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おこのみやきの優しさ

作者: 紀希
掲載日:2023/01/11



「またお好み焼きかよ、、」



何度ともなく嗅ぎ慣れた臭い。


玄関を開ける前から匂うこれは、


俺の家から漂って来た。



解放感と、罪悪感。


今すぐ開きたいはずなのに。


開きたくもない扉。



重く、古い玄関は音を立てた。


「お帰り!?」


鍵を閉めて背負っていた荷物を置く。



「お帰り??」


聞き慣れた声。


安心する声。


「ただいま。。」


不貞腐れている俺は。


素直に会話をする事が出来なかった。



「何かあったん??」


「いや。。


疲れただけ。」


脱水場へ向かい、服を脱ぐ。


「お疲れ様。


お風呂、入ってるよ?」


「うん、」


シャワーを頭から浴びる。



「、、糞。」


大人気ない。



まだ、大人に成れない俺。



彼女とは、前の職場で出逢った。


何と無く一緒に居て。


いつからか。一緒に居る事が、当たり前になっていた。



彼女「熱くなかった?」


「熱かった。」


彼女「夕飯。お好み焼き。


、ごめんね?貧乏で。。」 


「いや、、


いただきます。」


彼女「いただきます。」


働きもしない奴に出される無償の夕食。


彼女は、俺が帰るまで一切手を付けなかった。



俺は年甲斐にも無く。


叶いそうにもない夢を追っていた。


彼女は、そんな俺を応援してくれていた。



彼女「大丈夫。


"次"があるよ??」



そんな言葉に甘えて。


ダラダラと無駄な時間を浪費し。


歳だけを取り。季節は何回も変わった。



彼女「美味しくなかった?」


「いや。またお好み焼きなんだなって。」


彼女「そうだよね。


飽きちゃったよね。。」



『お前が働け!』


『お前が働かないからだろ??』


『何を偉そうに言ってるんだ。』


『糞紐野郎。』



俺の中の俺は、そう。


世間からの一般論を。


正当性のある言葉を投げ掛ける。



「これは、美味しい。。」


彼女「明日は、何が食べたい??」


「自分が食べたいので良いよ?」


彼女「えー、。


食べたいのが良いじゃあん??」


「お好み焼き以外なら、何でも良いよ。」


彼女「分かった。」



彼女は朝早くから家を出て。


夜遅くに帰ってくる。



俺はというと。



家で好きな時間まで寝て。


ゲームして。


腹減ったら食い物を漁って。


テレビ見て。


酒飲んで。



そんな生活を、ずっと続けて居た。



何回も何回も。


自分の決めた道を疑った。



これが。


これで。



"正しいのか"



