417話
ー数ヶ月後ー
《弓隊放て。下がれ、次……放て。よし、遊撃隊に出撃許可。竜騎士に通達》
「遊撃隊、出撃許可! 信号弾を上げろ!」
水島が不在の軍。カイザス国、ベスティア国には最低限の戦力だけ自国に残してほぼ動ける全軍はハイルング国に来ている。
ハイルング国の島地で使われなくなった城壁内部のグールを討伐し、現在拠点として使っている。
城壁物資輸送は主に合流した竜騎士。水島の脅しが効いたのか、中々の騎士を援軍として送ってくれた。
付加武器の弓をエルフ族に使わせ、城壁に寄って来たグール共の数を減らす。
遊撃隊はベスティア国の獣人族を中心。単体のエルフ族と歩兵のドワーフ族。
身体能力の高い元エルフ族のグールなので堀は作っていない。中には魔道具や武器を使って攻撃して来るのも居るからな。
頑丈なハイルング国の城壁から構えて討ち取った方が確実だとみた。
あまりにも群がられると城壁をよじ登って来るのも居るので、遊撃隊に間引いて貰ったり囮になって気を逸らして貰ったりしている。
神聖帝国は距離が遠いので、皇后率いる親衛隊にそちらは任せた。健介皇子と連携して神聖帝国の守りは充分だろう。
ベスティア国は若い獅子王頑張れって感じだな。餓死者のグールはお前のせいでもあるから自分で何とかしろ。
カイザス国は胃痛持ちの第1副隊長を復帰と言うか就任させたんで、大丈夫だろう。頼むから行かないでと最後まで言っていたが「お前が代わりに行くか?」と、言ったら黙ったから良いだろう。
フォーゼライド国は知らん。酒盛りずっとしてたんで元気だろう。アイツらは休んだ分以上働けば良いと思う。
《もっとグール共を集めろ『命令』だ》
《うぐっ……はい。マスター……『私はここよ。集まれ集まれ集まれ』》
俺の傍らには氷の敷き詰められたクーラーボックスに入った1匹のグール。コレはユリエルが生捕りにしたグールの『ヌシ』だ。
ハイルング城で水島に討ち取られたゴブリンの『ヌシ』とは、別個体になる。
死霊王バルバロッサに何かされたらしく、グールを操る力があるらしい。
胸には種族研究所で付けられた魔石がギラリと輝いている。グールににも『隷属の魔石』は効くらしいな。
俺とハイルング国の王太子が主人に登録されているが、グールを操る力を逆手に取って、中々良い働きをしてくれている。
ハイルング国は非道な扱いだと抗議の声が上がったが、王太子とカール様が黙らせた。グールと共に暮らすと言ってる奴は「交渉でもしてみろ」と、言って身分問わず遊撃隊の最初の方に組み込んだ。
今は共に暮らす道がないと諦めて、エルフ族も順応に従っている。
共に歩む道を模索してたのは戦場の悲惨さを『グール』と言う魔物がどんなのか知らなかったんだろう。
エルフ族は潔癖だ。腐臭を撒き散らし、襲いくるグールの不気味さと嫌悪感から共に歩む道を閉ざした。
エルフ族で残ってるのはもう率先してグール狩りに勤しむのしか残ってないとも言える。
ここで狩らなければ、次は自分や大事な家族がグールに成り果てるとやっと分かって貰えたらしい。
後は『愛ある死』と称してグールに成り果てた同族を救うと言う名目を掲げ、最初から殲滅に加わって居る者もいる。ユリエルの信者に近いエルフ族だな。
「それでもやはり、苦戦はするか……」
元は上貴族の屋敷。前線の会議室と定めた場所で、俺の口から思わず出てしまった言葉に、誰も返す言葉が出ない。
今は指揮を部下に任せて、連合軍の前戦トップが集まり報告や今後の作戦の内容の話し合いである。
「エルフ族のグールがやはり厄介だな。魔道具を所持してるのは中々攻められない」
「結界の魔道具が厄介です。全身獣化しないと歯が立たない」
「マジックバッグもじゃ。食事用か知らんが、死体を入れて持ち帰ってしまうのもいるしの」
「生前の記憶を保持してるのもかなり居ると報告がまた上がってる。記憶がなくても話しかけて来るのも居るらしいと。……元貴族は特に魔力量が桁違いだ」
「実際エルフ族との戦争だな。まだ空路の確保と日中グールの動きが鈍くなるだけマシか。このままだと、火力のあるユリエルの負担が大きすぎる」
「儂らにはあの武器のメンテナンスも出来ないんでな。エルフ族の魔道具技師も無理なんじゃろう?」
エルフ族はグールになっても食事をあまり必要としないらしい。
アチラは補給はないが、それでも兵糧攻めに効果がないとなると持久戦は得策ではない。
長引けば長引くほど、ベスティア国の餓死者が増えてグールが増える可能性がある。獣人族のグールも身体能力が高いのが厄介だ。
