝らすと 大胆な《花柄プリント》が隠れているなど、『オシャレ番長』のおりらしい《こだわり》が詰まっている。


  革のライダースジャケットなど、カッチリとした攻めた衣装も考えたが、それはまた 次回以降に持ち越しとなった。

  肩肘張らない、休日のリラックスウェアのような、絶妙なヌケ感――――けれど、素材の良さや バランスの整ったデザインなど、見る人が見ればわかるだろう。

  やり過ぎないくらいが、ちょうどいい。

  五人は どうせ、何を着たって目立つのだから。


「カーディガンは思いつきませんでした」

「……だろ?」

「ちょっと《チルい感じ》が カワイイよな」

「モノトーンでも柔らかい雰囲気ですよね」

「ミルキーホワイトって色が好きだなぁ。男の子が着ると すごく可愛いよね」


  おそらく『The One and Only』が黒系や革素材―――いわゆる《ハードな感じ》でくるだろうと予想して、STELLAステラは 同じモノトーンでも、ゆるシルエットや花柄など 違ったニュアンスにすれば《丸かぶり》は回避できるだろう。


  メンズファッションで主流の《ジャケット》を使用すれば、キレイめやセクシー系も狙えるのだが、あえて避けたのには《理由》があった。

  まだ幼さが残る春音はるとと、女性である奏良そらが、笑えるほど《ジャケットが似合わない》ことが発覚したからである。


「…………あんなにさぁ」

「笑わなくても いいですよね……」

  店からの帰り道。

  渋い顔で肩を落とす、末っ子と長女。    

  ある程度の年齢がくれば、誰でも似合うはずなのに。

「女子だって、普通にジャケットとかスーツとか着るじゃん。なのに、何で奏良そらさんは似合わないのかナゾなんだけど」

奏良そらさんの場合、スーツの上着脱いだバージョン、あれ 似合うと思います!」

「上着脱いだバージョン?」

「あれか? シャツに スーツ下のベスト?」

「あ、それです それです!」

「レストランのウエイターみたいなやつか」

「え、ボクのイメージは執事バトラーですって」

「……パチンコ店の 店員じゃね?」


  好き放題言われて、二人は顔を見合わせる。

「……酷くない?」

「ひどいです……特におりくんが」

  じろり、と。

  笑った三人―――長男、次男、三男を、恨めしそうに見る。


「悪かったって!」

「だって、マジで似合わねぇんだもん」

「アニキ、ダメですって!」

  止めるルーカスでさえ、顔は笑っている。

「ほら、二人ともキュートな顔立ちだから、似合わないだけですよ! ね?」

「……るーくんも笑ってるじゃないですか。自分は似合うからって」

「うっ」

  末っ子の 珍しく反抗的な態度に、ルーカスも焦る。

「は、春ちゃん?」

「僕、怒ってるんです」

「えー!?」


  春音はると奏良そらの腕にギュッと抱きつき、兄 三人に宣言する。

「……僕、当分は《かっこいい》を追いかけるのは止めます」

ハル?」

春音はると?」

「春ちゃーん?」


  末っ子の、逆襲。

  まるで、『言われっぱなしだと思うなよ?』とでも言いたいのだろうが。

「しばらくは、奏良そらさんと《一緒》に《可愛い》を極めます!」

  一緒に、という部分を ことさら強調させて。

「はっ?」

「何だって?」

「どうしたのっ!?」


  春音はるとは気付いたのだ。

  兄 三人には、できないことを。


  それは、すなわち 末っ子の《特権》を利用すること―――幼くて可愛いならば、大抵のことは許される。

「ちょ、ちょっと待て」

春音はると? 一回 落ち着こう」

「どさくさに紛れて、奏良そらさんを味方につけるとかズルくない?」

「知りません。……行きましょう、奏良そらさん」

  ぷいっと、腕を組んだまま背中を向けて 歩き出す。


  途中、振り返って、ベーっと舌を出す。

「!」

「何だ、アイツ」

「……春ちゃーん? 拗ねちゃった〜?」

「っていうか、おい、待てって」

