399話
「戻って来ないかと思ったよ?」
「一瞬戻らない事も考えましたが……いくじなしと思われましたか?」
「いや、どんな忍耐力してるのかとまた興味が湧いたかな? 未熟なサキュバスは相手を狂い殺す事もあるから。よく『魅了』に争ったと褒めてあげるよ。廃人にされなくて良かったね」
褒められてもあまり嬉しくはないな。はぁ……いつもみたいに嫁の事は極力考えないようにしよう。私は軍人、私は軍人、私はカイザス国軍人。よし。
「何か作ります。食べたい物ありますか?」
「何でもいいよ?」
(魚より肉の気分)
(最近キンの和食ばっかりだったからガッツリ系が食べたい)
(デザートはあんまり甘いのはいいかな)
(腹減ったなぁ……)
私の魔力遮断の調節がうまくいってるのか、欲しい情報だけ抜き取るとのに成功したな。よしよし、順調だ。
簡単な『ひっつみ』でいいか。
鍋に切った野菜や肉を全部入れて適当に辛いスープを作って煮る。
その中に小麦粉で生地を作り、ちぎって入れて火を通せば完成。
ドンッと鍋をテーブルに置いてよそってからコンスタンティン様に差し出す。
家から持って来た酒は栓を取って瓶ごと出した。
「不味くはないと思いますが、キンが作る料理には負けます」
「久しぶりにこんな豪快な食べ方するな? ズズ……普通にピリ辛で美味いよ」
「飽きたら卵でも入れましょう。もぐもぐ……コンスタンティン様、諜報部の働き方変えたいんですけどいいですか?」
「うん? 私が使いやすければ何でもいいよ」
酒をラッパ飲みしてるコンスタンティン様に、神聖帝国の皇后を限定特級取得にこぎつけた事を伝えた。
「やっぱり冗談じゃなかったのかー……君は私に嫌われたいの?」
「私はどうとでも思っていただいて構いません。気にしませんから。しかし、後々必要なんです。約100年後に人類滅亡危機がある。それを回避したい」
私が頭痛を起こしたのはこの100年後が境。それから先は、容易に生きられる環境じゃないので勘が拒否反応を示しているんだろう。多分。
「具体的に何で滅亡するの?」
「魔族龍神種パイロンが暴れまわる。自分の『番』がいないと気がついて」
「そう。それで?」
「回避してみたいが、1個だけ不確かな部分があるんです。コンスタンティン様。先に言いますが、魔力暴走を起こさないで下さい」
「ズズ……多分無理かな? 食事終わったら場所を変えよう。今は他の話して?」
「では、コンスタンティン様の話したい内容をどうぞ」
「番抑制剤打った後にサキュバスに会ってどんな気持ちだった?」
エグるねぇ。今1番したくない話して来たな。正直に全部話すと、コンスタンティン様は混乱している。
「好きなのに離婚届けに名前書けって言ったの? 馬鹿なの?」
「いくじがないだけです。甲斐性もない。魔族サキュバス種と共に歩んでも、先の未来がないなら意味もない」
「それもそうか……そろそろ卵入れていい? 何個食べる?」
2個と答えると、コンスタンティン様は合計10個の卵を入れて鍋に火をかけている。
キンに見せてやりたいな。きっと驚くだろう。卵を割り入れる簡単なお仕事だが、コンスタンティン様が料理するなんて私も思わなかった。
しかも、出来た物を大盛りで私のお椀に入れてくれる優しさ。ありがとうございます。
「前と同じじゃ足りないと思うよ? その身体に慣れるまでもっと食べないと睡眠時間長くなるよ」
「わかりました。だからキンは私にあんなに食べさせようと必死になってたんですね」
「多分? 世話焼きたいのもあるだろうけど。君って人の機微には聡いのに、自分の事となると疎かにしがちだよね」
「よく言われます。コンスタンティン様……サキュバスにも『番』って感知出来るんですかね?」
「そうだね。フェロモン操るの上手だから。それがどうかしたの?」
果たして、彼女の番はどこにいるんだろう? 出来れば罰を受けた後に添い遂げて欲しいが……。と、言ったんだが。
「は?」
(何言ってんだコイツ?)
