第6話 悪魔の戦い。
翌朝。・・・私はビジネスホテルを出た。
簡単な朝食をホテルでとり、チェックアウトをした。
・・駐輪場にあるバイクに乗り、後にした。・・しばらく進むと、何か人混みができていた。
・・見上げるとビルが火災で燃えており、消防員が消火活動していた。警察は野次馬が近づかないように警備していた。・・何が起きたのか少し気になった。
野次馬の話では。
「・・何が起きたのだ?」
「・・何でもこのビルから突然、火が出て爆発したそうだ。」
「この前のカラオケ店のような火事か?」
「分からないぜ。・・関連性が全くないからな。」
色々な憶測が飛んでいた。
・・あの火事の犯人はとっくに死んでいる。・・誰も知らないだけ。
今回の事件は関わる必要は無いな。・・あまりにも目立ちすぎる。・・無視することにした。
・・その時、妙な視線を感じた。
・・誰かが見ている?・・・気のせいか?・・私を見る理由など無い。
・・はずだが、今は悪魔だ。・・もしかしたら、別の悪魔が?
・・・そう考えた私は、バイクを走らせた。
・・・しばらくの走行。誰かに付けられている感覚。
・・・間違いなしと言うことか。
そうしている内に人気の無い倉庫街に入った。
・・ここはあの五人組を始末した場所。・・警察の黄色テープが貼られているが誰もいない。
先のビルの爆発に呼ばれたのだろう。
・・人手不足はどこでも一緒か。
バイクから降り、少し離れた後、私は。
「・・・出てきたらどうだ?・・・俺と同類なのだろう?」
その言葉に倉庫の影から男が出てきた。
長髪に少し痩せた顔、身長は百七十センチ前後、黒いビジネススーツを着たサラリーマン風の男。
「・・・初めまして、私は小五郎と申します。・・・乗っ取った人間の名前ですがね。」
そう言って微笑んだ。
・・最近の人間か?・・・まぁ、あのインプが言ったのは悪魔を食った人間の話だから、通常の乗っ取られた人間の話はしなかったな。
そう思いながら私は。
「・・・これはご丁寧。・・・俺は仁朗と言います。・・一昨日くらいに来ました悪魔です。」
一礼をした。
・・悪魔を食った事は話さない。
ややこしくなりそうだから、小五郎は。
「ふむ。・・新参者の情報は確かか。・・・ならば、我々が出会った意味は分かるな?」
そう言って殺気が溢れていた。
その手には銃を持っていた。見た目はオートマティックの拳銃。
・・それを見た私は。
「・・勿論。・・レベル上げの戦いですね。」
そう言ってグローブがちゃんと固定されているか確認した。
・・・小五郎は。
「・・やる気ありですか。・・・一応言っておきますが、私のレベルは五です。・・この意味も分かりますね?」
随分と小馬鹿にした顔をしてきた。
私はため息をついて。
「・・レベル五?・・・それだけで何、優位に立ってるんだ?・・いいからさっさとやるぞ?」
呆れ顔で述べた。
・・小五郎は口を閉ざした。変わりに殺気を放った。
・・沈黙する両者。・・だが、それも長くは続かなかった。
・・小五郎は拳銃を構えた。
ドン!、ドン!。
二発、発射。・・玉は真っ直ぐにこちらに向かう。私はしゃがんで回避した。
・・いくら銃が強いとは言え、真っ直ぐにしか飛ばない。しかも狙いが正確ならば尚更だ。・・普通の人間では無理だが、私は悪魔、動体視力が異常に高い。
・・さすがに見えないが、何となく見えるといった感じである。
小五郎は。
「・・まぁ、それくらいの動きは当たり前ですがね。・・これで終りです。」
そう言って再び銃を構えた。
・・そして、発砲。一発の弾丸が向かってきた。
・・私は嫌な予感がしたので、その場から離脱。・・手頃の木箱に身を隠した。
・・バァン!!
