第26話 喜びの声。
リングの上に立っている私と黒服。
黒服は退屈そうに。
「・・賞金目当ての相手は本当に疲れる。」
ため息をついた。
私は。
「まぁ、誰だって金は欲しいからな。全世界共通認識さ。」
開き直った。
今回はあのヤンキーの為だが。両者が睨み合うとゴングが鳴り響いた。私は突進した。
黒服は。
「・・何も見ていなかったようだな。」
ポケットに手を突っ込んだまま無防備状態。
・・・その時、前方から不可視攻撃がきた。だが、私はグローブから炎を出し、ガードした。炎の壁が何かに弾かれるように胡散した。しかし、私には届かなかった。無傷の私に驚いた黒服は咄嗟に両手でガードしようとした。
・・・だが、遅かった。私の右拳が黒服の顔面に入った。
黒服は吹っ飛び、リングのロープに受け止められる。ロープはゴム製。そのまま返ってくれば更に追い打ちできる。
だが、黒服はすぐにロープを両手で掴み、留まった。
私は追撃せずにその場に立ち尽くした。今動けば、隙が生まれる。ここは相手の動きを見るべきだと感じた。
黒服は驚いていた。
・・・相手が両手から炎を出したから、あの女悪魔の同胞だと思った。しかし、驚いては居なかった。あの程度の炎であれば貫通し、相手をノックアウトできる。そう思っていたからだ。
所が、炎の壁は思っていた以上に厚く、消せても相手には届かなかった。
体制を整えた黒服は。
「・・お前。何者だ?・・・名のある悪魔か?」
この質問に私は。
「・・名は無い。・・二十年くらい前に悪魔になった。お前らからしたら新米だ。」
隠さずに話した。
それを聞いた黒服は。
「・・・二十年前?・・・ふふっ。あーはっはっはっは!!!・・こいつはいい!!やる気のねぇ仕事だったが。こんな巡り合わせがあるとは!!運命に感謝だ!!!」
声高らかに笑っていた。
・・・私は無論、周りの観客達も動揺している。
観客達は。
「・・なんだ?運命?これも余興か?」
「探していた相手と奇跡的に出会い戦う。マンガではありがちな展開を現実でもしようと?」
「今回の試合は凝っているな。」
演技だと思っている。
私としては訳が分からん。何がどうなっている?
黒服は歓喜していた。
・・・あの教会の後、親分と親しくしている大企業の社長からのいつもの依頼。裏格闘場での見世物戦い。人外の力で無力な人間を叩きのめす悪趣味な催し物。
・・・黒服は正直やる気が無かった。経験値にもならない雑魚を倒しても何の得にもならない。
試合が終わっても金が貰えるわけが無く、代わりに少し豪勢な食事だけ。しかもそれに飽きている。黒服は親分に認められるほどに強く、信頼の置ける部下であり続けたい。
・・・その為には与えられた任務は遂行しなくてはならない。
だというのにご所望の悪魔が見つからず、あろうことか死んだかもと憶測を報告してしまい、親分の怒りを買った。教会でも手掛かりなしで手ぶらで帰る失態を迎えるはずだった。
だが、何時もの茶番劇でまさか、目当ての人物に会えるとは。こんなに嬉しいのは何十年ぶりか。
黒服は。
「・・・・まぁ、お前は知らないだろうが。・・ここでお前をぶっ倒して連れて行く。我らが親分がお前に会いたいとな。」
これに私は。
「・・親分?生憎だが、知らない奴についていく気は無い。関わりたくも無い。」
断った。
黒服は。
「テメェの意見は聞いちゃいねぇんだよ。・・俺が連れて行くだからよ!!」
風が渦巻いた。
・・見えない攻撃は風による攻撃。火との相性は微妙だ。風で火は強くなるが、強い風は火を消す。私は`発火`を発動。グローブに炎を宿す。
遠距離攻撃はあるがまだ命中率に自信はない。あの神父には通じたが、今回も同じとは限らない。
相手は私以上の年齢に実戦の経験が違いすぎる。何よりも神父よりも強い。
一発しか入れていないが、それでも分かる。あの攻撃があまり効いていないことに。何しろ、相手はピンピンしている。これで効いているなんて楽観過ぎる。
・・・だが、収穫はある。相手は風使い。ならば戦法はある程度分かる。私は足に炎を灯し、走った。両手両足からの炎。どれが攻撃してくるか攪乱できる。