ハイルング国で確認された元獣人族と思われるグールが、全身獣化して襲い掛かって来たと報告が上がっているからな。
恐らくそれは、『ヌシ』の『眷属』と呼ばれるグールに噛まれたヤツだろう。
今回エデンには2種類のグールが存在する。
主に餓死者や病気、何かの拍子に亡くなった人が自然発生でグールになる場合だ。
普通に発生した場合のグールは確率的にはそんな脅威となる個体は少ない。精々夜になると唸りながら地を這い回り、人に襲い掛かる程度。
それでも、グールが出現する時は飢饉や災害、疫病など大体の人が弱っている場合に多く発生例が見られる。
身体が逃げる気力も体力もない時に食いつかれ、噛みつかれてしまったらひと溜まりも無い。
後はグールは腐った『肉』だ。
ゴブリンのスタンピードで分布がしっちゃかめちゃかになり、生き残って、腹を空かせた魔物が人の住処に寄って来るのは充分にありえる。
しかし、グールの中でも特に獣人族は別だ。普通のグールと違って動きも速いのが多くなる場合もある。
特に草食系と呼ばれる、主に野菜を多く摂取するのが、身体能力もグールの割に動きが軽やかになる。
夜になると活動するグール。身体が小さい子どものグールは厄介だ。
獣化が安定してない獣人族の子どものグールは、普通の魔物や動物と見分けがつかない場合もある。
しかも草食系。暗がりで不用意に近づいてフィールドで噛まれたりしたら、傷口周辺を切るか潔く死ぬしかない。
最悪なのは飛べる鳥種の全身獣化した子どものグールだが、コチラは今のところ発生例はない。まとめて保護してたんで、難を逃れた。
自然発生じゃないもう一方のグールは『ヌシ』に噛まれて『眷属』になったのだな。
生前の記憶を持つのが多い。健康体で生きたまま齧られたので、身体の損傷も少ない。眷属から更に噛まれたのは能力は落ちるが、ある程度意思の疎通は出来る。
代を追うごとに能力とグールになる確率は劣るようだが、それでも普通のグールよりかは脅威だな。
短期間でエルフ族のグールが増えたのはこのせいもある。
グールの『ヌシ』が直接噛んだ『眷属』5匹。
3人は上級貴族で魔力が馬鹿みたいにあるエルフ族。
中でも1匹はハイエルフ種の現在の年齢700オーバーの化け物だ。
推定年齢が1200歳とかふざけた輩だが、それに並んでまずいのが後2匹。
1匹はケモノ型の獣人族狼種……魔族だ。
これは竜騎士が追跡中だが、どうやら配下を引き連れてカイザス国か神聖帝国方面に向かっている。
そして、何より1番厄介なのが城壁にグール共々立てこもって出て来ない。篭城戦をしてる指揮官。
そう、エルフ族はそんな事しない。
誰がしてるかとヌシに問えば、桃の木を守ってた深い蒼の目を持つ人族だと返事があった。
名前は『恭介』。
元神聖帝国軍トップで『総督』を長年務めてたのが敵に。俺も運が悪い。
しかも、配下が高魔力保持者の元エルフ族が沢山………聞いた時にはもう、死ねと言われてるのかと思った。
ちなみに水島に昔、敵に回したくない軍人は誰だと酒の席で聞いた時に水島父、水島叔母、ナロ教官、魔女様、ユリエル? と言った後に「単体なら魔女様」「戦争ならオヤジ」「篭城戦だとぶっちぎりで『恭介総督』だな」と言った。
ああ、ついこの間まで味方にすると心強いとか思ってたが、今はアレが敵に回ったのかと嘆く。
神聖帝国軍の士気ダダ下がりで、使い物にならないとマズイと思って、こころのダメージが重症なのは皇后の親衛隊に容赦なく組み込んだのは言うまでもない。
元総督が敵側。皇后が実は生きてて戦闘参加を表明したが、それでも神聖帝国の士気はマイナスだな。
それはそうだろうな……カイザス国に置き換えて考えると、元第1隊長の水島と戦わなきゃいけないようなものだ。考えただけで震える。
実際寝返ったらしき神聖帝国軍人が数十名。
敗走兵として見つけ次第殺しても構わないと連絡が来た。安否は不明だが、きっとグールか食事になってるだろう。
グールじゃなくても殺して構わないって言われたから、多分スパイを警戒してる。
魔物相手に情報戦を仕掛けられる警戒をしなければならない時点で、腐っても恭介様? だなと思う。頭が痛い。
双眼鏡で確認出来る城壁には、コチラの城壁と違ってキチンと城壁結界が展開されている。
ハイルング王太子が所持していたと言う光り輝く剣をひと振りと言わず、100本は欲しいな。もうないから無理か。
さて、どうしたものか?
手も足も出ないが、本当に何とかしないと恭介様? の采配次第ではエデンがグールまみれになるな。




