第25話 揺らぐ気持ち。
考えも無しに行ってしまったレナ。
・・・相対する女悪魔。本来であれば折角のショーを邪魔した乱入者に罵声が飛び交うはずだが。
観客達は。
「おおおーーー!!なんてエロい女だ!!こいつはいい!!」
「あいつも羽が生えている!同類か!?だとしたらすげぇもんが見られる!」
「悪魔同士の戦い。しかも女。・・・いい。実に良い!!」
興奮の熱気である。
どうやらこの手の輩が多いようだ。
女悪魔は。
「あら~~?あなたも同じ属性??にしては弱いわねぇ?・・新人?だとしたら運が悪いわねぇ~~。」
妖艶な笑みを浮かべた。
女悪魔は目の前の相手をどう貶めるかを考えている。
レナは頭の中で。
(・・やっばぁ~~。勢いで出てきちゃったけど。どうしよう。相手は間違いなく私よりも上。しかも場所はリング上。仁朗さんの助けはない。・・ええい!!弱気になるな私!!!何の為の人助けか!!!)
冷静になって状況を分析し、最悪だと思い知った。
・・・だが、やってしまった以上は仕方ない。ここは何とか二人を救出し、敵を撤退させる方法を考えなくては。
そう思っているとゴングが鳴り響いた。
我に返ると女悪魔は一直線に向かってきた。レナは咄嗟に左横に回避。女悪魔は追撃すること無くこちらを見ている。
何を思っているのかと考えていると女悪魔は。
「不思議そうな顔ね。これはショーなのよ?客達を楽しませるのが目的♡・・・あなたも盛り上げて頂戴♡」
恍惚な笑みである。
・・・つまり、真剣勝負では無く、あくまでも見世物。それ以上の意味は無い。
レナは少しイラついた。
こっちがどうすればいいのか真剣に考えているのに相手が遊びだと言うことに。しかし、すぐに冷静になって考えるとこれはチャンス。
私が新人だから弱いと踏み油断している。だとすればやりようはいくらでもある。
・・・仁朗さんとの特訓を思い出せ。相手が格上でも絶対に勝てないわけではない。その場の状況や相手の心持ちで凌げることは絶対にできる。
まずは自分にできる事を再確認だ。
スキルは`光線`のみ。後は爪による近距離攻撃。・・・無理だ。どう考えても無理だ。
スキルが一つしか無いし。格闘も素人。絶対に勝てない。一筋の汗が出た。・・・女悪魔は笑顔のままこちらに向かってきた。反撃しようにもスキルは使わない。
一度使えばこちらの手が無い。ここは爪で迎撃。そう思い、右爪で大振りに降った。
女悪魔は余裕で回避。すると甘い香りが漂ってきた。レナは思わず吸い込んだ。
すると足の踏ん張りがきかずに片膝をついた。
女悪魔は。
「うふふふっ。耐性なさずぎ。これは感度の香り。相手の感度。つまり刺激を上昇させるの。今まで感じても何ともなかった事が上昇したことで感じるようになるの。この熱気を浴びれば体が反応してあまり動けなくなるの。」
観客達の熱気。・・・それがここまでとは。
レナは何とか打破しようともがいたが体が言うことを聞かずに難航していた。女悪魔の手からムチが現われ思いっきりレナの背中に叩いた。
あまりの事にレナは悲鳴を上げた。普通の状態でも痛いのに感度が上がった今では倍以上の痛みである。
それを聞いた観客達の熱気が更に上がった。
当然だ。ここにいるのは裏格闘場という違法を見に来ている連中。まともな神経では無い。興奮し、`もっと聞かせろ``激しいのを頼む`と常識を逸脱している。
これを見ていた私は。
「・・ふぅ~~~。いざという時は・・」
ルールを無視して出る覚悟をしていた。
レナの痛みに苦しむ姿を見た女悪魔は。
「ああ~~いい~~~。もっと聞かせて。あなたの悲鳴を。」
サディスティックの表情でムチを叩いた。
・・・レナは悲鳴を上げながら思った。`何故自分はこんな目に?`痛い思いをしてまでしたことは何だったのか?
その時、視界の隅に写ったのは怯える姉妹である。
(そうだ。あの子達を助ける為に。・・こんなことで終わるわけにはいかない!!)
