第24話 裏の常識。
ヤンキーを連れてスタッフの案内で医務室に入った。
・・・そこには多数のケガ人がいた。腕だけで無く足も骨折し、顔面包帯の人もいた。それに部屋の隅には顔に布がかかっている人もいた。
こんな場所だ。人死には当たり前と言うことか。
・・・ヤンキーをベッドに寝かせると老年の医者がテキパキと治療した。かなりの腕前だ。ここの収入は高額ということか。治療を終えると次の患者に向かって行った。
しばらくするとヤンキーが目覚めた。
辺りを見渡し、私を見て。
「・・あ、あんたは?・・ここは?」
私は。
「・・ここは医務室だ。お前さんはリングで骨折して気絶したんだ。」
その後の経緯を説明した。
破戒僧を倒したこと。何故助けたのか。
終えると私は。
「・・といわけでお前さんを連れ戻しに来た。骨折したままだが帰ろう。」
これにヤンキーは。
「・・ちっ。余計なお世話だ。あんな二人の心配なんて俺には関係ない。あんたもさっさと消えな。」
悪態をついた。
レナは。
「・・失礼ではありませんか?少なくとも彼はあなたの窮地を救ったのです。お礼を言うのは当然では・・」
それ以上言う前に私は。
「よせ。こいつは一度も頼んでいない。アナウンスが盛り上げる為に言っただけだ。実際はそんな奴はいない。いたとしてもそいつはスタッフが用意した専属だろう。」
遮った。
・・こういう場所では盛り上げる為に専属の格闘家がいる。そいつが颯爽と現われて解決するのは見ている者達にとっては気持ちが良くスッキリする。
私みたいな奴はいない。いたとしたら本当の正義を知っている人間だ。
私は。
「・だが、その怪我ではどの道ここにいても仕方ない。帰らなければならないのは事実だろう?」
現状を説明した。
骨折では戦えない。日常生活でさえも苦労する。
ヤンキーは。
「ふん。あんたはここのことは知らないようだな。・・多額の金を支払えば一瞬で治してくれるんだよ。マンガみたいな。」
自慢げに言ってきた。
・・・別にお前が偉いわけじゃ無いんだから。一瞬で?そんな馬鹿なと思うが。私自身は悪魔になっている。現実離れはとっくに経験済み。だとしたら。そいつは。
私は。
「・・多額の金って。そんな持ち金が君にあるのか?それとも両親か?仮に両親だったとしてもこんな事に金を出すとは思えんが。」
ヤンキーは。
「・・あいつらに頼む気は無い。金もここで勝った分自動的に差し引きされる。当然、返すまではここからは出られないがな。」
自信満々のようだ。
・・・勝てる力があればいいのだが、思っているとヤンキーは近くのナースに速攻治療を頼んだ。しばらくすると一人の中年の男性医師が出てきた。
見た目はメガネをかけた中太りだが、すぐに分かる。こいつも悪魔だと。
相手も察知したのかこちらをチラ見してすぐに逸らした。無駄な争いはしないようだ。レナは身構えたが私が制した。医者はヤンキーに近付き、注射した。すると腕が光り出し、消えた。
医者は包帯を取り、ヤンキーが腕を回すと元通りに動いていた。
医者は。
「これで大丈夫だ。代金を払うまではしっかりとここで稼げ。」
それだけ言って去って行った。
ヤンキーは。
「よし、バッチリだ。これで戦える。」
起き上がるヤンキーに私は。
「言っておくが。俺はまだここに居るぞ。お前を連れ戻すまではな。」
闘気を出した。
さすがのヤンキーもビビったのか。
「・・ふ、ふん。好きにしろ。」
そう言ってそそくさと会場に戻っていった。
レナは。
「今の医者に話を聞かなくて良いのですか?」
これに私は。
「大丈夫だろう。あのヤンキーからは悪魔の気配は無い。それにそんなことをしたら信用問題になる。裏社会は信頼で成り立っている。破ればタダではすまない。表の裁判よりも厳しいからな。」
冷めた態度である。
・・裏には裏のルールがある。無断でやることは絶対に許されない。レナは不安そうな顔をしているが何も言わない。知らないことに論じても仕方ない。私たちはヤンキーの後を追った。
会場では次の対戦がおこなわれていた。
・・・戦っているのは槍使い女と剣盾を持った男である。武器もありとはさすがである。観衆達は男を応援していた。
