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男は悪魔を食った。  作者: 満たされたい心
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第1話 人をやめた。





 病院の一室。


 そこには全身を包帯で巻かれた男が横たわっていた。


 見るからに全身大火傷、二度と歩くことができない体である。


 ・・そして、男の心はどす黒くなっていた。


 



 私は、高島 仁朗。


 二十三歳のしがないフリーター。


 アルバイト帰りに寄ったカラオケ店で一人で思いきり歌っていた。・・日々のストレス解消の思いで。


 ・・その時、突如、警報が鳴った。


 慌てた私は部屋から出ると他の客達も出ていた。


 廊下に漂う黒い煙、焦げる匂い。・・火事であった。


 私は急いで非常階段に向かった。


 煙がここまで来ている以上火の手が早いということだから。他の客達も同様に走っていた。・・・最後尾で走る私。


 あと少しと言った所で。


「助けて!!!」


 その声をした方向に目を向けた。


 すると、青い帽子を被り、ジャージ姿の少年が倒れていた。


 私は。


「何をしている?!・・さっさと来い!!」


 この叫びに少年は。


「そ、それが。・・こ、腰が抜けて、動けないんです。」


 そう言って四つん這いになって動こうとしない。


 少年の周りには煙が充満して、かなり熱かった。


 火がそこまで、きていたのだ。・・正直、見捨てようとした。


 自分の命が大事。・・ましてや死ぬかも知れない状況。


 あーだこーだ言う奴らいるだろうが、私はただの一般人。


 自分しか守れない。


 ・・そのはずだった。


 気がつけば少年のところに向かって走っていた。


 何故こんなことを?と考えたが勝手に動いてしまった以上。・・考えるのは後にした。


 近づいた私は。


「さっさと立て!!!・・時間がねぇぞ!!」


 そう言って手を差し伸べた。


 少年はお礼の言葉を何度も言いながら立ち上がった。


 その時である。・・・近くの扉から火が噴き出した。


 私は咄嗟に少年をかばった。


 火の勢いが収まった時、少年は助かったが、その代償に私の背中は大火傷を負った。


 かなり痛く叫びたかった。


 しかし、目の前にいる少年を不安にさせたくない。


 そんな思いから無理な笑顔で。


「だ、大丈夫だ。・・・君、ケガは?」


 その言葉に少年は顔を横に振った。


 一安心した時、激しい爆発音が上から聞こえた。


 何なのか分からず、立ち往生していた時、天井が崩れ、瓦礫が降ってきた。


 私は咄嗟に頭を抱えてしゃがんだ。


 気がついたときは瓦礫が檻となって私を閉じ込めた。


 出ることもできず、どかすにも重すぎて無理だった。・・・少年は押しつぶされること無く、無事に立っていた。


 この状況では少年に助けを求めて無理だと感じた私は。


「・・俺のことは気にせずに、さっさと逃げなさい!!」


 叫んだ。


 この言葉が出たのは自然であった。


 少年は何も言わずに走って行った。・・それを見届けた後、私は、自分の人生がここで終わったと感じた。


 遠くから聞こえるサイレン音。・・消防車が来たと確信した。


 しかし、ここは二階。・・すぐには助けに来ない。諦めた気持ちでいたとき、背後から火が迫ってきた。


 そこから、私の意識は途絶えた。




 ・・・目覚めたとき、最初に見たのは天井だった。


 ここはあの世か?しかし、花畑では無い。


 そう思った時、隣から。


「・・よかった。意識が戻られたのですね?」


 白い服を着た女性が声を掛けてきた。


 看護師である。・・・私は`助かったのか`と思い始めた。・・体を動かそうとしたが、動けなかった。


 どうなったのだ?・・・私の体は?


 ・・その時、中年の男性医師が。


「・・・高島さん?・・聞こえますか?・・・首は動かせますか?」


 この言葉に私は頷いた。


 首は動けるようだ。


 医師は。


「・・・落ち着いて聞いてください。・・本来は、すぐに言うべきではありませんが。・・今のあなたの現状をお伝えします。・・・高島さん。あなたの体は全身大火傷を負い、体を動かす神経もやられました。・・動くことはでできません。・・・そして、喉も焼かれ、声も出すことができません。」


 残酷な事実を告げられた。


 そこからどうやって助かったのか話してくれた。


 消防員達が中に人がいるかもしれないと情報を入手し、店に突入した。・・・二階に向かったとき、瓦礫の中で火傷を負った私を発見。


 すぐに救助してくれた。・・最初は死んだと思っていたらしいが、わずかに意識があることを確認し、病院に搬送。・・・手術を施し、助かったのだ。


 その後は、意識は戻らず、かれこれ三日は眠っていた。


 動くことができない体?。

 一生を寝て過ごす?