「二人で勝手に行くなって!」

  このあと、衣装に合わせたシューズを探しに行くというのに、目的の反対方向に行こうとして、奏良そらに止められている始末。


「アイツ、ほんと方向音痴だよな……」

「見事に逆の方向に行くとか、天才的」

「アニキたち、追いかけないと 迷子確定ですよ?」

「………もう! 行くのはどっちですか!?」

  頬を膨らませた顔は、本当に二十歳の男なのだろうか。……幼い。幼すぎる。

  顔つき―――というよりも、あれは 性格のせいだな、と三人は思う。


  可愛いやら呆れるやら、やはり末っ子は どこまでも末っ子というわけだ。

「………っていうか」

「ボクたちを除け者にして」

「イチャつき過ぎだっ!」

  三人が わっと駆け出す。

「待て、このヤロウ!」

「オレたちを置いていこうなんて……」

「十年早いよ、春ちゃん!」


  銀座という大人な街にはそぐわない、若者たちのじゃれ合う光景。

  あまりにも楽しそうだから、振り返る人々も 思わず微笑んでしまう―――まさに見る者を 幸せな気持ちにさせるチカラを持っていた。


  STELLAステラの一番の魅力とは。

  五人の 飾らない自然な《わちゃわちゃ感》が、一番なのかもしれない。



  余談だが、この時を堺に、春音はると奏良そらの《キュート比率》が一気に《上昇》したのは、いうまでもない。

  二人の距離が縮まったことで、より 仕草や視線に《甘さ》が追加され、STELLAステラの《カワイイ度》を グッと押し上げたのである。


*  *  *  *  *  *  *  *



  衣装が決まったことで、保留にしていた他のことも 慌ただしく決まっていった。


  まずは、『アー写』―――宣伝用のアーティスト写真は、十一月 十三日に撮影することが決まり、それまでに全員で《髪色》を揃えることになったのだが。


  現在の髪型、髪色は バラバラである。


  奏良そら以外はカラーリングを繰り返しているせいで髪自体が傷んでいるため、染め直しても指定した色にならない可能性は高い。


奏良そらさんの髪も、だいぶ色 変わってきたよな」

「んー、美容師さんに言われた通り、カラーシャンプーしてるんだけどね」

  染めてから三週間経過したあたりから、白やシルバーの色が抜けてきて、現在はベージュ系の色に落ち着いてきている。

「え、でもキレイに変化してません?」

春音はるとと大違い」

「……僕の髪の毛、すぐに黄色くなっちゃうんですよね」

「汚れたネコみたいだよなぁ」

「ひどっ! 酷いですよ、おりくん!」

  おりは金髪、みことはシルバーアッシュ系、ルーカスは 王道の明るめブラウン、春音はるとはホワイトカラーが絶賛変化中。


「僕も、奏良そらさんが最初に染めたみたいな、ああいう色がいいです」

「ホワイト寄りの プラチナブロンド?」

「あれ、確かにイイよな、服の色を選ばない感じ」

「日本人て 黄色味が強いから、ゴールド感強いと 似合わない人もいるしな」

おりくんは 金髪でも似合うよね」

「……………………………まぁ、オレは顔がイイから」

「アニキ、照れてる♪」

「照れてる〜」

「うっせぇ!」


  ちょいちょい投下される、奏良そら直球ストレートな《褒め言葉》は、褒められ慣れているおりをも 簡単に翻弄した。


  奏良そらの言葉は、嘘がない。

  常に 百パーセント、言葉までもが全力の本気だから、受けた側からすれば 《褒め殺し》と同じ効果がある。

「……で、どうすんの?」

「プラチナブロンドもいいけど、可愛くなり過ぎな感じしません?」

  ルーカスは、全員の髪色を想像しながら異を唱えた。

  キュート比率が上がったとはいえ、あくまでも自分たちは《爆イケ集団》がテーマなのだ。


「………そうなると」

「プラチナブロンドよりも……こっちか?」

  おりが髪色見本の画像を検索しながら、ある色を特定する。


「これは?」

「おっ」

「カッコイイ!」

「シルバーベージュ?」