・・弾丸は突然破裂。周囲に火の玉が飛び散った。
・・それらは地面や壁に付着すると燃えだした。
危なかった、一歩遅ければ丸焼きになっていた。・・もうゴメンである。
・・小五郎は。
「・・ほぅ、`火焔`と`爆発`のコンボを回避するとは。・・・新参者にしてはいい勘が働いていますね。」
少し感心したのか、警戒しながら歩く小五郎。
・・なるほど、スキルは合わせることも可能か。
・・だが、私のスキルは`炎爪`と`発火`。後は`飛行`と`操作`。
・・合わせるには難しすぎる。・・ならば、この四つを駆使し、やるしかない。
・・私は。
「・・`発火`」
心の中で唱えた。
・・相手が唱えること無く、発動した。・・相手にできて私にできないことは無い。
・・その目論見は成功。
・・相手の前に突然、火柱が上がった。・・小五郎は、驚きのあまりに足を止めた。
・・・私は、走った。一直線に、真っ直ぐに向かった。
・・火柱を上げたのは倒す為では無い。相手の動きを止めるだけである。・・但し、これは一回きり。
・・次に使っても、止まるがすぐに動く。
驚いている今しか無い。
・・小五郎は迫ってくる私に驚きの顔をしていた。・・すぐに銃を構えようとするがもう遅い。
・・私は思いっきり殴った。・・右顔面に。相手はよろける。・・私は連打を浴びせた。腹、肩、胸、顔。あらゆる場所を殴り続けた。
・・そして、最後に腹を殴り。
「衝撃!!」
グローブの技を唱えた。
・・バァァン!!
激しい音と同時に振動が奔る。小五郎はあまりの痛さにのたうち回っていた。・・トドメを刺そうとした瞬間、嫌な感じがした。
・・すぐにその場から離れた。
・・すると、私のいた場所が爆発。
・・危なかった。相手はよろめきながら立ち上がり、銃を構えた。・・まずいと判断し、その場から離脱。倉庫街を走った。
・・・初戦はこんなものかと感じながら次の手を考えた。・・しかし、高校時代の経験がこんな形で役に立つとは。
・・・当時、私は不良だった。
両親がクズだったからどうでもいいとヤケクソになっていた頃、喧嘩三昧の毎日、学校側は私を恐れ、何も言ってこない。
・・当然か、言おうにも両親が博打好きの育児放棄、退学処分にすれば自分たちが報復に襲われるかも知れない。
しかも、未成年で、警察にも容赦なく襲う凶暴性。
・・放置以外の手段無しである。・・そんな日々を送り、気付けば、周囲一帯の不良グループを束ねる総番長になっていた。
・・さすがに成人してからはケンカ離れし、フリーターとして目立たない生活をしている。
その経験から相手を殴ることも躊躇いなく、危険を感じる野生の勘が染みついている。・・カラオケ店の件は、勘が鈍っていたが。
・・・今は違う。・・あの頃の感じが少しつづ戻ってきている。
さてと、倉庫街の一つに身を隠していた。
・・周りには麻袋一杯に詰まれた物が山のように置いてある。・・中身は気になったので一つを開けた。・・小麦粉か。・・これ全部か。
・・・閃いた。
・・その時、扉が乱暴に開けられた。
そこから小五郎が怒り顔で現れた。
「・・逃げ場は無いぞ。・・覚悟しろ!!」
そう言って扉を閉め、鍵を掛けた。
・・最高のセッティングである。
私は姿を現し。
「・・覚悟ね?・・・それは死の覚悟か?・・だったらそっちもするんだな。」
そう言って挑発の笑みを浮かべた。
・・小五郎は無言で銃を乱射。・・すぐに避けた。・・玉は爆発し、袋に燃え移った。
・・私は`炎爪`で袋を斬り裂きながら近づいていった。
小五郎はこちらに向き、銃を構えた。・・しかし、少しだけ遅かった。左の`炎爪`で銃の照準をずらし、右の`炎爪`で斬った。
相手は後方に避けたが、スーツが裂いただけである。
・・小五郎は、銃を再び構えた。・・私は、`飛行`を発動。上に逃げた。
・・小五郎は照準を合わせようとしたが、ジクザクに動く私を捉えられない。・・・私は障害物の多い袋の山に隠れた。・・・小五郎はすぐに追いかけてきた。
私は着地、袋を斬り裂きながら移動した。
・・・・その時、小五郎とばったり合った。・・さすがに両者は驚いた。
私は、近くにある袋を裂いた。小麦粉が目くらましになった。・・・小五郎は銃を乱射。・・・私は即座に離脱。
相手はかなりイラついているようだ。
・・先ほどの顔は上手くいっていない表情である。・・・倉庫内は小麦粉で充満していた。
私は一階の窓近くに行き。
「・・どうしたのですか?先輩~~~?・・・その程度の力しか無いんですか?・・・先ほどの爆発が限界とか~~?」
かなりの挑発に小五郎は。
「・・こ、このやろう~~。調子に名乗りやがって~~。俺の最大級の爆発をお見舞いしてやる!!」
そう言って倉庫の中心で爆発が起きた。