闘志を燃やした。
単純な切り替えの早さだが、それこそがレナの強みである。
その時、頭の中で何かが閃いた。スキル`影移動`。自身の影を使って、相手または物体の影に移動する。
レナは勝機を見いだした。チャンスは一度。相手がもう一度ムチを叩こうとした瞬間。
これしかない。
女悪魔は更に興奮し、ムチを振り下ろした。
レナは。
「・・スキル`影移動`。」
自身の影に入った。
・・・ムチは虚しく空を叩いたのみ。女悪魔は咄嗟のことで動きが止まった。
レナはすぐに女悪魔の後ろの影から現われ。
「スキル`光線`!!」
目から光線を発射。
・・・女悪魔に命中。光線は体を貫通し、女悪魔は血を吐いた。よろめきながら後ろを振り返るが、レナは爪で女悪魔を斬り裂いた。
横斜めからの斬撃。女悪魔は忌々しい目でにらみつけ倒れた。
息を荒くするレナ。倒れて動かない女悪魔。静まりかえる空間。
・・しばらくすると大きな歓声が響いた。
「・・おお!!なんだあれ?!瞬間移動か?!!」
「あんなのがいるとは驚きだ。少し物足りないがこれはこれでいい!!」
「やっぱ血がないとここに来た意味が無いぜ!!」
予想とは違い盛り上がりである。
・・・レナは満身創痍ながらも立って辺りを見渡した。自分に注がれる視線。それに応えてか勝利のサインをした。
観客達の歓声は更に鳴り響いた。
荒い息をしたレナは二人に近付き。
「・・もう大丈夫ですよ。」
笑顔で安心させた。
しかし、二人は。
「「ひっ!!」」
怯えた表情でレナを見ていた。
それも仕方ない。レナの姿は女悪魔と同じである。レナに何かされると思うのは当然。意図を察していないレナは困惑していた。
私は近づき。
「・・取りあえずリングから降りろ。落ち着くのはその後だ。」
私の声に二人は反応し、そそくさと降りていき、会場を後にした。
だが、すぐ黒服達に捕まり何処かへと連れ去っていった。それを見たレナはすぐに後を追いかけようとしたが私が止めた。
「・・止めておけ。連れて行ったって事はまだ解放されない証拠だ。何をしたのかは知らないが、事情を知らない俺たちが関わっていい案件では無い。・・・それにお前の姿はあの二人にはトラウマだ。」
この言葉にレナは自分の姿を見た。
・・・翼の生えた悪魔。普通の人間には異常とも言える。観客達も遠巻きながら見ている。近付くのを恐れているからだ。
レナは。
「・・仁朗さん。・・・助けた後はこんな気持ちなんでしょうか?」
私はため息をついて。
「・・どう思うかは人それぞれだ。・・少なくとも俺は、依頼されたことをするだけだ。・・それ以外でする気は無い。」
冷淡に述べた。
レナは沈んだ表情で変身を解いた。
その時、アナウンスが。
「これは予想外の展開!!!人外同士の戦いがあるとは!!!・・・しかし、これで終りでは無い!!!次なる人外が登場だ!!!」
煙と同時に現われたのはサングラスをかけた黒服の男。
・・・一見スタッフか?と思ったが出場選手である以上。どこかの組ということか。男は無言で進み、リングの上に上がった。
アナウンスは。
「さぁーーー!!ここにいるのは普通の人に見えるが。人外です!!かなりの修羅場を経験している実力者!!!この人を倒せば、賞金一千万だ!!!・・さぁ、誰が挑戦する!!?」
これに観客達はどよめいていた。
・・・それだけの大金だ。かなり強いのだろう。腕自慢や達人級の武闘家も相手を見て戦うのを止めた。一目で理解したのだろう、桁違いの存在に。
このまま何も無く終わるかと思いきや。
「よっしゃーーーー!!俺が出るぜぇ!!!」
ヤンキーが勢いよくリングに上がった。
私は。
「おい、止めておけ。相手はお前の手に負える相手ではない。」
忠告した。
ヤンキーは。
「うるせぇ!!こいつに勝てば一千万だ。一気に治療費が支払えるチャンス!!見逃すなんてのは馬鹿のすることだ。」
嬉しそうにステップを踏んでいた。
・・・こうなっては止められない。私はただ、見守ることにした。
両者睨み合い。そして、ゴングが鳴り響いた。
・・・ヤンキーは先手必勝の如く、突進した。あまりに考え無しの行動に頭を抱えた。ここまで馬鹿だと助言もできない。
黒服は静かに立ち尽くし、相手が来るのを待った。
そして、あと三歩で拳が届く距離で勝負はついた。
・・・ヤンキーが突如、頭を仰け反らせ、仰向けに倒れた。立ち上がる気配を感じさせないヤンキー。黒服は何も言わない。
静まりかえる空間。ゴングが響いた。
アナウンスは。
「・・呆気なぁーーーい!!!何とも呆気ない結果か!!・・勢いよく走った若者が何もせずに倒れた!!!これが人外の力!!先程の悪魔二人とは桁違いだ!!!」
これに歓声が響いた。
・・・最早、挑戦者達は挑む気は無いだろう。何もしていない。ただそれだけで恐怖を感じているからだ。黒服は退屈そうに欠伸をしている。
ヤンキーはスタッフが医務室へと運んでいった。付いていきたいが、やることができてしまった。
・・・あのヤンキーは借金をしている。それを返すまではここから出られない。それでは依頼が達成できない。達成するには金がいる。
私はグローブを身につけ、リングに上がった。




