おこのみやきの優しさ
「またお好み焼きかよ、、」
何度ともなく嗅ぎ慣れた臭い。
玄関を開ける前から匂うこれは、
俺の家から漂って来た。
解放感と、罪悪感。
今すぐ開きたいはずなのに。
開きたくもない扉。
重く、古い玄関は音を立てた。
「お帰り!?」
鍵を閉めて背負っていた荷物を置く。
「お帰り??」
聞き慣れた声。
安心する声。
「ただいま。。」
不貞腐れている俺は。
素直に会話をする事が出来なかった。
「何かあったん??」
「いや。。
疲れただけ。」
脱水場へ向かい、服を脱ぐ。
「お疲れ様。
お風呂、入ってるよ?」
「うん、」
シャワーを頭から浴びる。
「、、糞。」
大人気ない。
まだ、大人に成れない俺。
彼女とは、前の職場で出逢った。
何と無く一緒に居て。
いつからか。一緒に居る事が、当たり前になっていた。
彼女「熱くなかった?」
「熱かった。」
彼女「夕飯。お好み焼き。
、ごめんね?貧乏で。。」
「いや、、
いただきます。」
彼女「いただきます。」
働きもしない奴に出される無償の夕食。
彼女は、俺が帰るまで一切手を付けなかった。
俺は年甲斐にも無く。
叶いそうにもない夢を追っていた。
彼女は、そんな俺を応援してくれていた。
彼女「大丈夫。
"次"があるよ??」
そんな言葉に甘えて。
ダラダラと無駄な時間を浪費し。
歳だけを取り。季節は何回も変わった。
彼女「美味しくなかった?」
「いや。またお好み焼きなんだなって。」
彼女「そうだよね。
飽きちゃったよね。。」
『お前が働け!』
『お前が働かないからだろ??』
『何を偉そうに言ってるんだ。』
『糞紐野郎。』
俺の中の俺は、そう。
世間からの一般論を。
正当性のある言葉を投げ掛ける。
「これは、美味しい。。」
彼女「明日は、何が食べたい??」
「自分が食べたいので良いよ?」
彼女「えー、。
食べたいのが良いじゃあん??」
「お好み焼き以外なら、何でも良いよ。」
彼女「分かった。」
彼女は朝早くから家を出て。
夜遅くに帰ってくる。
俺はというと。
家で好きな時間まで寝て。
ゲームして。
腹減ったら食い物を漁って。
テレビ見て。
酒飲んで。
そんな生活を、ずっと続けて居た。
何回も何回も。
自分の決めた道を疑った。
これが。
これで。
"正しいのか"
『結果』は分かっていた。
正しく何かは無かった。
きっと間違っているんだろう。
皆。嫌な事と向き合って。
皆。一生懸命に生きていた。
俺がやっているのは。
ただ御託を並べ。
悪いのは全部が、周りだと。
まるで、自分の意見を無理にでも通す。
小さな子供のわがままの様に。
今の今まで。
ずっと、、
そうやって生きてきたのだ。
「俺は、何をしてるんだろうか、、」
彼女を楽させてあげたかった。
彼女を幸せにしてあげたかった。
俺はただ、彼女を笑顔にする為に、、
それが、こうだ。。
定職も無く。
貯金すら無い。
俺は彼女に、"寄生"していた。
彼女「行ってくるね。」
「ぅん、行ってらっしゃい」
寒い朝。
俺は布団に潜って。
彼女を働かせに行かせた。
「はぁ、、」
目が覚めると、半日が過ぎていた。
煙草に火を着けて。
金を煙に代えていた。
「はぁ、、」
夢を追う理由。
夢を貫く意味を。
俺はいつからか、、
忘れてしまった。
何もしてないのに腹は減る。
冷蔵庫の中を漁り、目ぼしいものが無く。
俺は、レンジへと手を伸ばす。
ゆっくりと開けたレンジには、
昨日の残り物が入っていた。
「お好み焼き、、」
俺は温めて。
