94話
メイドさんや王妃様の話を聞いていて、他人事では無いと思った………私って同じ立場?
「そうねー………仮の身分証があるとは言えただのユリエル長官の親戚だから、むしろつばめさんの方が…この国に戸籍が無い分立場は悪いかしら?」
おっとー。異世界人を保護する法律とかありませんかー!!!?
異世界人は滅多に現れないので、そんな法律無いらしい。世知辛い。私の扱いただの不法移民。
コンコン
「ちょっとお邪魔するね?」
打ちひしがれていたら知らない魔王が入ってきた。
「おはよう。そろそろ夕飯の時間なのにまだここにいたの?ごはんは?」
「おはようございます?夕飯食べたいです」
「コンスタンティン様…実は……」
ぐーきゅるるるる
すみません、お腹の虫が絶好調で。
見知らぬ魔王がそれはそれは慈悲深いお顔で私のお腹に視線を向けている。
「ふふっ…素敵な虫をお腹に飼っているんだね?可哀想だからご飯を食べながら話そうか。私の名前はコンスタンティンと言うんだ、よろしくね」
「私はつばめと言います、よろしくお願いします」
手を差し出されたので握手してお互い挨拶をした。うわー…近づくとまつ毛長いのがよく分かる。
私は魔王コンスタンティンさんが部屋に入って来てからずーーーっと顔を眺めている。
さっきの美術品なんて比べ物にならない位の美貌をお持ちだ。
毛穴とか何処だろう?ホクロも無いなぁー………瞳が凄く綺麗だな…………ん?
「幾らでも見てていいよって言いたいけど、ご飯食べたく無いかな?」
「…………食べたいです」
気がついたら誰も何も話さずに私がコンスタンティンさんの顔をガン見しているという空間が出来上がっていた。
すいません、綺麗なのでついつい見ちゃうんです。
「私の部屋に案内したいんだけど、この書類にサインしてもらってもいいかな?」
「?」
何だろう?『養子縁組同意書』???
簡単にまとめると私がコンスタンティンさんの養子になります…と言う同意書だった。3枚ある。
「養子ですか?」
「妻でもいいけど、サインする紙が物凄く多くなるし、書類が直ぐに用意出来ないからオススメはしないかな?」
どうやらこの国に住んでる人の家族になると私も戸籍がもらえるらしい。
妻になる場合は財産を半分に分けなきゃいけないのと、仮に財産を貰うのを放棄したとしてもその手続きの書類があるので結局私がサインする書類の数は変わらないみたい。
子どもだと親が亡くなった時に相続となるので、今書く書類は3枚で済むみたいだ。国に提出用とそれぞれの保管用。
「生活が落ち着くまでの緊急措置だと思って?無理なら他の人に頼むけど、どうする?皐月は子どもが居るし、ユリエルはもう財産分与の為の養子を取ってるし、残念ながら諸事情で養子は取れないんだ…私でごめんね?」
「お世話になります」
契約書に『本人の意思で養子縁組を破棄する事が可能』と書いてあったので書類にサインした。
見た目は魔王だが、悪い人では無さそうだし………本音は夕飯早く食べたい。
「身分証を発行するけど、指輪とペンダントどっちにする?」
「指輪だと料理する時邪魔なのでペンダントでお願いします」
そう言うと、コンスタンティンさんはペンダントを首にかけてくれた。
「じゃぁ、移動しようか?カールが夕飯作って待ってるよ。今日のメニューはメインがシャケでデザートは桃のシャーベットみたいだから楽しみだね」
「楽しみです」
コンスタンティンさんは一言で言うと真っ黒だ。短髪の黒髪に肌も褐色。
ただ、瞳だけは紫色。程よい筋肉を包むのは神父さんが着る様な黒い服だが、何故か魔王感が拭えない。
笑顔でお話ししてるのに威圧感が凄い。悪巧みしてますか?って聞きたくなる。
多分、身長と完璧過ぎる美貌が威圧感の原因だと思う…身長私より高いから、少なくとも190センチ以上。
それにしても素敵な顔だ。鑑賞がてらずっと眺めていたい。
夕飯に釣られて、会って数分のコンスタンティンさんの養女になりました。
まぁ…養子縁組が何かの罠だとしても、見知らぬ土地で私が他に打てる手も無い気がする。
ここで全力で逃げたとしても、ユリエルさんと一緒じゃ無いとドア一枚すら通れないしね。泊まる所も無いしご飯無いの辛い。
ちなみに、この十数分後にはカールさん手作りの夕飯を食べて養子縁組の手続きしてよかったと幸せを噛み締めてました。我ながらチョロい。