私はすぐに窓から脱出。すぐに閉めた。
・・その時、倉庫が大爆発し、崩壊した。
・・・崩れた倉庫、その中に、虫の息の小五郎がいた。半分以上が焦げ、瓦礫の下敷きになりながらも生きていた。さすがは悪魔だ。
私が近づくと小五郎が。
「・・き、きさま。・・い、ったい。・・なにを?」
途切れ途切れの声に私は。
「・・ちょっとした仕掛けだよ。・・粉塵爆発ってやつだ。」
そう答えた。
・・粉塵爆発。・・大量の粉塵が空気中に漂い、その中で火花が生じると大爆発を起こす。
前に見たアニメやゲームにあったのでやってみたが大成功である。
私は`炎爪`を発動。
「・・悪いが、これも悪魔の宿命だ。」
そう言う私に小五郎は。
「・・・くそっ。・・し、かたねぇか。・・・お、れが、よわい。だけだから、な。」
そう言って諦めた表情をした。
私は無慈悲に首を斬った。・・小五郎の体は粒子となって私の体に入った。
・・悪魔の死。・・何も残さないか。
・・私はすぐにその場から離れた。これだけの被害だ。・・警察が来るのは分かりきっている。・・バイクを走らせた。
・・しばらく進んだが、パトカーが倉庫街に向かうことが無い。
どういうことかよく分からないが、とりあえずデパートの地下駐車場に入った。人気が無いことを確認し、私は自分の体を見た。
・・特に目立った変化がない。・・だが、妙に力が上がった気がする。
私は手のひらの`表示`を唱えた。
・・・ポイント五百五十。
・・・レベル七。
・・・職業、無職。
すごく上がった。
・・レベル五だから、四か五しか上がらないと思ったが。・・だがそれ以上に驚いたのはポイントが五百も入った。・・恐らく、あの悪魔のポイントだろう。
それも入ったと言うことか。
私はインプを呼び出した。
「・・よぅ。・・その様子だと、悪魔に勝ったようだな。・・こっちでも確認した。・・呼び出してくれてサンキューな。・・こっちもお前さんに用があるんだ。・・まず、レベルが上がったことでお前さんに説明することがある。・・・人間誘導について。」
「・・・人間誘導は文字通り、人間をそそのかすことだ。・・・恨みや憎しみを持つ人間に、声を掛け、その恨みを代わりに晴らしてやろうか、みたいな感じで言う。・・人間がそれを承諾したら、成功。・・実行した場合。・・特別ボーナスとして、ポイントがプラス五十入る仕組みだ。・・・つまり、自分でやる場合よりも多くのポイントが入る。」
その説明に私は。
「・・何でそんなことをするんだ?」
疑問である。
・・わざわざ人間の依頼を叶えるのは何か変。
そう思った私にインプは。
「・・昔から悪魔は人間の欲望を叶える存在だ。・・実際、お前さんの願い、動ける体と力が欲しいという声に応えてきただろう?・・・勿論、代償に奪われるけどな。・・もし、悪魔に奪われていたら、もらったお礼として、火事を起こした少年を殺していたのは確実だ。」
説明したインプ。
・・・まぁそう言われれば納得するのかな?
私は。
「・・最初に説明が無かったのは、レベルが上がった時に説明する。・・なんて決まりがあったとか?」
その質問にインプは。
「・・・正解だ。・・物事に順序がある。・・勿論、他にもあるが、今のレベルで説明できるのは誘導と低級悪霊についてだ。」
「・・低級悪霊は、その辺りにいる浮遊霊だ。・・そいつらを食って取り込むとレベルを上げられる。但し、微々たる物だがな。・・普通の悪魔はそんな面倒くさいことをせずに、他の悪魔を倒した方が確実に上がるからな。・・・何か質問は?」
私は。
「・・浮遊霊を食う?・・・地獄に送らないのか?」
この言葉にインプは。
「・・浮遊霊といっても生きた人間から漏れ出した生き霊。・・放っておけば勝手に消える。・・地獄に遅れるのは死んだ人間のみ。・・・浮遊霊は悪魔のように存在が曖昧だ。・・その分、相性がいい。・・だが、霊としての質は少なすぎるのが難点だ。・・・他には?」
私は。
「・・最後に一つ、戦った場所にいつまで経っても誰も行かないのだが、どうなっているのだ?」
この質問にインプは。
「悪魔同士の戦いは人間には感知できない。・・・悪魔同士が戦闘態勢に入ると自然に周囲から隔絶した存在になる。・・・これは昔からのしきたりみたいなものだ。・・誰にも邪魔はさせない為の。・・例え、人間が多くいる場所で戦っても誰も見ないし、建物が壊れても、何で壊れるんだ?・・という印象しか持たない。・・質問は内容だから俺は消えるぜ。」
そう言って消えた。
・・・なるほど、今まで悪魔同士の戦いは認識されなかったのか。
・・・とすると、昔から言われていた謎の陥没や崩壊は、悪魔が引き起こしたということか。
また一つ、知ってしまった。