『結果』は分かっていた。



正しく何かは無かった。


きっと間違っているんだろう。



皆。嫌な事と向き合って。


皆。一生懸命に生きていた。



俺がやっているのは。


ただ御託を並べ。


悪いのは全部が、周りだと。



まるで、自分の意見を無理にでも通す。


小さな子供のわがままの様に。



今の今まで。


ずっと、、


そうやって生きてきたのだ。



「俺は、何をしてるんだろうか、、」



彼女を楽させてあげたかった。


彼女を幸せにしてあげたかった。


俺はただ、彼女を笑顔にする為に、、



それが、こうだ。。



定職も無く。


貯金すら無い。



俺は彼女に、"寄生"していた。



彼女「行ってくるね。」


「ぅん、行ってらっしゃい」



寒い朝。


俺は布団に潜って。



彼女を働かせに行かせた。



「はぁ、、」



目が覚めると、半日が過ぎていた。


煙草に火を着けて。


金を煙に代えていた。



「はぁ、、」



夢を追う理由。


夢を貫く意味を。



俺はいつからか、、



忘れてしまった。



何もしてないのに腹は減る。


冷蔵庫の中を漁り、目ぼしいものが無く。


俺は、レンジへと手を伸ばす。



ゆっくりと開けたレンジには、


昨日の残り物が入っていた。



「お好み焼き、、」



俺は温めて。


べちゃべちゃになったそれを食べた。


「旨い、、」



涙が溢れた。



純粋に。。


お好み焼きが旨かった。



毎日毎日。朝早くから、遅くまで。


一生懸命働いて。帰ってからも料理を作って。



俺の帰りを。


ただ待って居て、、



「ぐふっ、、んふっ、、」



誕生日にクリスマス。


プレゼントと呼ばれる物は、


何一つ買ってあげられ無かった。



何も与えてあげられる物は無かったのに。


彼女は、俺に何でも与えてくれた。



そんな優しさに慣れて。麻痺した俺は。


いっちょまえに上からモノを言う様になって。



ダラダラと。


大切な時間をドブに棄てて来た、、



「はっ、、はぁあ、、、」



何も変わらない。


何も変われない。



あの頃の俺よりも。


俺は、。



"劣化"していた、、



「お帰り、、」



彼女「あら。。


どうしたの??」


「あの、、さっ。


あぁ。。


風呂入ってるよ?」


彼女「あり、がとう。。


何かあったん??」



目を大きくしながら。


心配しながらも。



彼女は、俺の言葉を待った。



「俺さ、、



もう。諦めるわ、。」


彼女「え。。?」


「もう、、無理だろ。。



ずっとやって来てさ。


俺はさ、、?


ただ馬鹿みたいに。


時間を無駄にしてきただけだったんだよ!?



、、ごめんな。??



ずっと働かせて。さ??



ちゃんと働いて、金。返すから、、



ごめん。。」


彼女「、、そっか。。」


彼女は、荷物を置いて。


俺の手を握った。



彼女「別に。お金何てどうでも良いんだよ。


私が好きでやってた事だからさ。。



私は、、無駄だなんて思わなかったよ??



一緒に居れた毎日が。


幸せだった。」


「そんな訳、無いだろう、、??


誕生日だって。。クリスマスだって。


俺はお前に、何も買ってやれてないんだぞ??」



ガサガサの荒れた手は。


俺の頬に触れる。



彼女「そんなの、要らないよ。


欲しいだなんて、言って無いじゃん。」


涙は止まらなかった。



『ソンナコトヲ、イワセルナ。』



「何処にも連れてってやれなかったし。


お前に、ずっと。


苦労させて、、」


彼女「まあ、確かに。。


作った物にケチ付けられるのは、


嬉しくは無かったけど。



私はさ、。??



"一緒に居れるだけで、幸せなんだよ"




何も言い返せなかった。


俺は、彼女に何をしてやれてたんだろう??



疲れきった顔に合わせる顔が無い。



彼女「昨日は安上がりだからさ。


ほら。」


バックの中には、高そうな肉があった。


「いいのに、、」


彼女「よく言うよ。



せっかくだから、先にお風呂入るね??」


「うん。」



肉の焼ける音。


弾ける油。


「あチッ、、」


彼女「弱めて弱めて。」


「このぐらい?」


彼女「大丈夫かな。」



部屋の中に広がる煙は、


強くしつこいくらいに。


部屋の中に臭いと共に広がった。



彼女「じゃあ、食べましょうか」


「うん。」



『いただきます』



彼女「ほいひぃー!」


「、うまっ」


彼女「また明日からは、お好み焼きかな?」


「うん、、」


彼女「また。頑張ります、よっ。」


焼けた肉を俺の空いた皿に盛る。


「いや。。」



彼女「


だから、


もう少し頑張ってみたら??」



「、、。」


彼女「無理にとは、言わないけどね。



やりたい事をやれるうちに。



やったら良いんじゃないかな??」



何が正解なのか。


これで合っているのか。



歩いてきた道を見ても。


真っ暗で。何も見えない。



ただ、隣には。


彼女が居た。



また始めから、やり直してみよう。


そうやってまた振り出しに戻った、、



彼女の為にも、俺の為にも。



俺は、変わる以外の選択肢は無いのだから。


























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