 絶望であった。


 だが、その中で少し誇りに思ったこともある。


 少年である。


 彼を助けたことで、人としての行動ができたのだ。・・それで満足しようと思った。


 だが、医師は。


「・・あぁ、それと。・・・店に人がいると情報は、店員から聞いたそうだ。・・・何でも、飲み物の注文を多く頼んでいた客だったそうだな。・・客達の中に、高島さんがいなかったから、もしかしてと思い、消防員に伝えてくれたそうだ。」


 その言葉に私は疑問を持った。


 店員が伝えた?

 ・・あの少年ではなく?


 ・・何故、言わなかったのだ?


 ・・・そう思った時、看護師が気晴らしにテレビをつけてくれた。


 出てきたのはニュースで、カラオケ店の火事ニュースであった。


 内容は、店の一階に発火装置が発見され。更に、三階の厨房にも同様の物が発見。警察は放火と見て捜査を開始した。


 看護師は。


「放火だなんて、・・・大丈夫ですよ。高島さん。犯人は絶対に捕まります。」


 慰めてくれた。


 その時、速報が入った。


 店の防犯カメラに犯人らしき人物が写っていたという。・・その映像が公開された。


 ・・青い帽子にジャージ姿の男が厨房に何かを設置していた。


 ・・・それを見た私は。

 体中が震えた。


 喉が焼かれ、声を出すこともできずに、ただ震えていた。


 周辺の医療機器が突然、アラームを出し、看護師と医師は私を落ち着かせようとしていた。






 深夜


 病室には私一人だけであった。


 あの後、なんとか落ち着いた私を看護師はテレビを消し、そのまま退出した。


 食事を与えられ、就寝時間だと電気を消してくれた。


 ・・私は眠ることができなかった。・・テレビに映っていた犯人。・・・私が助けた少年。・・・これに怒りを覚えない人間はいない。


 ・・・何が人としての行動だ!!。

 ・・何が誇りだ!!。

 

 ・・・その場にいた私は一生動けず、片や放火をした少年はそのまま自由に動き回る。


 こんな、こんな理不尽があるのか?!


 ・・ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざける!!!!


 何であんなことをしたのだ?・・そのまま逃げれば良かった。・・腰を抜かしたのだって演技に決まっている。・・でなければただのチキン野郎だ。


 ・・・憎い憎い憎い憎い憎い。


 少年が、自分が、人が!!


 そもそも、人助けはいいことだと。学校で教わってきた。


 善行すればいいことはきっと来ると。


 ・・だが、現実はこれだ!!


 助けた相手が犯人で、その代償に一生動けない体。


 何が善行だ。

 いい事なんて一つもない!!


 ・・・どす黒い気持ちが心で満たされたとき、天井の部分が黒くなっていった。


 今は夜だが、満月が出ており、少し明るい、そんな中で見た黒い穴。


 一体何が?・・そう思った時、そこから何かが出てきた。


 半透明というか何も無いのにいる感じ、まるで幽霊であった。


 それは。


「・・・憎いか?今の世が?・・・我だったら手を貸そうか?」


 そう言ってきた。


 頭の中に直接響いてきた。・・・何なのか分からない。・・だが、私は、こいつが何だろうとどうでも良かった。

 体を動かせるなら、例え、幽霊だろうが悪魔だろうが、・・構わない。


 私は頷いた。


 すると幽霊は、笑顔のような顔をし、私の中に入っていった。


 そこから私の意識は途絶えた。




 次に目覚めたときは薄暗い中にいた。


 私は。


(なんだここは?・・俺はどうなった?)


 声を出しているようで出していない。


 そんな不思議な感じであった。


 その時、上から。


(ぎゃぁはははは!!間抜けな奴め!!・・まんまと引っかかりおった。)


 私は見上げた。


 そこにはコウモリの羽に角が生えた。・・絵に描いたような悪魔であった。


 私は。


(どういうことだ?!・・・手を貸すんじゃ無かったのか!?)