  シルバー系とベージュ系の中間色で、クールとナチュラル 両方のイメージを持つ。

「今のみことの髪色と近いかもしれないけど」

「……いいじゃん、みんな似合いそうだし」

「……注意書き見ると、退色も早そうだけどな」

  個人差はあるが、色落ちは早くて三日目くらいから始まるらしい。

「早っ」

「アー写 撮って、SNSやる前に すでに変色してそうだな」

「まぁ、それも 面白いんじゃない?」

「公演の時に、絶対 アー写と同じ色になってなくても、それはそれで いいと思うよ」

「………汚いネコに ならなきゃな」

「だから、おりくん ひつこいですよっ」


  男女どちらでも似合いそうな色。

  STELLAステラにとっては重要ポイントだった。

「十三日が撮影なら、前日行っとく?」

「十二日ですか?」

「染めてみて、ダメな仕上がりになるかもしれないけど」

「そこは、カラーワックスとか、何か対策を考えよう」

  ということで、十二日の午後は 全員で《美容院》行きに決定。


「衣装決めて、統一する髪も決めて……」

「あ、アクセサリーってどうします?」

「つけるか、つけないか?」

「みんな いつもアクセサリーつけてるよね」

  レッスン中は 邪魔になるからと外しているが、それ以外は 服に合わせて必ず着けるのが、オシャレ男子の常識だ。


「ピアス、ネックレス、指輪リング……俺は、だいたい そんな感じだな」

「ボクも同じです。バングルとか 腕に着ける物は、あんまり しないですね。持ってはいるんですけど」

  マイクを持つときに、指輪はズレることはないが、ブレスレットやバングルなどは 腕の振りによっては動きがあるため、気になってしまうこともある。


  歌うことを優先に考えると、腕のアクセサリーは 自然としなくなっていた。  


「――――いつも通り、それは自由にする?」

「あんまり派手すぎなのはNGだけど」

「誰か一人だけ《悪目立ち》しない程度なら、いいんじゃね?」

「じゃあ、衣装の邪魔にならない範囲で、ってことですね?」

「了解です」

  アー写と 舞台衣装、見た目の問題は解決した。



  次に、決めなければいけない 重要事項。

「それから、あとの二曲だけど」

「………それ、私に提案がありまーす」

  奏良そらが素早く手を挙げる。


「一曲、洋楽で歌いたいのがあるの。……っていうか、コレ絶対に みんなでやったら楽しいと思うんだけど」

「え、誰の曲ですか?」

「……トレイシー・キャンベル」

「!」

「!」

「あ、でもね。今 チャートインしてる曲じゃないヤツだから」

「《Let's have fun》じゃないの?」


  シンガーソングライターのトレイシーが半年前に出した曲は、今も 各分野でチャートインし ロングランヒット更新中だ。

「確かに 今の曲もいいと思うけどね?」


  最新曲というのは、それだけでチカラを持っている。

  ただし、曲の方に 意識や関心を持たれては、肝心の《歌》が 二の次にされてしまう可能性がある。

  そういったたぐいの曲は、通常 避けたほうが正解だ。


「彼女のデビュー当時ので、《Love is a fight》っていう曲なんだけど」

  まだトレイシーが売れてきていない時の、アルバムの中の一曲だ。


  フラフラと浮気っぽい彼氏に対して、女の子が あの手この手で戦いを挑む―――という歌詞だが、その内容とメロディが、とにかく素朴で可愛い。

  有名ではないけれど、隠れた名曲として 奏良そらのお気に入りだった。


  説明するよりも、聴いたほうがわかりやすい。

  奏良そらはアカペラで歌ってみせた。


  〜〜♪♬♪〜〜♬♪〜♫♬♫〜〜♫〜〜♪


「あ」

「……オレ、知ってる」

「……ボクは初めて聴きますけど、何かウキウキするような曲ですね!」

「可愛いし、楽しそうです!」


  トレイシーらしい、《レトロ》で《ポップ》なリズムとメロディ。バックに流れるサックスの音が効果的だが、大人っぽいというよりは 断然キュートさが強い。

