第2話 インプの説明。
私が降り立ったのは森の中である。
深い闇が支配する空間。・・本来ならば恐怖でしか無いが、今の私には何も感じない。
力を手に入れて何かを失ったと言うことか。
しかし、後悔は無い。
一生をベッドの上で過ごすくらいなら悪魔になった方がマシである。・・・そう思っているとき、前方から妙な気配を感じた。
すると、黒い空間が広がり、出てきたのは。
「ぎゃあはははは!!おめでとう!!受肉大成功ですな!!!」
小さな悪魔が出てきた。
さしずめインプの類いである。
そいつは続けて。
「さてと。今回の成功を祝して道具を送りたいが。・・・・何だ?お前さん?もう人間を狩ったのか?気が早いねぇ~~~。しかも、いいスパイスが入っている魂だな。」
そう言って喜んでいた。
何が何だか分からないことだらけである。
私は。
「・・・何だ?お前?・・・・この悪魔のこと何か知っているのか?」
そう言いながら私は胸に指をさした。
インプは`何だ?`と言う顔をしながら、何かに気がついて。
「・・・そう言えば、悪魔の魂が無い。・・・力はあるが、魂が無い。・・・っていうことは、お前?・・人間?」
驚きの顔に私は頷いた。
・・しばらくの沈黙、インプは呆然から立ち直り。
「・・・こいつは、すげぇ!!・・こんな弱者しかいない世の中に悪魔を食う奴がいるとは!!・・まだ、存在していたのか?!」
そう言いながら珍しい物を見るように眺めていた。
その言葉に気になることが。
「・・・?存在していた?・・・昔はいたって事か?」
この質問にインプは。
「ん?・・ああ、俺は見たことは無いが、何でも悪魔が憑依した人間の精神が強すぎて、逆に食われちまった話。・・もう二百年?くらいかな。・・最後に存在したっていう人間。・・・まぁ、そいつはもう死んだらしいけどな。」
どうでもいい顔で言った。
私は険しい顔で。
「・・・死んだって?・・寿命か?・・それとも・・」
この先の言葉を察したのかインプは。
「ちょ、チョイ待ち。・・・別に制裁って訳じゃね。・・ただ、殺されただけだ。聖職者とかハンターとかにな。・・だけど仕方ない。・・そいつが弱いだけ。・・悪魔は基本的に自分主義。・・・自分さえ良ければいい。・・その点で言えばあんたは、悪魔らしいぜ。・・・他人を信じない目が特に。」
見透かしたような顔で言った。
・・確かに、今の私は誰も信じない。・・というか人助けをしない。
・・そんなものはクソ食らえだ。
そう思っているとインプは。
「・・まぁ、何があったか知らんが。・・こっちも仕事でな。説明はさせてもらうぜ。」
そう言いながら改めた顔で。
「・・悪魔、習得おめでとう。俺に名は無い。便利屋とでも商人とでも呼んでくれ。・・さてと、人間だから悪魔について説明する。・・まず、地獄という世界は存在し、悪魔はそこで自然に生まれる。どの頻度で生まれるかは決まっていない。悪魔は基本的に呼ばれない限り現世に出てくることは無い。」
「・・大抵は、人間の負の感情がとてつもなく大きくなったときに、そいつの所に行く。・・つまり、お前さんが食った悪魔はお前さんが呼び出したって事だ。・・・どうでも良いか。・・ますます悪魔らしい。・・・続けるぞ。生まれて受肉した悪魔は基本的には人間狩りをする。・・と言っても悪人だけだが。」
その説明に私は。
「・・?悪人だけ?・・・悪魔が平和の為に働くのか?」
呆れた私にインプは。
「・・まぁそぅ聞こえるわな。・・・だが、理由はある。地獄は狩った人間の魂を食うんだよ。・・・世界が魂を食うのか?って思っているだろうが。この世界とは仕組みが違う。・・・簡単に言うと超巨大な人間だ。・・・そいつの口が地獄門になり、胃袋が地獄だ。」
「・・この世界に来た悪魔は魂を地獄に送って潤す?みたいな感じだな。・・特に、悪人の魂はスパイスが効いていて、旨いらしいからな。・・善人の魂は味がなさすぎて不味いらしい。・・・そして、悪人の魂を送った悪魔には褒美としてポイントが与えられる。・・それに応じて、悪魔しか使えないアイテムが贈られる。」
そう言いながら本を差し出す。
中を見ると色んな物がある。
砂時計や孫の手、コップなどがある。・・・本当に悪魔の品か?と思ってしまった。
インプは。
「・・まぁ気持ちは分かるが、これでも立派な悪魔の品だ。・・今時、怪しい道具は目立つからな。・・・目立たないが実用はあるぞ。・・例えば、コップは任意の人間が使っているコップと同じ形になり、そこに毒物を入れる。すると、その人間のコップに毒物が転移する。・・要するに離れた所からの殺害が可能。・・但し、範囲は十メートル。しかも、一日に一回しか使えない。」
一応、殺す道具はあるようだ。
・・制限はあるようだ。・・・一覧を見ていると、予言の本という項目はある。
・・・私は。
「・・・なぁ、この予言の本というの、今のポイントで買えないか?」
この質問にインプは。
「ん~~?・・あぁ、言ってなかったな。・・・今回は祝して、この中から一つだけ好きなのを無料で提供することになってんの。・・・それが欲しいのか?・・説明するが、予言の本は、発動した場所から半径十㎞内、・・六時間以内に起こる出来事が記載される。・・それを利用して、人間を誘導するって扱いが難しい物だ。・・・それでいいのか?」
私は頷いた。
・・この本、人間を殺すよりも良い方法がある。・・そう思った。
その時、私は。
「・・そういえば、人間の魂を送るのは定期的でないといけないのか?」
ノルマが定められているのなら、正直、面倒くさい。
・・・人間殺すことにためらいは無い。・・どうでもいいという感じである。
・・この質問にインプは。
「・・・特にないな。・・地獄は胃袋とは言ったが。別段、毎日、空腹と言うわけじゃねぇ。・・・いい加減に聞こえるかも知れないが。・・・どっちでもいい。・・だけど、魂が入らなければ、ポイントは入らない。・・これだけは絶対だ。・・高いポイントほど良い道具が手に入るし、武器も手に入る。・・他の悪魔と戦う為のな。」
ニンマリと笑顔で言った。私は首を傾げた。
・・・戦う?・・他の悪魔と?