黒服は両手を出し。
「・・鎌鼬`三連`!!」
風の刃が三つ同時で放たれる。
私は。
「・・`炎爪`!」
炎の爪で風の刃を斬った。
・・・だが、完全では無い。威力を弱めた程度。私の体を三カ所の浅い傷ができる。そこから血が噴き出す。黒服はニヤリと笑っている。致命傷だと思っている。
私は。
「・・ジェット!!」
両足の炎がロケット噴射の如く吹き出した。
・・・まさに人間ロケット。黒服はかなり驚いてる。避けるか防ぐかの判断が一瞬鈍った。
私の頭突きが黒服の腹に激突。黒服は`グフッ`と息を吐いた。
私は。
「爆破!!」
頭が爆発した。
・・・当然自爆では無い。頭の`発火`を爆発させただけ。勿論、自分へのダメージはほとんど無い。ただ、頭が熱いだけ。だが、爆破の勢いで私は後方に飛んだ。
・・・リングのロープにかかり、戻りかけたが寸前で止めた。
黒煙が蔓延するリング。・・観客達は呆然とみていた。・・アナウンスもない。目にした光景に頭がついていっていない、そんな気持ちで満たされていた。
・・・その時、黒煙から出てくる影があった。もはや驚くことは無い。相手はそうなのだから。
・・・出てきた黒服は全身焦げていた。着ている服は爆破で半分ほど焼け落ち、シャツも黒い焦げ跡が所々についている。生きている以前にあれだけで済んでいる。やはり強い。
黒服は。
「・・正直、舐めていた。新米の悪魔だから簡単だと思っていた。だが、違った。お前は強い。新人潰しと神父を倒すだけはある。・・こっちもそれ相応に戦ってやる。」
ビジネススーツを脱ぎ捨て、上半身裸になった黒服。
・・・その姿は一切の脂肪は無く、筋肉もプロレスラーとまではいかないがボクサー並みに鍛えている。加えて、空手の基本の構えをしている。そして何より、落ち着いている。
・・・さっきの爆発で頭に血が上らず、むしろスッキリした表情。
こいつは正真正銘の強者だ。最早小手先の手段など通じない。
私も服を脱ぎ捨て上半身裸になった。黒服までにはいかないが、それでも鍛えた体。
黒服は。
「・・・そう言えば名乗っていなかったな。俺はルクス。三百年は生きている。お前は?」
私はグローブをはめ直し。
「・・俺は仁朗。・・二十年しか生きていない成り立てだ。・・もう、小狡いことはしない。」
静かに構えた。
・・・両手に炎を灯した。ルクスは両手に風が渦巻いている。小規模だが竜巻並の威力があると思った方がいい。
・・・睨み合う両者。観客達並びにアナウンスは何も言わない。
・・・二人の闘気に当てられ何も言えないのだ。
その時、観客の一人がジュースの缶を落とした。・・・静寂の空間で響く缶の音。それが合図となった。
二人は一気に間合いを詰め、右拳からのストレートを放った。
・・・ぶつかり合う拳と拳。炎と風の激突は衝撃波を生み出し、周りの観客達を吹き飛ばした。
上で見ているVIPの窓ガラスもかなり揺れている。VIP達も突然の出来事に慌てふためいている。当然だ。今までガラスが揺れることは無かったのだから。
拳同士が離れると同時に戦いが始まった。
・・それはボクサー同士の拳の打ち合い。だが、速さも数も桁違い。一般人には千手観音の如く、増えており。互いに攻撃し合っている。それも体には当たらず、拳同士で。ワザとやっているように見えてかなり本気でぶつかっている。
それと同時に発生する衝撃。観客達は恐怖のあまり逃げ出した。
・・・いくら見世物の人外の戦いでもやっていい範囲を越えている。挑戦者はともかく、余興の仕事をするルクスにとっては不味い状況。
しかし、両者の目に映るのは敵のみ。・・・他には目もくれていない。
このまま続くかと思われたラッシュ。だが、ルクスの拳が私の腹に入った。一瞬の穴を見つけての攻撃。しかも、拳に纏わせた風による風圧で後方に飛んだ。
ロープが受け止め、その反動で同じ場所に戻される。今度は踏み止まれない。そんな余裕が無いからだ。
ルクスは待ち構えていたように構え。アッパーカットを繰り出した。