「いや、だから……。私の代わりに番でも見つけて、幸せに暮らして欲しいと思って」
「危ない。砕いて酒床にこぼすところだった。ごめん、聞き間違いかな? 『相手殺しに行く』の間違いじゃないの?」
落としそうになった酒瓶を魔法で浮かせ、手にちゃんと持ち直したコンスタンティン様は物騒な事を言っているな。
「君って『嫉妬』って言葉知らないの?」
「知ってますよそれくらい。何で急に『殺す』とか極端な事になるんですか。好いた相手の幸せにくらい願ってもいいでしょう」
「何でそこで自分が幸せにするって選択肢出て来ないかな? しかも逆に酷い仕打ちしといて。変態と一緒でドSなの?」
「朔夜殿と一緒にしないでいただきたい。だからいくじなしだと何度も言っているでしょう。サキュバスが愛していたのは……狂った私であって、今の私ではない」
「君って不器用とか、言葉が足りないって言われない?」
「よく言われます」
(恋愛音痴なのかな?)
(碌なのと付き合ったことないなコイツ)
(いくじなしってそう言う意味か。サキュバスと愛の逃避行しないからいくじなしなのか)
(てっきり私にビビって帰って来ていくじなしかと思ってたよ。わかりづらい)
(ちょっと詳しくお願い)
恋愛音痴ってなんだよ。
てか、コンスタンティン様にこんな私のしょーもない事話してる意味がよく分からん。
「サキュバスってよっぽどの事がないと、相性の問題でエサの人族との間に子ども作ろうと思わないって知ってる? 奇跡的に生まれたとしても、絶対母体より弱い子が生まれるから。魔族にとって魔力量が半端なのはかなり致命的で……」
(なんだ。知ってんのかよ……)
(サキュバスの胸の内でも探ったか?)
「わかった。君は皐月と一緒でドMの方か」
「断じて違います。てか、こんな私の話なんて聞いてて楽しいですか?」
「え、ごめん。凄く楽しいし、とてつもなく興味ある。全く理解出来ないその考え方が気になるけど? 言ってたでしょ。君が私に興味あるように、私も君に興味津々だよ?」
嘘だろ。私の色恋にこんな食い付いて来る人始めてだが、どう対処したものか……。
「コンスタンティン様、食後の果物何食べますか?」
「お前ここに来てまさかの逃げの姿勢かよ。サキュバスとは一緒に逃げてやらなかったのに。いくじなしじゃなくて『ヘタレ』って言うわ」
「おぉ……傷口に劇薬振り撒かれてる。それなら私じゃなくてコンスタンティン様ならどうしたんですか?」
「え? ごめんね、最近歳のせいか耳が遠くて。あと1000万回くらい言ってくれれば聞こえるかも」
「いやいやいやいや、人の事を散々貶しておいてそんなコメントしずらい冗談通じないから。てか、幾つですかコンスタンティン様?」
「忘れた」
「あ、嘘だな。思考をジャミングするな。私との魔力のパスを切るな」
コンスタンティン様と私の馬鹿げた言い合いは、ひっつみ鍋と食後のスイカを半分に切って分けて食べ終わるまで続いた。
ー
水島の辛いひっつみ鍋の作り方
コン「コレ味付け何?」
水島「勘で棚と冷蔵室の調味料入れました。口に合いませんでしたか?」
コン「いや、美味しいは美味しいけどさ……」
水島「ならよかったです。私の料理は栄養さえ取れれば味は二の次なんで。流石に人様に出す時は少しは気にしますけど」
コン「ひとりだったらどうしてたの?」
水島「調味料なんて何も入れませんよ」
皆様へ
いつも「つばめと学ぶ異世界生活事情」をお読みいただき誠にありがとうございます。
また、誤字脱字報告等感謝申し上げます。ありがとうございます。
今年(2022年)最後の更新となりましたが、ミラクルで399話。年明け400話ピッタリからスタートします。
一応設定資料メモの途中まで解禁したので、多少のネタバレ嫌いじゃなくてご興味ある方は……
『(・ω・)とりあえずごはんワールド設定資料メモ〜つばめと学ぶ異世界生活事情編〜』
不定期更新ですが、よろしければどうぞ。
※記号を使った簡単な世界地図とかあるので、大陸の位置関係何となくわかるかと思います。
本作は1週間に1回更新となりましたが、当分このペースで行きたいと思います。
それでは皆様、よいお年をお迎えください。
『とりあえずごはんm(_ _)m』より