  メロディは割と単純な作りなので、歌い方と表現の仕方で 大きく変化する曲だ。


  七十年代を連想させるような、ボックスステップが踏めそうな軽快な速度テンポと、多用されるハーモニー。

  《マイクスタンド》を使用して歌うなど、懐メロ的な雰囲気にしたら とても合いそうだ。


「Aメロで二人、Bメロで二人、サビは全員で掛け合い。で、二番あとの ラップパートが一人。そんな感じでイメージしてみたんだけど」

  頭の中のイメージを ホワイトボードに書いて、メンバーに伝える。


「Aメロ担当が、ステージ左側。Bメロ担当は、反対のステージ右側。真中センターは ラップ担当の単独パート……こういう感じ」

「……へぇ、いいんじゃない?」

「掛け合いっていうか、左右に分かれての《バトル》みたいな感じか。そのアイデア いいな」

「………でも、なんか それって」

「考えなくても、自然に パート分けが想像できちゃいませんか?」

  声質や歌い方を考慮して、この曲に合うように選択するならば。


  積極的になってきた末っ子が、ホワイトボードに メンバーの名前を書き足していく。

  

  Aメロ担当:おり奏良そら

  Bメロ担当:みこと春音はると

  単独ラップパート:ルーカス


  立ち位置で考えると、左から おり奏良そら、ルーカス、みこと春音はるとになるだろうか。


「……うん、この曲ならそれが自然だろうな。みんなは どう?」

  春音はるとの言う通り、五人で並んで 歌っている姿が想像できて、みことはメンバーをの反応をうかがう。


「オレは賛成」

「ボクも もちろん賛成です! ……あ、でもボクだけ真ん中で、仲間ハズレ??」

「……深く 考えるな」

「残念だったな」

「ええっ!? ちょっと待ってくださいー!」

「これ以上は待たん。これで決定」


  あれだけ悩んで決まらなかったのが 嘘のようだ。

  その勢いのまま、もう一つの曲も 話し合いを行う。


「先輩の曲を一曲は歌う、っていう もう一つの課題の方は―――」


  これから秋、冬と季節が移行すること。

  さらに、歌唱力を全面に出したところを披露したい、というメンバーの思いを反映させた結果。


  冬のラヴソングの代表格、リューイチが所属する《TEMPEST》の『deep love〜雪の降る街で』を選択することになった。


「《TEMPEST》さんの曲だから、気合い入れて取り掛からないとな」

  中途半端な歌では、それこそ笑われてしまうだろう。


  TEMPESTの曲は、歌うと半端なく難しい。

  だから、最初は 避けて、選択肢の中から除外していたのだが、考えてみれば 勿体ないことだった。

  そこに、あえて真正面から挑むことで、STELLAステラというグループとしての レベルアップが期待できるはず。

  

「練習、あるのみだな」

  それが、吉と出るか 凶と出るかはわからないが。

「笑われるのなんて、ごめんだぜ」

  時間の許す限り、《自分たちの歌》として歌いこなせるようにならなければならない。

「どうせなら、リューイチさんたちを 驚かせたいですね!」

「大先輩の胸を借りるつもりで、全力で取り組もう!」

「……まずは、個人パートの練習から、ですね?」


  時間が惜しい。

  日付はすでに十一月 六日。


  全国行脚の初回公演まで、あと 十五日。

  公演日までにやらなければいけないことは、もう一つあった。

  練習に取り掛かろうとするメンバーを、奏良そらが呼び止める。


「みんなに、言っておかなきゃいけないことがあるの」


  真面目な表情に、四人も 一旦 動きが止まる。

「……何? 真面目な顔して」

「―――本当は言いたくなかったし、こんな事、気にしてほしくはなかったんだけど」

  知らないと、対処できない。

  五人は、これからプロを目指す身として、守られているだけでは この先戦ってはいけない。

  

