93話
女性の集団を見た皐月先生は私とユリエルさんに廊下を逆走するよう指示し、3人で曲がり角に戻った。
「ちょっと事情を聞いてくるから、2人は扉付近まで戻ってくれるかしら?」
「……ああ」
「はい」
言われた通り扉付近まで戻り…………ユリエルさんは窓の外を見ているので私は壁に飾られている絵などを眺めてみた。ほとんど人物画だ…西洋画っぽい。
額縁も細かく彫り物がしてあって綺麗だ……そうだ、私日本の寺とか神社見に行くとドアの金具細工とか見る派だったわ…美術館も絵も見るけどついつい額縁も見てしまうんだよね。
飴色の机に置かれた壺も見てみよう…中は何も入ってないみたい。
陶芸品はあまり詳しくは無いが、白地に青で植物の絵が書いてある。
美術品を鑑賞していると、皐月先生に声をかけられた……集中してたので近づいて来たの気づかなかったよ。
皐月先生のお隣にはメイド服を着た恰幅のいいマダム?がいる。
「こちら侍女長、こちらユリエル長官のお姉さんのお子さんでつばめさんと言うの」
私はユリエルさんの姪っ子設定なのか。互い挨拶すると、早速部屋前の女性の集団の説明を受けた。
「つばめ様のお世話をする者達です」
「全員…ですか?」
軽く20人以上は居たと思うが………33人居るらしい。
内訳は衣装担当が15人、食事や排泄の世話が10人、入浴のお世話が5人、3人は連絡係や雑務をこなす予備だそうだ。
ツッコミどころ満載だが、とりあえず排泄の世話って何?オムツ???いやいやいや、何をご冗談を。
「見ての通り、トイレは自分で行けるので大丈夫です。ご飯も自力で食べれます」
10人削れた。
「衣装担当と言うのは?」
「ドレスの着付けや衣装の管理をする者です」
15人削れた。
入浴するのそんなに大変なのかな?と思ったら蛇口をひねればお湯が出るらしい…ので5人削れた。
雑務や連絡係も予備みたいなものなので3人削れた。そして誰も居なくなった。
とりあえず部屋の前の女性たちには一回退去していただいて、第3医務室に戻ろうと言う事になった。
3人無言で医務室に足早に戻る。
「………すまない」
「私の方こそこんなに早く動かれると思わなかったから油断していたわ……どうしましょうね?」
部屋に入るなり2人で会話し始めたので、邪魔しない様にしながら話しに耳を傾ける。
「寮だと……押しかけてこられた時に周りに迷惑よね?かと言って、私の実家やユリエル長官の家となると街の中だから仮の身分証じゃ、下手すると王宮に入り直せないわよね……どうしましょうか?」
「……………………」
ユリエルさんが黙ってしまったので話しが進まなくなってしまった。なので、質問してみる。
「さっきの客間に泊まるのはまずいですか?」
「こちらで用意しといて言うことではないけれど、とっっってもよくないわ」
部屋に何が仕掛けてあるか分からないらしい。
最低でも盗聴器みたいな物はあるだろうと言われた。ひゃっ!!!
「今は微妙な時期なのよ……あの大袈裟な人数の世話する人達も元は後宮で働いて居たのでしょうね。現在仕事があぶれてしまった方々が大勢いるから…」
なんでも、後宮は少し前に解体されたらしい。
働いてた人達は猶予を与えられて、配属先が決まれば王宮内の寮に入れるが、決まらなければ出て行くしか無いと言う。皆んな仕事をもらうのに必死だとか。
そして、皆んな何処ぞの回し者だろうと………
「王族はほとんど不法滞在などで捕まったり、王宮から締め出されているんだけれど…….王妃様と王子様が城に滞在していらっしゃるのよ………」
現在『王宮』と呼ばれているここは厳密には国を運営する為の建物らしい。
そこに『王家』と名乗る一族が許可無く住み着いたとか………どうゆう事?
説明を聞くと、日本で言う国会議事堂とか警察署とか国が運営する施設に勝手に人が住み着いてしまった感じらしい………凄いな自称?『王家』。
もちろん文官や軍用の寮はあるが働いている人しか入れないので、勝手に後宮に住み着いてた方々を世話してた侍女さん達の仕事があぶれてしまったと………そりゃ、国会議事堂とか警察署に24時間交代で身の回りの世話をするメイドさんの様な仕事とかあんまりなさそうだよね。
ちなみに王家…多分王妃の狙いはユリエルさんの親戚と言う事になっている私と王子を結婚させる事だろうと言われた。
それか私を通してユリエルさんと王妃自身が結婚。
「………金目当てだろうな」
城に残っている王妃や王子も侍女さん達と一緒で、仕事が無ければ今のところは追い出される予定らしい。