 そこの言葉に悪魔は。


(はっ!?・・・悪魔のこと何も知らないようだな、今の人間は。・・・いいか、悪魔と取引する際はまず契約すると口にしなければならない。・・・それを聞かされた悪魔は内容に納得すれば従わなければならない。)

(・・・だが、お前はそれを言わなかった。ただ、頷いただけ。・・それじゃぁ、悪魔は従わない。・・裏切ることも簡単にできる。・・分かったか?)


 小馬鹿にした顔で説明した。


 私は。


(お前は、何がしたい?)


 この質問に悪魔は。


(・・お前の体を乗っ取って、受肉する為だ。・・悪魔がこの世に降臨するには生きた人間とどす黒い心が必要だからだ。・・・正に、うってつけの人間を見つけたって訳だ。・・後は、お前の魂を食ってそれで終りだ。・・・・ぎゃはははは!)


 笑いが止まらないといった感じであった。


 ・・・聞いた私の心はさらにどす黒くなっていった。


 少年に続き、悪魔にも騙された。


 ・・・あまりのことに怒りが頂点に達した。


 私は。


(・・ふ、ふざけるな!!!!お前に、俺の体を好き勝手にさせてたまるか!!!食われるくらいなら、俺がお前を食ってやる!!!!)


 そう叫んだとき、私の体がどんどん大きくなっていった。


 それを見た悪魔は。


(バ、バカな。・・何で人間の魂はここまで大きくなるんだよ。・・・この精神世界は、俺が支配しているんだぞ?・・何で?)


 この疑問を聞いた私は。


(ここが俺の精神世界だっていうなら。・・いくら支配しようが、俺の物であることに変わりない!!!・・覚悟はできているだろうな?)


 そう言う私に悪魔は。


(ちょ、ちょっと待ってくれ。・・あ、あれは人間で言うノリというか、冗談っていうのだろう?・・お前の魂は食わない。・・俺もすぐにここから出て行く。・・な?)


 懇願する悪魔に私は。


(・・ダメだ。・・お前が出て行けば、俺は動けない体のままだ。・・だから、さっさと食って、お前の力を俺の物に!!!)


 そう言って巨大な顔になった私は大きな口を開けた。


 悪魔は悲鳴を上げながら、私の中から消えた。




 現実世界に戻ったとき、辺り一面火の海であった。


 ()()()()()()()()、慌てる気持ちが沸かず、またか、と言う気持ちであった。・・どうやら扉は完全に火で覆われていて脱出は不可能。・・唯一の出口は窓だけであった。私は()()()()()()()()窓に向かった。


 ここは三階。・・飛び降りるには高すぎる。


 そう思い、窓から離れると私はある疑問を思った。


 何故、下までが見えた?

 私は動けないはず?


 ・・そう思った時、自分の体を見た。


 すると、普通に立っていた。・・手も動かせる。・・声も出せる。・・元に戻ったのだ。


 悪魔を食って、力を手に入れたのだ。


 私は喜んだ。


 治った体に。・・普通がこんなに素晴らしいことに!


 ・・・しかし、この後どうすれば。・・扉はダメ、窓の下はクッションみたいな物はない。万事休すかと思い、今までの事を走馬灯のように思い出そうとしていた。


 どうせ死ぬなら、いい思い出に浸りながら死にたい。


 そんな気持ちであった。


 その時、ふと頭の中に何かが閃いた感覚を感じた。


 `飛行`のやり方が浮かんできた。


 私は戸惑いながらもそれを実行した。


 念じ、力の流れを体で感じた。・・すると、全身から力が漲り、浮いた。


 これが悪魔の力。・・食って手に入れた力。・・・そうと決まれば、窓から脱出し、大空を飛んだ。


 眼前に広がる街並み。


 その一つ一つがまるで星のように輝いていた。


 空を飛ぶというのはこういう感じなのか、と傍観者のような感想を持った。


 その時、光の中に一層、輝きを発する場所があった。・・煙が出ていたことから、火事だと分かった。・・その時、私の中には何とも言えない気持ちで一杯だった。


 そこに直行し、上空から現場を見た。


 消防車が数台到着し、火消し作業をしていた。


 それを見物する人々、その中で、青い帽子を被った人間が路地裏に入っていくのが見えた。


 私は、上空から路地を見下ろした。


 すると、ゴミ箱辺りで何かを置いた。・・そして、すぐにその場から立ち去った。


 降りた私は、ゴミ箱を調べた。


 そこにはタイマー付きの箱があった。


 これで確定である。


 それを持ち、飛んだ。


 周囲を見渡し、少年を発見。


 人気の無い公園に入っていき、好都合であった。・・ベンチに座った少年の前に箱を放り投げた。


 すると、それにびっくりし、その場から走った。私は少年の前に降り立った。


「・・よぉ、久しぶりだな。・・・覚えているか?・・カラオケ店?」


 この言葉に少年は。


「・・あ、あんたは?あの時の?・・えっ?・・何で空から?」


 上を見上げたが何も無い。


 私は続けた。


「・・・・何で?火事を起こした?」


 少年は。


「・・はぁ??・・何を言っている?・・俺が火をつけた証拠でもあるのか??」

 