・・・そう思っているとインプが。
「・・・最後の説明だ。悪魔にはレベルがある。上限は最大で百までと言われているが、実際に到達した奴はいない。・・・そして、ここから重要だ。」
「・・・レベルアップに必要なのは他の悪魔と戦い、殺すことだ。・・すると、死んだ悪魔の肉体は粒子となって勝利者の体内に入っていく。・・・後は、力が漲ると感じる感覚、つまり経験値な。・・それが溜まればレベルアップだ。・・当然、上がれば上がるほど、強くなるし。・・新しくスキルを獲得することもある。・・・生まれたてのお前さんはレベル一。つまり弱いから気ぃつけな。」
この説明に私は。
「・・ちょっと待て、・・・というと何か?・・・しばらくしたら桁違いに強い悪魔が襲ってくるって事か?」
私は恐怖した。
・・いきなりラスボス級の悪魔が来たら戦う所か逃げようが無い。
・・・この質問にインプは。
「あぁ、その心配はない。・・レベルが高い奴は低い奴を殺しても経験値は入らない。・・だが、レベルが近い奴は襲ってくるぞ。・・新人潰しみたいにな。・・・だけど、それ以外にレベルが上げられないなら襲われたら死ぬだろうと思うだろうから、・・・良いことを教えてやる。」
「・・スキルは他の経験や何か閃いた時、獲得する。・・多ければ多いほど対応は出来るし、生き残ることは出来る。・・・さっき言ったレベルアップの時にスキルを獲得すると言ったが、それは悪魔属性のスキル。」
「・・つまり、どんな悪魔になるかはレベルが上がった時に考えれば、それにあったスキルが手に入る。・・わかりやすく言うと、サキュバスの魅了とか、アモンの炎を操るとか。・・まぁ色々だ。・・・今のお前さんは無職。名無しの悪魔だ。攻撃手段も、・・・今じゃ、爪と・・・火を出せるんだな。・・もう攻撃手段を獲得したのか、早いな。・・だけど、アモン程じゃないな。その威力では。・・・以上だ。・・何か質問あるか?」
インプは説明を終えた。私は。
「・・・俺が食べるものは人間と同じ物でいいのか?」
この質問にインプは。
「同じだよ。・・変わることは無い。・・・あるとすれば寿命かな。・・・この時点で、あんたには寿命という概念は無い。年を取ることもない。つまり不老になったってことだ。」
この言葉に私は驚きながら喜んだ。
不老。
寿命が無い。
つまり、自然に死ぬことは無い。
・・誰もが憧れた生物の掟を破った。
・・・喜ばない方がどうかしている。・・・そう思ったが、ふと気付いた。・・・そんな人間が同じ場所に何十年といれば人間達は恐怖し、排除の対象として一生追われる。
・・・それはご免だ。
・・・ということは、隠れて過ごすか、転々としながら生きるか。・・まぁ、それは後で追々と考えよう。
私はインプに。
「・・・最後の質問だ。他に悪魔はどれくらいいる?」
この質問にインプは。
「・・・分からねぇ。・・・呼ばれることはあるが、大体十人ぐらいしか合っていない。他にもインプはたくさんいるからな。」
そう答えた。
・・・ということはそれなりにいるか。・・・狙われる前にこちらも色んな経験をして、スキルを獲得するしか無い。
・・私は。
「・・ありがとう。もういいよ。・・・それと、本、ありがとな。」
そう言って予言の本を見せた。インプは。
「・・・良いって事よ。・・・あ、後。お前さんが持っている悪人の魂は貰ったからな。・・その分のポイントは入っているぜ。・・・見たければ、手のひらに`表示`と唱えれば見える。・・他には見えないから注意しな。・・・じゃ、あばよ。」
そう言って消えた。
・・私は試しに右手の平に`表示`と唱えた。・・すると。
ポイント二十。
レベル一。
無職。
と記された。
・・スキルは表示されないか。
・・・スキルのことを考えると、`飛行`と`炎爪`が浮かんできた。
・・成る程、獲得したスキルは頭の中に表示されるのか。
・・そう思いながら、私は街を見た。
・・・今、戻って、万が一、病院関係者か警察関係者に見られたらアウトだな。・・言い訳が思いつかない。・・今日は、ここで野宿するか。
・・明日は別の街に行って、この本が有効活用できる場所に向かおう。
・・・楽しみにしながら就寝した。