剣盾で有利は無論、女が戦いで負けるのは興奮である。だが、この戦いは女の勝ちだ。
・・・何故なら、女は華麗な槍捌きで剣を受け流し、反撃の一撃一撃は盾で防がれているが追い込んでいる。実際、男の方はかなり焦っている。攻撃が当たらず、盾も徐々に傷がつき壊れかけている。
そして、`パキッィィン`盾が壊れた。
仰天の顔をする男。女は一瞬の隙をついて腹に一刺しした。男は吐血し、そのまま倒れた。動かなくなった男。アナウンスが勝利宣言をした。歓声は響くが、心の中では男の罵声しているだろう。
それもそうだ。期待が外れたのだから。それを口にしない辺り、ここのルールが大体分かる。
レナは。
「すごい人でしたね。一撃で仕留めるなんて。」
これに私は。
「確かにすごい。普通なら刺されたくらいで倒れない。なのに倒れたということは急所をついたのだろう。・・的確にな。達人級だろう。」
女の方を見た。
・・・すると、女もこっちを見た。私の居る場所は暗く、人がいるかどうか分からない状況。
それでも見たと言うことは気配に気付いた?この熱狂で?要注意だな。女はそのままリングから降りた。
その時、アナウンスが響き。
「では盛り上がってきたところで、そろそろいいでしょう!!これより人外の戦いが始まります!!」
その宣言で更に熱狂していった。
観客は。
「遂に始まるのだな。あれが。」
「これは楽しみだ。これがあるから見に来ているような物だ。」
「表の試合では絶対に見れないからな。」
期待と興奮で盛り上がっていた。
私は。
「・・人外とは?悪魔か魔物でも出るのか?」
呟きにヤンキーが。
「なんだ知らねぇのか?・・この格闘場には得体の知れない奴が仕切っていてずっとそいつがボスとして君臨しているのだと。聞いた話だと三百年は生きているらしいぜ?・・はっ、馬鹿馬鹿しい話だ。」
鼻で笑った。
それもそうだ。人間が三百年生きれるはずが無い。それが常識であり鉄則である。
しかし、私は知っている。そんなことができる存在に。
レナは。
「もしかして、そいつは・・」
私はレナの口を封じた。
・・・それだとしたら面倒事になる。気付いているかどうか分からないが警戒はしておいた方がいい。
その時、鐘の音が響いた。
リングに注目すると上から誰かが降りてきた。
・・・コウモリの羽根を生やし、黒いビキニスーツを着たCカップの紫色の髪をした女。その登場に男達は興奮の嵐である。
対して次に現われたのはブレザー服を着た二人の女子高校生。顔がまったく同じ所を見ると双子だろう。二人とも少し怯えているが手に持った槍を構えている。
・・・見ても分かる。あの二人は素人だ。とても戦えるとは思えない。ということはこれは・・・完全なる見世物だ。あの悪魔の。
悪魔女は。
「あらあら?今回のは瓜二つの子なのね。たっぷり楽しめそう。」
舌なめずりをした。
双子の一人は。
「・・ね、姉さん。・・私・・」
怯える妹に姉は。
「・・大丈夫よ。大丈夫。」
怯えながら慰めていた。
・・・そんな双子の事情など知るかと思うほどのゴングが鳴った。悪魔女は宙に浮いたまま何もしてこない。完全に舐めている。
双子は勢い任せに突っ込んだ。何の策も無し。
・・・近付く双子に悪魔女は`待ってました`と言わんばかりの顔で迎え撃った。槍を華麗に回避し、双子の背後を取った。だが、何もせずにじっと見ていた。
すると、双子が突如、息を荒くして座り込んだ。其れ処か急に胸を揉み出し始めた。
観客達は`待ってました!!`という歓声を上げた。おそらく、すれ違ったときに媚薬の類いを嗅がせたのだろう。あの手の悪魔なら使うだろう。
アナウンスは。
「・・おーーと!!今回も毒牙に掛かったようです!!さて、一応聞きますが、助けに入る人はいるのでしょうか!!?」
これに対しては何も反応が無い。
・・・恒例の事だろうが相手は悪魔。やる気は無いだろう。それよりも見物したいんだろう。このままの行為を・・・。やるべきだろうが、私の依頼はこのヤンキーを連れ帰ることだ。
・・・余計な事はしない。その時、隣から魔力を感じた。振り向くと同時にそいつは飛翔した。リングの上に着地したそいつ。
レナは。
「私が相手です!!これ以上好きにはさせません!!」
私は頭を抱えた。