 小馬鹿の顔をした。


 その時である。・・・少年の後方で箱が爆発した。


 それを見た私は。


「・・あれでもか?・・・お前がゴミ箱に仕掛けたのを見てるんだぞ?」


 それを聞いた少年は舌打ちをし。


「・・くそっ。・・あ~~あ、折角の暇つぶしもここまでか。・・さっさと警察呼べよ。おっさん。」


 開き直った態度に私は。


「・・・暇つぶし?火事がか?」


 この言葉に少年は。


「ああ、そうだよ。・・・退屈だったんで自作した発火装置を使ったんだよ。・・だけど、それだけじゃ物足りなかったから、わざと動けないフリをして、近づいてくるおっさんみたいな正義面した奴が、ひどい目に遭って、人助けができたと満足した顔を見て、こいつ、バカじゃね?と笑ったよ。」

「・・あの時も、おっさんの。`気にせずに、さっさと逃げなさい。`・・・と言うセリフを聞いて、どれだけ笑うのを我慢したか分かる?」


 そう言って大笑いをした。


 ・・あの時、すぐに逃げたのは、笑いを堪えるのが我慢できなかったから?


 ・・私の中は黒い気持ちで溢れそうであった。


 握りこぶしになった私を見た少年は。


「・おっと。暴力反対だぜ。・・・いくら犯人だろうと殴っていい分けないからな。・・・それに俺は未成年だ。・・・ますます立場を悪くするぜぇ???」


 舌を出しながら馬鹿にした。


 ・・こいつは私のことを何も分かっていなかった。


 私は。


「・・・お前は何も思わなかったのか?・・・空から俺が降りてきたことに?」


 この言葉に少年は、思い出したように上を見た。


 私は。


「・・・あの後、俺は大火傷で医師からは一生動けないと言われた。だが、こうして俺は動いている。・・・何故だが分かるか?・・・俺は、力を手に入れた。」


 そう言って浮かんだ。


 それを見た少年は。


「・・何だ?・・トリックか?」


 驚いた少年に私は。


「・・悪魔の力。と言わせて貰おう。・・・そして、今の俺が、人間の法律に従うと思うのか?」


 そう言って殺意のこもった笑顔になった。


 少年は後ずさりし。


「・・悪魔?・・何だよ、いい年して厨二病か?・・・頭、おかしいんじゃ無いか?・・・そ、それに、法律に従わないって。・・お、俺を殺すようなことをすれば、警察は動いて、おっさんを捕まえる。・・絶対にな!!」


 強気な発言で言った。


 体は震えているように見えた。


 だが、私は。


「警察?・・それがどうした?・・・あいつらが偉いのは法律という権力があるからだ。・・だが、権力は言葉の力。・・物理的な力はない。・・・物理的にも人間を超えた俺を逮捕できると思っているのか?」


 聞いた少年は益々震えだし、一目散に逃げた。


 私は、飛びながら念じた。


 殺せる力を。


 頭に浮かんだのは`炎爪`という単語。


 私は意識を手に集中。・・爪から五本の炎の爪が出てきた。


 私は少年に迫り。


「・・斬り裂かれて、燃えろ!!」


 そう叫び爪を思いっきり振った。


 少年は悲鳴を上げた。・・・裂かれた背中から火が噴き出し、跡形も無く燃えた。


 それを見終えた私の心は晴れることは無かった。


 むしろ、どうでもいい気持ちであった。


 ・・心までも人間をやめたのか?・・・今となってはどうでもいい。


 聞こえてくるサイレン音に私は慌てること無く、`飛行`で逃走した。


 ・・・飛びながら考えた。


 あれだけの爆発が起きたのに誰も来なかった。・・・普通なら何人か来るはずだが。


 ・・・悪魔の力と関係が?


 ・・・今は、ここの町から離れ、落ち着いた場所で考えよう。


 得体の知れない力。


 もっと知っておかなければ。












 少し気分転換に書かせて貰います。

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