「――――全国行脚の一番の目的は、生のライブで《トラブル》が起きたときに、上手く対処できるように修練を積む、ってことじゃない?」


  トラブルの種類は、大きく分けると二種類だ。

「一つは、《物理的トラブル》。機材の故障で 曲が流れないとか、マイクの故障で 声が出ないとかね」


  これは、準備さえしておけば あらかた回避できる問題だ。

「マイクは予備を用意していけばいいし、音楽が流れないときのためには、《アカペラバージョン》を用意しておいて、最悪は ソレを披露すればいい」

  万全のパフォーマンスにはならないが、少なくとも 来てくれたお客様を、がっかりさせて帰らせることだけは避けられるだろう。


  実際に、過去の公演では何回も起きたトラブルであり、不安要素をどれだけ潰しておけるか―――それが公演を成功させる 分かれ目となるだろう。


  想定できる限りの あらゆるトラブルを予測して、準備をする。それは、スタッフとして経験がある奏良そらだからこそ、気付いて やらなければいけないことなのだ。

「できる限りの準備はするつもり。みんなには、《アカペラバージョン》の練習もしておいて欲しいの。楽譜は……明日には用意するから」


  どんなに準備しても、想定外のことが起こることもある。

  けれど、ほとんどの不安材料をあらかじめ消しておけば、心の余裕はできるはずだから。

「そこは、奏良そらさんの《経験》を頼りに、オレたちもやるしかないな」

「俺たち……ライブのときも、ほとんどスタッフさんが やってくれてたしな」

  おりみことは、本番のステージといえど、そのような《不安》を抱いたことは 今まで無かった。

  それだけ、すでに整えられた環境で、守られていた―――ということだろう。


  二人は、何ともいえない気持ちで、顔を見合わせた。

  少し前、奏良そらに対して 『Little Crown』が行った非道な行為……それは到底 許せることではないが、同じグループのメンバーとして、先輩として。

  彼らは確かに、優しい人たちだったのは間違えない。


「よし。で、問題はここからなの」

  もう一つのトラブルは―――

「《人為的トラブル》?」

「そう。細かくいうとね、自分たちのミス……音を外すとか、歌詞を忘れるとか、歌詞を間違えるとかね」

 

  緊張のあまり、人間なのだから 起こしてしまうかもしれない、あり得るトラブルだ。

「これはね、正直 どうしようもない。起きないように努力して……っていっても、緊張には勝てないからね」

「だから、それは 周りがカバーするしかないよな?」

「そうだね。起こってしまうのは仕方ないから、そうなった時に、他の人たちで どれだけカバーできるか。グループとしての《総合力》が試されるてるわけ」


  STELLAステラに関しては、その点 あまり心配はしていなかった。

  他のグループよりも人数が少なくて、五人しかいない―――と言われがちだが。

「……多分、誰かがコケても、絶対に周りが拾ってくれる……なんか、そんな気がする」

「ま、そこは 当然だろ」

「ボクと春ちゃんが 一番やらかしそうですけどね」

「みんながいてくれるってだけで、僕は心強いです」


  奏良そらは笑った。

  本当に、この五人は、よくも上手く集められたものだ。

  選定を行った プロジェクトチームに、脱帽である。



「―――《人為的トラブル》で、一番怖いのはね」


  言いたくはないし、信じたくはないけれど。

  それが、現実に起こる。それを、この目で見てきたのだから、認めざるをえない。



「《作為的》………《わざと引き起こされる》トラブルの方なんだ」

  話中に登場した《トレイシー・キャンベル》の《Love is a fight》というのは架空のものですが、メーガン・○○イナーさんの『Title』という曲を元のイメージとして使わせていただきました。

  STELLAステラの五人が歌ったら……という想像をしたらピッタリだと思ったので、興味を持たれた方は ぜひチェックしてみてくださいね。

 

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