べちゃべちゃになったそれを食べた。
「旨い、、」
涙が溢れた。
純粋に。。
お好み焼きが旨かった。
毎日毎日。朝早くから、遅くまで。
一生懸命働いて。帰ってからも料理を作って。
俺の帰りを。
ただ待って居て、、
「ぐふっ、、んふっ、、」
誕生日にクリスマス。
プレゼントと呼ばれる物は、
何一つ買ってあげられ無かった。
何も与えてあげられる物は無かったのに。
彼女は、俺に何でも与えてくれた。
そんな優しさに慣れて。麻痺した俺は。
いっちょまえに上からモノを言う様になって。
ダラダラと。
大切な時間をドブに棄てて来た、、
「はっ、、はぁあ、、、」
何も変わらない。
何も変われない。
あの頃の俺よりも。
俺は、。
"劣化"していた、、
「お帰り、、」
彼女「あら。。
どうしたの??」
「あの、、さっ。
あぁ。。
風呂入ってるよ?」
彼女「あり、がとう。。
何かあったん??」
目を大きくしながら。
心配しながらも。
彼女は、俺の言葉を待った。
「俺さ、、
もう。諦めるわ、。」
彼女「え。。?」
「もう、、無理だろ。。
ずっとやって来てさ。
俺はさ、、?
ただ馬鹿みたいに。
時間を無駄にしてきただけだったんだよ!?
、、ごめんな。??
ずっと働かせて。さ??
ちゃんと働いて、金。返すから、、
ごめん。。」
彼女「、、そっか。。」
彼女は、荷物を置いて。
俺の手を握った。
彼女「別に。お金何てどうでも良いんだよ。
私が好きでやってた事だからさ。。
私は、、無駄だなんて思わなかったよ??
一緒に居れた毎日が。
幸せだった。」
「そんな訳、無いだろう、、??
誕生日だって。。クリスマスだって。
俺はお前に、何も買ってやれてないんだぞ??」
ガサガサの荒れた手は。
俺の頬に触れる。
彼女「そんなの、要らないよ。
欲しいだなんて、言って無いじゃん。」
涙は止まらなかった。
『ソンナコトヲ、イワセルナ。』
「何処にも連れてってやれなかったし。
お前に、ずっと。
苦労させて、、」
彼女「まあ、確かに。。
作った物にケチ付けられるのは、
嬉しくは無かったけど。
私はさ、。??
"一緒に居れるだけで、幸せなんだよ"
」
何も言い返せなかった。
俺は、彼女に何をしてやれてたんだろう??
疲れきった顔に合わせる顔が無い。
彼女「昨日は安上がりだからさ。
ほら。」
バックの中には、高そうな肉があった。
「いいのに、、」
彼女「よく言うよ。
せっかくだから、先にお風呂入るね??」
「うん。」
肉の焼ける音。
弾ける油。
「あチッ、、」
彼女「弱めて弱めて。」
「このぐらい?」
彼女「大丈夫かな。」
部屋の中に広がる煙は、
強くしつこいくらいに。
部屋の中に臭いと共に広がった。
彼女「じゃあ、食べましょうか」
「うん。」
『いただきます』
彼女「ほいひぃー!」
「、うまっ」
彼女「また明日からは、お好み焼きかな?」
「うん、、」
彼女「また。頑張ります、よっ。」
焼けた肉を俺の空いた皿に盛る。
「いや。。」
彼女「
だから、
もう少し頑張ってみたら??」
「、、。」
彼女「無理にとは、言わないけどね。
やりたい事をやれるうちに。
やったら良いんじゃないかな??」
何が正解なのか。
これで合っているのか。
歩いてきた道を見ても。
真っ暗で。何も見えない。
ただ、隣には。
彼女が居た。
また始めから、やり直してみよう。
そうやってまた振り出しに戻った、、
彼女の為にも、俺の為にも。
俺は、変わる以外の選択肢は無いのだから。




